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 甘い香の匂いに眠りに誘われたあの夜。気づけば朝で、隣にはラインハルトが眠っていた。

 起こさないようにベッドを抜け出し、足早に与えられている秘書室に帰った。


 至って普通の態度で、いつもどおりのラインハルトに拍子抜けしてしまう。


 そしてとうとう、見合いの日がやってきてしまった。

 見合い会場は、宮廷の中にあるサロンのひとつ。養い親とふたり、馬車に揺られながら向かう。……ラインハルトは、見送りには来なかった。


 深海を思わせる深い蒼のドレスは、パーティードレスのように華美さはなくとも、スレンダーな体型を良く見せ、細いくびれを強調した。胸もとが大きく開き、デコルテをすっきりと見せる。

 いつもは適当に結ばれた髪も、複雑に編みこまれてアップにされて、白い肌がよく映えた。


 相棒の丸メガネも没収され、今はやりのコンタクトレンズを目の中に入れられれば、視界は明瞭になり、思わず感動してしまった。

 眉を整えられ、薄く化粧の施された顔はまるで自分じゃないようで、鏡を二度見したのは恥ずかしかった。


 野暮ったくて、田舎くさい女の子はどこにもいなかった。


 騎士団本舎ですれ違う団員たち皆に見られ、隣を歩く養い親は自慢げに笑顔を浮かべていた。


「お待ちしてました。ようこそ、いらっしゃいました、ケルル殿」

「お待たせして申し訳ない。お久しぶりですな、ロイド殿。娘のアレクサンドラです」

「……アレクサンドラ・ケルルです。このような場を設けていただき、ありがとうございます」


 礼儀作法はしっかりと叩き込まれている。ドレスの裾をちょんと摘んでお辞儀をする。

 そこらへんのお嬢様に劣らない、深窓の令嬢の如く麗しいサーシャに、見合い相手の上官にあたる男は感嘆の息を漏らした。


 さぁさぁ、と逸る気持ちを抑えられない男はサロンへとふたりを案内する。


 宮廷には中々来ることはないが、静謐な雰囲気の気品を感じさせられる内装だ。


「――お会いしたかったです、ケルル嬢」


 アロイス・レヴィンと名乗った見合い相手は、優しげな風貌の青年だった。

 サーシャの四つ年上で、王国騎士団に入団希望していたとか。

 挨拶も早々に、「後は若いふたりで」と養い親と上官の男はサロンから出て行ってしまった。


「なぜ、私だったんでしょう?」


 ずっと疑問だった。

 お洒落でなく、芋くさい見た目の私に、どうして見合いの話しを持ってきたのだろう。


「はじめは、騎士団に入るための足がかりを探していたんだ。――覚えて、いるかな。去年の秋頃、騎士団を訪れていた僕に傘を差し出してくれたことを」


「……あの時の、」と言葉を紡いだが、正直記憶になかった。雨の日は、ラインハルトの夢見が悪くなる。

 寝不足と肉体的疲労で、雨が降る時期の記憶はおぼろげだ。

 ――ふ、と。私がいなくなったら、雨の日のラインハルトを誰が慰め、宥めるのだろうかと思った。


「見た目なんて関係ない。僕は、君の優しい心に惹かれたんだ」


 


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