第34話 お世話いたしますわ。リリとルル看護師
グゥ~~~~~~~。
盛大になる真一の腹の虫。慌てた真一が、
「ごめん、ごめん、すぐに鳴らないようするから! ごめんなさい!!!」
と言いながら、慌てて自分の腹を両腕で押さえ込み踞る。額には汗も掻いているようで……。
それを見て、慌てたのが竹千代王とアルシャル王だ。
「何をしているんだ、真一!」
「真ちゃん、真ちゃん、大丈夫だから」
竹千代王は、真一の腕を掴み、踞る姿勢から腕を引き剥がし、何とか上を向かせようとする。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
真一は言い続ける。
「真ちゃん、真ちゃん、大丈夫だから」
アルシャル王は、真一の背中を擦り……。
皆、軽くパニックを起こしたようにオタオタとしている。
「竹千代、真一の腕を掴むのを止めなさい」
「あ、否、父王。真一はどうしたのだ? 腹を抱えておる、痛むのやもしれん。 だから、我は落ち着かせたいのじゃ!」
「竹千代、竹千代、君までパニックになる必要はないの」
「父王、しかし、真一が苦しそうだ!」
「違うの、竹千代、父王の言うことを聞いて。父王に任せて。お願い」
アルシャル王は、最後の『お願い』という言葉に力を込めて言った。それを聞いた竹千代王は、オロオロとしながらも……、
「父王! 我は、我は、手を離すが……、側に居る! 何か出来ることがあったら言ってくれ!」
「うんうん、分かった」
竹千代王が、
「真一、腕を行き成り掴んですまなかったな」
と言いながら、恐る恐る真一の腕を掴んでいた己の手を離す。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
と、言い続ける真一。
「大丈夫、大丈夫、真ちゃん、ねえ、真ちゃん」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「大丈夫だからね、真ちゃん、真ちゃん」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
繰り返される会話。それを見ていた竹千代王は、恐怖を覚え……、
「父王!」
と、叫ぶが、
「大丈夫、大丈夫、真ちゃん、真ちゃん」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
二人の会話は繰り返される。
そして、アルシャル王は、竹千代王の方を見て、真一の背中を擦る左手はそのままに、右腕を自分の顔の横に上げて、軽く小さく前へ押すような仕草を何度か繰り返して笑顔を見せた。
竹千代王は、何が起きているか分からぬ、というような顔をして、その場に立ち尽くす。
「真ちゃん、大丈夫。ねえ、大丈夫」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「真ちゃん、聞いて。よく聞きなさい」
「ごめんなさい、うっ、うっ……」
「聞きなさい、お腹の虫が鳴ることは悪いことなの? アルパパが教えたことを言ってごらんなさい」
「ごめん……な、アル、パパ?」
「うん、アルパパが側に居るよ、さあ、お腹の虫が鳴ることは悪いことなの?」
「あ、あ、あ、あの……」
「うん、真ちゃん、真ちゃん、大丈夫だから。アルパパに教えて、お腹の虫は?」
真一の背中を優しく擦りながら、言葉をかけ続けるアルシャル王。
「アルパパ、あのね、お腹の虫は鳴ってもいいんだよ」
「そうだね、そうだね、真一。じゃ、お腹の虫がグゥ~となったらどうするのかな?」
「ご飯を食べるの」
「うんうん、真一、そうだね。良く出来たね」
「うん、アルパパ」
「じゃ、ご飯を食べたい時にはどうするの?」
「勇瑠おじさんか花琉おばさんに言うの、それで二人が居なかった近くの大人の人に言うの」
「うんうん、良く出来ました。えらいね、真ちゃん」
「うん、アルパパ」
「じゃ、真ちゃん。鳴っているお腹はどうするの?」
「撫でて上げるの」
「うんうん、賢いね、真ちゃん。じゃ、今はどうしているのかな?」
「あ……、押さえていた。お腹さんを押さえていたよ、ごめんなさい」
「じゃ、じゃぁ、お腹さんを撫でて上げようか」
「うん、アルパパ」
真一の体から、力が抜けて行くのがわかる。丸めていた背中は上体が起きてきて、自らの腹を優しく撫でてやっている。そのうちに、グゥ~とまた腹の虫が鳴り……、
「アルパパ、また、お腹の虫が鳴った」
無邪気な笑顔を浮かべ真一が言った。
「そうだね、真一」
アルシャル王も笑顔を真一に返す。
それを見ていた竹千代王は、胸中の収まりが悪い。
「父王よ、これはどういうことか? 我の目の前で何が起きたのか? すまぬが教えては貰えぬか」
「うんうん、竹千代、心配になるよね」
「ふむ」
「けど、真一に先に何か、食べさせないとね」
「それはそうじゃが……」
「あっ!」
突然、思い付いた声を上げるアルシャル王、
「真一に何を食べさせようか? 千代ちゃん」
「何?」
「この子、毒を盛られて……、まあつまり、病み上がりよね?」
「おお、そうじゃった。父王よ」
悩み出す二人の王。そこへ、
「リリと!」
「ルルにお任せ下さい!」
行き成り三人の前に現れた、女の子?
