第48話 動き出す者たち
寝落ちをしてしまっている竹千代王。
一の字を持つレイラ王妃がやれやれというような顔をして席から立ち上がる。そして立ち上がる頃には優しい聖母の顔となり……。
「雪之丞、隆之介……、竹千代を運んじゃいましょうか? スヤスヤと幸せそうに寝ているわこの子」
「ハハハッ、そうだなレイラ、何か良いことがあったんじゃないのか? なあ、この顔見てみろよ、隆之介」
「フフッ、竹千代が宴の席で潰れるなど、ここ何十年と見ていないぞ? 余程、肩の力でも抜けたのか?」
「そうね……」
三人はまじまじと竹千代王を見て話す。それは何処か懐かしそうで、薄暗い診察室の中は、セピア色した、そんな雰囲気の空気が流れる。
「一の字の母王妃よ」
「なあに、悠ちゃん。レイママでいいわよ? あなたが改まるなんて、レイママ、吃驚しちゃうわよ」
「あ~もぉ~、レイママぁ~。引き籠もりと唱われる俺としては、こんな偉大な面々が居る前なんだ。カッコも付けないといけないじゃないか!」
ハッハハハハハ。
と、皆が笑うものだから、笑った後に皆で、
シィーーーーー!
と、人差し指を唇に当てて言い合う。
「悠ちゃん、そこは引き籠もりと唱われたら駄目ね? 『三の字を持つ者として』、かしら」
「もうぉ~、レイママぁああ」
「フフフッ」
「一の字の母王妃、多分、悠磨はね、自分たち三人と、レオン様、アズキアス様が残されたのは、『エンジェル現象』の件だよね? て言いたいんだと思うの」
「あ~もぉ~、フィオナ姉様ぁあ、俺、格好つけて、その件を言いたかったのにぃぃ」
「まあまあ」
レイラ王妃は、子供をあやすような仕草を見せる。それを見て悠磨王子は、
「レイママも、そんな子供をあやすような仕草をしないでよぉ~、もうぉ~」
「悠くんは、まだ、子供で良いんだよ」
「真にぃまでぇえ」
悠磨王子が口を尖らせる。真一は、上座の方からニコニコとその様子を見ている。
ああ、字を持つ者たちがいなくなり、新たに座卓に着いた面々の席順は、窓の方に近い側から、上座に真一を座らせて、おまけにナーシャ姫がくっつき(実質、ナーシャ姫が上座の一番前となるが……)、隣にアルシャル王が座っていたが退席。その隣にレイラ王妃、竹千代王、レオン王、ランディス占星術師、アズキアス魔王、悠磨王子、フィオナ姫とシャナ姫はくっつくようにして座り、そして末尾に勇瑠王子と花琉姫が座っていた。
向かい側、扉が近い方の席では、上座から、ルーテンシュタイン大魔導士、予言者半月、勇者雪之丞、隆之介医師、フランツ医師、ルーブル魔術師、ルートベルト呪術師、リュカ占星術師、魔女コーニャ、レイシ薬師、シャルレタ薬師の順で座っていた。総勢二十四名である。アルシャル王と竹千代王が、人が多いと言うはずである。
そして、退席したのが、アルシャル王、予言者半月、ランディス占星術師とリュカ占星術師だ。
「フィオナ、悠磨、シャナ。三の字の父王が、あなたたちをここに残したのは、まさにその通りだと思うわ。丁度ね、この診察室の窓から下を見ると、平屋建ての大きな建物、『転送の扉』が見えるでしょう?」
コクコクと、悠磨王子、フィオナ姫とシャナ姫が頷く。
「そこに出入りする者の多くに、頭の上に緑色のダイヤ型の宝石を掲げた者たちが居るでしょう? 誰が言い出したのか、頭上に光る宝石のようなものを掲げているものだから、エンジェルさんと言うようになって……」
「その者たちを真にぃに見て貰いたいんだよね?」
悠磨王子がレイラ王妃の言葉に重ねるように言うと、
「ええ、そうよ、悠ちゃん」
「それでレイママ、俺が立てた推測を……、真にぃに聞いて貰って一緒に考える」
「そうそうよ、悠ちゃん」
「あ、じゃぁ、地下の僕の要塞に案内しても良いんだね」
少し自慢げに言う悠磨王子に、レイラ王妃は、
「もちろんよ。というかね、悠ちゃん、要塞て何よ、パソコン室でしょう?」
「もうぉお~、レイママ、ここはさ、王族として要塞と言うくらいはいいじゃないか!」
「え? 何処の王族なの? もう、また、現在日本のライトノベルを読んで感化されたのね! もう、日本のライトノベルが大好きなんだからこの子はぁ~」
