第55話 空間に現れたもの
王の扉の二階のカフェスペースにて、真一たち実行部隊? と、地下のパソコン室にて、パソコンを起動、MMORPG『World of legend』に接続、ログインした悠磨王子の自キャラ(ゲーム内で自分の分身となるキャラクター)のニート王子と無事に会う(接触)ことが出来た。
真一たちの目の前には、ブオン! という音と共に空間に文字が表示された画面が突如として出た。その画面の大きさはというと、縦30センチ横90センチと長細く割と大きめなもので、文字が表示されている背景の部分は薄らとオレンジ色をしていて浮かび上がった白っぽい文字が見やすくなっていた。恐らくこれは、ゲーム画面のチャット(特定の場所でリアルタイムで互いに文字を打ち会話すること)部分だと思われるのだが……。
その画面には、
[チャット画面]
『真にぃいいい!!!
やあ、レオン、アズキアス!
花琉姉様ぁああ』
と、表示されている。
真一は、「悠くん?」と、声に出して言うのだが……。
目の前に現れたエンジェル(ニート王子)さんは、ほぼ人間だと言っても過言ではない姿だ。パッと見では本物の人と並んでもどちらも生身の人間だと言うだろう。ただ、よくよく見ると違和感を感じるかもしれない。なんというか、写真からコピーをして出て来た人、そのような表現がピッタリと来るような感じだ。
そういえば、MMORPG『World of legend』は、映像や写真に写る人をそのまま取り込んで自キャラとして使える機能があった。それはウエブカメラやスマートフォンで撮影したものも勿論取り込める。ああ、取り込むキャラクターには制限があって。例えば、俳優などは肖像権があるので基本的には禁止だが、公式サイトで使用許可の出ている画像がキャラクターとなって選択可能になっているものがある。それはゲーム内で使用することが出来る。だが、このキャラクターはゲーム内で使用しても着せ替えが出来ないことから、割と使用する人が少ない。
この場合の着せ替えとは、衣服や装備を着けてもゲーム内のキャラクターの見た目に反映されないのだ。
ついでにもう一つ、肖像権の問題で、自分以外の他人の画像を使い、なりすましたキャラクターは、見付かると即垢バン(アカウント停止、キャラクター削除)となる。
まあ、色々厳しい面もあるが、リアルの自分自身をゲーム内の自キャラとして使う人も多い、ちょっぴりキャラクター制作時に補正が付いていることがうけている要因かもしれない。
[チャット画面]
『そうだよ。
俺、ニート王子だっ!!! えっへん!!!
それより、真にぃの格好ぉお~~~、
ぶっははははは!!!
何をどうしたの? ねえねえ真にぃ~』
「悠くん! それどころじゃなくてさ」
[チャット画面]
『なんだよ、真にぃ~』
「こっちは、大変なことになっているよ! なんて言うかなぁ~、う~ん。あ、ほら、多分だけど、『World of legend』のゲーム画面のさ、チャット部分が空間に浮き出ているんだよ」
[チャット画面]
『え? そうなの?
こっちはさ、真にぃの声がさ、スピーカーから聞こえているよ』
「え? そうなんだ」
[チャット画面]
『うん、
ねえ、真にぃ』
「なに?」
[チャット画面]
『まあ、俺たちだけでもさ』
「うん」
[チャット画面]
『会話に、対応しているていうの?
ああ、この状態ね、真にぃの所には空間にチャット画面が出て、俺は真にぃの声をスピーカーで聞いてさ。まあ、エンジェルさんを真にぃに見て貰うのが目的だからさ、いいんだけれど……』
「うん? どうしたの? 悠くん、あ、いや、ニート王子」
[チャット画面]
『うんとね、真にぃの横とか後ろとかでさ、固まっている人たち、どうする?』
「え?」
悠磨王子の言葉に、真一は横を見る。と、花琉姫が呆然と立ち尽くし、真一の斜め後ろに居るレオン王とアズキアス魔王は、すっかり固まっている。
「あ、えっと、えっとね、悠くん、ああ、ニート王子! ちょっと、待ってて、皆に説明するから!」
[チャット画面]
『あ~、うんうん。
真一、勇瑠おじさんだ。真一の声はしっかり聞こえているぞ。その皆の姿も見えているぞ。まるで映画か動画を見ているみたいだ。あ、いや、背景的に映画かな?』
悠磨王子のチャットの後に、勇瑠王子と思われるチャットが続いた。
地下のパソコン室では……、
「ああ、もう、勇瑠兄様! 俺が喋るから! チャットするからぁああ」
「まあ、いいじゃないか、勇瑠兄様にも真一たちと話しをさせなさい」
「え? だったら、シャナも話したい!」
「えー、面白そうだから、それだったら私だって話したいわ、チャットさせてよ」
「フィオナ姉様は、ジュエル(乙女ゲーム『ジュエル・I LOVE・アンジェリール』)のアーサーと話していればいいじゃないのぉお」
「やだ、だって、アーサー様は中身(生身の人間がキャラクターを動かしていないということ)が入っていないじゃない!」
「そうだけど……」
「はいはい、そこは年長者の勇瑠兄様だろう?」
