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第45話 ルベルト・五・グラン・レジェンド3

 うわぁあああん!!!


『え?』皆が驚く。タルマ王に釣られたのか……、ルベルト王子の横で子供のように泣き出してしまった五の字を持つサラ王妃。


「私も母と呼んで欲しい、サラ母様と、母王妃と、ウッウウウ」


皆は戸惑いだして、


「あ、えっと」


真一まで言葉出ない。


「私はルベルトの母なのです。ウッウウ……。ルベルトは、現在日本より此処レジェンド王国に帰り十数年、私を母と呼んでくれたことは一度もないのです。サラ王妃と呼ぶのです。ウッウ……、父のルイのこともルイ王と呼び、父王とは呼びません。それに……、ルシーニャとは……、あれ以来、ルシーニャが七歳の時以来、口も聞いてはいないのです。数年前のルシーニャの結婚式は出席してくれましたが、形だけです」


サラ王妃の話しに真一は、返す言葉が見付からなくて。皆も同じなのか、場は静まり返り……。五の字を持つ者たちの家族間の問題の根深さに驚くばかりだった。

誰もが言葉を無くし、酒にも手が伸びず……、場は静まり……。そんな中、竹千代王がボソリと言った。


「一の字の父王よ、子育てとは、何と難しいものよの」

「ふむ。千代ちゃん、たまには良いことを言うわね」

「ぬっ、抜かせ妖怪爺ぃ」

「ムッ」


流石のアルシャル王と竹千代王も参ったとばかりに口も挟めず。どうすれば良いものかと思いを巡らせる。


「一の字の父王よ」

「なに、千代ちゃん」

「ルベルトは真一を生で見て、こうの、楽しかった時の想い出やなんやかや思いを巡らせよって、なにか、一気に吹き出したのかのぉ~、日頃の鬱憤のようなものが……」

「生って、千代ちゃん、真一を魚みたいに……。せめて、真ちゃんの実物とか、懐かしい人に会ってとか、言いなさいよ」

「父王よ、そこじゃない」

「ムッ」


アルシャル王と竹千代王は、真一たちと少し離れたところ、距離は二メートルほどか? そこでボソボソと話しをしている。


「どうしたものかしらね、これはデリケートな問題よね」

「ふむ、思ったよりも根深いもののようじゃしな。長う生きておる我でも、どうすれば良いのかと悩みよる」

「そうね」

「しかしの父王よ、これは良い機会ではあるな、タルマではないが……、我らも見て見ぬ振りをしていたも同然ぞ」

「そうね、ここ数年の荒れようは目には映っていたのだし、フランツからも再三報告を受けていたのに、放置をしていたものね……」

「ふむ、ルベルトは、賢く繊細で感受性も豊かだ、しかも気もよく回る。ルベルトが仕事をしている内は大丈夫と、なんの根拠もなく信じて疑わず……、否、蓋をしておったのじゃな……」

「そうね、考えてみれば、あの子。四歳の幼児の姿のまま何百年も生きて……、それも殆ど一人きりで過ごして……それて壮絶なものよ……。我らは不老不死に近い身だから、体の成長に関してはいつか必ず成長するものだなんて……。考えてみれば、残酷な言い方だったわね……、何百年も体の成長が無い者に対して言うことじゃない。それをご丁寧に焦らなくて良いなんて言いながら、何百年も心配の一つもせずに、只、待つだけの受け身でいたのだから……。そして、私たちがしてきたことは、只、彼に笑いかけるだけだった……」

「ふむ」


本気で悩み出したアルシャル王と竹千代王の表情は見るみる険しくなって行く。


「それに聞きよったか? 父王よ、タルマとサラの言いよることを、兄とも母とも呼ばぬと……、それから、ルシーニャとは姫が七歳の折から口を利いておらぬとなると、何百年となるぞ?」

「ふむ」

「あの、私、ルベルト兄上とは数百年、口は利いておりませんわ。七歳の頃からです、もう、訳が分かりませんわ」

「!」


ビクッと飛び上がり、驚くアルシャル王と竹千代王。いつの間にか側に居たルシーニャ王妃が言うと、暫く考えた竹千代王が口を開き、


「難儀なことよの」

「ええ、私も兄のように母のように声を上げて泣きとうございます。けれど今は、今は怒りが勝っており……、きっと涙は体の中で蒸発しているのですわ……、哀しく悲しく辛く……、どうしようもありませんの。身勝手を申すのならば、七つの子供の申したこと……、それはこんなにも許されないことですの? 無知だった子供の私は、許されることがございませんの?」

「ルシーニャ……」


竹千代王は言葉を失う。


「ルシーニャ、とても難しいことだから、直ぐには答えが出ないよ」


アルシャル王が言うと、


「いつなら、出ますの? その答えは、いつならば出るのでしょう、一の字の父王」

「わからないよ」

「はい、一の字の父王。ルシーニャも……、それは、わかっておりますわ。ただ、兄が……、ルベルト兄様が、元気で居てさえくれれば……、いつかはきっと……わかり合える日が来ると……」

