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第50話 ハイタッチの後に

 「お~い。気が済んだかぁ~~~」


間延びした声で真一が言う。

今、皆が居る診察室の窓際の辺りは、何も無い。皆で適当に片付けて急遽宴の場とされてしまった診察室。その間取りは、診察室の出入り口の扉から見て左側がベッドが六床あったところ、真ん中が診察台が三台あったところ、右側が机、棚、ベッドが一床あったところだ。ベッドや診察台が左端に片付けられて、仕切りのカーテンも取り払われて、部屋の中央には厚手の毛氈のような敷物の中央の上に座卓が長く横に並べられている。そのような状態の部屋だから、特に真ん中付近は、何も無い。


ハイタッチを覚えた皆は、今は、ゼイゼイと息を切らせている。そこまでやるかっ! というやつである。どうやら、一度やり出すと止まらないのか、楽しいと思うと止められないのか……、兎に角、皆、息を切らせていて、窓枠に捕まりハアハア、膝に両手でつっかえてハアハア、しゃがみ込んでハアハア……。

その様子を呆れるやら、子猫や子犬など小さな動物がじゃれ合う姿を見て愛おしいと感じるようなそんな感覚やら(皆、人ですが? ああ、ハイエルフに魔王も居たが……。そうだ、彼らは知恵ある者たちだ、失礼なことを言ったな、すまない)……。真一はニヤけてたまに大らかに笑って、いつの間にやら、窓際の所へ、気に入った飲み口の飲み物とグラスを持って来て、皆の様子を眺めていた。


「真一、我にそのグラスを寄越せ」

「おお、レオン」


レオン王に、飲みかけのグラスを渡すが……、


「あ、待ってろ。皆の分もグラスと飲み物を持って来てくるよ」


気が良く付く真一である。そう言うと、座卓の方へ向かう。

向かいながら、扉付近にワゴンを見付けた真一は、そこにトレイに乗るグラスを見付けると、料理の皿やグラスに酒瓶、そのような物が乗っている座卓を軽々と持ち上げ少し角度をずらし通り道を作る。

グラスの乗ったトレイを持って来て、


「床で悪いが置くぞ」


と言い、手持ちが着いたトレイを置き、直ぐに踵を返し、中身の入っている飲み物の瓶に、ワゴンに乗っていた透明の飲み物、多分、水だと思われるピッチャーを両手に持ち、窓際に戻って来る(このワゴンは誰かが気を利かせて用意しておいてくれた物だろうか?)。


皆は、フゥ~と、息を吐きながら、


「真一、ありがとう」

「ありがとう」


と、それぞれが真一に礼を言い、


「なんか腹にも入れるか? 動いたから腹も減っただろう。さっき、ワゴンに菓子パンとかプリンとか……、乗っているのも見付けた」


悪戯っ子のような顔をして真一が言うと、皆はコクコクと首を縦に振る。早速とばかりに真一はワゴンからトレイを運んで来る。

二、三度、扉の所から往復した真一は、皆と同じように床に腰を下ろした。


「俺も食っていい?」

「プリンだろ」


悠磨王子に指摘される。真一は照れながら頷くと、


「真ちゃん、どんどん食べなさい。もう、一人暮らしし始めてから、花琉おばさんは心配で心配で……、ああ、こっちに帰って来るときにあなたの好きなプリンと花琉おばさんの手料理も沢山持って来たからね」