「おお~、忘れておったわ」
アルシャル王がいうと、
「リリとルルではないか、グレンが組んでくれた看護チームか?」
竹千代王が女の子たちに聞く。
「ええ、英雄王竹千代様、私たち双子の姉妹と、フランツ医師、ライル助手、そして兄たちグレン助手、グロリー医師が、今回のチームですわ。ああ、グロリー医師は、勇者真一様に合う栄養剤を調合してから参りますので、少し遅れますわ」
「なに? まことか?」
「ええ、兄様が最強のチームと申しまして」
「ふむ、ルルの言う通りだが……」
「プッ」
吹き出す、アルシャル王。
「千代ちゃん、グレンやつ、金庫の中に案件を入れたような用心深さが発動したみたいだね」
「ハハッ、そのようです」
「話しは終わりましたの? 字を持つ偉大な王様、では、勇者真一様の看護をさせて頂きますわ」
リリ看護師が言うと、
「待て待て、リリ。真一に紹介をする」
「分かりましたわ」
ツンとした姉の方のリリ看護師が言うと、アルシャル王が、
「真一、紹介するね。この二人が当面の真一の看護と身の回りの世話をしてくれる、双子の姉の方リリと……」
「リリ看護師ですわ、私、字を持つ者様方のション便臭いガキどものお世話もして参りましたの、ですから、看護に掛けて、いえ、身の回りのお世話まで手抜き無くする技術がございますわ! 何なりとご遠慮なくお申し付け下さい」
「それから、双子の妹の方ルル……」
「勇者真一様のあんなお世話やこんなお世話が出来ると思うだけで嬉しゅう御座います、ルルでございます。何なりと罵倒する勢いで仰せつけ下さいませ」
「え゛……」
固まったまま、顔だけ、アルシャル王と竹千代王の顔を交互に見る真一。
「あ、あ、あ」
言葉にならないようだ。
「ブッハハハハハ。お手柔らかにねぇ~、リリちゃん、ルルちゃん」
「はい」
「はい」
と、声を揃え返事をする双子の看護師たち。リリとルルは、見た目は小柄で華奢だ。年の頃……、否、肉体年齢は、十代にも二十代にも見え、よく分からない。
「御伽王様、リリは質問がございますわ」
「何かな」
「先ほど見ておりましたが、勇者真一様は、何か精神的なご病気がおありですか?」
「ああ、そうだね、リリ」
御伽王様と呼ばれたアルシャル王が答える。
「真一は、小さい時にね、腹の虫が鳴ることを咎められて育ったみたいなんだ。それでごく稀に……、環境の変化なんかがあった場合にね、さっきのようなパニックを起こす。でも、もう、十年以上、このパニックは起こして無かったんだけどね……」
「さようですが、では、リリはそれを踏まえて看護いたしますわ」
「うん、頼むよリリ」
「御意」
そういうと、リリとルル看護師が真一の側に行く。
「まずはルル。ベッド脇の隙間が開いた扉を閉めなさい。これが食欲の元凶ですわ」
「はい、リリ」
返事をすると、リリ看護師が、扉に背中と尻を付けて押して行く、すると、向こう側では『あ~~~』や『待ってぇ~』など声がしたが、お構いなしに扉は閉じられて行く。
「ぬっ! いつの間に扉が開きもうしておったのじゃ」
「まあねえ~、あれ、昼間から酒が入っている字の連中でしょう? 千代ちゃん」
「ぬっ、よくわかったの、父王よ」
「わからないわけがないわよ、騒いでいたと思ったら、扉が徐々に開くんだから」
「ぬっ! 父王、何時からそちらのカーテン越しに我らを覗いておったのじゃ? 騒いでおった連中の声を聞いておるとなると……」
「あらやだ、この子は」
アルシャル王は、そっぽを向く。
「真一様、何が食べたいですか?」
リリ看護師が聞くが答えない真一。
「真ちゃん、何が食べたいかな?」
「あ……」
「なんでも言って良いのよ」
ルル看護師が、真一と同じ目線に腰を落として話しかけると、
「プリン……、でもいいのかな?」
「ええ、ええ。食べられるかな?」
「うん!」
と、返事をする真一。
それを聞いて、いつの間にかワゴンをベッドから少し離れた場所に持ち込んでいたリリ看護師が、プリンと水を用意する。
「じゃ、真ちゃん、まず、一口、お水を飲みましょう」
「プリンは?」
「後ろのリリ看護師が用意していますよ、でもね、お腹を吃驚させないように、少しお水を飲みましょうね」
そう言うと、ルル看護師は、グラスを真一に握らせる。それを、只、見詰めているだけの真一。
「真ちゃん、温いお水は嫌かな?」
「そうじゃないけど……」
「じゃ、飲んでごらんなさい」
「……」
黙ったままの真一。
顔を見合わせるリリとルル。
「真ちゃん、ちゃんとお水を飲まないとぉ~、お姉さんがチュ~して口移しで飲ませますよ!」
思いも寄らない言葉に、真一の中で何かが(DTか?)発動したのか? 思わずグラスの水を一気に飲み干すと、腕が前に伸びるだけ伸ばしたというようにグラスを持った腕を前に差し出し、
「飲んだよ!」
と言う真一……。
呆気に取られる、アルシャル王と竹千代王。
「はい、良く出来ました。真ちゃん、グラスを下さいね」
ルル看護師は、真一の手からグラスを取ると、リリ看護師に渡す。そして、リリ看護師とルル看護師は、
「はい、プリン(ハート)」
と言いながら、真一に、皿に果物や生クリーム、チョコレートソースで飾り付けられたプリティなプリンを渡す。
キョどる竹千代王。
チュ~して口移し……を、期待していたエロ爺ぃは、チッと舌打ちをして……、否、アルシャル王は、軽く目を逸らす。
ニッコリと笑う、双子の看護師、リリとルル。
暫くすると、
「美味い!」
と、満面の笑みでプリンを食べる真一は言った。




