第27話「ギルドの尋問から領地発展を掴み取ります」
## 第27話「ギルドの尋問から領地発展を掴み取ります」
### 【あらすじ】
“レイド・スターズ”の脱退を選んだリゼットは、ノクスヴェルト家の基地で一夜を過ごす。そこへ魔力を消耗したクレハが現れ、エマから魔力を分けてもらったことで、新たな騒動が巻き起こった。
翌朝、“バッド・クレイジー・ドッグス”はクレハが魔族だと知る。しかし、彼らは宣伝大使の契約によって、領地へ不利益を与える行為を禁じられていた。
そんな食堂へ、馬車の車輪が近づいてくる。エリオットは、前日にルシアンが告げたギルドへの報告を思い出し、来訪者を迎える。
### 【本文】
「やりすぎです」
ノクスヴェルト家の基地、その食堂に凛とした女性の声が響いた。
テーブルの片側に座るのは、エリオット、エマ、リゼットの三人。
その後ろでは、“バッド・クレイジー・ドッグス”の面々が借りてきた猫のように縮こまっている。
「今回の配信は、我々も拝見しました。ここ数十年で最大の注目度です」
王都の冒険者ギルドから来たという女性は、鋭い目をエリオットへ向けた。
「“レイド・スターズ”が大陸屈指の高難度ダンジョンへ挑戦した配信以来となる、同時視聴者数五万人超えですからね」
「それはどうも……」
「褒めていません」
「それにしても、お早い到着ですね。“レイド・スターズ”がここを発ったのは、昨日の夕方でしたが」
「彼らからの報告は関係ありません」
女性はテーブルの上で指を組む。
「あなた方が発見したダンジョンの“真の姿”を知った時点で、王都の冒険者ギルドから辞令が出ていました」
女性は、そう言いながら一枚の紙を差し出した。
“王都冒険者ギルド クラウディア・フェルナー”
そこには、彼女が王都冒険者ギルドからの使者であることが記されていた。
「なるほど……」
エリオットの表情から、わずかに余裕が消える。
この女性は、おそらくギルドでも相当な役職に就いている。
背後には、死の大地を渡るために雇われたらしい護衛たち。その中には、国教の聖印を胸に下げた聖職者の姿もあった。
「あなた方が配信したダンジョンと、“レイド・スターズ”が配信したダンジョンは、まるで別物でした」
クラウディアの視線が、さらに鋭くなる。
「まず、本当に同じ場所だったのか伺います」
エリオットは腕を組み、短く息を吐いた。
「嘘はギルドへの反逆とみなされます。ご注意ください。もっとも、神官の前でそのような行為ができれば、ですが」
(なるほど。それで聖職者を連れてきたのか)
ノクスヴェルト家は、代々王国の国教を信仰している。
神の名の下で虚偽を述べれば、神官の魔術に反応が出ると考えたのだろう。
「配信されたダンジョンは、すべて同じ場所で間違いありません」
「……そうでしょうね。そうでなければ、“レイド・スターズ”を救出することなどできません」
「随分と含みのある言い方ですね」
「それは失礼しました。では、あなた方の配信でだけ、都合のいい魔物の配置になっていた理由をお聞かせください」
「“都合のいい”ですか」
エリオットは神官の反応を横目で確かめる。
「そう見えましたか?」
「ええ。重要なのは、あなた方が“レイド・スターズ”へ魔物を押しつけたのかどうかです」
女性の声が低くなる。
「もし意図的に危険を集中させたのなら、残念ながら、あなたを拘束しなくてはなりません」
エマが不安そうにエリオットの横顔を見る。
その視線に気づいたエリオットは、彼女を安心させるように小さく頷いた。
「規則は承知しています。ダンジョンで他のパーティーへ魔物を押しつける行為は、認められていませんから」
「では――」
「ご安心ください。僕たちは配信のために、魔物を“間引いた”だけです。“レイド・スターズ”が僕たちのせいで苦戦した事実はありません」
「…………信じるとでも?」
「信じるかどうかではなく、事実です」
クラウディアが神官へ顔を向ける。
神官は目を閉じ、ゆっくりと首を横へ振った。
虚偽の反応はない。
「なるほど。では、その“間引き”を行ったのは誰でしょう?」
エリオットの喉が、わずかに詰まった。
クレハには上階へ隠れてもらっている。
魔族である彼女の存在をギルドへ明かせば、本人だけでなく、エマや領地の仲間まで危険に晒しかねない。
「それは言えません」
「言えない……?」
「配信者として、他者へ明かせない秘密です。協力者の安全にも関わります」
「ギルドとしては、一階層からあれほどの魔物が現れるダンジョンを、自由に出入りできる状態で放置できません」
「それは、僕も同感です」
「今回は事なきを得ました。しかし次は、将来有望な冒険者が命を落とすかもしれない」
クラウディアは語気を少しだけ和らげる。
「だからこそ、魔物を制御できる人材は貴重です。情報を提供していただけませんか?」
下手に出ているようで、その実、逃げ道を一つずつ塞いでいる。
(クレハの存在に勘づいているのか?)
「“レイド・スターズ”が苦戦するダンジョンを意のままに操る。もし可能なら、王国騎士団すら興味を示すでしょう」
騎士団という言葉に、エリオットの背筋が冷えた。
かつて魔王国領との戦争で、賢者や勇者と共に王国を守った軍隊。
彼らに目をつけられれば、秘密を守り通せる保証はない。
「……黙秘ですか」
「仲間を危険に晒す情報は、渡せません」
エリオットは額に浮かんだ汗を拭い、女性を見返した。
「分かりました。少なくとも、あなた方が明確な規則違反を犯していないことは確認できました」
張り詰めていたエマの肩から、力が抜ける。
「ギルドが強制的に介入できるのは、明確な違反がある場合だけ。今回は、ここまでにしておきましょう」
「では、そろそろお引き取りを――」
「いいえ。最後に一つ」
クラウディアは席を立ち、食堂の窓から外を眺めた。
「ここは、あなたの領地で間違いありませんね?」
「それは……はい」
「そして、ここには未探索のダンジョンがある」
「…………そうですね」
クラウディアがエリオットへ振り返る。
「ここに、冒険者ギルドを置く気はありませんか?」
エリオットの動きが止まった。
ギルドが置かれれば、多くの冒険者がこの領地を訪れる。
同時に、秘密へ近づく人間も増える。
領地を発展させる千載一遇の好機と、クレハの存在を脅かす危機。
二つが同時に、目の前へ差し出された。




