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第43話 ルベルト・五・グラン・レジェンド1

 背中に意識を集中するんだ、背中に意識を集中するんだ。

そうだ、肩甲骨の……、そうだもっと下の方だ!

柔らかな感触が、背中に当たるこの感触を感じるんだ!

こ、この感触はっ! お、おお、おっ、おっ○いに違いない!!!


と、少年漫画の主人公のようにはならず……。

瞬間冷凍でフリーズしていた真一は、取り敢えず言葉が口に出来て、


「あ、その」


シーンと静まり返る宴の場。

先程までナーシャ姫と真一を煽っていた手拍子はどうしたのか?


「真一・レジェンド様、私の王子様ですの(ハートいっぱい)」


真一を後ろから抱きしめるナーシャ姫は小さな声で言った。

きっと側に居る者にしか聞こえないような、そんな声で。


その声を聞き取った真一は、


「大きくなったね、ナーシャ。もう、何年振りだろうか」


その真一の声を聞いたナーシャ姫は、抱きしめていた腕から力が抜けていく。それを感じた真一は、ナーシャ姫の腕をそっと解き、ナーシャ姫に向き直る。


「俺さ、俺さ……」

「どうしたのですの? 真一・レジェンド様」


腕を解かれ、向き合う二人。大柄の真一はナーシャ姫を見下ろす形で言葉を紡ぐのだが……。


「何年ぶりかな? 小さかったナーシャが大人に、なったんだな」

「はいですの!」


少し苦しそうに言う真一、苦しくても口元には少しの微笑みをのせて。

ナーシャ姫は、そんな真一を見て、それでも微笑んで元気に返事をして……。


「ナーシャ……、ごめんな」


そう言うと、真一はゆっくりと腰を落として行き、ナーシャ姫の前に跪いた。


「ナーシャ、ごめんな。俺、約束を守れなかった。ごめんな、私立の小学校に入るから……、ナーシャ、一杯、勉強したのにさ。合格したら、真たん、入学式に来てね。て、学校の門のところにある桜の木のところでお写真撮るの。て……、言ってたのにな。ごめんな、ごめんなナーシャ」

「え……あ……、真たん、おにいたん、え? あ……」


真一は、ずっと心に残っていた、チクリと刺さったままの小さな棘のような、その思いをナーシャ姫に告げた。

ナーシャ姫の方は、昔、現在日本で過ごした真一と家族の白百合邸での想い出を思い浮かべて、涙を流さずにはいられず……、只、号泣した。


「あ、あぁあ、あああああ。真たん、真たん、おにいたん」


戸惑ってしまい、動けずにいる、真一は、


「ごめんな、ごめんな、ごめんな」


只、ただ、ただ、謝ることしか出来ずにいる。

そこへ、タルマ王、ターニャ王妃、ルベルト王子が駆け寄って来て……。


「真たん、真たん、お兄さん!」


ルベルト王子が、真一の側に行き、座り込んで泣き出してしまった。

いつも建て眼鏡を掛け、字を持つ者たちに睨みを利かせ、事が起きれば眉間に皺を寄せ、更に睨みを利かす。仕事が終われば休みは休みと、建て眼鏡は放り投げ別人になって、自室に引き籠もったかと思いきや夜遊びに時間を忘れ、朝帰り。感受性が鋭いからなのか何なのか、極端なことこの上ない変わり者。そんな彼は、涙など人前で見せたことは……、現在日本から帰って来てからは無かったことだ。

ワンワンと泣き出してしまったルベルト王子見て、真一は、


「ルベルトか、お前も大きくなったなぁ~、真たん、何も言わずに居なくなって、ごめんな」

「ううん、ううん、お兄さん、いいんだ、いいんだ」

「ルベルト……、ごめんな」

「いいんだ……」


うわぁあああん!!!


ルベルト王子に釣られ、一際大きな声で泣き出してしまったナーシャ姫。

それを見ていたターニャ王妃、ナーシャ姫の背中を擦りながら慰めていたはずが……、


うわぁあああん!!!


