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異世界配信革命〜追放された無能ポーターをバズらせる転生イベント屋、死の大地でダンジョン配信と領地経営を始めます〜  作者: プロテイン長田
第5章「追放者たちと王国の監視」

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第29話「美人魔族が元魔王候補の娘だと判明します」

## 第29話「美人魔族が元魔王候補の娘だと判明します」


### 【あらすじ】


 冒険者ギルドの誘致が決まり、エリオットの領地では建設が始まった。王国騎士団の魔術師団によって結界も拡張され、食堂経営を含む領地開発は急速に進んでいく。


 そこへ現れた騎士団長シルヴィア・エルンフォードは、結界の内側から邪悪な気配がすると警告する。エリオットたちは、彼女がクレハの存在を察知していると気づいた。


 シルヴィアとギルド職員のクラウディアは、領地に潜む存在と、エリオットが囲う追放者たちを密かに調査していた。発展を始めた領地は、同時に王国の監視下へ置かれつつあった。


### 【本文】


「オラァ! エリオット領名物、ダンジョン芋だ!」


「おかわりもありますぜ!」


「な、何で僕たちが給仕なんか……」


「…………お待たせした」


 ノクスヴェルト家の基地、その食堂。


 今日も建設作業に訪れた大勢の人々を、湯気を立てる芋料理が迎えていた。


 クレハがダンジョンから採集し、スライムたちが浄化した芋。それを調理して振る舞うのは、“バッド・クレイジー・ドッグス”の四人である。


 厨房には配信カメラが浮かび、慣れない給仕に追われる彼らの姿を面白おかしく映していた。


「カーネル! 文句言ってねえで、手ぇ動かせ!」


「で、でもぉ……僕、魔術師なんですけどぉ!」


「視聴者が増えるなら何でもやるでお馴染みの俺たちだろうが! 見てみろ、この視聴者数を!」


 バルガスが指差した先で、視聴者からのコメントが流れていく。


『迷惑配信者が真面目に働いてる!?』

『シグの給仕、無駄に格好いいな』

『その芋料理、王都でも売ってくれ!』


 エマとの救援配信には遠く及ばない視聴者数ではあった。


 それでも、荒くれ者たちが厨房を駆け回る意外性と、美味しそうな芋料理が相まって、配信は十分な視聴者を集めていた。


◇◇◇◇◇◇


「すみませんね、クレハさん。こんなに働かせてしまって」


 同じ頃、エリオットとクレハは死の大地のダンジョンを進んでいた。


 食堂で使う芋の在庫を補充するためである。


「何を言う。追放された私に、住む場所と飯を与えてくれたのだ。働くのは当然だろう」


「そういうものですか……?」


 クレハは答える代わりに刀を振り抜き、襲いかかってきた魔物を一刀の下に両断した。


「そういえば、クレハさんが魔王国領を追放された理由を、まだ聞いていませんでしたね」


「聞いても面白くないぞ」


「そう言わずに」


 別の魔物が側面から迫る。


 エリオットが指を向けると、圧縮された風が鋭い弾丸となり、その胴を貫いた。


「単純な話だ。私の父が出世争いに負けた。ただそれだけのことだ」


「出世争いに負けて、娘のクレハさんまで追放されるんですか?」


「人間族の風習は知らん。だが、魔族には魔族のやり方がある」


 クレハの声には、怒りも悲しみもなかった。


 もう何度も自分へ言い聞かせ、感情を摩耗させてしまったような声だった。


「食料も水も、ろくに積まれていなかった。私の家族を乗せた船は魔王国領を離れ、生きてこの大陸へ着いたのは私だけだ」


「…………」


 たどり着いたのは、クレハだけ。


 その言葉が意味するものを理解し、エリオットは何も返せなくなった。


「ここには、どれくらいいたんですか?」


「さあな。日を数えるのも虚しくなって、途中でやめた」


 その瞬間、エリオットの身体がふわりと宙へ浮いた。


 直後、魔物の爪が、彼のいた場所を薙ぎ払う。


