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第37話 宴の席で。さあ皆を紹介しよう!

 「宴の始まりじゃ!!!」


ウォオオオオ!!!


字を持つ者と、友とも側近とも呼べる者たちに寄る宴が、雄叫びと共に始まった。


宴の会場となってしまった診察室は、仕切りのカーテンは取っ払われ、ベッド六台と診察台三台が診察室の出入り口の扉から見て左側に全て寄せられていた。床には厚みのある毛氈もうせんの風合いのような朱色の敷物が敷かれ、座布団と思われるものや四角に三角に円柱形にと様々な形のクッションが置かれ、座椅子もあれば、竹千代王は脚に見事な細工がされてある肘置きに片肘を置き寛いでいる。見回せば、クッション類は皆、自分のお気に入りがある様子だ。

部屋の中央に長く置かれた脚の短いテーブル……、そう日本の座卓のようなテーブルが置かれ、酒や料理、そしてスイーツが所狭しと並べられている。


 真一はというと、竹千代王とバイス王の間にちょこんと大きな体を縮こまらせて、座布団も当てずに正座をし座っていた。それを見て竹千代王は、


「ぬっ! 真一ぃ~何をでかい体を縮こまらせて座っておるか、ふむ、座椅子かの」


と言うと、その場を立ち上がり、辺りを見回すと、出入り口の扉の前を目掛け歩いて行く。そして、


「真一、この座椅子と座布団を尻に当てよ」


戻って来ると、真一に立つことを促し、座椅子を置き、座椅子の上に座布団を敷いてやる。

その座椅子は木製で美しいカーブをした造りになっており、座布団は敷物と同じく朱色で四隅に房の付いているものだった。

座ることを竹千代王に促されたものの……、真一はもじもじとしている。


「ぬっ! 真一、腰を下ろさぬか」

「はい……」


返事はするものの真一は動かず。


「あらやだ、この子! 緊張しちゃってるわ。随分ねぇ~、僕、連れ回して慣らしたつもりだったけれどぉ~、たまに大勢の前で緊張しちゃって固まるのよね、極度に遠慮するというかねぇ~」


ブツブツと独り言をいうアルシャル王。


「ほら、真ちゃん、座りなさい」


アルシャル王は、竹千代王の隣に座っていたが、立ち上がり一歩を踏み出して、真一の尻を叩く。


「わぁ!」


と、声を上げる真一。


「は、恥ずかしいじゃないか! アルパパ」

「はいはい、お座りお座り」

「アルパパ、俺、犬じゃねぇよ、もう」


ブツブツと言い出す真一。

それを見ていた場の者たちは、ドッと湧き上がる。


ワッハハハハ!!!


「はいはい、その元気があれば、大丈夫。はい、座って座って」

「もう」


真一は渋々……、恐る恐るか? 座布団の上に正座する。すると、隣に座っていた竹千代王が、真一の太股を平手を乗せるように叩くと、


「何をかしこまっておるか、脚を崩せ。寛げ、馬鹿者」


太股を叩かれた真一、ビクッと少し跳ね上がったが、照れながら脚を崩す。それを見て隣に座っていたバイス王は、真一にグラスを持たせ、何やらわからない酒を注ぐ。

バイス王が酒を注ぐ様子を見ていた皆は、それぞれにグラスを持ち隣の者同士で酒を注ぎ合った。

皆のグラスに酒が注がれた頃、竹千代王がアルシャル王をつつく、


「父王、出番ですよ。先ずは真一の快気祝いの乾杯の音頭を」

「あら、それを父王に譲ってくれるの? 千代ちゃん」

「こんな場で、我をいじめないで下さい、父王よ」

「フフッ、ありがとう。我が子竹千代」


コソコソと話す、アルシャル王と竹千代王。


そして、アルシャル王は、


「皆、聞いてくれ」


腹から出した低音の重く艶のあるアルシャル王の声に、湧き上がっていた場が静まる。


「真実の勇者真一の快気祝いじゃ! 見事、体内の毒を消し去った。まずは、乾杯しようではないか」


座ったまま、アルシャル王がグラスを掲げると皆がグラスを掲げる。ついでに真一も釣られてグラスを掲げると、それを見たタイミングでアルシャル王は、


「乾杯!!!」


と力強く言った。


乾杯!!!


