また、あの夢だ。
また、あの夢だ。
ジェヒはベッドに横になったまま、真っ暗な闇が少しずつ薄れていくまで、何度もゆっくり瞬きを繰り返していた。
しばらくすると、見慣れた部屋の輪郭がぼんやりと視界に浮かび始める。
ジェヒは手探りでベッドフレームとマットレスの隙間に手を伸ばし、挟んでおいたスマホを取り出した。時間を確認すると、午前4時23分だった。
まだ早朝だというのに、頭は驚くほど冴えていた。
スマホを握った手を胸元に当てると、鼓動が速く打っているのがはっきりわかった。
もう四日も続いているこの夢は、ジェヒの心を十分すぎるほど落ち着かなくさせていた。
それも当然だった。ずっと昔に連絡が途絶えてしまった高校時代の初恋の夢を、四日連続で見るなんて……。
なんというか、現実離れしているというか。
それくらい、そう簡単に経験できることじゃないと思っているからだ。ましてや同じ夢を二日続けて見ることだって珍しいのに……。
だからこそジェヒとしては、ただ不思議だというだけでは済まなかった。
このあたりで、二人の間に何か運命的な出来事が起こるんじゃないか。今までの夢は、その前触れなんじゃないか。そんなことまで考えてしまうのも無理はなかった。
たとえただの夢だったとしても、とにかく今のジェヒにとっては、なんとも言えない奇妙な感覚だった。
そう。最初に彼の夢を見た時は、正直ここまで動揺していたわけじゃない。
ただ、久しぶりに見たその顔が懐かしくて嬉しかった。それだけだった。
たった一度夢に出てきたくらいで、そこに特別な意味を見出すなんて——そんな大げさな話では決してなかった。
ああ、もちろん。当時の記憶や感情がじわりと蘇ってきて、一瞬だけ胸が熱くなることはあった。
でも、本当にそれだけだった。
最後に彼を見たのは十九歳の夏。
そこからもう十三年近くが過ぎている。
彼への感情なんて、それだけ長い時間の中でとっくに薄れていたはずだった。
ジェヒはすぐに日常へ戻り、彼の存在感もまた、夜明け前に漂って消える霧みたいに、あっという間に薄れていった。
だけど、四日連続で彼の夢を見るとなれば話は別だ。
思い出すだけで胸が締めつけられるような、どうしようもなく美しく感じられる子どもの頃。
そして彼は、今もなおその記憶の中に残り続けている人だったから。
同じ夢を見る日が一日、また一日と増えていくたびに、もう消えたと思っていた淡い感情たちが、ジェヒの胸の中で少しずつ芽吹き始めていた。
それは、ジェヒの知っているどんな言葉を使っても説明できないほど、不思議で、胸がいっぱいになる感情だった。
まあ、もし一つだけ虚しく感じる部分があるとすれば、それは結局これが「夢」だということだった。
心だけがどんどん揺さぶられていくのに、現実は何ひとつ変わらない。
だからだろうか。期待とも寂しさともつかない感情が入り混じって、ジェヒは高鳴る鼓動をなかなか落ち着かせることができなかった。
『ピピピピ――』
どれくらい時間が経っただろう。
手の中のスマホから、けたたましいアラーム音が鳴り響いた。
午前6時ちょうど。そろそろ起きて出勤の準備をしなければならない時間だった。
ジェヒは一度大きく息を吸って吐き出すと、ゆっくり身体を起こし、慣れた足取りで部屋についている浴室へ向かった。
『カチッ。』
スイッチを入れると、明るい光が浴室いっぱいに広がった。
眩しさに顔をしかめながら洗面台の鏡の前に立ったジェヒは、両手いっぱいに冷たい水を掬い、そのまま顔へ押し当てる。
冷たい水は、ついさっきまで夢に揺れていたジェヒの心を、少しずつ静めてくれた。
それにしても、本当に不思議だった。
どうして急に彼は、ジェヒの夢に現れるようになったのだろう。
ジェヒにはまるで理由がわからなかった。
大人になるにつれて自然と疎遠になった相手だった。
かつては思い出すだけで胸がざわつき、名前を聞くだけで全神経が張り詰めるような存在だったけれど、それももう過去の話だ。
今のジェヒにとって彼は、一ヶ月に一度どころか、一年に一度思い出すかどうかの人。
ただの過去の人でしかなかった。
それなのに突然、彼の夢を見るなんて。しかも四日連続で。
『もしかして、昨日あの話を聞いたからかな。』
ふと、ジェヒの頭に一つの考えがよぎった。
