第25話「追放者を責めた英雄が仲間に見限られます」
## 第25話「追放者を責めた英雄が仲間に見限られます」
### 【あらすじ】
ガレスを見捨てて撤退し用とした“レイド・スターズ”の前へ、“バッド・クレイジー・ドッグス”とエマが駆けつけた。
追放されたパーティーを救うというエマの決断に、王都中の視聴者が熱狂する。その一方、ルシアンたちへは、これまでになかった失望の声が寄せられ始めていた。
全員で地上へ生還し、エリオットが配信を終了した直後。ルシアンは彼の首元へ剣を突きつけ、と怒りを露わにする。
### 【本文】
「人聞きが悪いですね。嵌めただなんて」
死の大地にあるダンジョンの入口。
首元へ剣を突きつけられても、エリオットは顔色一つ変えなかった。
「俺たちを誘い出し、失敗する様子を配信するつもりだったんだろう! エマを利用してな!」
「利用って……エマさんを手放したのは、あなたたちでしょう」
エリオットは剣先を一瞥し、ルシアンをまっすぐに見返す。
「僕は彼女の才能を“正しく”評価して、ふさわしい場所を用意しただけです」
「戯言を……! この女に、このレベルのダンジョンがふさわしいだと!?」
「どう思っていただいても結構ですよ。ですが――」
エリオットの視線が、ルシアンの肩越しへ移る。
丘の向こうから、複数の魔物がこちらへ向かっていた。
「移動しませんか? それとも、まだ戦う元気があるなら――」
「ふっ何をいうかと思えば……満身創痍なのは、お前らの方じゃないか!」
「ああ……まあ、そうですね」
振り返ると、“バッド・クレイジー・ドッグス”の四人が地面に座り込み、もう限界だとばかりに手を振っていた。
「僕たちには帰る拠点があります。お話なら、そこで伺いますよ」
ルシアンの眉間に深い皺が刻まれる。
聞きたいことは山ほどある。しかし、少年の指示に従うことを、彼のプライドが許さない。
「ルシアン、ついて行った方がいいわ」
ヴェロニカが丘の向こうを睨みながら告げた。
「このまま、こいつに好き勝手させるわけにもいかないでしょう」
「……チッ。分かった。先導しろ」
◇◇◇◇◇◇
ノクスヴェルト家の基地、その食堂。
テーブルの一方では、命懸けの撤退戦を終えた四人が、山盛りの芋料理を一心不乱に頬張っていた。
その隣で、“レイド・スターズ”の面々と、エリオット、エマが向かい合っている。
「お前の狙いは何だ」
席に着くなり、ルシアンが切り出した。
「まずは、お礼の言葉を聞きたいんですけどね」
「エリオットさん……!」
まったく怯まないエリオットに、エマが青ざめる。
「それは、私から言わせてもらおう」
ガレスが立ち上がった。まだ顔色は悪く、身体には応急処置の包帯が巻かれている。
「命を救われた。エリオット君、ありがとう」
深く頭を下げたガレスを、ルシアンが鋭く睨みつけた。
「勝手に礼など言うな! こいつらは配信のために、お前を餌にしたんだぞ!」
「ルシアン、いい加減に現実を見ろ。俺たちは自らの意志でここへ来た。誘い出されたなどというのは……ただのこじつけだ」
ルシアンの拳がテーブルを叩き、食器が跳ねた。
「現実を見るのはお前だ、ガレス! そもそも、お前がヘマをしなければ攻略は続けられた! 配信を中断する必要もなかったんだ!」
「それは……」
「おやおや、仲間割れですか? いっそのこと、これも配信してみたらどうです?」
「エリオットさん!!」
今度はエマが、はっきりと彼を咎めた。
「皆さん、どうしてそんなに怒っているんですか? 全員無事に帰ってこられたんです。まずは、それを喜びましょうよ!」
