第40話 現在日本のヴァンパイアはフィクションだった?!
ガヤガヤと楽しげに皆は、酒を呑み料理を食し、スイーツに表情を解かしと、宴を楽しんでいる。そんな中、席を移動した真一は、現在、固まっている。
「竹千代ぉ~、取り敢えずー、真一にヴァンパイアの説明をしてやれぃ」
「ぬっ、レオンよ、もう、ほろ酔いではないか。そんなに呑んでおらんじゃろうに」
「何を言う、酒瓶一本は開けたぞ?」
「一本ごとき、引っ掛けた程度ではないか」
「ムッ、我は字の者たちとは違う。美味い酒に美味い料理、傍らに美しい我の妃が居るのだ。酒瓶一本も開ければ、酔いも回るというものよ」
「ぬっ、その美しい妃はどこにおるのじゃ? 向こうで、皆、楽しそうにスイーツを食しておるが?」
「何?」
レオン王は、テーブルに背を向けて、男四人で輪になり座り呑んでいた場所から、上体を回し振り向くと、レオン王の妃、ルシーニャ王妃は向かいの席に移動して女同士、女子会とばかりに集まり、お茶とスイーツに、翡翠色の目は輝き頬もほんのりと染め、薄く桜色に色付く唇を開け、マカロンを一口頬張るところだった。
「我は……、茶とスイーツに完敗したのか……」
「ふむ、レオンよ、よくあることぞ」
レオン王は、こちらに向き直り項垂れる。ニヤニヤとする竹千代王。
「嬉しそうだな~竹千代ぉー、主の妃も向こう側に居るぞ?」
「ふむ、良いではないか、向こうは向こうで楽しくやっておるのじゃ。フィオナ に聞いたのだが、女ばかりで集まるのを女子会と言うらしいぞ。ならば、男で集まるのは男子会かの」
「気色悪いことを言うんじゃない! ブツブツ……」
ニコニコと言う竹千代王に、ふて腐れるレオン王。
「あの、真一」
「うん? アズキアス」
「その、ヴァンパイアて、怖いですか? その悠くんに、あ、いや悠磨王子に、その現在日本のヴァンパイアについて、色々資料を頂いているのですが……、家のヴァンパイアよりもはるかに恐ろしいというか、身体能力の面でも優れているというか、多分、そちらの世界に家のヴァンパイアが行ったら一捻りで始末されてしまいそうなほど、凶暴で恐ろしいというか、あの、だから、真一がヴァンパイアを怖がるのも、無理はないと思うのですが……」
「うん???」
「真一? 我は可笑しなことを言っていますか?」
「あ、いや……、悠くんからの資料?」
「はい、写真というものに撮られたヴァンパイアの姿や、ヴァンパイアの日常が綴られた本をこちらの言葉に訳して貰いました」
「え?」
「それはそれは残忍で恐ろしいヴァンパイア種族も居るものだと……、我も思いました。だから、真一がヴァンパイアを怖がるのも無理はないかと……」
「え? アズキアス、待ってくれ! 日本にはヴァンパイアは居ない」
「え? 真一、そうなのですか?」
「ああ、居ない。でもアズキアスは姿も見たんですよね?」
「ええ、ええ」
「待って待ってくれ、アズキアス。悠くんに確認しましょう」
そういうと真一は立ち上がり辺りをキョロキョロとする。そして、自分が座っていた列の左端に悠磨王子がフィオナ姫とシャナ姫と共に座っているのを見付ける。
「アズキアス、少しお待ちください、呼んで来ますね」
「あ、その、真一。我らで行きますか?」
「ああ、そうですね、では行きましょう」
屈んでアズキアス魔王に話していた真一は背筋を伸ばし、アズキアス魔王も立ち上がり。
「お、どうした、二人共、呑み過ぎて連れションかぁー」
レオン王が聞く。
ポァカンとする真一。
「どうした、真一。我の顔がおかしいか? もしや酔っているなと、主も竹千代のように我を小馬鹿にするのか、おのれ、字の者たちめ! 揃いも揃ってざるしかおらん!!!」
「あ、いや、見た目とのギャップで。レオンの口から連れションと聞くとは思わなくて……」
「なにぃいいいい」
レオン王は、見事なストレートの長い金髪で、宝石のペリドットのような黄緑色の瞳に、整った陶器のように滑らかであろう白い肌をしていた。
「真一、真一、レオンは口が悪いのですよ」
「ああ、そうなんですね」
真一とアズキアス魔王が、コッソリ話していると、
「何を男同士、コソコソ話しているんだ、気色の悪い!」
言い放つレオン王。
「ああ、その。悠磨王子に聞きたいことがありまして、少し席を外させて貰おうかと、相談しておりました」
「何? というかだな、真一。我に敬語など入らぬわ、気色の悪い! 行け行け」
レオン王は、既に酔っ払っているのかもしれない?