それは昨日、高校時代の同級生から聞いた、母校の廃校の知らせだった。
まあ、正直ジェヒにとってその話は、そこまで驚くようなものではなかった。
いつかはそうなるだろうと思っていたことが、ついに来ただけ。
寂しいとか、衝撃を受けるとか、そういう感じではなかった。
ジェヒの故郷は、今暮らしているソウルとは比べものにならないほど小さな町だった。
ちょっとした買い物をするにも、バスに乗って市街地まで出なければならないような、かなり辺鄙な田舎町。
むしろ今まで学校が残っていたほうが不思議なくらいだった。
もちろん最近は町に大きなスーパーもできたらしい。
それでも昔に比べれば、子どもや若い学生の姿はほとんど見かけなくなっていた。
悲しいけれど、自然な流れだった。
だからだろうか。
久しぶりに高校時代に関する話を聞いたことで、ジェヒの無意識が、忘れていた記憶の中の彼を呼び起こしたのかもしれない。
『いや、ありえない。いくらなんでも……四日連続なんて。』
たとえ無意識が作り出した現象だとしても、同じ人の夢を四日も続けて見るなんて、ジェヒには到底納得できなかった。
ジェヒは勢いよく頭を振る。
もしかすると——
ただの無意識の作用として片づけてしまいたくなかったのかもしれない。
四日間も彼の夢を見続けるうちに、言葉では説明できない感情が確かに芽生えてしまっていたから。
だからこそ、ただの偶然だと思うよりも、二人の間にはまだ見えない繋がりがあるとか、運命的な何かが起ころうとしているとか——そう考えるほうが、ずっとロマンチックに思えたのだ。
それに今回の夢は、ジェヒが普段見る「夢」とも少し違っていた。
本来、夢というものは、日常の中で強く印象に残った場面や出来事が残像のように映し出されたり、あるいは実際には経験したことのないことを体験したりする、いわば「非現実の空間」ではなかっただろうか。
けれど、ジェヒが四日間見続けている夢は、それとは明らかに違っていた。
まるで誰かがジェヒの学生時代を映像として記録し、それを再生して見せているみたいに。
実際にジェヒが経験した出来事を、そのまま鮮明に映し出す夢。
まるで映画のような夢だった。
そして、その映画の主人公は——ジェヒと、彼だった。
地下鉄が騒々しい音を立てながらホームへ滑り込んできた。今日もいつも通り、車内は出勤中の人たちでぎゅうぎゅうに埋まっている。
ドアが開いた瞬間、ジェヒは身体を小さく縮めながら、人混みの間をすり抜けるようにして前へ進んだ。
そうしてようやく、反対側のドア付近の隅に小さな居場所を確保する。
もちろん、立ったまま頭だけを壁に預けるような窮屈な姿勢だった。
それでも、知らない人たちと肩を押し合いながらあの人混みの中心に立っているよりは、ずっとマシだった。
朝の通勤ラッシュなんて、こんなものだ。
座席に座れるかどうか以前に、ドアと座席の端の間にある狭い空間を確保できるだけでも運がいいほうだった。
ジェヒは軽く乱れた服装を整えると、鞄の中からイヤホンを取り出した。
ここから会社最寄りの駅までは、およそ三十分。
その間、何を聴こうかとぼんやり考えていた時、不意にある曲が頭に浮かぶ。
―― スプリンクラー『雨が降るから好き』 ――
子どもの頃、彼とよく一緒に聴いていた曲だった。
当時のジェヒは、そのバンドのボーカルの声に夢中になっていて、きっと彼からすれば半ば無理やり付き合わされていたようなものだったかもしれない。
それでも、本当によく聴いていた。
多い日は、一日に十回以上流していたくらいだ。
そんなことを思い出すと、ジェヒは思わず小さく笑ってしまった。
再生ボタンを押すと、懐かしいメロディが耳の奥へ静かに流れ込んでくる。
その旋律は耳を抜け、首と肩へ。
そして胸と腹へ。
さらに両腕と両脚へ。
ゆっくりと。
少しずつ。
身体の奥へ広がりながら、ジェヒを温かく包み込んでいく。
なんだか身体が軽くなったような感覚。
喉の奥とみぞおちが、くすぐったく疼く。
後頭部からうなじにかけては、妙に痺れるような感覚さえあった。
ジェヒはスマホをズボンの後ろポケットへ押し込みながら、
四日前——初めて彼が現れた、あの夢のことを、もう一度静かに思い返し始めた。




