第24話「追放ポーターの決断に世界が大熱狂します」
## 第24話「追放ポーターの決断に世界が大熱狂します」
### 【あらすじ】
負傷したガレスを残し、撤退を命じたルシアン。リゼットとヴェロニカが救援を訴えても、配信を止めた彼は足を止めなかった。
仲間を逃がすため、ガレスはたった一人で魔物の群れに立ち塞がる。そこへ現れたのは、“バッド・クレイジー・ドッグス”と、かつて“レイド・スターズ”を追放されたエマだった。
途切れた英雄たちの配信に代わり、エリオットのカメラが、見捨てられた仲間を救おうとする追放者たちの姿を王都中へ届け始める。
### 【本文】
(思ったよりはるかに消耗していたな――間に合ってよかった)
魔物の群れへ突っ込んでいく“バッド・クレイジー・ドッグス”を追いながら、エリオットの額を汗が伝う。
彼らの実力を考えれば、“レイド・スターズ”が仲間を置いて逃げるような事態にはならないはずだった。
(何があった? ……いや、考えるのは後だ)
「道を開けろおおおおっ!!」
バルガスの大剣が、ガレスの盾へ爪を立てていた魔物を横殴りに吹き飛ばす。
「お頭、右からも来ますぜ!」
「オラああああぁぁぁ!!」
ニックの声に応え、バルガスが大剣を切り返す。その脇をシグが無言で駆け抜け、抜き放った刀で一体の足を断った。
「こ、こんな数、聞いてませんよぉ!」
カーネルの魔術が通路を照らし、押し寄せる群れを焼き払う。
見事な連携だった。だが、今までの攻略とは条件が違う。今はクレハによる“間引き”が行われていない。
(これはさすがに手助けした方がいいな)
エリオットが指先を動かすと、狭い通路に風が走った。
魔物の足元をすくい、バルガスの大剣が届く位置へ押し込む。攻撃に見えない程度の小さな加勢だ。
同時に、三台の配信カメラへ指示を送る。
一台は勇ましく剣を振るうバルガスたちを。一台は助け起こされるガレスを。そして最後の一台は、その光景を呆然と見つめる“レイド・スターズ”を映していた。
「い、行くぞ! ガレスを助けろ!!」
自分たちが配信に映っているとようやく気づいたルシアンが、爽やかな声を張り上げた。
ほんの数秒前まで撤退を続けていた男が、今度は自ら救援を命じる。
(……もう遅いだろ)
エリオットは胸中で吐き捨て、カメラだけを静かにルシアンへ向けた。
ルシアンの本性については、以前から薄々気づいていた。
彼は酒場で作戦会議を開くたび、必ず人払いをしていた。だが、名門ノクスヴェルト家の伝手を使えば、酒場の主人から断片的な話を聞き出すことはできる。
積み重ねた仕込みの先で実現した、二つのパーティーの共闘。その一瞬たりとも、エリオットは逃さなかった。
『バッド・クレイジー・ドッグス、本当に助けたぞ!』
『ガレス、生きてる! よかった!』
『エマを追放した連中を、エマが助けに来たのか……』
『ルシアンたち、逃げようとしてなかったか?』
王都は熱狂していた。
今も“レイド・スターズ”への黄色い声援は流れている。しかし、その合間には、これまでなら考えられなかった失望の声が混じっていた。
当のルシアンに、そのコメントは見えない。配信しているのはエリオットだけであり、配信機材も彼が担いでいる。
「レイド・スターズ!! いいか、俺たちは天下の“バッド・クレイジー・ドッグス”だ!! この恩、忘れるんじゃねーぜ!」
魔物をあらかた退けたバルガスが、大剣を肩に担いで叫ぶ。
(おお……素晴らしい捨て台詞――いや、今回は捨てていないか)
「エマちゃん!」
「リゼットちゃん!」
魔物の波が途切れた途端、二人の少女が駆け寄り、強く抱き合った。
「助けに来てくれたの……?」
「うん。でも、頑張ってくれたのは、この人たちだから」
エマが示した先では、四人が配信カメラへ向かって勝ち誇っている。
「おーい、視聴者の諸君! 俺たちがこいつらを助けられたのは、このエマちゃんのおかげだぜ!」
ニックが二人の肩を抱き、カメラへ顔を寄せた。
「えっ!?」
「そ、そうですね。僕たちは、そのまま先へ進むつもりでしたから……」
「…………見事な判断であった」
「そ、そんな。私は何も――」
エマが慌てて否定しても、コメント欄は“追放されたパーティーを救ったエマ”への称賛で埋め尽くされていく。
「…………すまない、エマ。助かった」
カーネルの回復を受けたガレスが、傷を押さえながら頭を下げた。
「ガレスさん……よかった。無事で……」
涙ぐむエマを見て、ガレス・ロックフォードは苦しげに表情を歪める。
――エマを追放するべきではなかった。
浮かんだ言葉を、彼は胸の奥へ飲み込んだ。
「見事な連携だ。助かったよ!」
最後に輪へ加わったルシアンが、いつもの笑みをエマへ向ける。
その後ろでは、ヴェロニカがばつの悪そうに俯き、ミレイユだけが悪びれもせずルシアンの隣に立っていた。
「……ルシアンさん」
追放された日の記憶に、エマの表情が一瞬だけ強張る。
それでも彼女は目を逸らさなかった。
「撤退しましょう。“全員”で」
「くっ……この――」
ルシアンが言葉を詰まらせる。
エマが向けたのは、怒りでも、恨みでも、失望でもない。ただ全員の無事を願う覚悟を宿したその目を、ルシアンは知らなかった。
◇◇◇◇◇◇
死の大地、地上。
配信の最後を飾ったのは、ダンジョンから生還した“レイド・スターズ”と、満身創痍で地面に転がる“バッド・クレイジー・ドッグス”だった。
ガレスを守って撤退する間、魔物への初期対応をほぼすべて引き受けた結果である。
『やっぱり最後はこうなるのかよ!』
『格好よかったぞ、バッド・クレイジー・ドッグス!』
(よしよし。彼らは最後にはこうなってこそだ)
「……配信終了。皆さん、お疲れ様でした」
エリオットが告げると、その場にいた全員が長い息を吐いた。
「何はともあれ、無事に戻れてよかったですね〜」
ミレイユが呑気に笑う。
「お前には後で話がある。今はそれより――」
ルシアンがゆっくりとエリオットへ近づいた。
配信機材を確かめていたエリオットの首元へ、抜き身の剣先が突きつけられる。
「お前、俺たちを嵌めたな」
死の大地に、一触即発の空気が漂った。




