第20話「嫌われ者たちの隠れた実力を引き出します」
## 第20話「嫌われ者たちの隠れた実力を引き出します」
### 【あらすじ】
ダンジョン探索を強行しようとする“バッド・クレイジー・ドッグス”へ、エリオットは彼らの魅力が向こう見ずな挑戦と、その末に受ける“断罪”にあると指摘する。
そのうえで、自らの演出に従うことを条件に、彼らを領地の宣伝大使として契約。迷惑配信者たちを領地経営へ利用する策を整えた。
さらにクレハは、ひと足先にダンジョンの一階層を偵察。エリオットは今夜の配信を、この領地を広く知らしめる最高の宣伝へ変えようとしていた。
### 【本文】
「オラァッ!!」
バルガスの振り下ろした大剣が、ダンジョンを徘徊する魔物の頭をかち割った。
巨体が崩れ落ち、床に転がった魔水晶が鈍い光を放つ。
『バルガス、絶好調だな!』
『お、今日はまともに戦ってるぞ!?』
『いつもの無謀なだけの戦いはどうした』
死の大地のダンジョン探索。
“バッド・クレイジー・ドッグス”は配信開始と同時に勢いよく突入し、襲いくる魔物を次々と撃破していた。
クレハとエリオットの根回しによってデザインされた襲撃と撃破。とはいえ、単調な攻略というわけではない。
視聴者が退屈しない程度にモンスターが現れ、それでいて四人が対処できないほど多くはならない。まるで配信の盛り上がりを見計らい、順番に襲ってきているようだった。
「お頭! 次はこっちですぜ!」
斥候のニックが脇道から顔を出し、進むべき方向を示す。
その背後から、蜘蛛に似た魔物が脚を振り上げた。
「――危ない!」
魔術師のカーネルが杖を突き出す。
半透明の結界がニックの背を守り、弾かれた魔物の懐へシグが滑り込んだ。
「遅い」
一閃。
刀が甲殻の隙間を正確に捉え、蜘蛛の身体を両断した。
『なんだ、この連携!?』
『こいつら、こんなに強かったのか』
『普段から真面目に戦えばいいのに』
『迷惑行為しないと普通に格好いいの、なんか腹立つな』
称賛に混じり、彼らの活躍を疎むコメントも流れていく。
しかし、それすらもエリオットの狙い通りだった。
(やっぱり見込んだ通り。荒削りだが、場数は踏んでいる。舞台さえ整えれば、光る連中だ)
エリオットは一行の後方で配信魔導具を担ぎながら、静かに状況を見守る。
通路の先では、闇に姿を隠したクレハが、彼らの手に余る魔物だけを間引いていた。
エリオットの合図とクレハの誘導によって、残された魔物は絶妙な間隔で四人の前へ現れる。
「お頭ぁ! ありましたぜ! 次の階層への階段!」
ニックの声がダンジョンに響く。
バッド・クレイジー・ドッグスは、順調に一階層の攻略を終えようとしていた。
(つ、強い……“レイド・スターズ”ほどじゃないが――普通に冒険者として普通に活動すればいいのにな……)
一方でエマは、そんな四人の後ろを収納用の魔導袋を背負ってついていく。
倒した魔物の魔水晶を回収し、道中で見つけたダンジョン鉱石など価値のあるものを拾う。それが今回、彼女に任された役割だった。
「……砥石を」
階段の手前で、シグが声をかけた。
「あっ、すみません! すぐ出します!」
エマは慌てて魔導袋へ手を突っ込む。
(まさか、私まで同行することになるなんて……)
今回の企画は、エマとバッド・クレイジー・ドッグスのコラボ配信だった。
専属のポーターを持たない彼らにエマが同行すれば、探索の負担を減らしつつ、双方の視聴者を呼び込める。エリオットいわく、どちらにも利益のある企画――らしい。
「焦る必要は、ない」
魔導袋の中をかき回すエマへ、シグが淡々と告げる。
「す、すみません……!」
ようやく見つけた砥石を、何度も頭を下げながら手渡した。
(はあ……やっぱり、パーティーになると足を引っ張っちゃうな……)
落ち込むエマの姿も、エリオットはあえて配信に乗せる。
『やっぱりエマちゃんはいつもどおりだな』
『レイド・スターズを追放されたのも納得』
『でも、あの子は一人でここ、探索したんだよな?』
『あぶなっかしい』
コメント欄で、エマのポーターとしての能力が大きな話題になっていく。
(エマさん、ここが踏ん張りどころです)
彼女の味方だけを集めても、評価は覆らない。
疑う者たちの前で力を示してこそ、追放ポーターという物語は先へ進むのだ。
◇◇◇◇◇◇
二階層。
現れる魔物の種類は変わらないが、一度に襲ってくる数がわずかに増えていた。無論、これもエリオットの“演出”。
「エマさん!」
「えっ――きゃあっ!」
物陰から放たれた火球が、エマへ一直線に飛ぶ。
次の瞬間、カーネルの結界がその進路を塞いだ。火球は透明な壁へぶつかり、赤い火の粉となって散る。
エリオットは小さく息を吐いた。
たとえカーネルが間に合わなくても、自分が火球を風魔術で遮る手筈だった。しかし、自分が手を加えないほど“リアルな攻略”が演出できる。
「ご、ごめんなさい! 私……!」
「謝らないでください! みなさんを守るのが、僕の仕事ですからっ!」
カーネルは髪をかき上げ、エリオットが担ぐ配信魔導具へ凛々しい横顔を向けた。
(この魔術師、意外と頼りになる――いや、ちょっと演技が入りすぎてるか)
エリオットは無言でカンペを生成する。
『カメラを意識しすぎです』
◇◇◇◇◇◇
配信開始からしばらくして、視聴者のコメントの空気が変わり始めていた。
最初はエマの実力を疑い、迷惑配信者たちの失敗を期待していた視聴者まで、“追放されたポーターを励ましながら進むならず者たち”という構図に引き込まれている。
エマを応援する声。
バッド・クレイジー・ドッグスを見直す声。
双方の配信カメラを接続した三カメラ切り替え配信は、すでに二万人を超える視聴者を集めていた。
そして、一行が第三階層へ到達した頃――
『レイド・スターズも死の大地に到着したってよ!』
ひとつのコメントが、エリオットの目に飛び込んできた。
(……思ったより早いな)
『誰か王都で複数配信を見られる酒場、知らないか!?』
『知ってるけど高いぞ』
『バッド・クレイジー・ドッグスとレイド・スターズがぶつかったらどうなるんだ!?』
『追放されたエマも一緒だ! これは面白いぞ!』
コメント欄は、この日一番の盛り上がりを見せる。
エリオットは配信魔導具の陰で、不敵に笑った。
(だが、タイミングは悪くない)
彼らに個人的な恨みはない。
だが、エマの価値と、この領地の魅力を世間へ知らしめるためなら、喜んで引き立て役になってもらおう。
(もちろん、誰も死なないように――)
エリオットの策が実を結ぶ時は、すぐそこまで近づいていた。