「何をぼーっとしている」


 クレハはエリオットを片腕で抱えたまま、魔物の攻撃範囲から飛び退いていた。


「す、すみません!」


 地面へ下ろされたエリオットは、慌てて服の乱れを整える。


「なんだ、そこまで嫌がらなくてもいいだろう」


「嫌がっているんじゃありません。十歳の子どもみたいに運ばれるのが、少し不本意なだけです」


「十歳の子どもだろう、お前は」


「そ、それはそうなんですけど……」


 エリオットは咳払いをして、無理やり話を戻す。


「それで、お父様は何の出世争いに負けたんですか?」


「…………魔王の座を争っての戦いだ」


「ああ……魔王ですか。そうですか――」


 一歩遅れて意味を理解し、エリオットの足が止まる。


「ま、魔王って――わぷっ」


 その隙を逃さず、別の魔物が飛びかかってきた。


 クレハはエリオットを抱き寄せ、そのまま大きく後方へ跳ぶ。


 魔物の爪が空を切る一方、エリオットの顔はクレハの胸元へ埋まっていた。


「むががが……!」


「喋るな。くすぐったい」


 安全な距離まで離れると、クレハはエリオットを地面へ下ろした。


「すまん。また抱き上げてしまった」


「い、いえ。嫌というわけではないのですが……」


「……顔が赤いぞ」


「す、少し息が苦しかっただけです……! そ、それより、戦いに集中しましょう!」


「それはこちらの台詞だと思うがな」


 エリオットは熱くなった顔を隠すように前を向き、クレハは不思議そうに首を傾げた。


 その後は会話を控え、黙々と魔物を倒しながら芋を回収していく。


(魔王候補の娘……か)


 先ほどの言葉が、エリオットの頭から離れなかった。


 あれほどのダンジョンを一人で制御できる戦闘力は、明らかに異常。


 本気で力を振るえば、街一つを制圧することさえ難しくないだろう。


(結界を強化してクレハさんの力を封じなければ、出会ったときの俺も無事では済まなかったかもしれない)


「む。これは……おい、エリオット少年」


 考え込んでいたエリオットを、クレハが呼び止めた。


 魔物が消えた場所に、魔水晶とは違うものが落ちている。


「珍しいものが採れたぞ」


 それは、塊になった魔物の肉だった。


 倒された魔物は通常、消失して魔水晶だけを残す。だが、時折こうして別の素材を落とすことがある。


「これも浄化すれば、食えるかもしれんな」


 クレハは嬉しそうに肉を袋へ詰めた。


「次はエマ嬢も連れてこよう。たくさん持ち帰れば、新しい領地の名産にできるぞ」


「そうですね。その時はまた、クレハさんに護衛を頼みます。それが食べられるかどうかは――僕が先に試しましょう」


「相変わらず、彼女への安全管理には慎重なのだな」


 すっかり領民として働く気になっているクレハを見て、エリオットは自分の胸に残っていた警戒心へ気づいた。


(王国の人たちだけじゃない。俺も、魔族というだけで内心、彼女を恐れていたのか)


 クレハは、自分を追放した故郷へ戻ろうとも、人間へ危害を加えようともしていない。


 今はただ、食堂の新しい名物を見つけたことを喜んでいる。


「そうですね。帰ったら、浄化できるか試してみましょう」


「……ん? どうした、急に」


 エリオットはクレハを見上げた。


「……そろそろ帰りましょうか。僕たちの家へ」


「…………そうだな」


 クレハは一瞬目を見開き、それから穏やかに頷いた。


 彼女を騎士団へ差し出せば、自分たちへの疑いは晴れるかもしれない。


 だが、それではダメだ。エリオットは決意した。


「どうすべきか、一緒に考えましょう」


「そうだな。肉を美味しく食べる方法を」


「…………そうですね」


 どこか噛み合わない会話を交わしながら、二人は帰路につく。


 魔王候補の娘と、十歳の領主。


 その奇妙な運命は、王国の監視下で静かに動き始めていた。

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