第49話 残された僕らはハイタッチを覚えた
「さて、私も動こうかしら」
レイラ王妃が席から腰を上げかけて、
「あ、そうそう、真ちゃん」
「なに? レイママ」
「この王城ね、王族しか開閉が出来ない扉が幾つもあるんだけれど……。例えば、この大部屋もそうなのね、それで扉の鍵が呪文なのよ」
「え?」
「聞いてね、真ちゃん」
「うん」
「それで、真ちゃんにもその扉の開閉を試して欲しいのよ」
「俺が?」
「そう、これから真ちゃんは、この王城で色々な場所に行くでしょう? だから、ね?」
「あ、うん、わかった。今ひとつ、よく分かってないけれど、わかった」
「もう、正直な子ね」
「ハハッ」
レイラ王妃はクスッと笑い、真一はちょっと困ったように笑った。
「それでね、扉の開閉の仕方なんだけど、扉に触れても良いし、どちらの手でも良いから扉に向かって手の平をかざして、ああ、片手でも両手でもいいわよ。それから、扉よ『開け』『閉じろ』『開』『施錠』とか、何でも良いから言うの、そうね、最初は声に出し方が扉がいうことを聞くと思うわ、慣れてくると心の中で言えばOKよ」
「なんか、随分と適当じゃない? レイママ」
「そうなのよ、真ちゃん」
レイママと……、否、レイラ王妃と真一は、近所のおばちゃん同士の会話のようなノリで話しを進める。
「あら、話しが長くなったわ、真ちゃん、頼んだわよ」
「わかった」
「フフッ」
楽しそうに笑うレイラ王妃。そして、
「あらあら、ほんとに私、行かなくっちゃ!」
「あ、いってらっしゃい。レイママ」
「はぁい(ハート)」
レイラ王妃は、席を立つと早々に扉を出て行った。
「では俺も動こうか、レイシ、シャルレタも行くぞ」
フランツ医師が言うと、
「あ、あのぉ~、レイシ師匠は、ルーブルが連れて行きました」
「なにぃいいいいい」
「あはははっ」
笑ってごまかそうとするシャルレタ。ムッとしたフランツ医師は、
「チッ、ルーブルにしてやられたか」
「そうですねぇ~、あちらも薬師が必要だったみたいで……」
「なにぃ?」
「南の塔には、細工がしてあったみたいで……、その……」
「まあいい、大体、予想は付く」
「はい」
「じゃぁ、行くぞ、シャルレタ。それから、ナーシャ」
「へ?」
首をカクッとという具合に傾けるナーシャ姫、そして、
「嫌ですの」
そう言い切るとナーシャ姫はそっぽを向く。
それを見たフランツ医師は、反撃に出る。
「わかったよ、ナーシャ。じゃ、シャルレタ、行くぞ」
「ええ」
立ち上がり、扉に向かう二人だが……。ふと立ち止まったフランツ医師は、
「ナーシャぁ~~、では、七の字の館の中を歩き回っちゃおうかなぁ~、部屋を全~~~部開けて、見っちゃおぉおかなぁ~~~」
楽しそうに言う。すると、
「グッ、待つですの」
「さあ、行っこうぉ~~」
「待つですの、駄目ですのぉおおお」
スッと立ち上がりナーシャ姫は慌ててフランツ医師の元に行く。そしておもむろに振り返り、
「真たん、ごめんなさい! ナーシャは守るべきものがありますのぉ!!!」
と言った。ちょろいナーシャ姫である。怒っているのやらべそを掻いているのやら、その思わぬ百面相に、
「あ、ああ。いってらっしゃい、ナーシャ」
たじろぎながら返事を返す真一。
「真一ぃ~、お前の姫を借りるぞぉ~~」
「え? あ、はい。よろしく」
フランツ医師は、ひらひらと片手を振りながらやる気のない言い方で真一に言う。慌てた真一は返事をする。そして、フランツ医師一行は扉を出るのであった。
「では、我らも動くぞ。なぁ、悠磨?」
「キャハハハ、やめてぇ~レオン~」
レオン王は、何故か、悠磨王子をくすぐりながら言う。
「そうだね、レオン」
勇瑠王子が言うと、
「こっちです、真一」
フィオナ姫が言う。いつの間にか勇者真一様という仰々しい呼び方はやめ、親しげに皆が真一と呼ぶようになっていた。
フィオナ姫は、トトトッという具合に診察室の窓の所へ行くと、半分ほど振り向いて手招きをする。それを見た皆は、それぞれが立ち上がって窓の側に行く。皆が側に来たことを確認するとフィオナ姫は、
「ここは、五階だからよく見えると思うの。下を見て、平屋建ての大きな……、う~ん、長細くて大きな建物があるでしょう?」
真一は、窓から下を覗き込む。
「ああ、あるね。その建物には特殊なランプ? か、なにか点いているのかな? なんだか、上から見ると緑色の点が沢山動いているように見えるんだが……」
それっ!!!