こちらも泣き出してしまった。


思えば、彼らは十五年以上振りの再会である。


 現在日本にて、当時、ナーシャ姫が二歳、ルベルト王子が四歳、真一が九歳、それから、真一が十四歳になる年の四月、突然、消えるように居なくなってしまった日まで。約五年間、ほぼ毎日のように共に過ごしていたのだから……、彼らがこの出逢いに号泣するのも無理はないかもしれない。


 真一とナーシャ姫の側に駆け寄って来た六の字を持つ者たちが、次々に泣き出してしまい困ってしまった真一は、苦笑いをしながら助けを求めるようにタルマ王の方に視線をやると、タルマ王は立ち尽くし、ターニャ王妃の背中を擦りながら、目に涙を溜めている。

真一の視線に気が付いたタルマ王は、ゆっくりと腰を下ろして、真一の側に座り……、


「我も、泣きたい……、真一」


座った途端にボソリと言う。

タルマ王が座ると、ターニャ王妃、ナーシャ姫もその場に座り……、


「タルマまで、泣かないでくれ。俺ももらい泣きをしそうなんだ」

「ふむ、堪える……てみる」

「ああ」


タルマ王と真一、黙って、泣きじゃくる者の背中を擦ってやる。


暫しの時が流れる。

宴の席では、静かに皆が酒を呑みだし。何処か遠く、彼方の地を眺めるようなそのような表情で、一人静かに自分のグラスに酒を注ぐ者、誰かに酒を注いで貰う者、それぞれが静を受け入れて、否、この刹那を楽しみに変え、同じ宴の席に着く者として苦を切なさを酒も友に過ごす。そして、そのような場の空気が、真一たちを包んで……、


「真一よ、ルベルトを叱ってやってくれ……」

「え?」

「ルベルトを叱ってくれ」

「ルベルトが、何かしたのか?」


タルマ王が静かに話し始める。真一は穏やかに返事をして……。


「ルベルトは、真一が居なくなった現在日本から、こちらの世界に帰って来てから、荒れに荒れてな……、今でも荒れ放題の生活をしているのだ」

「え? あの賢くて気がよく利く、よく笑う活発だった男の子がか?」

「そうだ」

「タルマ! 兄上……」

「ルベルト、もう、この際、真たんに聞いて貰え。お前は、今、ワンワンと大声で泣くくらいに、真一のことが心配で、大好きお兄さんだったんだろ?」

「兄上……、俺、子供じゃない」

「いいや、お前は子供だよ。極端な生活をして……、フランツが睡眠導入剤や睡眠薬、それに頭痛薬と、要求してくる薬が日に日に増えていると嘆いているんだぞ?」

「……」


タルマ王は、眉間に皺を寄せ、重い口を開けているというように低い声で言葉を噛みしめながら話す。ルベルト王子は言葉を止めた。そのような感じで、


「なあ、ルベルト。俺は、いや、お兄さん、タルマの話しを聞いていいか?」


真一は、ルベルト王子の背中を擦りながら、優しい声でゆっくりと話し掛けた。すると、ルベルト王子は、コクリと頷いた。


「タルマ、俺が話しを聞いてもいいようだ。ルベルトが頷いてくれたよ」

「そうだな」

「ああ」


タルマ王と真一は、静かに話し始めた。


「少し、前置きとなるが、真一。ハイヒューマン種族は、年齢の数え方が三種類あり、時間年齢、これは時の経過で数える。肉体年齢と精神年齢と、この三つがあるのだが……。

時間年齢は、時が経過すれば誰でも取れるものなのだが、肉体年齢と精神年齢は、そうはいかん。全ては自分次第なんだ。肉体年齢は体を作るために食した物や運動量、それと精神年齢に引っ張られる。幾ら食しても運動しても肉体年齢が発達しないときは、精神年齢が幼いということだ。先ず、精神年齢が上がらないことには肉体は成長をしない。だが、極端に幼い時に精神年齢が発達をしてしまうと逆に体の成長スピードが精神年齢に追いつけず、バランスを崩し、肉体の成長が止まってしまうのだ。

殆どのハイヒューマン種族は、生まれてから十歳くらいまでは、時間年齢、肉体年齢、精神年齢とも、ヒューマン……、そうだな、現在日本に居る人間と殆ど変わらないペースで時間と共に年齢を重ねられるのだが……。