「そうだね」


ルシーニャ王妃は、拳を握り締める。痛いほどに握り締め、なんとか言葉を言い終わると、歯を食い縛る。


「気丈よの、ルシーニャ。頼む、もう少し気丈でいてやってくれ、ルベルトのために皆のために」

「三の字の父王、無茶を言います。私も人です。崩れ落ちたなら、支えて下さいませね」

「承知した」


言葉をおくように三人は押し黙り。通り抜けるように時が流れる。


真一たちは、まだ、言葉を失ったままで沈黙をしている。

重苦しい空気が流れる中、宴の席にいる者は皆、誰も立とうとはしない。


時間だけが時を刻み動いている。

窓の外を見ると、いつの間にか夕暮れ時となっていて……。


「あの……」


小さな声で言うと、これまた小さく右手を下からそぉ~とじわじわと押し上げるように手を上げるナーシャ姫。それを見た真一は、向かいに座るナーシャ姫に向かって、


「どうした? ナーシャ」

「ルベルト王子に聞きたいことが……」

「ルベルト王子?」


真一が聞き返す。


「ああ、真一。この子は、ナーシャはな、真一が読んでくれた絵本の王子様にルベルトが似ていると言い、それからルベルト王子と呼ぶようになったんだよ。小さい時に人前でルベルト王子! と言った時は心臓が止まりそうだったよ、色んな意味で」

「ハハッ、そうだったのか」


真一はタルマ王が言った、色んな意味で、も理解したようだ。現在日本で、外国人と思われる金髪の美しい子供が王子様と呼ばれていれば、それはもしかすると本当の王子様なのか? それとも子供のごっご遊びなのか? と、勘ぐるだろう。

または、タルマ王たちがゲートを使い現在日本に来られたのだ。同じゲートを通り来た異世界の者がどこかに潜んでいて、彼らを見張っていたかもしれない。

なんにせよ、本当に王族なのだ。滅多なことで見知らぬ地で身分を明かすことは控えた方が賢明だろう。


「あの、ルベルト王子?」


タルマ王の言葉に真一が返事を返したタイミングで、ナーシャ姫は、もう一度、ルベルト王子に話し掛ける。


「何、ナーシャ」


少し不機嫌そうにも聞こえる声のトーンでルベルト王子が答える。


「あの、ルベルト王子は、その。現在日本で過ごした、真たんとナーシャとの時間、楽しかったですの?」

「え?」

「ですから、真たんとナーシャと一緒に絵本を読んで過ごした時間ですの」

「ああ」

「楽しかったですの? ナーシャは、とても楽しかったですの」

「ああ、楽しかったよ」

「また、真たんとナーシャとルベルト王子で、同じ時間を過ごせるとしたら、過ごしたいと思いますか?」

「思うね」


ルベルト王子の返答を聞くと、ナーシャ姫は間髪入れずというように、


「では、ルベルト王子! 当面の間、真たんとナーシャとルベルト王子で、七の字の館に住みますのぉお、そしてそして、また、一緒に絵本を読みましょう? 世界の謎を解くのです! 絵本は沢山用意してあります、七の字の館には図書室を作りました!」


零れるナーシャ姫の笑顔は最上級で。輝くまぶしさに皆、口元が緩み……。


「ナーシャ?」

「はいですの」

「本気か?」

「当たり前ですの! ナーシャはお料理も出来ますのよ? 家事全般、任せて下さいですの」

「俺も料理は出来るぞ! 簡単なものなら菓子も作れるぞ! 家事はそこそこだが……」

「え?」

「真ちゃん、料理とお菓子は作れるのは知っているけど、家事はちゃんとやっているの?」

「なんだよ、花琉おばさん、ちゃんとやってるよ」

「一ヶ月程前に真ちゃんのマンション行った時には、部屋を散らかして洗濯物を溜めていたのは誰かしら?」

「あの時は、仕事が忙しかったんだよ!」

「だから、家に帰って来なさい。て言っているのよぉ~、家からだって職場は近いんだからぁ~」

「花琉おばさん、もう、俺、大人だって」

「親から見れば、大人も子供もありません!」

「花琉、よさないか」

「だって勇瑠兄さん、聞いて下さいよ! 真ちゃんたら……ブツブツ」

「いや、だからな、今はその話しはだな、場の空気を読んでだな?」

「あら、つい、私たら」

「もう、花琉おばさんはぁ」

「真ちゃん!」

「はい!」


花琉姫に名前を呼ばれて真一の背筋は伸びる。


「さて、ルベルト。私がまとめるのもなんだが……、ナーシャのアイディアは良いんじゃないか? 丁度、真一は当面の寝泊まりする場所も決まっていない。十数年振りの再会だ。リゾートにで行ったつもりでどうだ?」

「勇瑠兄上……」

「うん? 今、なんと言った? ルベルト」

「勇瑠兄上と」

「ルベルトぉおお」


勇瑠王子は、今にも泣きそうな顔をして。


「字を持つ者を敬称でしか呼ばない、ルベルトがぁああ」

「あ、いや、その」

「じゃ、当面は俺、世話になってもいいのかな? その七の字の館に」

「真ちゃん、花琉おばさん、七の字の館に掃除には行きますからね」

「花琉、お前は現在日本で仕事があるだろう」

「勇瑠兄さん、そこは何とかして下さいよ」

「あ、いや、何とか出来るところと出来ないところが……」

「全く」

「いやいや……」


勇瑠王子と花琉姫は言い合って。


「では、三人で住みますのおぉ」

「ナーシャ、私も様子を見に行きますよ」

「えぇ~~~」

「当たり前ですの、この小娘が」

「ちょっと、娘に向かって小娘て……」


ターニャ王妃の言葉にタルマ王はタジタジになり。


「じゃ、ルベルト、決まりだな」

「うん、真たん」

「よろしくな」

「よろしく」

「はいですの!」


まだまだ、タルマ王家族の問題は解決に至らず、わだかまりは残るものの……。

ルベルト王子は一歩を踏み出したようだ。

この一歩が家族の一歩となりますように。

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