「勇瑠兄様、年長者てぇ~~~ハイヒューマンは年齢の取り方が三つもあるんだからぁ~、そんなの関係ないじゃない。精々、生まれた順番じゃない?」
「ムッ、それもそうか……」
「いや、勇瑠兄様、シャナの理屈はちょっと可笑しいわよ? 先に生まれただけでもこの場合年長者じゃないの?」
「ふむ、それもそうだな」
「もう、フィオナ姉様、せっかく勇瑠兄様が納得仕掛けたのにぃぃぃ」
「あら、それもそうね」
「あ~もうぉ~、皆!!! 邪魔邪魔、それになんの話しになっているの? 本題はそこじゃないでしょう?」
「ふむ、それもそうだな」
「そうねぇ~」
「そうだわ」
なにやら、わちゃわちゃと賑やかに脱線しながら何とかやっているようだ。
ちなみに地下のパソコン室チームは、勇瑠王子、悠磨王子、フィオナ姫とシャナ姫だ。
王の扉の二階のカフェスペースにて、返事をする真一。
「あ、うん、勇瑠おじさん。勇瑠おじさんの文字も読めるよ! その、兎に角、待ってて、こっちはこっちで何とかする」
地下のパソコン室では、
「あ、真にぃの声が、スピーカーから」
「ああ、そうだな、真一」
スピーカーから聞こえる真一の声に、つい、返事をしてしまう勇瑠王子。
「悠磨、まあ、あっちも現場で少し時間が掛かりそうだ。間を置いた方がいいな」
「うん、じゃ、チャットで返事するね」
「あ、じゃぁ、勇瑠兄様もぉ」
「あ~、またぁあ」
[チャット画面]
『わかった、
わかったぞ、真一』
真一は、空間に浮かんだ、チャット画面を見てから、固まっている花琉姫、レオン王、アズキアス魔王に話し掛ける。
「花琉おばさん、大丈夫? ねえ、状況わかってる?」
花琉姫は、自分の名前を呼ばれたことで気が付いたように、
「あ、ああ。真ちゃん」
花琉姫の声を聞いて真一は、今度は、斜め後ろに居るレオン王とアズキアス魔王に話し掛ける。アズキアス魔王はレオン王の腕に自分の腕を絡め、腕組みをする形で……、というよりは、兄にくっつく弟のような感じだ。
「レオン、アズキアス!」
「……」
「レオ~~~~~ン、アズキアスゥウウウウ、おーい」
「あ……」
「ああ、我は」
先に反応をしたのは、アズキアス魔王で、続いてレオン王の声が返って来た。
「真一、真一、これはなんです?!」
「真一、永く生きているが、このような変わったものは見たことがないぞ? これは、その、現在日本の魔法陣の一種か?」
「ああ、良かった、二人共」
レオン王とアズキアス魔王の喋る言葉を聞いて、安心する真一は、
「皆聞いて、これ、俺の推測なんだけど、この空間に浮かんでいるこれ。『World of legend』に接続してログインしたときのゲーム内のチャット画面、チャット領域とでも言うのかな? それだと思うんだ」
「真ちゃん、そうよ、そうだと思うわ。花琉おばさんも見覚えあるもの」
「ね、そうでしょう?」
「ええ、ええ」
「あの、真一、我には、あ、いや、我たちには何が何だか、ねえ、レオン」
「ああ、我にはさっぱりだな、新作の魔法陣なのかとも思ったのだが……」
「アズキアス、そうだよね、ゲームをしたことが無ければ……、あ、いや、それどころか、ゲームを見たことが無ければ、わからないよね……」
「ええ、そうですね、真一」
「レオン、これは新作? の魔法陣ではないよ」
「ふむ、そうなのか」
レオン王がいう、新作とは、この異世界では常に魔法についての研究が盛んだ。新しい魔法陣の構築がされること、新しい術式を公開することなどを’新作’という言い方をする。
「まあ、一先ず良かったよ」
「何がだ、真一」
「皆、固まっていたというかさ、呆然としていたからね」
「あら、そうだったかしら?」
「ふむ」
「そうかもしれませんね、我など、レオンに捕まっていましたからね」
「ハハッ」
漸く二階のカフェスペースに居る面々は会話を始めた。
「それで真一、この空間に浮いた大きな板のような物は、魔法陣ではなく、その、ゲーム画面の一部だと?」
「まあ、そうだな。ゲーム画面の一部がそのまま、この空間に現れてしまった。というところだろうか……」
「不思議よねぇ~」
「ふむ」
皆が悩み出す。
「ところで真ちゃん、ニート王子、動かずに固まっているけれど、どうしたのかしら?」
「ああ、俺がこっちでちょっと話しをするから、待ってくれて言った」
「そうなのね」
[チャット画面]
『おぉ~い、皆の話し声は全部、こっちのスピーカーから聞こえているよぉ~』
「あら、チャット画面が更新されたわ」
「悠くんが、文字を打ち込んだのかな」
「不思議なものだな、真一」
「そうだね、レオン」
「我らも、この板に文字は書けないのですか?」
「え?」
[チャット画面]
『え?』
アズキアス魔王の言葉に、真一たちは一瞬、止まり。
どうやら、空間にあるチャット画面の向こう側、地下のパソコン室の面々も驚きで思考が一瞬止まったのかもしれない。
さて、漸くエンジェルさんとなった悠磨王子(ニート王子)と、接触をした者たちとの会話が成立するようになったのだが……、新たな試みに挑戦するのか? どうする?




