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第39話 此処は異世界!

 竹千代王は、突然、真一の右の上腕を左手で掴むと、


「真一よ」


と、声を掛ける。腕を捕まれた真一は、顔を上げて竹千代王の方を見て、上に向かい引っ張られる右腕に釣られて立ってしまう。


「どうしたんだ? 竹千代」

「ふむ、真一にいち早く逢わせておきたくての」

「逢わせる?」

「そうじゃ、真一、そこらの酒瓶を一本持って待っておれ」


訳がわからない真一だが、自分の目の前辺りのテーブルを見て、周りの者に断りを入れて酒瓶を一本、手にして竹千代王の様子を伺う。


「皆の者、聞いてくれ。真一に皆の紹介をしている途中なのだがな、我の我が儘を聞いてくれるか? 数年振りに、此処レジェンド王国を訪ねてくれた、我が友、我が戦友、ハイエルフの王レオンと魔王アズキアスに、真一を紹介したいのじゃ。大袈裟に立ち上がり、声を張り申すのもなんじゃがな……、その、どのみち再開の喜びに、我もレオンもアズキアスもの……、話しに花を咲かせれば、大風呂敷を広げ、仕舞いに酒に酔い、妃に咎められ、小さく肩身狭くなるまで目を覚まさぬゆえ……」

「我に妃はいない」


消え入りそうな声でアズキアス魔王が言うと、


「俺は彼女もいないぞ!」


釣られたのか、それとも酒に酔ったのか……、真一が言う。

酒瓶を持った手を高々と掲げ、言い放ったところをみれば、酔っているのだろう。

酒の入った皆の頭の中で、童貞(DT)だ。童貞だ。と、木霊したであろうことは、真一には内緒にしておこう。


「真一」


消え入りそうな声でアズキアス魔王が呟くと、


「皆、宴の場を我らで乱して申し訳がないのだが……。今、隣の魔王が、’真一’と、呟いたのを我は耳にした。人見知りが激しいこいつが、逢ったばかりの者に興味を持つなど。魔王城で部下と話すにも間仕切りなくば、ままならぬのに……。我も我が儘を言わせてくれ、皆を飛び越えすまないが、真一を紹介してやってくれ。人見知りは激しいわ、魔王城を出たがない引き籠もりだわ、直ぐ泣くわ、酒は弱いわ、魔王の癖に糞真面目だわ、どうしようもない奴なのだが、我の友、我の戦友なのだ!」


レオン王がアズキアス魔王を熱く語ると、


「レオン……、最後の方、なんか酷い」


消え入りそうな声でアズキアス魔王が言う。


「あ~、レオンちゃん。その、皆、納得して、酒を呑み出しから大丈夫じゃない? それに……」

「それに……? なんだ、爺ぃ」

「もう、千代ちゃんも真ちゃんも、君の後ろに居るしねえ」

「何?」


振り向くレオン王。そこには竹千代王と真一が酒瓶を片手に立って居た。

思わずレオン王も立ち上がる。釣られてアズキアス魔王も立ち上がるが……、レオン王の後ろに隠れようとする。


「レオン!」

「竹千代!」


二人は酒瓶を持ったまま、腕を絡め酒を煽る。

レオン王の後ろに半分くらい隠れたアズキアス魔王は真一を見て、


「大きい」


ボソリと言う。

それを聞いて真一は、


「あ、その、俺、背は、あ、体かな? 大きい方だから、怖いですか? そのすみません」


猫背になりながら、ポソポソと言うと、


「あ、いえいえ、レオンも竹千代も大きい方なので……、それに国の者は、大きい者も多いし、見慣れているはずなんですが……、レオンと竹千代を間近で見るのは数年振りで……、その、ちょっと、慣れないというか、ですね?」

「ああ、そうなんですね? あ、ああ! じゃぁ、座りませんか? 少し、大きさとか気にならなくなりませんかね?」

「そうかもしれませんね」

「ええ」


アズキアス魔王と真一、二人はよっこらしょというように、その場に腰を下ろす。

シーンと静まり返る宴の場。気が付かない二人は、


「どうですか? その、ちょっとましになりましたか、大きいの気になります?」

「ああそうですね、立っているときよりは気になりませんね」

「それは良かったです、何か、大きくてすみません」

「いえいえ、こちらこそ、失礼なことを初対面の方に……」


初対面の方に……とまで言ったアズキアス魔王は、固まる。刹那、


「レオン!」


と、レオン王の脚にアズキアス魔王は抱き付き!


