第14話「三人の追放者と危険な領地経営を始めます」
## 第14話「三人の追放者と危険な領地経営を始めます」
### 【あらすじ】
死んだと思っていたエマが魔族の女性と接吻する姿を目撃し、激昂したリゼット。
魔族の女性――クレハと戦闘になるが、魔族にはリゼットの闇の力が通用しない。
目を覚ましたエリオットは、二人の戦いを大陸中へ配信すると脅し、どうにか場を収める。
四人で話し合った結果、エマが安全を考慮したうえで配信を続けていると知ったリゼットは、その意思を受け入れる。
しかし最後に、リゼットはエマへ「女の人が好きなのか」と尋ねるのだった。
### 【本文】
「エマさん、本当に良かったんですか?」
「はい。リゼットちゃんは、“レイド・スターズ”にいたほうが幸せですから」
翌朝。
新たな活動拠点となった旧ノクスヴェルト探索基地の庭で、エリオットとエマが土を耕していた。
空は相変わらず厚い雲に覆われている。
乾いた風が吹くたびに、灰色がかった土が舞い上がった。
昨晩、エマが魔族の女性――クレハと接吻している場面を目撃したリゼットは、とんでもない誤解をした。
しかしそれは、クレハがエマの魔力を奪って拘束から逃れるためにしたことで、エマの意思とは関係ない出来事。
事情を説明すると、リゼットは安堵した後、今度は自分もこの基地に残ると言い始めた。
しかし、エマが時間をかけて説得し、彼女は最終的に、王都へ戻ることになった。
「あそこまで心配してくれていたんです。引き止めてもよかったのでは?」
「リゼットちゃんには、リゼットちゃんの居場所がありますから」
エマは鍬を振り下ろし、固い地面へ刃を食い込ませた。
「それに、私が追放されたせいで、リゼットちゃんまでパーティーを抜けるなんて嫌です」
「それに――私、ここを自分の居場所にしたいんです」
エマは鍹を握り直し、乾いた大地を見渡した。
「まだ何もありませんけど……エリオットさんとなら、この土地を、本当の領地にできる気がします」
「……そうですか」
エリオットも小さな鍬で、隣の土を掘り起こす。
その脳裏に、去り際のリゼットが浮かんだ。
『エマに酷いことをしたら、次は必ず殺す』
エマに聞こえないよう、リゼットはエリオットへそう言い残した。
本気の殺意がこもった目。エリオットはそう感じた。
『配信では酷い目に遭っているように見えるかもしれませんが、エマさんのことは責任を持って僕が守ります』
エリオットは、まっすぐにそう答えた。
リゼットは最後まで釈然としない様子だったが、これ以上長居すれば、“レイド・スターズ”に長期間の不在を怪しまれる。彼女は渋々ながらも王都へ帰っていった。
(あの調子だと、またすぐ来そうだな……)
エリオットは苦笑いを浮かべた。
「エリオットさん……」
「はい?」
「私、そうは言いましたけど――これ、本当になんとかなるんでしょうか?」
エマが鍬を止め、目の前の土地を見渡した。
二人が朝から耕しているというのに、掘り返せた範囲はわずかだ。
土は硬く、乾き切っている。
雑草すらほとんど生えていない。
「なんとかなるんじゃないですか? プロがそう言ってるんですから」
死の大地は、不毛の地である。
土には人間が扱えないほど濃い魔力が染み込み、普通の作物を植えても、芽を出す前に枯れてしまう。
そんな土地を耕す行為は、一見すると無意味にしか思えなかった。
「プ、プロって――」
「おお、やっているな」
声に振り返ると、基地の外からクレハが歩いてきた。
肩には、彼女の身体ほどもある大きな袋を担いでいる。
「クレハさん、それは?」
「エリオット少年の言うとおり、ここからしばらく行った場所にダンジョンがあった。こいつは、そこで採ってきた“野菜”だ」
クレハが袋を地面へ下ろす。
重い音とともに、袋の口が開いた。
中からゴロゴロと転がり出てきたのは、芋――のようなものだった。
黒紫色の皮。
ところどころから根のような突起が伸び、ときおり脈打っている。
表面からは、目に見えるほど禍々しい魔力が漂っていた。
「な、なんですか、これ……」
「芋だ」
「……コレ、食べられるんですか?」
「魔族にとっては、いい栄養になるだろうな」
「なるほど、それはいいですね」
「何がですか!?」
エマが後ずさる。
クレハは不思議そうに芋を一つ持ち上げた。
「魔力が多すぎるこの地では、それ相応の作物が必要……というわけか」
「何が『というわけ』なんですか……」
エマの顔が引きつった。
見た目だけなら、畑へ植えるより先に討伐したほうがよさそうな芋。
だが、この地で栽培できる可能性を持つ、唯一の作物だった。
「まあ、この芋のことは置いておいて――ダンジョンが見つかったのは朗報です。これで“第二の策”も進められます」
「そうだ、エリオットさん」
エマが鍬を地面へ置いた。
「私にも、そろそろ領地経営の“策”、教えてくださいよ」
「そうですね。ぜひクレハさんも聞いてください」
「ん? 何の話だ?」
エリオットは二人を前に、指を一本立てる。
「まず、第一の策。それは食料の調達です」
「人を呼んでも、食べるものがなければ定住できませんからね。持ち込んだ保存食だけでは、いずれ底を突きます」
井戸や水源も調べる必要がある。
この土地で育つ作物を見つけ、安定して生産できる環境を整える。それが領地として成り立つための最低条件だった。
「ま、まさか……このお芋を?」
エマが怯えた顔で、地面に転がる芋を見る。
「それは後々考えましょう」
(あ、後回しにするんですね……)
「そして第二の策が、“ダンジョンで人を集める”です」
「あ……なるほど」
エマの表情が少し明るくなった。
「ダンジョンがあれば、冒険者がここへ来る理由になりますね」
「そのとおりです。現状、この領地には産業もなければ、住民もいません」
エリオットはクレハへ視線を向ける。
「ここの領民は、まだエマさんとクレハさんだけです」
「は?」
クレハの眉が動いた。
「な……何!? 今、私を“領民”と言ったのか?」
「ですから、まずはここに人を呼んで、経済の流れを作ります」
「おい! 無視するな! 私は領民になるつもりなど――」
「ダンジョンに魅力があれば、ここへ滞在したい人たちも出てくるでしょう」
エリオットは地面へ簡単な図を描く。
「冒険者が来れば、食事と寝床が必要になる。装備の修理や物資の補給も必要です。それを求めて商人や職人も集まる。まずは、その需要に応えられるようにしたいですね」
「聞いているのか!?」
「クレハさん。ダンジョンの魔物はどうでしたか?」
「え? あ、ああ……」
話を振られ、クレハはあっさり抗議を忘れた。
「一階層には、カオスワームやマッドスライムエリート程度の雑魚しかいなかったな」
「?????」
エマの目が点になった。
「いいですね。さすが死の大地」
エリオットは満足そうに頷く。
(え……?)
エマの記憶では、カオスワームは“レイド・スターズ”が全員で攻略したダンジョンの中階層に出現していた。
少なくとも、戦闘能力の低いポーターが一人で向き合っていい相手ではない。
「まずは、そのダンジョンを広告して、ここへ注目を集めるのがいいでしょう」
エリオットが大型の配信魔導具へ手を伸ばす。
(嫌な予感がする!!)
エマは反射的に踵を返した。
しかし、その手首をエリオットが掴む。
「エマさん、配信の時間です!」
「いやああああああ!!!」
エマの情けない叫び声が、死の大地に響き渡った。




