第13話「大事な友人が女の人を好きかもしれません」
## 第13話「大事な友人が女の人を好きかもしれません」
### 【あらすじ】
魔族の女性を捕らえた直後、魔力切れで倒れてしまったエリオット。
目を覚ましたエマは捕らえられた魔族へ食料を分けようとするが、間合いへ入った瞬間、唇を奪われてしまう。
そこへ、エマの仇を討つため死の大地を駆けてきたリゼットが突入する。
しかし、彼女が目撃したのは、死んだと思っていたエマが魔族の女性と激しく接吻する姿だった。
### 【本文】
「貴様ぁぁぁぁぁ!!!!!」
旧ノクスヴェルト探索基地に、リゼットの怒声が響き渡った。
床に落とした短剣を拾い上げ、魔族の女性へ斬りかかる。
二本の刃を覆うように、黒い炎が燃え上がった。
狙うのは、エマを抱きしめている女の首。
「死ねぇぇぇぇぇっ!」
黒炎をまとった短剣が、横薙ぎに振るわれる。
しかし――
(な……何!?)
魔族の女性は、とっさにエマの身体を庇うように反転した。
直後、短剣の刃が縄を正確に捉える。
切断された縄が、女性の両手から落ちた。
魔力を奪われていたエマは、その場にへたり込む。
「お前!! エマに何をしたっ!!!」
「心配はいらん。魔力を少し分けてもらっただけだ。彼女の身体に害がない程度にな」
「嘘をつくな!!!!」
激昂したリゼットは、再び床を蹴った。
両足を縛られたまま、魔族の女性が横へ跳ぶ。
短剣が鼻先をかすめた。しかし、女性は体勢を崩さない。横へ跳んだ勢いを利用して床を転がり、エリオットによって部屋の隅へ蹴り飛ばされていた自分の刀を掴んだ。
「アサシンか……それに、強力なスキルを持っているな」
鞘から刀を抜き、足の縄を切断する。
「黙れ!!!」
リゼットは止まらない。
彼女の身体を黒い“闇”が覆い、輪郭が景色へ溶けていく。
気配が消えた。
足音も、呼吸の音もない。
「ほう」
魔族の女性は、興味深そうに目を細めた。
次の瞬間――凄まじい剣戟の音が響き渡った。
女性の背後に、闇から現れたリゼットが立っている。
だが――
「ぐっ……!!」
女性は出現を予測していたかのように、背後へ刀を構えていた。
リゼットの短剣が弾かれる。
空中で身を翻して着地すると、リゼットは一度距離を取った。
「……魔族に、闇の力は通用しないぞ」
女性の言葉が、重くリゼットへのしかかる。
(相性が……悪い――)
リゼットは短剣を構え直した。
エマは壁際にへたり込んだまま、動けないでいる。
幸い、魔族の女性から仕掛けてくる様子はない。だが、正面からぶつかり続ければ、自分が先に消耗する。
(そうだ……あの貴族の子供は――)
あまりの光景に、本来の目的を見失っていたリゼット。
エマを死地へ追いやったはずの少年は、どこにいるのか。
リゼットが周囲を確認した、その時だった。
「ストーーーーップ!!!!!」
部屋の入口に、エリオットが立っていた。
戦闘の音で目を覚ましていたらしいが、その顔色は悪く、足元もわずかにふらついている。
それでも両手には、大型の配信魔導具がしっかりと構えられていた。
◇◇◇◇◇◇
「な、何をしているんだ?」
「お、お前!!! 一体何を――」
突然現れたエリオットに、魔族の女性とリゼットが同時に声を上げる。
「二人とも、動かないでください!」
エリオットは配信魔導具へ手を添えた。
頭上では、カメラ二号が風に乗って浮かんでいる。
「さもないと、この状況を今すぐ大陸中へ配信しますよ!!」
その言葉に、リゼットの動きが止まった。
「はいしん……とは何だ?」
魔族の女性だけは、ピンときていない様子で首を傾げる。
「この機材で映した光景を、大陸中の人間が見られるようにするんです。魔族のあなたは、そんなことになったら生きていけませんよ?」
「…………それは困るな」
女性はあっさりと刀を鞘へ収めた。