「おわっ!」


レオン王はよろけ、竹千代王に腕を捕まれる。

腕を捕まれて、レオン王、静まり返る宴の席に気付き……、


「レオン! 我は初対面の者と話しをしてしまった!!! どうしたらいいんだ?」

「先ずは、我の脚を離せアズキアス」

「あ、でも、その、無理かもしれない」

「あ゛? 何をしたか知らないが、宴の席が静まり返っているじゃないか? アズキアス」

「え……」


アズキアス魔王は、レオン王の脚にしがみつきながら、恐る恐る少しだけ頭を動かして辺りの様子を伺う。そして、


「レオン!」

「あ゛?」

「レオン!」

「あ゛?」

「レオン!」

「あ゛?」


言葉を繰り返す二人に、


「レオンよ、無下にするな」


竹千代王がレオン王に言うと、


「竹千代」

「アズキアスの話しを聞いてやらんか」

「ふむ。しかしな、我らはこの宴の席で段取りを曲げて我が儘を通しておるからな。宴とは楽しくあるものだ、こうも静まり返ると……。流石の我も気が引けてしまってな」

「レオン、心配は入らぬのではないか?」

「どういうことだ」

「皆、アズキアスが真一と話していることに、驚いているだけだと思うぞ。なにせ此奴は、人見知りが激しいからな。家の引き籠もりより確実に上を行きおる」


竹千代王は、アズキアス魔王の頭をクシャクシャとしながら撫でる。


「父王、引き籠もりとは俺のことだな!」

「竹千代、くすぐったいからくすぐったいから」


五男の悠磨王子は言い放つと膨れ、アズキアス魔王はレオン王の脚に絡めていた腕を解き、自分の頭をクシャクシャとする竹千代王の腕を掴もうとしていた。


「ぬっ、悠磨よ、人見知りはよいのか? 人見知りと言えば、拗ねるではないか、のう?」

「俺、人見知りは割としなくなたからな」


意地悪そうに言う竹千代王の言葉に、悠磨王子は少し自慢げに答えると続けて言う。


「なあ、真にぃ!」

「ああ、悠くんは、俺と出会った時とは全然違うよな。今じゃ、俺の友達が家に来たらお茶を出してくれたり、大学の後輩が来たときは、初対面だったけれどゲームして遊んだりな!」

「ぬっ! そうなのか悠磨!!!」

「フフッ~ン」


自慢げな顔をして、持っていたグラスを掲げると、悠磨王子は酒を飲み干す。

どうやらこの異世界では、酒の入ったグラスを掲げたり言葉を交わした時に飲み干したりするのには、意味がありそうだ。


「誠なのか、真一」

「ああ」


真一の返事に竹千代王は、涙腺が緩み、そして、


「真一、真一、真一ぃいいい」

「な、なんだ、どうした、竹千代! よくわからんが泣くなよ」

「我は感謝するぞぉおおお」

「竹千代?」

「悠磨の人見知りには手を焼くを通り越して心配をしておったのじゃ。だがな、ここ数年、人前でも堂々としよってのお、ウグウグ……、話せる者が増えておるのじゃよぉお。ウッウッウッ、姫たちとも話せるようになりよったし……、我は、我はのぉおおお、感無量じゃ!」