悠磨王子、フィオナ姫とシャナ姫。三人が声を揃えて言う。
「緑色の点、まさにそれ! 真にぃに見せたかったんだよ」
「そうそう、ね、シャナ」
「そうなの」
「ふむ、我も緑色の点が、ウヨウヨと動いているように見えるぞ、なあ、アズキアス」
「我も緑色の点が蠢くように……見えます……」
皆がその緑色の点に注目をして、
「真ちゃん、あの緑色の点て、見覚えない?」
「え、緑色の点に?」
「そうそう」
「ほら、なあ、真一。例えば、ゲームとか……」
「ゲーム? ゲームかぁあ、そうだな」
勇瑠王子の問いに頭を捻る真一。
「ほら、真ちゃん、三人でよくやった。真ちゃんが高校生の時に初めてやった」
「うん? 花琉おばさん、『World of legend』のこと?」
そう!!!
勇瑠王子と花琉姫が、声を揃えて言う。
「『World of legend』かぁ~、それで緑色の点……。そうだな、攻城戦の時にはキャラクターの頭上にダイヤ型の印が付いていたなぁ~、確か、緑と赤だったような……。でも、ここからじゃ、あの下に見える緑の点が、攻城戦の時に頭上に付くダイヤ型の緑の印かどうかは分からないぞ。もう少し……、あ、いや、側に行って見れないのか?」
三の字を持つ者たちが悩む(勇瑠王子、花琉姫、悠磨王子、フィオナ姫、シャナ姫)。
「どうしたんだ? 皆して、何を悩んでいるんだ?」
「いや、真一。それがな、評判が悪いのだ。だから、皮肉を込めた意味でも頭上にダイヤ型の緑の宝石を掲げた者をエンジェルさんと言っているのだよ、まあ、私たちと住む世界が違う人々だから仕方がない。というような意味合いを込めてな」
「う~ん、そうなのか、勇瑠おじさん。具体的に例えば、悪い評判とはどんなものなの?」
「う~ん、それがなぁ~。彼らから見ると私たちはNPCなのだよ」
「NPC?」
「そうなんだ、NPCに見えると言うかだな……」
「なんだそれ?」
「真一、ひと言でいうとそうなるだろ?」
「ああ」
勇瑠王子が更に悩み出す。
「勇瑠兄様、俺が『World of legend』にアクセスしてプレーした時の話しをしようか?」
「何だって?!」
「だから、『World of legend』の俺のキャラの話しをしようかって?」
「悠磨!!!」
「なんだよ、勇瑠兄様」
「勇瑠兄様さあ、悠磨に言ったよな? ゲート近くに建築中の平安京再現プロジェクトで近々立つ建物を仮の事務所にするから、そこで本格的にケーブルも引き込むから、ゲートからこちらの世界に引き込むケーブルも本格的に工事をするから、それからゲームのアカウント取って検証しような。て……。今さあ、仮のプレハブ小屋でさあ、モデムに繋いでいる線を無理矢理さあ、車で走ると20分くらいあるゲートを繋げているよな? あのか細い家庭用のケーブルで」
「えぇえええええ」
真一が驚きの声を上げている。ついでに目も見開いてその驚きを表現しているようだ。
「ほら、な! 真一も吃驚しているだろ? この顔を見てみなさい。ほらっ」
勇瑠王子が真一の後ろから両方の頬を手で挟み、真一の驚きの表情を強調している。
その勇瑠王子と真一の様子に皆はクスクスと笑い出し、悠磨王子も耐え忍んでいるが、口元がモゴモゴとしている。
「あえうおいあん(勇瑠おじさん)~~、あええ(やめて)ーーー」
真一が言う。どうやら、強く両側から頬を挟みすぎたようだ。
悠磨王子は、今にも吹き出しそうになりながら、皆から見えない方の太ももをつねりながら笑いを堪えて、
