第22話「元仲間が絶体絶命になるまで生配信します」
## 第22話「元仲間が絶体絶命になるまで生配信します」
### 【あらすじ】
同じダンジョンへ挑む二組の配信が、王都中の注目を集めていた。
エリオットの演出を受けた“バッド・クレイジー・ドッグス”は、エマに支えられながら五階層へ到達。一方、“レイド・スターズ”は大量の魔物を相手に、一階層から苦戦を強いられる。
二組の実力が比較され始めたところで、エリオットは順調な探索を打ち切り、配信の“仕上げ”に入ると宣言するのだった。
### 【本文】
「“仕上げ”っつったか。どういう意味だ」
バルガスはエリオットへ詰め寄った。
五階層のセーフゾーンには、完成したばかりの転移門が淡い光を放っている。
「今、“レイド・スターズ”も、このダンジョンにいます」
エリオットは落ち着いた声で告げる。
「おそらく、今は二階層か三階層にいるでしょう」
「レイド・スターズが……」
エマの表情が曇った。
頭に浮かんだのは、ルシアンではない。追放に反対できなかったことを今も悔やみ、それでも自分を案じてくれたリゼットだった。
「そりゃ、本当か!?」
バルガスの顔が一気に明るくなる。
「お頭ぁ! こりゃあチャンスですぜ!」
「待ってください!」
カーネルが慌てて二人の間へ入る。
「以前、配信へ乱入して痛い目を見たの、忘れたんですか!?」
「知るか! こりゃ、また突撃するしかねえ!」
「そうこなくっちゃ!」
バルガスとニックは、すっかり乗り気だった。
シグは黙々と刀を鞘へ収め、すでに出発の準備を終えている。
盛り上がる四人を横目に、エマはエリオットのそばへ歩み寄った。
「……エリオットさん。みんなの様子は?」
「苦戦、というほどではないでしょう。ただ、僕たちと比べれば、かなり手こずっているようです」
「そう……ですか」
エマの両手が、胸元で固く組まれる。
「気になりますか?」
「それは……もちろん」
「あなたを追放したパーティーですよ」
「それでも、です」
迷いながらも言い切ったエマを、エリオットは嬉しそうに見上げた。
「では、決まりですね」
エリオットは配信魔導具へ手をかける。
「皆さん! ここからは“レイド・スターズ”へ合流するために動きます!」
「盛り上がってきたぜ!」
バルガスが太い腕をまくる。
「お頭、行きやしょう!」
「うう……僕は反対なんですが……」
「……是非もなし」
四人が三階層への登り階段へ向かう。
エマも魔導袋を背負い直し、不安を振り払うように前を見た。
(リゼットちゃん……待ってて)
しかし、彼女たちは知らない。エリオットが描いた“仕上げ”は、単なる人気配信への突撃ではなかった。
◇◇◇◇◇◇
――ダンジョン、三階層。
“レイド・スターズ”は通路の中央で、群がる魔物へ武器を構えていた。
「ルシアン、これ……まずいわよ」
ヴェロニカが、配信へ拾われないほどの小声で警告する。
「分かっている」
ルシアンは苛立ちを表情に出さず、剣についた汚れを振り払った。
彼らの配信魔導具は一人につき一台。
さらにパーティー全体を映す一台がある。
エリオットのような一括管理ではないため、全配信を即座にミュートして、内密に作戦会議を行うことができなかった。
『レイド・スターズ、大丈夫か?』
『さっきから全然進んでないぞ』
『ガレスの盾、傷だらけじゃないか?』
(どうなっている……!)
ルシアンはコメントを一瞥し、奥歯を噛む。
(奴らは、どうやって五階層まで進んだ!?)
戦闘を重ねるたび、魔物を倒す速度が落ちていく。
誰も口には出さない。
弱音が配信へ乗れば、迷惑系配信者との比較で不利になると分かっているからだ。
「きゃあっ!?」
その瞬間、魔物の爪がミレイユへ迫った。
「危ない!」
ガレスが割って入る。
だが、大盾は間に合わない。
「ぐっ……!」
鎧の上から攻撃を受け、ガレスの巨体が床を滑った。
「ヴェロニカ!」
「分かってるわよ!」
ヴェロニカが回復魔術を放つ。
白い光に包まれたガレスは立ち上がり、大盾を構え直した。
だが、同じような場面は、すでに何度も繰り返されている。
コメント欄にも、心配の声が増えていく。
「ルシアン。私、そろそろ魔力が……」
「何……? 魔力回復薬はどうした」
「それが――ないのよ」
ルシアンが初めて表情を崩した。
「出発前に用意したはずだぞ」
「あの新ポーターが、積み荷から外したのよ」
ヴェロニカはミレイユを睨みつける。
「“追放ポーターが一人で挑めるダンジョンに、そんなものはいらない”って」
「だ、だってぇ……荷物を軽くしたほうが、たくさん素材を持って帰れると思ったんですぅ」
ミレイユは魔導袋を抱え、身を縮めた。
「……クソッ」
ルシアンは再び剣を構える。
(このまま無様に撤退する姿を見せるくらいなら、配信を止めるべきか……?)
彼が考えたのは、仲間の状態ではない。自らのブランドと人気を守るための最善策。
その思考が、判断を遅らせた。
配信でどう見えるかを意識するあまり、彼らは疲労も、負傷も、残りの魔力も、互いに正確には伝えていない。
ルシアンが知らないまま、仲間たちはすでに限界へ近づいていた。
魔物の一体が、ヴェロニカへ飛びかかる。
彼女を守るのはタンクの仕事。しかし――
「ガレスっ!!!!」
リゼットの叫びが、ダンジョンに響いた。
直後、配信画面が捉えたのは――
ヴェロニカを庇い、魔物の鋭い爪に防具を貫かれたガレスの姿だった。