「あ、はい、失礼して。レオン」
「あ、その、真一」
今度は、竹千代王が声を掛けてくる。
「うん? 竹千代」
「その、アズキアスと子供たちをよろしく頼む」
「任せろ!」
竹千代王の言葉に、思わず胸を叩き返事をする真一。竹千代王の人を思いやる気持ちと、子煩悩だなぁ~と感じた気持ちが、真一に満面の笑みを零させるのであった。
「アズキアス、悠くんはこの席の列の左端に居るようです。行きましょうか」
「はい」
二人は数歩歩いて悠磨王子のところに行き、真一はしゃがみ込むで悠磨王子の肩をトントンと叩くと、
「真にぃ!」
嬉しそうにパァアと輝く笑顔を見せる悠磨王子。
「悠くん、久し振り! 大きくなったか?」
「真にぃは、いつもそればっか。俺が拗ねるのわかってて言っているでしょう?」
「ハハッ、悠くんが拗ねたあとにゲームをやると、本気を出してくれるからな!」
「フフフ」
「アハハッ」
笑い合う二人。端から見ると、年の離れた兄弟のようだ。
「悠くん、お久しぶりですね」
「アズキアス、お久しぶり。もっと、外に出ないと駄目じゃないか! レジェンド王国の王都にももっと来てくれよ。映像でヴァンパイアを見せたいんだ! やっとそれが出来る!」
「あ、はい。出ようとは思うだ、悠くん。でも、その、最近、国が立て込んでいてね」
「立て込んでいる? 忙しいのか……。わかった、愚痴は後で俺が聞いて上げる!」
「ありがとう、悠くん」
「アズキアス、勇者真一様! 私たちもご一緒にお話しをしてもいいかしら?」
「アズキアス、勇者真一様、あの、姉のフィオナが申してますが、その、ご一緒したいです」
「あ、その、真一です。フィオナ姫とシャナ姫ですね、俺は良いのですが……」
いつの間にか、真一の後ろに居るアズキアス魔王の方を見る。
「あ、我は大丈夫です。フィオナとシャナとは悠くんと一緒によく話しましたから」
「そうですか、では大丈夫ですね」
頷くアズキアス魔王。
「フィオナ姫とシャナ姫、大丈夫ですよ。あ、それから、俺は真一で大丈夫ですよ」
真一がにっこりと微笑み姫たちにそういうと、
キャァ。
と、手を二人で合わせて喜ぶ。
「あ、でも、真一と呼び捨てには、恐れ多くて……、あ、でも呼んでみたい」
フィオナ姫がそういうと、
「どうぞ」
再びにっこりと微笑む真一。
キャァ。
こちらも再び、手を合わせ喜ぶ姫たち。
「では、シャナも真一とお呼びしても良いですか?」
「もちろんです」
「じゃあじゃあ、シャナたちのことも、呼び捨てにして下さい!」
「え?」
「シャナと!!!」
「え、あ、じゃあ、シャナ。よろしくお願いします」
「ずるぅい! では、フィオナもお願いします、フィオナと!!!」
「はい、フィオナ。よろしくお願いします」
「はい、真一」
キャァ。
フィオナ姫とシャナ姫は、今度は抱き合ってキャキャッと喜んでいる。にっこりと笑みを零しながら、困っているのか、照れているのか、見守っているのか、真一は参ったなという様子で。
「もう、姉様にシャナ! 真にぃは俺に用事があったの! そうだよね? 真にぃ」
「あ、そうなんだ」
「じゃ、立ってないで座りなよ」
「ああ、そうだな。アズキアス、座りましょうか」
「ええ、真一」
末尾の方の席では、また一つの輪が出来た。
「悠くん、早速、聞きたいんだけど、ヴァンパイアの事なんだ」
「うん? 真にぃ、ヴァンパイアて? あの血を吸うやつ?」
「そうそう、ヴァンパイア種族について聞きたいんだけれど、現在日本のヴァンパイアて?」
「現在日本のヴァンパイア? う~ん、どれのことかな。最近、アニメやラノベも少ないんだよね……」
「アニメやラノベ?」
「そうそう、洋画も殆ど昔のやつしかないしさ」
「え?」
「え? 何? 真にぃ、現在日本のヴァンパイアの話しを聞きたいんだよね?」
「うんうん、まさか……。俺、三十年生きてきたけど……、俺の知らないところで、実はヴァンパイアて日本に生息していたのか?」