そして精神年齢だが、これは知を蓄えねば成長出来ない。知識、教養を身に付け、人格、人間性を磨く、そして己を作り上げて行くのだ。この作業は意外に果てがなくてな。

前置きが長くなったが……、真一、ハイヒューマン種族の年齢の取り方は理解出来たかな?」

「あ、ああ。初めて聞く話だが、理屈はわかったよ」

「なら、大丈夫だ。話しを続けさせてもらうよ」

「ああ」

「ルベルトは、時間年齢にして、もう数百年、生きている」

「え……」

「真一と出逢う前はな、四歳で年が止まって……、肉体年齢が止まってしまっていたんだよ……。余りに頭が良すぎてな……。一歳の頃には、文字を理解し本を読み出して、両親は賢い子だと何も心配せずに本を与え続けた。私も時間年齢が一回りも違う弟だ、初めての兄弟に当時は可愛らしくてしょうがなかったものだから、沢山の本を読んで聞かせた。

異変に気が付いたのが、ルベルトが生まれて五年も経った頃、両親も私も、肉体年齢の成長が遅いのでは? と思い出した。なにせ、生まれてから五年経ってもルベルトは、立つことが出来ずに這い這いしていたのだよ。

それから、五年十年と立つが、やっと、掴まり立ちが出来た、やっと、立てた……。そのような有様でな。

流石に、両親も私も心配になり、フランツに診察して貰ったのだが、体も精神も何も異常は見付からないんだ。フランツは、稀にある肉体年齢と精神年齢のバランスが崩れて、肉体の成長が止まっている現象ではないか? と診断を下したのだが……。我らの不安の大きさを感じて、フランツは父のフェルゼン・ミュッセ医師にも無理を言って時間を作って貰い、ルベルトの診察をして貰ったのだ。当時のフェルゼン・ミュッセ医師は、我が国の国立医療研究機関の最高責任者だった。そのフェルゼン医師の見立てもフランツと同じで……。具体的な治療法などは無くてな。こればかりは、本人次第ということで、今まで通り、自然に変わりなく接して行こうと、家族で決めたんだ。

それでも数百年経っても肉体が育ったのは四歳までだった。正直なところ……、父上と母上、私は、ルベルトのことは見守ろう、家族としての務めだ。などと善人ぶった戯言言って、目を逸らし続けた。その内に妹のルシーニャが生まれた。彼女はスクスクと育ってな……、美しい銀色の髪に吸い込まれるような翡翠の魅惑的な瞳の色、次第に家族は彼女中心の生活になっていったんだ……」


黙って聞き入る真一。その横で、今は静かに涙を流すルベルト王子。


「最初は、それでも上手くいっていた。ルベルトも妹を可愛がってな、そして絵本なんかも沢山読んでやって……。だがなある日、ルシーニャが七歳になった頃か。どうして兄のルベルトの肉体は成長しないのか? と聞いて来たんだ。彼女は当時、時間年齢、肉体年齢、精神年齢共に、七歳の年齢だった。両親と私は、本当に返答に困ってしまった。ルシーニャに医師の見立てを話すには幼いし、ごまかすにしても体も精神も異常などない……、両親は『今度、お医者様に相談しましょうね』とルシーニャに言った。すると、ルシーニャは『兄様が、ご病気じゃなければ、ルシーニャは嬉しいな』と答えたんだ。

私たちは、選択と言葉を間違えてしまったんだよ。それを側で聞いていたんだよ、ルベルトは……。私たちは油断をしていた、ルベルトの容姿から、小さな幼児の姿から、精神年齢は時を重ねた大人なのだということが、頭からスッポリと抜けていたのだよ。

それから……、ルベルトは引き籠もるようになった。いつも小さな体に大きな本を何冊も抱え自室に籠もる。生活は乱れることは無かった。朝もちゃんと起きてくるし、身支度も一人で出来る、食事もちゃんと取る。只……、ただ、彼は……、いつも一人だった……」

「ルベルト……」


タルマ王は怒りと苦悩を表情に浮かべ話しをする。

真一は、ルベルト王子の背中を擦る手を肩を抱きしめる手に変えて、ルベルト王子を強くしっかりと支える。

無言でルベルト王子は、ハラハラと涙を零して……。



不老不死とも呼ばれる彼らの時間は永い。皆は見守る。

暫し……、時と共に彼らを見守ろう。

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