「それで――あなた……リゼットさんですよね? こんな場所で油を売っていることが知られたら、あなたもまずいのでは?」
「…………」
リゼットはしばらくエリオットを睨んでいたが、やがて短剣を鞘へ戻した。
エリオットが、深く息を吐いた。
「……ここは、冷静に話し合いましょう」
◇◇◇◇◇◇
ボロボロのテーブルを、四人が囲む。
エリオットの隣にはエマ。
その向かい側には、魔族の女性とリゼットが距離を空けて座っている。
テーブルの中央へ向けて、カメラ二号が浮かんでいた。
「改めて……グラシオン王国のエリオット・ノクスヴェルトです」
最初に口を開いたのは、エリオットだった。
「……エマです」
エマも控えめに頭を下げる。
先ほどの出来事を思い出しているのか、頬が少し赤かった。
「魔王国領を追放され、この大陸へ来たクレハだ」
魔族の女性――クレハは、堂々と名乗った。
「……リゼット」
リゼットは腕を組み、依然としてクレハを警戒している。
「まずは何から話しましょうかね……あ、ちなみに妙な真似をすると、カメラ二号が即座に配信を開始するので注意してください」
エリオットが二人へ釘を刺す。
「お前は、エマをどうするつもりだ」
最初に話題を振ったのは、意外にもリゼットだった。
「どうもこうも……エマさんを追放した“レイド・スターズ”のメンバーに話す義理はないと思いますけど」
「ふざけるな!!! エマは私の……大事な――」
勢いよく立ち上がりかけたリゼットの声が、尻すぼみになっていく。
「リゼットちゃん……」
エマが、悲しそうに彼女を見つめた。
「そ、そんな顔しないでよ……私、本当はエマちゃんを追放したくなんて――」
「なんだ。お前も追放されたクチか」
クレハがエマを見て愉快そうに笑った。
「まあ、おおかた前回の配信を見て罪悪感が芽生えたとか、そんなところですか」
エリオットは冷めた目をリゼットへ向ける。
「虫のいい話ですね。追放したくせに、その後にまで干渉してくるなんて」
「エリオットさん……!」
エマが咎めるように名前を呼んだ。
「エマさんも、この際ですから言いたいことを言っておいたほうがいいですよ」
「……言いたいこと、ですか?」
リゼットは覚悟を決めたように拳を握り、膝の上へ置いた。
エマはしばらく考えてから、静かに口を開く。
「リゼットちゃん、私のこと、心配してくれたんだよね?」
「……え? あ、うん……」
「それで、わざわざこんな危険なところまで、一人で来てくれたの?」
「……当然でしょ。大事な仲間だったんだから――」
「ありがとう、リゼットちゃん」
エマの言葉に、皮肉も責める気持ちもなかった。
混じり気のない、まっすぐな感謝だった。
「お礼なんて、そんな……」
リゼットの表情が歪む。
「私、ごめんなさい……! エマちゃんの追放、止められなくて――!」
堪えていた涙が溢れ出した。
エマは席を立ち、泣き出したリゼットの背中を優しく撫でる。
「一応、僕からも説明しておきましょうか」
二人が落ち着くのを待って、エリオットが口を開いた。
追放されたエマを誘い、二人でパーティーを組んだこと。
エマが故郷を支えるため、配信を続けようとしていること。
そして今日の配信も、周囲の魔物を事前に排除し、安全を確保したうえで行った演出だったことを説明する。
「……エマは、本当にこの男と配信を続けるの?」
「うん。それが、故郷のためになるなら」
エマは迷わず答えた。
リゼットは目元を拭い、しばらく彼女の顔を見つめる。
「……分かった」
やがて、椅子から立ち上がった。
「それじゃあ……最後に、一つだけ」
リゼットは視線を泳がせ、少しだけ顔を赤らめる。
「エマちゃんは……女の、人が、好きなの?」
「え?」
エマは目を丸くした。
クレハは何のことか分からず首を傾げる。
ただ一人、質問の意味を理解したエリオットは、『あちゃー』といった様子で額を押さえるのだった。