「ほんと! あ、いやぁ~~~、参ったな」


真一は一人、ころころと表情を変え、皆を笑顔にする。


「あ、このプリンも美味い」


幸せそうな真一だ。


「あ~、皆、一息付いたら、先ほどの話の続きをしたい」


勇瑠王子が言うと、皆が頷く。


暫し皆は菓子に飲み物にと、遊び疲れた子供たちのように腹を満たした。


「さて、そろそろ良いかな?」


勇瑠王子が言うと皆が頷いて。そして、ハイタッチ大会? の前に話して居た『エンジェル現象』の話しへと話しは戻る。


「真一に、まあ、取り敢えずは、エンジェルさんたちを確認して貰った。結果は、まあ、何もわからない状態のままではあるがな、悠磨!」


勇瑠王子が悠磨王子の名を突然呼んで、


「さっき言っていた、『World of legend』にログインした時の自キャラ(自分のゲーム内のキャラクター)について話しなさい」

「え? 勇瑠兄様、あれだけ俺を叱っておいて? なら、報酬は?」


勇瑠王子は悠磨王子に突っ込まれると、ムッとして。だが、ムッとしながらも考えているようで、目を少し泳がせると、ニヤリと笑い、


「報酬か、そうだな。勇瑠兄様の要求に応えてくれるのなら、ゲーム専用のパソコンをプレゼントするぞ?」

「え……、なんて言ったの?」

「ゲーム専用のやつだ。そうだな、現在日本に今置いてある機種よりも最新のものだが……、ああ、悠磨は自分で組み立てたいか? なら……」

「待って!!!」


突然、目をかっぴらき、ハアハアと息を切らす悠磨王子。

勇瑠王子と言えば、どうだとばかりに鼻高々の様子でニヤリとした口元で悠磨王子の返答を待っている。皆は、話しの流れが今一つ分からないのか、菓子を摘まんだり飲み物を飲んだりしながら、話しの行方を見守るという感じだ。真一はというと、腹が減っていたのか、モソモソと幸せそうにプリンや菓子やと、食っていた。


そして、何故か背筋を伸ばし右手を真っ直ぐに上げる悠磨王子は、


「はい、磨嶋悠磨くん!」


そのノリに乗った勇瑠王子に、当てられるのである。


ああ、悠磨王子は、此処数年……、真一が大学院に進む頃から、度々、現在日本を訪れている。その時に真一の前で名乗っていたのが、磨嶋悠磨と言うわけだ。

悠磨王子は、現在日本に来たからといって、その背格好から高校生や大学生に見えるが、何処にも所属はしていなかった。まあ、現在日本に遊びに来ては、オタクの聖地をうろついていた。というのが実際のところだが……、真一はそれを知らない。

勇瑠王子と花琉姫の、「悠磨は留学しているのだけれど、しょっちゅう帰ってきちゃうのよ」を信じ切り、しょっちゅう帰って来てしまうのは留学先で馴染めないのだろうと心配をして見守っていたのが真一である。


「乗った!!!」


手を上げたままで悠磨王子が声を張り言うと、勇瑠王子はニヤニヤとしながら、


「悠磨王子、何かな? ちゃんと勇瑠兄様に言いなさい」


ちょっと意地悪を言うのである。


「俺、悠磨は、勇瑠兄様に全てを包み隠さず申し上げます!」


勇瑠王子の意地悪もなんのその、悠磨王子はゲーム専用パソコンに目が眩み、見事に買収されたのであった。皆はその様子に笑い出す。


「フッハハハ、話しの内容はよく分からんが、悠磨は分かりやすいな」


レオン王がいい。皆は頷き、


「悠磨は、素直だと、我は思うな」


あまり発言しないアズキアス魔王までひと言いう。


「良かったな、悠くん」


真一がそう言うと、


「ああ、真一、CADも入れるぞ?」

「え?」

「あ、専用の印刷機も奮発したし、パソコンも少々多めに買って来た」

「はい?」


真一は、鳩が豆鉄砲を食ったような……、世間で言われる言葉のような顔をもろにして。


「ハッハハハハ、真一。その話しは後だ」

「わ、わかった……」


呆気に取られ呆然とする真一、満足をしたように大笑いをする勇瑠王子。


「さて、話して貰おうか、悠磨」

「わかった」


素直に返事をする悠磨王子、生意気も言わないのは不気味なほどである。


「勇瑠兄様、何から話そうか、俺、話したいことがいっぱい合って悩むんだけど、その、話しも断片的になりそうで、まとまりがきっと無いんだけど……、正直、話す言葉も迷うほどなんだけど……、いいかな?」