「レイママ! 俺、格好つけるところないじゃん! それに日本のライトノベルはパソコンの次に好きなの! 地下のパソコン室だってぇえ、俺が主に作ったんじゃないかぁ……ブツブツ」
「はいはい、ごめんね、レイママが言い過ぎたかもしれないわ。地下のパソコン室は悠磨王子の大活躍だったわね。まさか、この国に……。いえ、この世界に現在日本の設備を備えることが出来るなんて、誰も考え付かなかったし、実現するなんて思いもよらなかったものね」
「レイママ、わかっているじゃん! へへっ」
照れ笑いをしながら、悠磨王子は鼻高々というようにニンマリと笑い、顔を少し上げ少し背筋が伸びるのであった。
「こら、悠磨! 姉のフィオナだって、妹姫のシャナだって手伝ったんだからね!」
「分かっているよぉ~、フィオナ姉様」
「もうぉ、フィオナ姉様、悠磨兄様、ここで忘れてはならないのは、悠磨兄様の案を叶えるために動いてくれた、勇瑠兄様と花琉姉様でしょう?」
「ムゥ~、そうでした。シャナ姫……、兄様姉様が居なかったら俺……」
「わかればよろしい! 悠磨兄様」
シャナ姫の指摘に悠磨王子の伸びた背筋が縮まってしまう。
「はいはい、もう、悠くんもシャナも喧嘩しない」
「もう、花琉姉様、喧嘩なんかしてないもん、シャナは悠磨兄様に本当のことを言っただけだもん。悠磨兄様たら、最近、パソコンを占領してシャナに動画の更新をさせてくれないんだから!」
「あ~シャナ! それを言うならさ、前回の動画!!! あれはまずいだろう? 王城の中の部屋で撮影しただろう? 父王に自分の部屋以外は撮影禁止て言われていたじゃないかっ!」
「だってぇえ~~~、あのキャラのコスプレにはぴったりのイメージの背景だったんだもの! しょうがないじゃない!」
「駄目っ!!!」
「ぶぅ~~~」
悠磨王子とシャナ姫が言い合いを始めて……。
「はいはい、もう、二人とも喧嘩をしない。兄様からプレゼントがあるぞ?」
「え?」
「なになに、勇瑠兄様!」
勇瑠王子の言葉に、悠磨王子とシャナ姫は目をキラキラと輝かせる。
「実はな、割と大掛かり……、ああ、いや、その話しは後にしてだな。フィオナ、悠磨、シャナ、皆、一台ずつ、専用のパソコンを使えるように設置するぞ」
「本当ですか!!!」
一番に食い付いたのは、フィオナ姫だった。
「本当ですか? 勇瑠兄様!!! 私、私の私の、王太子様っ!!! アーサー様に二十四時間会えるのですね!!!」
「あ、ああ、フィオナ……」
思わぬ勢いのフィオナ姫に、たじろぐ勇瑠王子……。
「二十四時間は、兄様は感心せんが……。フィオナのパソコンだ。自由に好きな時間に使えるようになるよ」
「尊い……尊い……」
勇瑠王子の言葉も耳に入らずとういった感じのフィオナ姫は、彼方の世界に心は旅立ってしまったのであった。
「ヤダ、もうぉ、フィオナ姉様、こわいぃ~、キャァ」
シャナ姫がはしゃぐ。その横で、
「勇瑠兄様、是非にその計画をお聞かせ願いたい!」
どこの誰になっているのかわからない悠磨王子が言う。やれやれと苦笑いするのは、勇瑠王子と花琉姫で、
「はいはい、後で打ち合わせをしましょうね」
花琉姫がサラリと言うと、
「ラジャー!!!」
「はい!!!」
「尊い!!!」
悠磨王子、フィオナ姫とシャナ姫は、元気に返事をするのであった。
「ふむ。では、勇瑠王子よ。我らは真一と共に悠磨に付き従えば良いのか?」
「あ、ええ、ええ、レオン王、私たちと共に来て下されば……」
「ムゥ~、勇瑠王子よ。普段の通りでいいんじゃないか? どうも久し振りに会うと、主は我に緊張したとばかりに言葉に詰まるな」
「す……すみません」
「いや、勇瑠王子、謝ることではないんだ。竹千代王のように偉そうに踏ん反り返れ」
「あ、いや、英雄王たる我が父のようには、それにバイス兄上のように俺は剣術も誇れないし……、第二王子であるのに、何一つこのレジェンド王国には貢献してはいない……」
段々と言葉に詰まって行く勇瑠王子。
「こらこら、勇瑠! わかったわかった、主の話はこのレオン兄上が聞いてやるぞ」
「レオン、兄上は俺らじゃないか」
「ムッ、言いやがったな、悠磨王子」
