第17話「命知らずの迷惑配信者を領地へ招待します」
## 第17話「命知らずの迷惑配信者を領地へ招待します」
### 【あらすじ】
ダンジョン配信の翌朝、エリオットたちの拠点では、マッドスライムエリートを利用した芋の浄化が始まっていた。
死の大地で人間も食べられる作物を生産できる可能性が見え、領地経営は新たな一歩を踏み出す。
そこへ、大量の魔物に追われる一台の馬車が現れる。エリオットはエマへ客人を迎える準備を任せ、領地を訪れた最初の冒険者たちを救うため、単身で結界の外へ飛び出すのだった。
### 【本文】
“バッド・クレイジー・ドッグス”。
王都でも札付きのならずもの冒険者パーティーである。
彼らは、配信で話題になった場所へ誰よりも早く押しかけ、ありとあらゆる手段で注目を集める“迷惑系”配信者だった。
危険区域への無断侵入。
他の冒険者への突撃取材。
ときには魔物を有名パーティーの配信にまで誘導し、強制的に映り込むなどという芸当もしてみせた。
――当然、彼らを嫌う者は多い。
しかし、次に何をしでかすか分からない危うさが、一部の視聴者から熱狂的な支持を集めていた。
――時間は、エリオットが彼らと出会う数時間前へ遡る。
『バッド・クレイジー・ドッグス、死の大地へ突入だぁぁぁ!』
『一番乗りは俺たちがもらったぜ!』
『話題のダンジョンを、エマとかいうポーターより先に攻略してやる!』
その頃、彼らは威勢よく配信を続けていた。
エマの配信を見た直後に王都を出発。
馬車を夜通し走らせ、休憩も最低限。道中の映像まで配信することで、死の大地へ近づくにつれて視聴者数を伸ばしていった。
彼らにとってはいつも通りの行動。この無鉄砲さが彼らの持ち味。そのはずだったのだが――
「お頭ぁ! やっぱりモンスターが多すぎますぜ!」
馬車の屋根にしがみついた盗賊風の男が叫ぶ。
その脇を、黒い甲殻に覆われた獣の爪がかすめた。
「バッキャロー! そんなこと分かりきってただろ! 気合いでなんとかしやがれ!」
“お頭”と呼ばれた大柄な剣士は、荷台から身を乗り出して大剣を振るう。
「拙者の刀を弾く魔物が、これほど多いとは――」
クレハの剣に似た、反りのある刀を持つ細身の男が呟く。
腰を落とし、鞘に収めた刀へ手をかける。
『さすがバッド・クレイジー・ドッグス! 相変わらずイカれてんな!』
『さっきから同じ場所を走ってない?』
『これ本当に大丈夫か?』
『お、いよいよこいつらも終わりか?』
彼らの配信には、今も大量のコメントが流れている。
「これ本当にやばいですよ! もう帰りましょうよぉぉぉ!」
御者を務める魔術師の男は、すでに戦意の大半を失っていた。
「馬がもう限界です! このままじゃ追いつかれますよ!」
「バッキャロー! 馬にも気合い入れさせろ!」
「無茶言わないでください! “神獣使い”じゃないんですから!!」
彼らはしばらく善戦――しているように見えた。
しかし実際には、配信映えする場面を狙って戦っているうちに完全に包囲され、魔物が少ない方向へ逃げることしかできなくなっていた。
その方向の先にあったのが、旧ノクスヴェルト探索基地。その場所を包む魔物避けの結界が、周辺の魔物を遠ざけていたためだ。
その存在を知らない彼らは、偶然見つけた逃げ道だと信じて馬車を走らせる。
「助けてくれ――――っ!!!!」
ついに、お頭が配信中であることも忘れて叫んだ。
『え、これ演出だよな?』
『いつものやつでしょ』
『顔がマジなんだけど』
『誰か冒険者ギルドに知らせろ!』
「お頭ぁ! どうしやすか!? このままじゃ――」
「バッキャロー! こんなことで諦めるバッド・クレイジー・ドッグスじゃねえ! 逃げ続ければ、いずれどこかに――」