「ごめんなさい」
「うん? 何だって? 勇瑠兄様は聞こえなぁいぃ」
「ごめんなさい!」
「はい、もう一回」
「勇瑠兄様っ! ごめんなさい!!!」
「よし! 悠磨を今回は許そう。もう無茶はするなよ……。不安定な環境で接触して、事が起こってしまってからでは遅いんだからな」
「はい……」
勇瑠王子と悠磨王子の様子を見ていた皆は、クスクス笑いから、にこにことした微笑みに変わって……。真一はニヤけながら、
「悠くん、すげーな」
「おうよ!」
パン! と、ハイタッチを決める。それを見ていたレオン王が、
「何だそれは、真一」
「うん?」
「先ほど、悠磨とやっていただろう、手をお互い合わせて音を立てて」
「ああ~」
「レオン、ハイタッチだよ! ヘヘッ~ン」
悠磨王子が言うと、
「我にも教えろ。そしてどんな時にやるものなのだ?」
「勝利したときだ」
「うん? 先ほどは何に勝利したのだ? 悠磨」
「う~ん、さっきは俺が嬉しかったんだよ」
「では、嬉しいときにもやるのか?」
「そうだ」
エッヘン! とばかりに腰に手を当ててどうだと言わんばかりの悠磨王子。
「我にも教えよ」
「では、我にも教えて欲しい」
「分かった、じゃ、レオンと真にぃな、でかい者同士。俺は、アズキアスに教えるよ」
「よし、わかった」
真一と悠磨王子は、二人にハイタッチを教えだした。
「いいか、レオン、利き手をだな……、ああ、手はどちらでもいいか。手の平を軽く押し出すようにするんだ、えっと、こうでこうだ」
真一は、手の動きを何度となくやってみせる。
「こんな感じで良いのか?」
「そうだそうだ、いいぞレオン」
「ハハッ、良いのか」
嬉しそうに笑うレオン王。
「それでだな、お互いが、今教えた手の平の形と手を前へ出す動作で、手を合わせるんだ。やってみよう」
「わかった」
「お、そうだそうだ。じゃ、俺が手を上げてるから、俺の手の平に向かって手の平を前へ押し出す。そうだ! もう一回」
パン、と小さな音がする。レオン王は、真一に言われるままにやってみせる。
「おお、なんか、楽しくなっきたぞ、真一」
「そうか、嬉しいときにやれば良いよ、レオン」
「ああ、では、今やろう! 皆でやろう!」
レオン王が言い出すと、
「はい、レオン」
と、シャナ姫がハイタッチ。
「じゃ、私も」
と、花琉姫がハイタッチ。
「我も続きます」
と、アズキアス魔王がハイタッチ。
まあ、なんと、皆、乗りやすいことか。あっという間に、そこらで、パンパンと、やり出した。困った顔をしている勇瑠王子。
「あ~」
その声に皆は止めに来るかと、チラリと目をやるが、
「私もハイタッチ(ハート)」
と、やり出す始末。
こうなってくると、あっちでパン、こっちでパン、パンパンパン(音符)。というような具合だ。もう、盛り上がって来たとばかりに、皆、楽しそうだ。
流石に不味いと思ったのか呆れたのか? 真一が、
「あ~、話しの続きは良いのか?」
ボソリと聞く。
パン!
皆の手が揃って音を立てると、手が止まる。
「まあ……、たまにはいいんじゃない(ハート)」
一番に止めると思われた勇瑠王子が言う。出遅れたハイタッチにやり足りなさを感じているようだ。
真一は、絶対、これはアルパパ(アルシャル王)の血だと確信するのであった。
そして、真一は窓の外を眺めるのであった。
外はすっかり日が落ち夜空となって、精霊が光り、舞っている。
そんな夜も良いかなぁ~と思うのである。




