第19話「迷惑配信者を領地の宣伝大使に任命します」
## 第19話「迷惑配信者を領地の宣伝大使に任命します」
### 【あらすじ】
エリオットに救われ、旧ノクスヴェルト探索基地へ招かれた迷惑系配信者“バッド・クレイジー・ドッグス”。
彼らはエマの歓待を受けながらも領地経営を嘲笑し、無断で彼女のお墨付きを名乗ると、ダンジョン攻略開始を宣言してしまう。
配信終了後、身勝手な客人たちの前へ姿を現したエリオットは、穏やかな笑顔のまま「このままダンジョンへ行ったら死にますよ?」と告げ――!?
### 【本文】
「ですから、みなさんの魅力は、向こう見ずな挑戦と――それに伴う、ある種の“断罪”なんです」
旧ノクスヴェルト探索基地の食堂。
古びたテーブルを挟み、エリオットと“バッド・クレイジー・ドッグス”の四人は向かい合っていた。
「ど、どういう意味だ、てめぇ!」
盗賊風の男が椅子を蹴って立ち上がる。
「そのままの意味ですよ。みなさんの視聴者は、一部の熱狂的な方々を除けば、みなさんが酷い目に遭うことを期待しているんです」
「な、なんて酷いことを……!」
「承知の上で配信しているものと思っていましたが、違うんですか?」
三人から睨まれても、エリオットは子供らしい微笑みを崩さない。
その横に座るエマだけが、今にも喧嘩が始まるのではないかと青ざめていた。
「面白い“意見”だなぁ……」
ただ一人、お頭は真剣な目でエリオットを見ていた。
椅子の背にもたれていた巨体を起こし、低い声でエリオットを威嚇する。
「喧嘩を売ってんじゃねえなら、坊ちゃんの意見を聞かせてくれよ」
「ええ。今回、みなさんは半ば強引にこの地を訪れ、領主である僕の許可を得ずにダンジョンへ行こうとしている」
「…………それで?」
「正直に申し上げます。あのダンジョンは、みなさんの実力では一階層すら突破できません。全滅は必至です」
食堂が静まり返った。
彼らはつい先ほど、死の大地の魔物に追われ、エリオットに救われたばかりである。誰も子供の戯言だと笑い飛ばすことはできなかった。
「しかし――“演出”が入れば、話は別です」
「…………なるほどなぁ」
お頭が組んでいた足をゆっくりと組み直す。
「追放ポーターのお嬢ちゃんの配信も、アンタの“演出”ありきってことか」
エマの肩がわずかに跳ねた。
「すべてではありませんよ。最終的にはエマさん自身の力で成し遂げていますから」
エリオットは即座に言い切った。
「へえ。なら聞かせてくれよ。坊ちゃんの“演出”とやらを」
「その前に、ひとつ条件があります」
エリオットは鞄から一冊の魔術書を取り出し、テーブルの中央へ置いた。
「僕と契約をしてください。みなさんには、この領地の宣伝大使になっていただきます」
「せ、宣伝大使ぃ!?」
盗賊の男の素っ頓狂な声が響いた。
「正気とは思えねえな。俺たちゃ冒険者ギルドからも目ぇつけられてる札付きだぜ?」
「お頭ぁ……それ、自分で言うんですかい?」
「お前ぇは黙ってろ――で?」
「そこに関しては問題ありません。むしろ、あなた方のようなアウトローこそ、この場所の宣伝にうってつけです」
お頭は笑った。
「誰も寄りつかねえ死の大地には、俺たちみてえな無法者がお似合いってか」
「少し違いますね」
エリオットは人差し指を立てる。
「完全な無法者――王国に追われるような方々はお断りです。みなさんは素行こそ悪いですが、獄に繋がれる一線は越えていない。そこが非常に重要です」
「褒められている気がしませんねぇ……」
魔術師の男が力なく呟く。
「……で、結局俺たちゃ何をすればいい?」
「僕が配信の“演出”に関わっていることを口外しない。それさえ守れば、あとは普段通り、自由にダンジョンを探索していただいて結構です」
「俺たちは一階層で全滅するんじゃなかったのか?」
「僕の“演出”があれば大丈夫です」
「……胡散臭え」
疑いの目を向けられても、エリオットは涼しい顔だった。
「じきにここは多くの冒険者で溢れます。そうなれば、別にみなさんでなくても構わないのですが――」
「……チッ」
お頭はわざとらしく舌打ちし、机へ太い肘を乗せる。
「新発見のダンジョンを好きに配信できる。それは魅力的だわな」
「お頭、まさか乗るんですかい? こんな子供の話に――」
「年齢は関係ねえ。俺たちゃ配信のネタになることなら、なんだってする」
お頭は、三人の顔を順に見回した。
「今回のヤマはでかい。うまくいきゃ、一気に超人気配信者の仲間入りだ。街をでかい顔で歩けるようになるぜ?」
三人が息を呑む。
「貴族の坊ちゃん――いや、エリオット。その話、乗らせてもらうぜ」
「ありがとうございます。では、こちらの契約の魔術書にサインを」
「…………癪だなぁ、こっちが乗るのもお見通しってか?」
最初に、グループのリーダー、お頭のバルガスが署名する。
続いて盗賊風の男ニック、刀使いのシグ、魔術師のカーネルも名前を書き込むと、四人の署名が淡く輝き、魔術書へ焼きついた。
これで契約は成立。
エリオットの領地に、最初の宣伝大使が誕生した。
◇◇◇◇◇◇
「エリオットさん、本当に大丈夫なんですか? あんな人たちと契約して……」
探索準備のため、バッド・クレイジー・ドッグスへ一室を貸したあと。
契約の一部始終を見守っていたエマが、不安そうに尋ねた。
「リスクはゼロではありませんが、十分なリターンが期待できる契約ですよ?」
「リスク、あるんですか……?」
「彼らが配信のネタ欲しさに、僕のことを暴露する可能性はあります。実家には多少の風評被害が出るでしょうね」
「それ、大丈夫じゃないですよね!?」
「エマさんの配信にはノーダメージなので、問題ありません」
エマは、それ以上深く考えないことにした。
「それで、どうでしたか? クレハさん」
「えっ?」
エリオットが何もない空間へ呼びかけた直後、エマの背後に闇が滲んだ。
その中から、黒髪の女剣士が音もなく姿を現す。
「きゃあっ!? クレハさん! どうして毎回、私の背後を取るんですか!?」
「ああ。一階層はあらかた確認してきた。いつでも指示できる」
「無視しないでください〜!」
涙目になるエマの横で、エリオットは満足げに頷いた。
バッド・クレイジー・ドッグスがエマへ絡んでいる間に、すでに次の一手は打ってある。
今夜のダンジョン配信。
彼らの視聴者が期待する“断罪”を、この領地を広く知らしめる最高の宣伝へ変えるために――




