第44話 ルベルト・五・グラン・レジェンド2
「ルベルト……」
真一は、ルベルト王子の肩を抱きしめる手に力を込める。
それに気が付いたルベルト王子は、只、ただ、静かに涙を流す。
ふと周りを見回してみると、皆が移動をしてルベルト王子を中心とした席に着いていた。彼らの話しに向かい合おうという合図のようだ。
ルベルト王子の隣には、五の字を持つサラ王妃が座わり、優しくふわりとハンカチを置くようにして王子の涙を拭ってやる。ルベルト王子は抵抗もせずにいる。
タルマ王は、ルベルト王子にグラスを渡してやる。そして、子供の頃から好きだったジュースの瓶を見せ、にっこりと笑う。それを見たルベルト王子は、持たされたグラスをぬっと前に出した。タルマ王は、またにっこりと笑い、少し目に涙を溜めて……、それでも差し出されたグラスにジュースを注いでやる。真一が、
「おお、ルベルト! そのジュースの瓶、俺も覚えているよ。白百合邸で見て、見たこともない銘柄のジュースだったからな。それに美味しいんだ。なっ」
「真たんも、飲もう……」
「そうだな」
そういうと、真一も持っていたグラスをタルマ王に向かい差し出すと、
「駄目だよ、真たん、グラスを変えよう? お酒が入っているから」
「ああ、そうだな」
タルマ王がキョロキョロとし始めると、
「どうぞ」
隣にいたターニャ王妃が真一にグラスを渡す。それにタルマ王がジュースを注ぐ。ありがとうと礼を言うと真一は、
「ルベルト、俺もジュースを貰ったぞ、一緒に飲もうか」
「うん」
ルベルト王子がコクリと首を縦に振り返事をする。
「頂きます」
真一が言うと、ルベルト王子も釣られ、『頂きます』と言う。そして、
「はぁ~、久し振りに飲んだぁ、このジュース。当時はさ、俺ぇ子供でさぁ……、甘みが少なくて最初は苦手だったんだ。でもさ、飲む度にさ、段々好きになって……、なんていうかなぁ~、後口がスッキリするから、一息入れられるんだよな。それで、次に繋がるというか、動けるというかさ」
「真たん、それ!」
ルベルト王子が、ジュースを飲み干したグラスを両手で持ったまま言う。
「俺もそうなんだ、昔からこのジュースが好きで、ああ、このジュース、『ミート』て名前なんだ。俺、体は子供だったけれど、精神年齢はとうに大人だったから、一息入れられたら、直ぐに次の作業に移れるから、それで余計に好きだったんだ」
「ああ、そうか。タルマのさっきの話しだと、お前、大人だったんだな」
「真たん……」
「うん? どうした、ルベルト」
「……」
明るく話したかと思えば、シュンとするルベルト王子。
「うん? 言ってみろよルベルト。俺、ジュースのお陰で頭がスッキリしたぞ! それに、ジュースの名前、『ミート』て言ったか、俺の住んでいた世界では色々な言語があってな、その中に英語てあるんだけど、英語でミート(meet)は、’会う’て意味だぞ。なんかさ、ルベルトが、ミートジュースを好きだったお陰で、俺は、お前やお前の家族に出逢えたかもしれないぞ?」
「真たん、俺、子供じゃないんだよ、おとぎ話のようなことを言って……」
「おとぎ話? いいじゃないか、ナーシャに聞かせるおとぎ話の絵本、お前も好きだったじゃないか」
「そうだけど……」
「そうなんだな」
「そうだけど……」
ルベルト王子はもじもじとする。
皆が気になっているルベルト王子が大好きなジュース。『ミート』とは、どんな味のジュースなのか、少し紹介しておこう。
『ミート』は、果実100%のジュースである。現在日本の桃とオレンジを足したような味の果物、ピート(桃の味70%オレンジの味30%)という果物があり、原産国はレジェンド王国だ。それにミントと野バラを足したような花があり、花の名前は’ミルト’と言う、この花の蜜は上白糖を少しスッキリとさせた甘みで、野バラの香りから草ぽさを取り除きミントのすっきり感を乗せたような香りがするもので、こちらも原産国はレジェンド王国だ。ピートにミルトの蜜をブレンドして作ったのが、『ミート』というジュースだ。味は、飲んでいるときには程よい甘さで蜜の香りにも癒され、飲み終わった後味は甘みを少し残してスッキリとしている。アイスでもホットでも飲めて、酒と割っても飲める。ああ、あと炭酸を入れても中々にいける。
「ルベルト」
「なに?」
「お前変わってないな」
「何故そんなこと……、急に言うの?」
「フフ~ン、俺、さっきのお前の話の続き分かるぞ?」
「話しの続き?」
「ああ、そうだけど……て、言い淀んだ後だ」
「あ、その、俺、うっとおしいよ、ね……」