「え……」
「えぇええ~」
悠磨王子にフィオナ姫とシャナ姫。声を揃えて驚き……、
「え?」
キョトんとする真一。
「真一?」
「え、あ、シャナ」
「もしかして、本物のヴァンパイアが現在日本に生息していると思っている?」
「あ、それを確かめたくてね。その、アズキアスがさ、悠くんに資料を見せてもらって、という話しになってね」
「悠磨兄様!」
兄の悠磨王子をシャナ姫がジロリと見ると、
「え? 俺ぇ~」
「ええ、悠磨兄様のさっきの言い方だと、ヴァンパイアが現在日本に生息しているようにも聞こえるわ」
「ええぇ~、俺、てっきり、ヴァンパイアもののアニメや書籍、映画なんかの情報を知りたいのかと思っていたんだけれど、違うのか? 真にぃ」
「ええぇ~、悠くん、もしかしてさっきの話しは、作り物の方なのか?」
「当たり前じゃない、現在日本にヴァンパイアの本物が居るわけないじゃん」
「じゃぁ、さっきの話は、アニメやラノベ、それから映画の話しで……。あ、ということはだな、もしかして、アズキアスに渡した資料て……」
「資料?」
「ええ、悠くん。我に色々と渡してくれた日本の資料ですよ」
「アズキアス、現実にヴァンパイア種族が日本に居て、その資料を俺が渡したと思っていたのか?」
「はい、悠くん。違いましたか?」
「あぁああああ」
「どうした! 悠磨!」
悠磨王子の声に、思わず反応する真一。
「真にぃ、俺、アズキアスにさ、現在日本で手に入るヴァンパイアのアニメの話しをしたり、ラノベを翻訳したり、映画のパンフレットとか渡したんだけど……、もしかして、それを現在日本に居るヴァンパイアと思わせてしまったのかもしれない。作り物のお話しなんだけれどとは、伝えていたんだけれどね」
「ああ、なるほど」
真一は、左手の平を右手の拳で軽くポンと叩くと、うんうんと首を縦に振り、
「謎が解けましたよ、アズキアス」
「そうなんですか?」
「はい、アズキアス、すまない。悠くん、フィクションの……、あ、いや作り物の、その創作ですね? その話をしていたみたいです」
「作り物ですか……、そういえば、そのように悠くんは説明してくれていた気がします。我の勘違いで、その、申し訳ありません」
「いえいえ、俺も先走ってしまい、すみません」
「いえいえ、真一。そのようなことは」
真一とアズキアス魔王は、互いを気遣い合っているようだ。その様子を見て姫たちは、
「ねえねえ、お話しはすんだの? アズキアス、真一」
「ああ、シャナ」
「じゃあ、私たちともお話ししましょう、ねえ、フィオナ姉様」
「ええ、是非に! そのDT(童貞)とお聞きしましたが……ごにょごにょ……、私の視点から申しますとですね、姫と王子は清く美しく結ばれるものだと思うのです!」
「へ?」
何が起きているんだ? というような顔をする真一。
「フィオナ姉様、最初からハードルが高すぎますわ!」
「我はその、DT(童貞)ではないので……」
軽くジャブを出すアズキアス魔王。
「オタク姫のフィオナ姉様、その話しは真にぃにはわからないと思うぞ?」
「何を言うのよ、崇高乙女ゲームを知らない人間なぞ、この世には居ないわ!」
「それを言うなら、コスプレイヤーだって、もっと認知度が上がっても良いはずよ!」
「あ、え? 姉様に妹よ……、その話は真にぃに……」
悠磨王子、フィオナ姫とシャナ姫は、わちゃわちゃと話しが盛り上がり? 真一とアズキアス魔王を取り残す? そこへ、
「フォホホホ、儂の酒も一献、受けては貰えませんかの? 若い皆様方」
ルーブル魔術師が酒瓶を片手に現れた。
「ピヤッ」
小さく声を上げ飛び上がり、真一の腕を掴むアズキアス魔王。
真一は、アズキアス魔王が極度の人見知りだという話しを思い出して、守らねば! と、何故かそう思うのだった。
宴は盛り上がっているようだ。




