第47話 勢揃い?
宴がお開きになった診療室。厚手の毛氈のような敷物も座卓もそのままに、けれど座卓の上はそこそこ片付けられていて……、なぜか、目立つ灯りは付けずに座卓の上の蝋燭が増やされていた。
王族が自ら片付けを? と、頭を捻ってみるが、よくよく考えてみれば、この部屋は王族しか入れない。もしかすると、この部屋の中では、所構わず敷物を敷いて、秘密裡に宴とばかりに王族たちはドンチャンとやっているのかもしれない。
字を持つ者たちがほぼ去った診療室では、かなりの人が減ったかと思われたが……。
竹千代王は、皆が移動する間、窓から外を眺めていた。
すっかり日が落ちてしまった外の景色、精霊たちの姿が早い時間にも関わらず、多く見ることが出来る。こんな日は珍しい。
ふと、座卓の方を見ると、真一がせっせと動いていた。
「ぬっ、真一?」
竹千代王が窓際から移動しながら言うと、
「うん? 竹千代、どうした」
「あ、なに、其方がせっせと片しておるのが目に入ってのう、手際がよいものだとな」
「ああ、たまになぁ~、俺の会社でもレクリエーションで、社内の食堂を使ってやるんだよ。その、宴をな、それで片付けは参加者でやるものだから、つい……手が出てしまうんだ」
「ぬっ、真一の会社とな、我も見てみたいものよ」
「ああ、是非」
竹千代王は、真一と話しながら敷物の上の席に着き、
「さて、始めるぞ」
と言ったが……、
「ぬっ、のう、やけに人が多くないかの?」
「千代ちゃん、そうなのよ。私も数えてみたんだけれどね、二十人ほどいるわよね?」
「ぬっ、字の者は捌けたであろう?」
「そうなのよね……。あら、ナーシャも残っちゃって」
アルシャル王と竹千代王はボソボソと話し、アルシャル王はナーシャ姫を見付け、矛先がナーシャ姫に向かい……、その視線を感じ取ったナーシャ姫は、ぷぅ~とふくれっ面になる。そして、
「父王様方、私の方を見ても無駄ですの、ナーシャはここでのお話しが終われば、真たんを七の字の館に案内しなければいけませんの!」
そういうと、ギロリとアルシャル王と竹千代王を睨む。
「ぬっ、ナーシャよ、あいわかった」
「三の字の父王、良かったですのぉ」
勝利を確認したとばかりにナーシャ姫は、満面の笑みを浮かべる。そして、真一の側にちゃっかり座っている。真一はというと、また新たな面々が目の前にいるせいか、緊張を隠せないでいた。
竹千代王は、フゥ~と息を吐いた。
「竹千代」
「おお、雪之丞! ぬっ! 其方、どうやってこんなにも早よう王都に来られたのじゃ? 我が雷悟に言付けたのは、本日の午前中ぞ?」
「竹千代? もしかして忘れているのか?」
「なにをじゃ」
「今年の春の初め頃から毎週のように文を寄越して、今年は我が国の建国五千年記念だから、十月初頭には王都に必ず帰って来るように。と催促をしていたじゃないか、俺は慌てて金曜の夜からこの王都に向かったんだ。馬車で西の京から王都までは一日半掛かるからな」
「おお、そうであったか」
黒川雪之丞は、約百五十年程前にレジェンド王国に召喚された勇者である。今は、西の京の街を治める一人だ。
竹千代王の返事を聞くと、雪之丞は雷悟から受け取ったスキットルを向かいの席から竹千代王に渡す。それを受け取った竹千代王は目を丸くして、
「ぬっ、このスキットルはフランツの……、我が落書きをして雷悟に渡した物ではないか、何故、主が持っておるのじゃ」
「ああ、今日の朝、王都に着いたからな。眺めの良いところで飯が食いてぇと思って、扉の塔に登って来たところで雷悟に会ったんだ。雷悟も目を丸くしていたよ」
フッと笑う雪之丞。そして、
「やぁ~ねぇ~、千代ちゃん、色々とてんばってなぁい? 父王が代わりに話そうかしら?」
「ぬっ、ああ、頼んだ。我は酔い冷ましに酒でも呑んでおるわ」
「あらやだ、この子は。ちょっと酔っていたのねぇ~、じゃぁ父王が任されたわ」
「おう、竹千代! 向かい酒か、いいじゃねえか! どうだ、この後、久しくお前の花の里に招待してくれないか、俺と隆之介と。それから、アル、レイラ、ロウは……、居ないのか? 出来れば、一緒に呑みてんだがな……」
「あら、お誘い? 雪ちゃん」