「違う違う、まあ、聞け。
偶然の一致は世の中にある。けれど、それをおとぎ話に置き換えるのは、人が浪漫に酔っているからだ。ねえ、何から調べる?」
「え?」
「どうだ?」
「う、うん。俺の言いそうなことだ」
「だろう?」
「うん、うっとおしい子だったね……、ごめんね、真たん」
俯きながら、元気が無くなっていくというような声で話すルベルト王子。
「いいや、ルベルト。覚えていないのか? 俺とナーシャは、お前の言葉にさ、一喜一憂して必死になって、それこそ食らいついて、調べて勉強してさ、次々に世界の謎を解き明かすんだとばかりにさ、頑張ったんだ。それを俺とナーシャで、ルベルト、お前にどうだとばかりに報告すると、更にお前は言うんだ。『じゃ、次はこんな風に考えて調べない?』、俺たちはさ、一冊の絵本から始まって、どれだけの知識を得たことか……。最初は絵本の中に登場する時代だった、その時代の物の情報を集めた。また、一つの言葉から、沢山連想して遊んだりもして、そこからこのおとぎ話に関する本はどんれだけあるのかとか、そんな遊びを沢山した。
俺さ、ルベルトよりお兄さんなのに、全然、勉強はかなわないと思ってさ、俺、必死だったんだぜ? 覚えることや知らないことを調べるのは勿論、凄い楽しかったけれど、それよりも兄貴分としてルベルトをあっと言わせたくてな。俺は当時、相当頑張ったんだ」
「俺、のことが、気味悪く、なかったの?」
「気味悪い? どうして」
「子供らしくないから」
「そんなこと、思ったこともねえよ、こんなすげー奴が居るて自慢したかったぐらいだ。そうだ、当時、ルベルトを学校の友達に自慢してもいいか? て、タルマに聞いたことがある」
真一がタルマ王の方を見ながら言うと、タルマ王は頷きながら、
「そういえば、そんなこともあったなぁ~。しかし、私が断ったんだよ……。そうだ、当時の理由は、ルベルトは、繊細で他の子供と遊べない子だから、そんなことをされては困る。と……、そんなことを言った気がする……。振り返ると、私は反省しなければいけないね、どうしてルベルトのことをあれやこれやと、決めつけていたのかと……。そんな決めつけはこの世界(異世界)に置いてくればよかったものを……」
「そうだぞ、タルマ、当時、子供の俺は、すっごい傷付いたんだからな! こんな凄い奴が居るのに、誰にも教えられないなんて! こいつと話せば広がる世界を教えられないなんて! てな、俺は勝手に傷付いていたんだぞ」
「すまない、真一。心から詫びるよ」
「タルマ、俺のは、その、今考えると、自分勝手な話だよ。だから、謝らないでくれ」
真一とタルマ王は、一瞬、目を合わせると俯いて苦笑いをする。
「真たん……、俺のことをそんな風に……」
「ああ、子供の頃、俺の中では、越えられないすげー奴だったよ」
「そっか……」
「ああ、悔しくて悔しくて、俺、頑張ったなぁ~。お陰で物凄い勢いで勉強は成績が上がったんだ。これはルベルトのお陰だな。そう考えると、今の俺は、ルベルトのお陰で全てがあるんじゃないか? 知るという癖と物の見方という武器をルベルトに貰ったんだからな」
「真たん、俺、俺……」
「うん? どうした、今の俺なら、昔よりは知識もあるぞ?」
「そうじゃないよ……」
「どうした? 久し振りに真たんにお兄さんに言ってみろよ」
「ありがとう」
ルベルト王子が言う。すると、
うわぁあああん!!!
と、側に居る字を持つ者たちが泣き出した。
真一は、ルベルト王子の言葉に戸惑いながら心が擽られ、皆の涙にもらい泣きをしそうになるが……、
「ルベルトぉおおおおお」
決壊したダムのようにタルマ王が泣き出した。そして、
「ルベルトぉおおお、私もお兄さんなんだぁあああ、ルベルトぉおおお、兄らしいことは何一つ出来ずに、すまない……。ごめんな、ごめんな、ルベルトぉおおお」
タルマ王は号泣する。そして更に、
「俺も……、お兄さんて呼んでくれぇえええええ」
「え?」
涙ぐんでいたルベルト王子は顔を上げて驚き声が漏れ、
「兄とぉおお。真一はずるいぞ! 俺も兄と呼んで欲しいぃいいい」
「なんだそれ? タルマ、どうした」
「真一はな、ずるいんだ、俺が出来なかったことを沢山した」
「え、え?」
「沢山、たくさんな……、まるでルベルトに贈り物をするように……。兄として俺はな……。俺もお兄さんと、兄と呼んで欲しいぃいいい」
号泣しながらタルマ王が言うことは、今の時点では訳がわからない。
ルベルト王子の話しは、五の字を持つ者と六の字を持つ者、七の字を持つナーシャ姫たちの話しは、まだまだ続くようだ。




