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第56話 試してみる

 真一は、二階のカフェスペースの廊下にて目の前に現れた『World of legend』のゲーム画面の一部であると思われる、チャット画面を暫く見て考え込んだ。


「ねえ、花琉おばさん、やっぱりこの空間に現れたこのチャット画面擬きさ、『World of legend』の画面に表示されているのと同じように感じるんだ。それでさ、ほらここ、キーボードのマークがあるじゃない? ここをクリックすれば、画面にキーボードが現れると思うんだ。ああ、今の俺たちの状態だと、空間にか……」

「そうねぇ~、真ちゃんの見立て道理だと思うんだけど、これ、触っても大丈夫かしら?」

「え?」


花琉姫の言葉にそこまで考えていなかったのか、真一は、今気付いたという顔をして、


「この画面、邪悪なものなのですか?」


意外な突っ込みをしてきたアズキアス魔王に、皆は視線を寄せ、


「あ、いや、アズキアス? その、邪悪かそうでないかとかはわからないんだ」

「そうなんですか? 真一。我は魔族です。邪悪なものならば、ここにいる誰よりも耐性があると思われますよ。指示をしてくれれば、我がこの板に触れてみましょう」

「え? アズキアス?」


少しオロオロとする真一。


「ふむ。真一、心配はいらないよ。アズキアスはな、こと自分に関わる者に対しては普段のアズキアスとは別人になり、その行動も冷静で頼りになる。まあ、普段はその反動で少し臆病になるのか、繊細さゆえの姿なのかは分からないが……。頼れるところは、彼に頼ればいい」


レオン王の言葉に真一は、ポカンとして……。


「真ちゃん、どうしようか?」


[チャット画面]

『真にぃ~~~~、

こっちでポチろう(クリックすると言う意味、ポチる)か?』


「あ、え? 悠くん」

「真一、我が見たところ、この空間に現れたこの板には、邪気は籠もってはいないですね、これならば、誰が触っても大丈夫でしょう。おや、この板、手が突き抜けるではありませんか、ふむ。不思議な代物ですねえ」

「あ、あ、アズキアス、大丈夫か?」

「我は平気ですよ」


アズキアス魔王の方を見ると、空間に現れたゲームのチャット画面をあれやこれやと、触って見ている。オドオドとしていた人物とは思えないほど、積極的だ。


[チャット画面]

『真にぃ~、こっちで出来ることがあったら言ってねぇ~』


「あ、ああ、悠くん」


真一は、オタオタしながら答える。


「じゃぁ、真ちゃん押してみましょうよ、キーボードマーク」

「え?」

「ふむ、では我がその役目を引き受けましょう。どれを押せば良いですか? 花琉」

「ああ、画面の右上端にある四角いマークなんだけどね、四角の中に点々があって……」

「ああ、これですかね?」


そう言うと、アズキアス魔王はチャット画面の右上端にあるキーボードマークと思われるものに触れた。すると、ブオン! と、空間にチャット画面が現れた時と同じ音がして……。チャット画面がやや上に上がり、その下に実物大と同じくらいの大きさの光るキーボードが現れた。


「うわっ」


真っ先に驚いたのが真一で……。


「なんかさ、なんかさ、こうぉ~空間に現れるとさ、格好いいね」


目を輝かせる真一。先程までオロオロとしていた様子は何処へやら……。


[チャット画面]

『真にぃ~、どんな感じ?』


「ああ、悠くん。そうだ、ニート王子をこっちに来させてみたら、俺たちと同じ方向にさ向く感じでさ」


[チャット画面]

『ああそうか、俺、皆の反対側にいるもんね。だから空間に出たチャット画面が見辛かったんだ』


「ああ、そうかもしれないね」


真一が言うと、ニート王子が動き出し、皆と同じ方向を向いて横に並ぶ。


「真一、この新たに出た板を使ってみなくて良いのですか?」


アズキアス魔王が言うと、


「ああそうだな、使って見よう」


と、早速、空間に浮かび上がるキーボードの前に立つ。


「このキーボード、どう言う理屈か分からないけれど、机の上に置いてあるような角度が付いているなぁ」


[チャット画面]

『ああ、真にぃ~。それ、カスタム(必要に応じて初期の状態から仕様を変更すること)しておいた。ゲーム画面でさ、キーボードの配置や大きさや角度が変えられるじゃない?』


「ああ、そういうことか。文字を打ってみるね」


[チャット画面]

『うん』


真一は空間に浮かぶキーボードの上に両手を置くように構える。そして、


[チャット画面]

『拝啓、お元気ですか? テストテスト、こんばんは、初めまして、真一、ああ! 本名言っちゃった!!! 消し消し火消し』


と、打ち込んでみる。


「プッ、真ちゃん?」

「え、なに? 花琉おばさん。悠くんがキーボードの角度を調整してくれていたから、打ちやすかったよ」

「あ、そのねぇ~」

「我も読めるが……、この文章はなんだ?」

「え? レオン、読めるの? 何と言われれば試し打ち?」

「まあ、そうなのだろうがな、プッ……ハハハハハッ」

「真一、真一、これはセンスの問題ですかねぇ~~~、フフフッ」

「え? そんなに可笑しい?!」


皆が堪えていた笑いを噴き出すようにして笑い出す。


「え、そんなに?」


[チャット画面]

『真一ぃ~、消し消し火消しはないだろう~。勇瑠おじさんでも思い付かんぞ?』


「え、え? 勇瑠おじさん」

「ああ、そうね、まさか、拝啓~とか、書き込むとは思わなかったわぁ~」

「出だしだよ、最初だよ?」


[チャット画面]