その言葉を聞いたリゼットが、膝の上で拳を握る。
「お前がそれを言うか、エマ!」
ルシアンの怒声に、エマの肩が小さく震えた。
それでも逃げずに、彼女はルシアンを見つめる。
「ルシアンさん……ごめんなさい」
「……は?」
予想外の謝罪に、ルシアンの怒りが一瞬だけ止まった。
「私のせいです。私が不甲斐ないから、パーティーに穴を開けて……結果的に、また皆さんに迷惑を――」
「そ、そうだ! お前はパーティーを抜けた後まで俺たちに迷惑をかける! 後ろの連中と同じ、大馬鹿者だ!」
「ん? なんだぁ? 喧嘩売ってんのか」
芋を口へ運んでいたバルガスの手が止まった。
彼は立ち上がると、ルシアンの前まで大股で歩いてくる。
「嬢ちゃんは、俺らとは違えよ」
「な、何だ……迷惑系の分際で偉そうに――」
「まあ、俺たちのことは馬鹿にしてもらっていい。だがな――」
バルガスの太い腕が、ルシアンの胸ぐらを掴み上げた。
「俺たちから言わせてみりゃ、嬢ちゃんみたいな“有能”なポーターを追放したお前らの方が、よっぽど馬鹿だぜ」
その後ろで、ニック、シグ、カーネルが満足そうに頷いている。
「黙れっ……!」
ルシアンがバルガスの腕を振り払った。
「喧嘩なら外でお願いしますね。魔物除けの結界の外で」
エリオットが薄い笑みを浮かべる。
「冗談じゃねえ。こっちは飯の途中だ」
言いたいことを言い終えたバルガスは、何事もなかったように席へ戻った。
「どいつもこいつも……話にならんな」
「その“話”とは何です? わざわざ、それをするために来たのでしょう?」
エリオットが静かに脚を組み替える。
「……そうだな。いい加減、お前たちの相手をするのも疲れた」
ルシアンは目を細めた。
「……何をした。あのダンジョンは、何かがおかしい」
「抽象的な質問ですね」
「お前らに都合よく現れる魔物。まるで階段の位置を知っているかのような攻略。説明してもらおうか」
「何のことだか」
エリオットはとぼけたまま、微笑を崩さない。
「事前に根回ししていたとしても、お前のようなガキにできることなど、たかが知れている。他に協力者がいるのか?」
「そうかもしれませんね。ですが、それを知ってどうするんです?」
「お前らの不正を暴き、今回の件をギルドへ報告する」
「ほう」
「ダンジョン攻略で、他のパーティーに不利益が生じる行為は禁止されている。それを配信するなど、もってのほかだ」
「……そうですね。では、お好きにどうぞ」
「ギルドが貴様らの肩を持つとでも?」
「それを決めるのは、ギルドです」
「……後で吠え面をかくなよ」
ルシアンは椅子を乱暴に引き、立ち上がった。
「行くぞ、お前ら」
真っ先に従ったのはミレイユだった。
続いてヴェロニカも席を立ち、去り際にエマを一瞥する。
「あなた、変わったわね」
「……仲間の皆さんが、変えてくれたんです」
「そう。よかったわね」
次にガレスが立ち上がり、もう一度エリオットへ頭を下げた。
「重ねて礼を言う。君たちがいなければ、私は命を落としていた」
そしてエマへ、穏やかな眼差しを向ける。
「エマ、いい仲間に出会ったな」
「はい。ガレスさんも、お大事に……」
ルシアンたちが出口へ向かう中、“レイド・スターズ”側の席に残った者がいた。
リゼットだけが俯いたまま、椅子から動こうとしない。
「おい! 何をしている! 早くしろ!」
ルシアンの怒号が食堂に響く。
リゼットは膝の上の拳をさらに強く握り、消え入りそうな声を絞り出した。
「…………嫌だ」
「…………何だと?」
食堂に、凍てつくような空気が流れる。