泣き出す竹千代王を見て、真一は立ち上がり背中を擦ってやる。


「あっ」


真一が声を上げると、アズキアス魔王も竹千代王の背中を擦ってやっていたようで、手が軽くぶつかる。


「あ、すみません、その、アズキアス様でよろしいですか?」

「あ、はい、アズキアスです。こちらこそ、すみません。手がぶつかってしまって……、その、勇者真一様」

「あ、いえいえ、真一で結構ですよ、アズキアス様」

「あ、なれば我も、アズキアスでお願いします」

「はい、アズキアス、よろしくお願いします」

「こちらこそ、真一、よろしくお願いします」


真一とアズキアス魔王は、ボソボソと竹千代王の背中を互いの手がぶつからないように遠慮がちに撫でていた。その様子に、


「ええい! 大の男が何を照れながらボソボソと話しておるか! 主らは見合いの相手同士か」


そう言いながら竹千代王は、二人の肩に腕を回す。すると、真一とアズキアス魔王は、二人して照れて赤くなってしまい……。


「何を顔を赤らめておるかぁああ」


プッ、アハハハハハ。


皆が、竹千代王の言葉に一斉に笑い出す。

見せていた涙も引っ込んだとばかりに、


「ほれ、座らんかい」


二人を強引に座らせる。


「レオン、主も座れ、呑むぞ」

「ああ、呑もう」


レオン王も座り、


「皆、呑もうぞ!」


竹千代王は、グラスを掲げると声を張り皆に言った。すると、皆もグラスを掲げる。

宴の場は穏やかに場の空気を取り戻して行った。


「さて、アズキアス、もう、真一を紹介する必要はないな」

「ああ、竹千代。その、我は初めて誰の立ち会いもなしに、人と話せたぞ」

「そうかそうか」


ポカンとする真一だが、アズキアス魔王の言葉には突っ込まずに。にこにこと笑みを零した。


「では、真一よ。もう一人の友を紹介しよう」

「ああ」

「レオン・グラン・ノアール・ロクシャールじゃ、彼はハイエルフの国の王でな、大国と呼ばれるロクシャール第一王国を治めておる」

「勇者真一よ、レオンだ。よろしく頼む」

「はい、レオン王。磨嶋真一です。よろしくお願いします」

「カタッ苦しい奴だな、真一。レオンでいいぞ。我が友の初めての男だからな!」

「え?!」

「ハッハハハ、レオン~、その言い方は略し過ぎだ、誤解を招くぞ? フフフ」

「竹千代、誤解てなんだよ、もう」


照れながらいう、アズキアス魔王。横を見ると真一も参ったな、というような顔をして少し照れている。この男は、意味がわかっているのだろうか? 否、わかっているとしておこう。


「あ、真一、アズキアスの名は、アズキアス・グラン・ノアール・サタルキアと申す。アズキアス魔王国の魔王をやっておる」

「魔王!」

「ピヤッ」


真一の、魔王という声に驚いたのか、アズキアス魔王は、どこから漏れたのかというような声を出す。


「竹千代、やっぱ、此処は異世界なんだなぁ」

「何を今更、散々、我と話しをしたではないか。あ、アズキアスよ。ブラッドワインはいつ頃出荷するのが良いかの?」

「うん? どうしたの急に」

「我がレジェンド王国は、今月の末から建国五千年の祭りが十日間続くであろう? それに加え、真実の勇者の祭りやパレードも開くことになりおったし、七の字を持つ者の披露目の式典もあるのじゃよ。依っていつもより食材が増えるのじゃ……つまり殺生が増えるということでな、ブラッドワインの生産力も上がる。

それから、皆で相談したのだがな、主の国から派遣して貰ったヴァンパイア種族の特に研究者なのだが、この度、獣人種族の血を長年に渡り研究した成果が出ての、彼らが掛かる病気の一つに特効薬が出来たのだ。その功績に、荷馬車、数台分ではあるが、ブラッドワインを贈り物として届けたいのだがな」

「レジェンド王国のブラッドワインは、ヴァンパイアたちには好評だから、我は願ってもないことだが、良いのか? 頂いても……、その」

「何を申すか、当然の報酬だ」

「では、有り難く頂く。出荷時期は竹千代に任せていいかな?」

「ふむ、では、明日にでも手配するとしよう」

「感謝する、竹千代」


竹千代王とアズキアス魔王は、話し終わると、一息入れるように酒を流し込む。その横で、真一は、目を見開いて固まっていた。ヴァンパイア、ブラッドワイン……。それらの単語を聞いて、何やら想像力をかき立てたのかもしれない。


「竹千代、此処は異世界だよな?」

「まあ、真一からしてみれば、そうだな」

「ヴァンパイア?」

「ふむ」


淡々と答える竹千代王。

固まる真一を見て、レオン王が、


「竹千代、真一に説明してやった方がいいぞ。絶対、良からぬ事を考えてる顔だ」

「ぬっ」



宴の席は和やかに進んでいるようだ……?

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