第18話「追放ポーターの領地を勝手に生配信します」
## 第18話「追放ポーターの領地を勝手に生配信します」
### 【あらすじ】
話題のダンジョンを誰よりも早く攻略しようと、死の大地へ乗り込んだ迷惑系配信者“バッド・クレイジー・ドッグス”。
魔物の群れに追われ、絶体絶命に陥った彼らを救ったのは、領地を訪れた最初の客人を迎え入れるために駆けつけたエリオットだった。
一方、王都では“レイド・スターズ”も決起配信を行い、エマに代わる新たなポーター、ミレイユを連れて死の大地へ出発するのだった。
### 【本文】
『お頭ぁ! この芋、うまいですぜ!!』
『ああ、信じられん。こんな旨えもんが、この死の大地で採れるなんざ――』
“バッド・クレイジー・ドッグス”の配信画面。
そこに映し出されていたのは、死の大地にぽつんと建つ旧ノクスヴェルト探索基地の食堂だった。
お頭と呼ばれる大柄な剣士。
軽薄そうな盗賊。
刀を腰に差した細身の男。
そして、先ほどまで馬車の御者を務めていた魔術師。
四人は古びたテーブルを囲み、エマが用意した芋料理を頬張っていた。
乳白色に浄化された芋を蒸し、軽く塩を振っただけの素朴な料理。
しかし、その澄んだ美しい色の芋は、配信を見ている視聴者の食欲も煽る見事な芋だった。
『素朴でいて……味わい深い』
細身の刀使いが、目を閉じて芋をしみじみと味わう。
『本当にこれ、食べて大丈夫なんですよねぇ……?』
魔術師だけは、半分に割った芋を不安そうに観察していた。
「だ、大丈夫ですよ。この場所の名産品です」
料理を運んできたエマが答える。
クレハが持ち帰った乳白色の芋は、今朝のうちにエリオットが少量を試食していた。
その後、特に身体に異常はなく、エリオットは人間族でも食べられると判断した。
『普通にうまそう』
『死の大地の名物料理か』
『一度は食べてみたい!』
『でも、一般人じゃ死の大地まで辿り着けないだろ』
『料理にありつく前に、魔物の餌になりそう』
コメント欄には、白く美しい芋料理への期待と、死の大地まで辿り着く難しさを嘆く声が流れ始める。
「それにしても、今話題の“追放ポーター”がこんなところに拠点を構えてるなんざ、考えもしなかったぜ」
お頭がエマを見た。
その視線は彼女の顔から胸元へ下がり、また顔へ戻る。
「あ、いえ……その――」
エマは身を縮めるように、胸の前で盆を抱えた。
その場に、エリオットの姿はない。
彼らを救出して基地へ案内したあと、馬の手当てと結界の確認を済ませ、配信カメラに映り込まないよう奥へ引っ込んでいた。
「ま、俺たちゃアンタの配信にあやかってここまで来たんだ。悪いようにはしねえよ」
「こんなうまい飯もご馳走になっちまいましたしね!」
盗賊の男が空になった皿を掲げる。
エマの歓待もあって、“バッド・クレイジー・ドッグス”の面々はすっかり上機嫌だった。
「それで? 嬢ちゃんはこれからどうすんだ? まさか、またあのダンジョンに行くなんてことは――」
「いえ! これからしばらくは、ここの経営を軌道に乗せるために、いろいろと――」
「経営だぁ? この死の大地で?」
「…………はい」
一瞬の静寂。
次の瞬間、お頭と盗賊が腹を抱えて笑い始めた。
「こいつは傑作だ! 有名パーティーを追放されたうえに、こんな場所で領地経営ときたもんだ!」
「嬢ちゃん、あの貴族の坊ちゃんに騙されてんじゃねえのか!?」
「そんな……! エリ――」
エマは、エリオットの名前を口にしかけ、慌てて言葉を飲み込んだ。
自分のことは、なるべく配信に出さないように――そうエリオットから日頃より言い聞かされている。
「そういや、その貴族の坊ちゃんはどうした?」
「あ、あの人は“裏方”なので……」
「裏方、ねえ。事情は知らんが、あの強さがあれば死の大地の探索もできるかもな」
「見事な魔術であった」
「それは僕も同感です」
刀使いの男と魔術師が、真剣な顔で頷いた。
その間も、彼らの小型配信カメラはエマの周囲を飛び回り、正面や横顔だけでなく、料理を片づける後ろ姿まで映している。
「あの……配信は、いつまで続けるんですか?」
「まあ、そう水臭いこと言うな! 嬢ちゃんは随分と評判がいいみてえだし、こうやって映ってくれると視聴者が――」
お頭が配信魔導具へ目を落とす。
「おお! こいつはすげえ!」
表示されていた同時視聴者数は、間もなく一万人に届こうとしていた。
「こりゃあ、視聴者の期待に応えねえとな」
お頭は最後の芋を口へ放り込み、勢いよく立ち上がった。
「追放されたポーターの嬢ちゃんが入って、生きて帰ってきたダンジョンだ。俺たちに攻略できねえわけがねえ!」
お頭は配信カメラへ向かって拳を突き上げる。
「俺たち“バッド・クレイジー・ドッグス”は、これから死の大地のダンジョン探索に行くぜ!」
配信カメラへ顔を寄せ、親指でエマを示す。
「ここの領主、“追放ポーター”のお墨付きだ!!」
「え? ええっ!?」
エマは、目を見開いた。
許可を出した覚えもなければ、そもそも領主ですらない。
「俺たちの配信を登録して待ってろ! 攻略配信の開始は、今日の夜だ!」
お頭が啖呵を切る。
コメント欄の流れが一気に加速したところで、配信は終了した。
「な、何を勝手に――」
エマが抗議しようとする。
しかし、お頭は聞く耳を持たず、仲間たちと作戦会議を始めた。
「……まったく、強引な方たちですね」
配信が終わったのを見計らい、エリオットが廊下の奥から姿を現す。
「おう、貴族の坊ちゃん。さっきは助かったぜ」
「いえ。領主として、当然のことをしたまでです」
「ん? なんだ、領主はアンタなのか。小さいのに立派なもんだなあ」
口では褒めているものの、お頭はエリオットへ一瞥をくれただけ。
すぐに仲間との作戦会議へ戻ってしまう。
「ちょっと、みなさん! エリオットさんが話しているのに――」
珍しく声を荒らげたエマを、エリオットが手で制した。
「すみません、みなさん」
「……なんだ? 邪魔すんなよ。俺たちが配信すりゃ、この場所はもっと有名になる。“レイド・スターズ”だって来るかもしんねえぜ?」
その名前を聞いた途端、エマの肩が強張った。
「それは、魅力的なお話ですね」
エリオットは穏やかな笑みを浮かべている。
だが、その声には、先ほどまで客人へ向けていた温かさがなかった。
「ただ、お話ししたいのは、それ以前の問題でして――」
相手の自尊心を刺激するため、エリオットはわざと子供らしく小首を傾げる。
「皆さん、このままダンジョンへ行ったら死にますよ?」
その言葉に、誰もが黙り込んだ。
お頭の顔から笑みが消える。
険悪な空気が、食堂にじわりと広がっていった。