「そうだ、アル。日本酒の良い物が出来たんだ、それとな西の京の細工物を見て欲しい。出来れば、ご婦人方にも見て貰いたいんだがな」
「あら、いいじゃない。ほら、千代ちゃん」
「ぬっ、ではこの後は花の里で宴じゃの、細工物はローレライも喜びよる」
「決まりだな」
「ふむ。ああ、真一、此奴が百五十年程前に我がレジェンド王国に召喚された勇者じゃ、名を黒川雪之丞という、そして雪之丞の隣でパカパカと酒を処理するように呑んでおるのが、仙川隆之介じゃ、此奴もフランツ同様、医師をしておる」
竹千代王がサクッと紹介すると、
「ま、磨嶋真一です。宜しくお願いします、ゴンッ」
突然の振りだったようで、慌てた真一は頭を下げすぎて座卓で額を打つ。
「てぇ」
小さく呟くと、ぶつけた額の痛みに堪える真一。
「きゃぁぁあ、真たん! 痛いですのぉおお」
騒ぎ出すナーシャ姫。
「だ、大丈夫、ナーシャ」
堪える真一。
「でもでもですのぉお」
オロオロとナーシャ姫はしだして、
「お、嫁さんか、磨嶋真一」
「なんだと? 今回の勇者は嫁さん同伴召喚か?」
雪之丞が言い、隣でパカパカと酒をやっていた隆之介が言うと、痛みに耐えきったのか、グググッと上半身に力を入れながら頭を上げる真一は、
「あ、いや、幼馴染みです」
とサラリと言ってしまう。
「わっははは! 幼馴染みか、黒川雪之丞だ、よろしく頼む」
「なんだ幼馴染み、ん? 待てよ、召喚されて幼馴染みだと?」
隆之介が悩み出す。すると、
「ああ、隆ちゃん、後で説明するわね」
アルシャル王が口を挟み、
「おう、頼む」
隆之介はすんなりと引き、
「真一、仙川隆之介だ、よろしく頼む。良い体しているな、今度、調べさせてくれ」
「あ、え? はい???」
真一は、悩み出すが、
「仙川さん、よろしくお願いします」
取り敢えず、改めて挨拶をしたみたいだ。
「おう」
そういうと、隆之介はまた酒を煽り出した。
「じゃ、医師繋がりで紹介しちゃいましょうか? フランツ、フランツ・ミュッセ。真ちゃん、フランツは名前と姿に似合わないガラの悪さだから気を付けるのよ」
アルシャル王の紹介の仕方に、
「なんだと?」
すっかり出来上がっているフランツ医師が言葉を返す。フランツ医師は薄色の金髪をしており、フワリと後ろに流したオールバックの髪型にエメラルドの宝石と思うほど美しい深みのある緑色の瞳をしている。肌の色は白く美しく顔立ちが整っているので、どこぞの王子か? と思うような容姿なのだが……、ガラの悪さ……というよりは口の悪さで、よく女性に振られる。まあ、振られ続けた人生を送っている。そこで出逢ったのが白雪で『フランツ様は、口は悪くても心は悪くない!』と、とある席で庇われてから、白雪に猪突猛進、当たって砕けている日々である。ああ、医療に関係のない話しだったが……。医師としての見立てや腕前は、父のフェルゼン・ミュッセ医師が認めている。
「フランツ医師! 磨嶋真一です!!! その、この度は俺の命を救って下さり……、あの、本当にありがとうございます、ゴンッ」
深々と頭を下げる真一は、また、額を座卓に打ち付けるのであった。
「あ、いや、その、なっ!」
熱意の籠もった真一の礼の言葉に戸惑うフランツ医師は、思わず……、
「真一、額は大丈夫か?」
「はい! お陰様で」
照れ隠しのフランツ医師の言葉に、馬鹿正直で真面目な真一の返し。
クスッと誰かが漏らすと、皆はそれに和むのであった。
「あ、ついでに医療関係ね、レイシ・バーレーン薬師。この男の薬に関する知識は、原材料から製法まで測りしれないのよ、隣に座っているのは弟子の、シャルレタ・ミーシャン薬師ね」
「磨嶋真一です、宜しくお願いします」
「レイシだ、よろしく頼む。現在日本の薬事情を是非聞かせてくれ、資料でもいいぞ」
「え、あ、はい。よく分かりませんが、どんなものが必要か言ってくだされば、ある程度資料は出せると思います」
「何?」
「あ、いや、現在日本にはインターネットというのもがありまして、検索が出来るので」
「インターネット?」
「はい」
「はいはい、真ちゃん、長くなるからそこらの説明は後日、レイシにしましょうね。レイシ、当面はというか、建国五千年記念の祭りが終わるまでは、レジェンド王国に居るんでしょう?」
