第21話「追放ポーターと元仲間の攻略を比較します」
## 第21話「追放ポーターと元仲間の攻略を比較します」
### 【あらすじ】
エマと“バッド・クレイジー・ドッグス”によるダンジョン攻略配信が始まった。
エリオットの指示とクレハによる魔物の間引きで、迷惑配信者たちは本来の実力を発揮。エマを交えた意外な連携も視聴者の心を掴み、三カメラ配信は二万人を超える人気となる。
その最中、“レイド・スターズ”が死の大地へ到着したとの情報が飛び込む。エリオットは彼らを、エマと領地の価値を世間へ知らしめる引き立て役にしようと目論むのだった。
### 【本文】
その夜、王都中が二つの配信の虜になっていた。
一つは、“バッド・クレイジー・ドッグス”と“追放ポーター”エマのコラボ配信。
そして、もう一つは大陸最大級の人気パーティー、“レイド・スターズ”のダンジョン攻略配信。
酒場では複数の配信魔導具が並べられ、道行く人々まで店の窓越しに画面を覗き込んでいる。
どちらも舞台は同じ、死の大地のダンジョン。
注目を集めている理由は、二組が有名だからだけではない。
同じダンジョンへ、ほぼ同じ時刻に挑んだ二組の攻略内容が、大方の予想とは正反対の様相を見せていたからだ。
◇◇◇◇◇◇
「よっしゃあ! 五階層到達! 最初のセーフゾーンだぜ!」
バルガスが大剣を高々と掲げる。
その声に、バッド・クレイジー・ドッグスの配信画面が大量の歓声で埋め尽くされた。
『本当に五階層まで来た!』
『今日のお前ら、どうしたんだよ!?』
『まともに活躍してるだけで面白いのずるい』
『エマちゃんもお疲れ!』
ダンジョンには五階層ごとに、魔物が立ち入らないセーフゾーンが存在する。
冒険者はそこで休息を取り、地上帰還用の転移門を設置するのが基本だった。
「では、転移門を設置しますね」
魔術師のカーネルが床へ杖を突き、術式を刻み始める。
その間、シグは無言で刀の手入れを行い、ニックとエマは床いっぱいに戦利品を並べていた。
「魔水晶が二十八個、ダンジョン鉱石が七個。それから、この牙は素材として売れると思います」
「おおっ! さすがポーターの嬢ちゃん、仕事が早えや!」
「い、いえ! みなさんが倒してくれたおかげなので!」
エマは慌てて両手を振る。
『最初はどうなるかと思ったけど、普通にいいパーティーだな』
『バッド・クレイジー・ドッグスだぞ。正気に戻れ』
『エマちゃん、戦利品の管理はちゃんとしてるじゃん。出すのは遅いけど』
以前から彼らを知る視聴者による皮肉やいじりも多い。
しかし、その悪評があるからこそ、予想外の健闘とエマへの気遣いが一層引き立っていた。
そんな光景を配信魔導具に収めるエリオットの目に、別の配信に関するコメントが飛び込んでくる。
『レイド・スターズ、まだ一階層だぞ!』
『マジで!?』
『こいつら、割とあっさり一階層突破してなかったか?』
流れるコメントが多すぎて、すべてを追うことはできない。
それでも、エリオットが状況を掴むには十分だった。
(見事に、狙い通りの展開だな)
◇◇◇◇◇◇
「うおおおおっ!!」
“レイド・スターズ”のリーダー、ルシアン・ヴァルモントの剣が、飛びかかってきた魔物を一刀両断した。
「こっちは俺に任せろ!」
続いて突進してきた甲殻獣の前へ、大柄な男が割って入る。
パーティーの盾役、ガレス・ロックフォード。
巨大な盾で攻撃を弾き返すと、よろめいた魔物の死角へリゼットが滑り込み、目にも留まらぬ速さで仕留める。
「ヴェロニカ、強化魔術を!」
「はいっ!」
ルシアンの指示を受け、魔術師のヴェロニカが仲間たちへ強化魔術を重ねがけする。
五人の間を忙しなく走り回り、床へ落ちた魔水晶を回収しているのは、新たなポーターのミレイユだった。
誰もが一流の冒険者。
最初こそ、彼らの鮮やかな討伐に酔いしれていたコメント欄だったが――時間が経つにつれ、ある疑問が配信を支配し始めた。
『迷惑系の奴らより、攻略に手こずってない?』
『確かに』
『こっち、魔物が多すぎないか?』
同じ時刻、同じダンジョンへ挑んだ二つのパーティー。
比較されるのは、あまりにも自然な流れだった。
(なんだ、これは……!?)
ルシアンは剣を振るいながら、焦りを押し殺す。
(道中で見た奴らの攻略配信とは、魔物の数が違いすぎる!)
高難易度ダンジョンの最下層近くにいるかのような圧力。
ルシアンだけではない。レイド・スターズの全員が、想定を超えた負担を感じていた。
(エマちゃんは、こんなダンジョンに一人で……!?)
リゼットは迫る魔物を短剣で切り伏せながら、以前の配信を思い返す。
(違う。あの貴族の子供が、何かしている。きっと、今回も――)
彼女だけは、何が起きているのか薄々察していた。
しかし、撤退を提案することなどできない。
迷惑系配信者が意気揚々と五階層まで攻略しているダンジョンから、大陸最大級の人気パーティーが一階層で撤退する。
そんな判断を、ルシアンが許すはずもなかった。
「立ち止まるな! このまま先へ進むぞ!」
焦りを隠したルシアンの号令で、レイド・スターズは強引に攻略を続けていく。
◇◇◇◇◇◇
一方、エリオットはレイド・スターズの状況を、自分たちの配信へ流れ込むコメントからほぼ正確に把握していた。
(やはり、クレハさんの“間引き”がなければ、レイド・スターズでも楽々突破とはいかないようですね)
バッド・クレイジー・ドッグスは十分に活躍した。
エマもポーターとして働き、彼らを五階層まで支えてみせた。
比較の土台は、すでに整っている。
機を見たエリオットは、全員へ向けてカンペを掲げた。
『引き返しましょう。撤退です』
「なっ――」
バルガスが目を剥き、何かを言おうとする。
その瞬間、エリオットは配信の映像と音声をミュートに切り替えた。
「おい! 何を馬鹿なこと言ってんだ、てめぇ!」
「お頭の言う通りですぜ! こんなに順調なのに、引き返す理由なんざ――」
詰め寄る二人を、エリオットは片手を上げて制した。
「お二人の意見はごもっともです」
「だったら――」
「ですが、ここから今回の配信の“仕上げ”に入ります」
その言葉の意味を掴めず、全員がエリオットを見つめる。
彼だけが、この先に待つ展開を正確に捉えていた。