皆が声を張り上げる。そして歓声が巻き起こる。歓声の合間に、


「勇者真一、御快復!!!」

「勇者真一様、おめでとう!!!」


など、声を掛ける者は皆、真一に向かい持っているグラスを前に突き出して言葉を口にする。戸惑う真一、


「真一、グラスを真一に向かい突き出して居る者に言葉を掛けよ。真一から言葉を貰わぬ限り、出したグラスは引っ込められぬのゆえ」

「え?」

「ありがとうのひと言で良いから」

「あ、わかったよ、竹千代」


竹千代王から教わった通り真一は、


「ありがとうございます」


グラスを突き出した者に視線を合わせ、礼を述べて行く。

そして、真一にグラスを突き出した者たちに、真一が礼を述べ終える頃、


オォオオオ……。


と、ざわめくような歓声が辺りに響き、


「流石というか、何というか……」

「やはり真実の勇者なのでしょう!」

「凜々しい居ずまいで、視線を相手に合わせ、目には慈しみを口には礼の言葉を述べ。受けた方は、誇らしくなりますな」

「いや、参った。快気祝いに差し出した我らのグラスに見合う礼の仕方ですな、フォホホホ」


どうやら、この異世界では、相手の前(方向)にグラスを突き出して言葉を掛けるのは、その言葉を捧げる意味があるらしく。グラスを突き出された方は、その言葉を受け取るかどうか考え、そして返答をする。返答を返された者は、その返答が気に入ればグラスを掲げ(掲げる高さは高いほど良い)、気に入らなければ、グラスを下に置く(テーブルの上など)。


ざわめく歓声の中にあった言葉は、きっと真一に対しての褒め言葉なのだろう。


真一に差し出されたグラスは……、当然のように全て掲げられた。


「何が起きているんだ?」

「真一、とにかく、グラス掲げ、酒に口を付けよ」

「あ、ああ」


真一は、竹千代王に言われるままに、グラスを掲げ、酒を一口飲む。すると、


ウォオオオオ!!!


と、歓声が巻き起こった。


意味がわからない真一は、照れたように残りの酒を飲み干した。



「ほら、真ちゃん、食べなさい。これもこれも、あ、これも美味しいわよ」

「あ、うん」


アルシャル王は、せっせと真一を構い倒し料理を勧めて行く。


「お腹にちゃんと入れなさい、ね!」

「わかった」


それを見ていた竹千代王は、


「ええいぃ! 我の前を真一を構いたさにこの妖怪爺ぃは! うっとうしいわ!」

「あらやだ、この子は。緊張して遠慮した子を放っとけないでしょう?」

「ぬっ! そうなのか?」

「そうなのよ」


真一の横で、わちゃわちゃと騒ぐ王二人。

皆はその様子を遠巻きに眺めている。しかし、その眺めている目はウズウズとして……。


「ぬっ! 視線を感じませぬか、父王よ」

「あらやだ、この子てば、私は気付かない振りをしていたのに」

「流石、妖怪爺ぃ……」

「それほどでもぉ~。て、千代ちゃん、私を褒めてないわよね?」

「気付きましたかな? 父王よ」

「気付かないわけあるかい! と、言いたいわね」

「なあ、竹千代。なんでアルパパは、妖怪爺ぃなんだ?」

「それはな、真一よ。心して聞け」

「お、おう」

「この爺ぃは……、何処にでも字の者在るところに出没して、何にでも首を突っ込んで来るのじゃよ」

「え、何処に居てもか?」

「そうじゃ。あちらの件、こちらの件との。我など、この前は王城の庭を散歩しておるときに後ろから……」

「う、後ろから(ゴクリ)」

「突然、羽交い締めにされて口を割らされたのじゃ。しかも、何をするのじゃ! と言うと、くすぐりおる!」

「くすぐる!」

「しかも、急所を心得ておるのじゃ……」

「プッ」


吹き出す真一。本気で眉間に皺を寄せる竹千代王。その横でニコニコと酒を飲むアルシャル王。


「あらやだ、この子は古い話を」

「数日前ではないか、父王よ」

「ていうかぁ~千代ちゃん、そろそろ限界じゃない?」

「ふむ」

「皆、真一を僕たちが独占しているとばかりに、さっきまで暖かかった視線がぁ、ギラつき始めたわよ」

「ふむ、父王、限界ですな」

「そうね」

「では、我が皆を真一に紹介しましょう」

「頼むわね」


コソコソと話して竹千代王は、


「皆、聞いてくれ」


酒の入ったグラスを掲げると、


「皆を勇者真一に紹介したい」


ウォオオオオ!!!