「あ~、一の字の。部屋に帰ってみないとなぁーわからねえ、仕事、溜まってるから」
「あらやだ、いつものレイシだわ」
「なんだよ」
「言葉通りよ」
「あの、また、機会を改めて、そのレイシ薬師」
「ああ、こちらこそよろしく」
「あの、シャルレタです。よろしくお願いします」
「磨嶋真一です、よろしくお願いします」
真一とシャルレタは、アルシャル王とレイシの会話の間に、オタオタとしながらも挨拶をした。
「じゃぁ、続いて魔法省関係行くわよ、ルーブル・オージェ魔術師は、さっきも真一と話していたわね、魔女コーニャ・ダリアフラウ・ルクサーヌも紹介が終わってる。あとはルートベルト・バスティア呪術師は、まだよね。ルートベルトは、ルーブルとコーニャの間に居る子ね。彼は呪術師よ、繊細な作業が得意なのよね。だから、術式も複雑で繊細で良い仕事してくれるのよぉ~」
「磨嶋真一です、よろしくお願いします」
「ルートベルトです、よろしくお願いします。勇者真一様、呪いたい相手が居ましたら、そんな仕事もお引き受けしますよ」
柔らかく微笑みながら言うルートベルト呪術師に、
「とんでもない! 『人を呪わば穴二つ』言いますから! ルートベルト呪術師、お気持ちだけ頂きます」
「え? ひとをのろわばあなふたつ?」
「あらやだ、ルーちゃん、妙なところで引っ掛かったわ。それはね、現在日本のことわざなのよ。人を呪うといつか自分にも返ってくる。というような意味よ」
「ああ、なるほど、だから勇者真一様は、お気持ちだけと」
「そうね、この子真面目だから」
「ああ、私も冗談だったんですけどね、滑りました」
「そうね」
アルシャル王とルートベルト呪術師は、苦笑いをする。
「あらやだ、待って待って」
アルシャル王が慌てながら言う。
ルーブル魔術師の横に居る人物。
「ルーテン! 来てくれたの!」
「ええ、一の字を持つ王よ」
「やだ、ルーテン、改まらないでよ。アルで良いわよ」
「では、アル。只今、帰りました。今回も土産話しがあるのでまたお付き合い下さい」
「フォホホホ」
「それは楽しみだわ、というか、ルーブル、ルーテンの隣で若い姿で笑い声だけ爺にならないの!」
「あ、失礼しました、アル」
ルーブル魔術師もそろそろ酒に酔ったのか、にこやかに答える。
「真ちゃん、紹介するわね、ルーテンシュタイン・フォートリエ大魔導士よ。彼については語るべきことが多すぎるわ、また、ゆっくりと話しましょう。そうね、彼の土産話しでも聞きながら……」
「フォートリエ様、磨嶋真一です。よろしくお願いします」
「勇者真一殿、よろしく。ルーテンで良いよ」
「ありがとうございます、ルーテン。では、真一でお願いします」
「承知した」
漸く皆を紹介し終わったかと、アルシャル王は辺りを見回して、
「え゛? なんてこと!」
おもむろに、
「あんたたち!! 何年振りなの? このレジェンド王国に三人揃うなんて」
驚きの声を上げた。
「我らのことかな?」
一人のがたいの良い男が言う。
「そうよ、ランディス」
「あ~、ついでだから連れて来たぞぉ~一の字のぉ~」
レオン王が言うと、
「レオちゃん、ついでてぇ……」
「そうじゃの、我らが揃うのは四半世紀振りじゃ」
半月が言う。
「そうですわね、私は時々、同じ王都に住んでる身、半月とはたまに星読みをしておりましたわ」
「ふむ」
ランディス・レーン占星術師、リュカ・レイディア占星術師、そして、予言者半月。彼らは『真実の勇者』の予言を授かった三人である。
あたふたとしているアルシャル王だが、
「ちょっと、あんたたち! 来なさい」
「我らか?」
「そうよ、あんたたち、三人よ」
予言をした者たちは顔を見合わせる。
アルシャル王は、立ち上がり催促をする。
三人も立ち上がり……、
「竹千代、あとは任せたわ。レイラ、ローレライを花の里に連れて来て。半月、あなたの宮を借りるわよ」
「承知した」
半月が言うと、続き、
「アルパパ、了解よぉ~」
と、出入りの扉の前に既に居るアルシャル王にレイラ王妃が言う。
慌ただしく出て行ってしまった四人の者。
後を頼まれた、竹千代王は……、寝落ちをしていた。