『真にい、真にぃ~、試し打ちてっさぁ~、

テストテスト、とか、

ああああああ、とかさ~。

普通やらない?』


「え、そうなの?」

「そうよぉお~」

「じゃぁあ、レオンとアズキアスは、どこが可笑しかったんだ?」

「我も、まさか、拝啓~と来るとは思わなかったな。試し書きのようなものだと思ったからな、簡単なひらかなで来ると思っていた、それこそ、あああ、だな、最初のひらかなだしな」

「我は、最後の消し消し火消し~ですかねぇ~、フフフッ」

「えぇええ~」

「あ、でも、本名言っちゃった!!! も捨てがたいわね、真ちゃん、本気で焦っているんだもの」

「それもそうだな、ハッハハハハ」

「フフフッ」


真一は困ったようなもどかしいような何とも言えない顔をしながら、


「もう、こんなに引き摺るとは思わなかったぁ~」


と、拗ねたような口調で言うと、皆はまた、笑い出す。


「まあまあ、いいじゃない? 真ちゃん、お陰で皆、妙な緊張が無くなったわよ。これで、リラックスして気が付いたことを調べられるわ」


花琉姫が言うと、


[チャット画面]

『そうだぞぉ~、真一、よくやった。

真にい、真にぃ~、俺のニート王子の手元ってどうなってんの?

あ~、悠磨、勇瑠兄様が話しているのにぃ~。

あ、だってさ~、さっきから、真にいが打ち込んで後から、俺もニート王子でやっているんだけれど、チャット画面に何も打ち出されなくてさぁあ』


「え? 悠くん、画面を切り替えたら? キャラを一人称設定にしてさ」


[チャット画面]

『ああ、そうだね、やってみる』


「花琉おばさん、勇瑠おじさん、まあぁ~良いよね、俺も妙な肩の力抜けた。ハハハッ」

「そうね、真ちゃん、フフッ」


花琉姫が言うと、レオン王とアズキアス魔王も笑顔を浮かべ頷く。チャット画面には、


[チャット画面]

『そうだぞぉ~、真一。

うんうん。

うんうん』


と、文字が表示された。勇瑠王子、フィオナ姫とシャナ姫も書き込んだのだろう。


[チャット画面]

『真にい~~~~』


「どうした、悠くん」


[チャット画面]

『駄目だ、ニート王子を動かして、その空間に出ているキーボードを使ってチャット画面に書き込もうとしたんだけれど、そもそもそんな機能はないというかさ……。キャラの指自体が動かないみたいなんだ』


「ああ、そうか。そうかもしれないなぁ~。キャラの指まで動かそうとしたら、それなりの……、例えば、指の動きを感知する機械かな? コントローラー、モーションキャプチャ、トラッカー、かな? そんなものがいるのかもしれない」


[チャット画面]

『ああ、そうだねぇ~。

さて、真一。思い付いたことをやっている訳だが……、他のやってみたいことはないか? 花琉も、レオンも、アズキアスも』


勇瑠王子の呼び掛けに、


「我はニート王子を触ってみたい」

「え?」


アズキアス魔王の言葉に、皆がハッとしたように彼を見て……。

今日のアズキアス魔王は、冴えているのかもしれない、次から次へとアイディアが出る。


[チャット画面]

『いいぞぉ~、アズキアスゥ~』


「では、悠磨、あ、いや、ニート王子……」


悠磨王子に返事を返すがアズキアス魔王は動かない。


「こら、悠磨ぁ~、そう、戯けて動かないの!」


クネクネとダンスを踊っていたニート王子は、花琉姫に怒られる。

それにしてもよく動く悠磨王子のキャラクター、ニート王子。自動で動く設定でもあるのだろうか? それとも本人が手動で動かしている? ああ、ダンススキルなんてものがあるのかもしれない。それほど、動いていたのだ。


「ニート王子、動かないで下さいよぉ~、変なことはしませんからね」


アズキアス魔王は、何かツボにでも入ったのか両手の指をワキワキと動かして、ニート王子に迫る!


[チャット画面]

『アズキアスゥ~、ちょっとその指の動き止めて!』


「あ、いや、ついね、身構えてしまいましてね」


そういうアズキアス魔王の目は輝き、なにかとても楽しそうだ。


「では、参ります」


そう言うと、えいっ! とばかりに、ニート王子の胸に両手を伸ばしたのだが……、


「え? トトトッ」


数歩ほど足を進めてしまうアズキアス魔王。


「あれ? 我はニート王子をすり抜けてしまいましたか?」

「そうみたいだな、アズキアス」

「レオンもやってみて下さい」

「ふむ」


レオン王が、ニート王子の腕に手を伸ばすと空振りに終わる。それを見て、面白いと感じたのか、レオン王は、ニート王子の体に手を突っ込んでみると、これまた、手はニート王子をすり抜ける。


[チャット画面]

『レオン~~~、やめてぇえ~、その心臓の辺りはなんか、心臓を捕まれているみたいだぁあ。

あっ! アズキアス、右手を出してみて!』


「こうですか? 悠磨」


[チャット画面]

『そうそう、じゃぁあ、そのままでね』


「はい。え? えぇええええ」


アズキアス魔王が、声を上げる。


「何ですか、これ? ニート王子に触れましたよ!!!」


興奮するアズキアス魔王。


「あら、ホントねぇ~」

「どうやったんだ? 悠くん」

「ふむ。手がすり抜けておらんな」


二階のカフェスペースにいる面々は考え込む。



さて、ニート王子はどんな魔法を使ったのだろうか。

ダラダラと検証を続ける面々にどんな種明かしが待っているのだろうか?

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