「ムッ、悠磨がそんなことを言い出すなんて、パソコンやゲームの話しは、悠磨、お前は割と、正確な話しを分かりやすくするものなぁ~」

「うん、俺、パソコンやゲームはさ、好きだから伝えたくて言葉も考えてる、でも……」

「そうか、だが、聞かなければ、話しも進まない。それでいいぞ」

「わかった、話しの途中でもさ、分からないことはなんでも聞いてみて」

「ああ、そうするよ」


急に真剣な顔をした悠磨王子が話しを始める。


「俺さ、この世界に持ち込んだのは、現在日本で俺が組み立てた自作のパソコンを一台持ち込んだんだけど……、まあ、スペックはオンラインゲームがサクサクと動く程度だ。ぬると動かすにはスペックが足りねぇ~……」

「あ、その、悠磨? パソコンの話しは置いておいてだな?」


勇瑠王子の指摘に、


「ああ、ごめん、最初から話そうと思ってつい……。ああ、試しにMMORPG『World of legend』に入ってみたんだ、あ、入る、ログイン、そうだな、試してみた。

すると、アカウントも作れるし、ゲーム画面にも入れた、あ、接続出来た。あ、この説明だと皆には伝わらないよな?」

「まあ、そうなんだが、真一に先ずは伝われば良いから、話しを続けてくれるか? 悠磨」

「わかった、勇瑠兄様」


皆は、悠磨王子の話しを聞き、大丈夫だというように頷く。それを見て、悠磨王子はにっこりと笑みを浮かべて、話しの続きを話し出した。


「それで、ゲームに入ってキャラ作ってチュートリアルを終わらせて、初めの街を出たんだ。そしたら、この王城の裏に立っている巨大なスペースの扉の塔に飛ばされて……」

「悠磨、キャラという言葉の意味だけ俺に教えてくれないか?」


レオン王が、膝の上から小さく右手を上げて言うと、悠磨王子は勇瑠王子の顔を見る。すると、勇瑠王子が頷いて、


「わかった。キャラというのは、キャラクターという言葉の略なんだ。そうだな、自分の分身て、この話では思ってもらっていいと思う」

「自分の分身か、竹千代に教わった式神やコーニャの召喚符と、似ているか?」

「う~ん、レオン、難しいな。実際に見てもらった方が早いんだけど……、もっとこうね……」


悠磨王子は悩みながら、手を動かす。その手は空を切るだけで何もならないようだが、本人に取っては何か考える時の手段のようだ。


「そうだ、レオン。その式神や、召喚符にさ、自分の心を入れて、でどうだ?」

「ふむ、それは何となくではあるが、想像が出来るぞ」

「そうか、じゃ、召喚符に自分の心を入れたものをキャラだと思って、レオン」

「承知した」


レオン王と悠磨王子の話しに、アズキアス魔王も胸を撫で下ろしたような顔をして。彼もこの話しでキャラという言葉の説明が、自分の中で腑に落ちたのかもしれない。


「じゃぁ、続きを話すね」


皆が頷く。


「扉の塔に飛ばされた俺はさ、先ず、兎に角、歩き回ったんだ。余りにもさ、俺の世界の扉の塔と同じ造りだから。本当に、飛ばされた時は吃驚して声も出なかったよ。見慣れた景色なんだもん……」

「悠くんが、そんなに驚くほどだったのか」


今度は、悠磨王子の話しに真一が興味津々とばかりに言葉を挟む。


「そうなんだ!!! 真にぃ!!!」


悠磨王子の言葉に力が入る。

いつの間にか、皆も真剣に話しを聞いている。



 MMORPG『World of legend』の中に出て来る扉の塔と。その巨大なスペースを使って建てられた数個の建造物と美しい庭のある所、名称を扉の塔と言う。

この異世界の扉の塔と、ゲームの世界の扉の塔が同じ造りとはどういうことなのだろうか?


悠磨王子の話しは続く。

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