と、待ってましたとばかりに歓声が轟き、


「静まれ! あ~では、字の者から行くぞぉ~。呼ばれた者はグラスを掲げるか、立ちませい」


オウ!


勢いよく一斉に返事をする。


「一の字を持つ者ぉ~」


竹千代王は、横をジト目で見ながら言うと……。

グラスを掲げるアルシャル王と、


「はい」


通る美しい声が聞こえた。返事をしながら立ち上がりグラスを掲げる。


「レイラ!」

「アル!」


まるで恋人の再会のような雰囲気である。


「レイママ」


真一も立ち上がった人物の方を見て言うと、


「あ~紹介の必要はないのぉ~次~」


淡々と進める竹千代王。


「二の字の者、は、おらんの」


「はい」


声が揃い、二人の者がグラスを掲げ返事をする。


「な゛に゛?!」


竹千代王は目を丸くする。だが、気を取り直して、


「真一、二の字を持つ王と王妃じゃ」

「勇者真一、二の字を持つ我は、アンシャルル・二・グラン・レジェンド。二の字の王を務めさせて貰っている。隣の者が……」

「アンティエーヌ・二・グラン・レジェンドと申します。アンシャルル王が妃でございます。お見知りおきを」

「よろしくお願いします」

「真一、彼らは主に我が国の外交を担当している。二の字の父王、母妃、簡単な紹介ですみません、大人数にてご容赦下さい」

「いいよ、竹千代、我が子」

「竹千代、続けて下さい」


二の字の者に先を施され、


「では、失礼して。あ゛~三の字の者ぉ~」


はい!!!


複数が立ち上がり、複数がグラスを掲げる。


「待て待て待て……」


慌てる竹千代王は、


「ひいー、ふうー、みいー、よおー」


と、立ち上がった者、グラスを掲げた者を数え出す。


「な、な、なんと!!!」


座っていた竹千代は、思わずというように立ち上がり……、


「三の……字の者がぁ~、全員おるではないかぁああああ」


絶叫するように声を上げる。

この場には、総勢、十四人の三の字を持つ者が全員揃って居た。


「我が我が、ここ三十年……、皆で集まろうと声を掛けても、二、三人、否、誰か一人は必ず揃わなかったではないか……、それをの、それをのおぉ……、ブツブツ」


しょげる竹千代王、だが!


「真一よ! これが我が三の字を持つ者たちじゃ、以上」


とだけ告げて、ストンと座る。


「へ?」


と、三の字を持つ者たち、真一、皆もキョトンとする。

竹千代王の方を見ると、拗ねているようだ。


「よろしくお願いします!!!」


場の空気を読んだのかどうなのか、真一は立ち上がって大きな声で挨拶をすると深々と頭を下げた。

それを見ていたアルシャル王は立ち上がって、


「真ちゃん顔を上げて、僕を見てて。真っ直ぐに立ってね、左手の指を綺麗に揃える。そして、鎖骨の下の真ん中辺りに中指が来るように胸に手を置いてね、真っ直ぐに前を見るのよ。それがこのレジェンド王国の人に敬意を表す方法なの、日本のお辞儀と一緒よ。やってご覧」

「あ、わかった、アルパパ」


真一は、手に持っていたグラスをテーブルに置くと、座椅子を外し敷物上に立つ。そして、アルシャル王に教わった敬意を払う形を取り、


「よろしくお願いします」


改めて挨拶をした。


オォオ……。


ざわめきが起き、次には、


パチパチパチパチ……!!!


拍手が巻き起こっていた。



さて、日曜日の真っ昼間から始まった宴の席では、場に居る者の紹介が始まった。

どうやら大人数のようだが……、続く者たちの紹介の前に、先ずは一息入れるとしよう。

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