お頭がそう叫んだ直後。
風が吹いた。
乾いた大地を走り抜けた一陣の風が、馬車の背後へ迫っていた魔物たちをまとめて吹き飛ばす。
いや――違う。
魔物たちは、ただ押し戻されたのではない。
風に、“斬られた”。
「な、なんだぁ!?」
「お頭! あそこ!」
盗賊の男が、震える指で前方を示した。
舞い上がる砂煙の中から現れたのは、十歳ほどの少年。
少年――エリオットは、馬車の上空を飛ぶ小型配信カメラを一瞥した。
続いて片手をかざすと、正面から吹きつけた風が馬車を包み、暴走する馬車の速度を削いでいく。
馬車は、エリオットの目の前で静かに停止した。
エリオットは冒険者たちと、上空で配信を続けるカメラの双方へ、屈託のない笑みを向ける。
「皆さん、ようこそ! 僕の領地へ」
子供らしく元気なその挨拶は、領地を訪れた冒険者と、配信を見守る視聴者。その全員へ向けられていた。
◇◇◇◇◇◇
同じ頃、王都では、また別のパーティーが死の大地へ向けて出発しようとしていた。
“レイド・スターズ”。
彼らは、バッド・クレイジー・ドッグスとは違う。
死の大地の恐ろしさを理解し、装備や保存食、魔力回復薬を入念に準備。複数の配信計画を組み、満を持しての出発だった。
王都の酒場――例によって人払いが済んだその場所で行われた決起配信には、多くの視聴者が集まっている。
「これは、“レイド・スターズ”発足以来、最も危険なダンジョン探索になるでしょう」
磨き上げられた鎧を身につけたルシアン・ヴァルモントが、爽やかな笑顔で配信カメラへ語りかける。
「しかも、何の縁か、今そこにいるのは、かつての戦友エマ」
ルシアンは胸へ手を当て、視聴者へ訴えかけた。
「我々が助けに行きます。必ず、彼女を救ってみせる」
『さすがルシアン!』
『仲間思いすぎる』
『これがレイド・スターズだ!』
コメントが凄まじい勢いで流れる。
そのほとんどは、危険な土地へ仲間を救いに向かう彼らを称賛する内容だった。
しかし――
『エマって追放されたんじゃなかった?』
『前の配信、普通に活躍してたよな』
『本当に無能だったの?』
一部には、エマの脱退を疑問視する声も混じっていた。
エリオットと組んでからの彼女の活躍が、少しずつ“レイド・スターズ”の語ってきた追放の正当性を揺るがし始めている。
ルシアンは笑顔を崩さないまま、決起配信を終えた。
配信魔導具から光が消えた途端、その口元からも笑みが消える。
「追放されても、まだ足を引っ張るのか。あの女は――」
その低い声に、メンバーは誰も何も言えなかった。
リゼットは俯き、ただ拳を握りしめることしかできない。
「あらあらぁ……リーダーさんったら、そんなに昔の女が気になるんですかぁ?」
沈黙を破る甘ったるい声。
ルシアンへ擦り寄ったのは、彼よりも頭一つ背の高い女性だった。
波打つ長い金髪。
身体の線を強調する冒険服と、豊かな胸元。
その長身さえ霞むほど巨大な魔導袋を背負っている。
彼女は、エマに代わって加入した新たなポーター、ミレイユ。
収納量だけならエマを上回ると自称し、何かにつけてルシアンへ媚びる女だった。
「そんな女のこと、私がすぐに忘れさせてあげますよぉ?」
ミレイユはルシアンの腕へ胸を押し当てる。
「離れろ。今は配信の話をしてる」
ルシアンは鬱陶しそうに、絡みつく彼女の腕を振りほどいた。
それから、死の大地の方角へ目を向ける。
「せめて、俺たちの配信のネタになってくれよ――」
複数台の馬車が、王都の門を抜けていく。
大陸最大級の配信パーティー、“レイド・スターズ”。
彼らもまた、エリオットの領地へ向けて出発した。