レオン王と悠磨王子は、アズキアス魔王を挟み、後ろで擽り合いを始め……。
悠磨王子の言う通り、順番から言えば、三の字を持つ者は、五の字を持つ者の兄や姉になる。五の字を持つ姫を妻に迎えたレオン王は、事実上は弟になる訳だが……。時間年齢だけを指すのならば、何百、否、数千年も年上なのはレオン王である。ああ、ややこしやぁ~……。
「フォホホホ、ああ、失礼失礼。つい、爺ぃの癖が出ました」
ルーブル魔術師が言い、言葉を続けて、
「では、今後の大体の動きは、皆、決まったようだな?」
「ええ、そうみたいね、ルーブル。この大部屋の召喚の部屋(南の塔)で、ターニャが首を長くして待っている頃だわ」
「おお、そうだった」
「それでね、その……」
魔女コーニャが言葉を止めると、レイラ王妃に目配せをする。
「どうしたのコーニャ?」
「その……、南の塔には、出来れば、ルーテンシュタイン大魔導士にもお越し願いたくて……」
「ああ、なるほど。どうなの? ルーテン」
「大体の話は、ルーブルから聞いてはいるが……。どうだ、ルーブル、俺も同行していいか?」
「それは願ってもないよ、ルーテン」
「では、決まりだな」
「ありがとうございます、ルーテンシュタイン大魔導士」
「良かったわね、コーニャ」
「はい、レイラ王妃」
ホッと胸をなで下ろす、魔女コーニャ。その横で固まる者あり、
「あら、ルートベルトどうしたの?」
「……」
「ハッハハハ、コーニャ、ルートベルトは、ルーテンの同行に緊張しているのだよ。なにせ、恩師だからな。そうだろう? ルートベルト」
コクコクと頷くルートベルト呪術師。
「あら、そう言えば、そうだったわね、ルーブル」
魔女コーニャが言うと、
「では、私たちはお先に動かせて頂きますか、皆さん」
ルーブル魔術師が言うと、魔法省関係の者は皆、一同に頷く(ルーテンシュタイン大魔導士、ルーブル魔術師、ルートベルト呪術師、魔女コーニャ)。
「レイラ、よろしいか?」
「ええ、ええ、よろしく頼みますよ」
「御意」
ルーブル魔術師の言葉にレイラ王妃が応える。そして皆は、座ったままで左手を胸に当て少し頭を垂れ、敬意を表し。魔法省の面々は、新しいグラスを持ち酒をそれぞれが継ぎ合い、一気に煽ると席を立って行く。そして、診察室の出入り口の扉を出て行った。
どうやら、この世界では、宴の〆には、新しいグラス持ち一杯の酒を呑み干すことが、宴の終わりを告げ、礼儀とされているようだ。
「では、俺らも動こうか? 隆之介」
「ああ、そうだな」
勇者雪之丞と隆之介医師が、新しいグラスを手に取り酒を酌み交わし、呑み干す頃……、
「お? 宴の終わりか?」
フランツ医師が目を覚ましたとばかりにムックリ起き上がる。
竹千代王の方はというと、こちらはまだ、スヤスヤと寝ている。
「フランツ、逃がしませんよ!」
「え?」
『プッ』と吹き出す、勇者雪之丞と隆之介医師。
「あ~、俺と隆之介は、先に三の宮の花の里に竹千代を連れて行くぞ、レイラ」
「ええ、頼みます。あ、雪之丞、隆之介。そうね、花の里には、雷伝の子供たちの誰かが居るはずよ」
「ああ、わかったわかった。おっと、そうだ、レイラ。この度はな、かなりの荷を西の京から花の里にと持って来たのだが……、それはいつ運べばいいかな? 日も暮れた、今日は無理か……、あ、でも子供らに菓子だけでも持って行ってやりたいのだがな……」
「そうね……、荷はどれくらいあるの?」
「実はな、今回は字の者たちや王城に務める者にも土産があってだな、荷馬車、十台分よ」
「十台?!」
「そうなんだ、街の皆がな、どうしてもとな……、これでも半分に減らしたんだよ。あとな、建国五千年記念には参加したい者が多くてな……、収集がつかん。だから、俺は早めに王都に戻ったというわけだ」
「そうなのね、う~ん」
「レイラ、俺が竹千代をおぶって花の里に行く。その間に雪之丞は、菓子を取って来るのはどうだ?」
「そうだな」
「では、そうして貰って良いかしら。西の京の話しは後で聞くわ」
「わかった、では、竹千代を頼むぞ、隆之介」
「ああ」
立ち上がった勇者雪之丞は、左手を胸に当て敬意を表すと診察室を出て行く。
「真一、竹千代をおぶるのを手伝ってくれるか?」
「はい、隆之介医師」
「よせよ、ただの隆之介でいい。医師を付けられると、くすぐったい」
何故か照れる隆之介医師。
「わかりました、隆之介」
「おう、では竹千代をそっと座卓から出すぞ」
「はい」
隆之介医師と真一は、二人でそっと竹千代王を動かす。そして、竹千代王を隆之介が背負うと……、
「では、花の里で待つ」
と言い、診察室を後にした。レイラ王妃はにこやかに送り出し、
「さて、フランツ、相談です。グレンが組んでくれた真ちゃんの看護班ですが……」
「なんだ」
「あなた含め、皆、当面、七の字の館に付いて下さい。つまり、当面、七の字の館に住まいを移して下さい。長くて建国五千年記念の祭りが終わるまで。その後は、相談ということで。勿論、白雪も一緒にです。竹千代が、フランツ、あなたに建国五千年記念の祭りが終わるまで白雪を預けたですから」
「し、白雪!」
慌てるフランツ医師。あんぐりと口を開けるナーシャ姫。事の成り行きを見守る真一。
「い、意図はなんだ?」
動揺するフランツ医師が言うと、
「そうね、真ちゃんの健康面もあるんだけれど、ほら、ルベルトに続き、グレンも人事に関しては超が付くほど優秀でしょう?」
「ああ、グレンの才能は医療だけに止まらんからな」
「だから、真ちゃんに付くこの世界での人事の構成をルベルトと相談しながらグレンにも動いて欲しいのよ」
「チッ、レイラ、相変わらず、抜け目がないな」
「フフッ、そうでしょう?」
「ということはだな、ライルは知識の面だな? あいつは医療図書館を主に担当してはいるが、本の虫だ。王立図書館の本なら何が何処にあるか大体の把握はしている。そして、リリとルル看護師は、看護だけに止まらず家事全般を得意としている」
「ご明察。もう、かなわないわぁ~、目覚めたフランツには」
「言ってろ!」
レイラ王妃とフランツ医師が話しを進める。その話しを聞いていたナーシャ姫が急に立ち上がり……、
「嫌ですのぉおおお」
と、我が儘を言い始める。
「真たんとルベルト王子とナーシャで、七の字の館に住みますの!!!」
「こらこら、ナーシャ。あなたの一存で全ては決まりませんよ。真ちゃんは、いえ、真一は、’真実の勇者’なのですよ」
「ぶぅ~~~」
「だぁめ、駄目ですよ。可愛らしくふくれっ面をしてもこの一の字の母王妃には通じません」
「でもでもですのぉおお」
いやいやとばかりにナーシャ姫は、胸の前で両手を組み横に揺れる、巨乳も揺れる。
「めっ!」
「うっ……」
「フランツと話しましたよね? 今後のこの世界における真一の下に付く者。それは慎重に選ばねばなりません。それに、ルベルトとグレン。こんな最強の人事は他にありません、彼らも組んで仕事をするのは久方振りじゃないのかしら? ねえ、フランツ」
「ああ、そうだな」
「そういうことです。ナーシャ」
「くっ……、わかりましの……」
言い負かされたナーシャ姫は、シュンとする。
「では、ナーシャ。彼らに先に七の字の館に行って貰いますよ」
「はいですの……」
「よろしい、では七の字の館の鍵をフランツに渡しなさい」
「持ってませんのよ、母王妃」
「嘘仰い、首から下げているでしょう? 七の字の館はあなたの夢の館でもあるのだから、建築もまだ途中で止めている所があるほどに、時間を掛けて作っているでしょう」
「みんなバレていますの」
更にシュンとするナーシャ姫。渋々と首から掛けていた鍵を外し、フランツ医師に渡すと、
「お預かりします、ナーシャ姫」
普段はナーシャと呼び捨てで、なあなあの関係のフランツ医師だが、丁寧に鍵を受け取ると、左手を胸に当て敬意を払った。
「お願いしますの、フランツ医師」
ナーシャ姫も同じくフランツ医師に敬意を払う。ここは?! と思ったのか、真一も敬意を払い……、その場の皆は笑顔になった。
「みんな、自分の役割が決まったんだね、レイママ」
「ええ、悠ちゃん」
「では、〆と行きますか」
「そうしましょう、勇瑠」
その場に残る皆が、新しいグラスを手に取ると、酒を注ぐ。そして、それぞれが座った姿勢を正し、グラスを掲げる。レイラ王妃がグラスに口を付けると、皆は一気に呑み干した。
それぞれが動き始めた。




