第28話 真一と竹千代王、血の縁3―予言―
「ふむ。真一よ、心して聞け! と、我はこの予言について話す前に其方に助言した方が良いのであろうが……、許せ、真一。我もな不可解というか不思議というかだな、その驚異にも似た感覚でな、何せ、そんな話しは我がこの世界に来てから聞いたこともないのだから……」
まどろっこしいとはこの事で……。持って回った言い方というべきか、勿体ぶっているというべきか、そんなような前置きを竹千代王はしてから話し出した。
「真一、占いや予言。などは、真一の世界にもあったじゃろ? 勿論、我が居た時分(日本にて年号、大同~弘仁)にもあった。この異世界にも占い師や予言者がおっての、まあ、真一の件は……、占い師と予言者、三人の者が言いよったから、ちと騒ぎになってな」
「三人の者?」
「ふむ。これがまた、皆、有名どころの者たちでな。レジェンド王国のハイヒューマン、リュカ・レイディア占星術師、我の三の字の宮におる予言者半月。そして、ロクシャール第一王国所属の占星術師、ランディス・レーン。この異世界ではな、己が進む道を示して貰うが如く、彼らに占いや予言を依頼する人々が多いのじゃ」
「そんな有名人がなんて言ったんだ?」
真一は食い気味に竹千代王に聞く。
「ふむ。三人の者は皆、『真実の勇者が我らの世界に現れる。世界の難問を解き明かし、今一度、世界に真の幸福を問う』と告げた」
「何か、こう、すげぇな」
「そうなのじゃ……。最初はの、リュカが三の字の宮に半月を尋ねて来おったのじゃがな、星読みをしよったら、予言のようなものが見えた。と、星の周期からもそのような兆しは見えるが、半月殿は如何と……。」
「それで、半月さんはなんて答えたんだ?」
「それがの、丁度良い所へ御座ったとな。我も『真実の勇者が我らの世界に現れる。世界の難問を解き明かし、今一度、世界に真の幸福を問う』という予言を授かったところじゃと……」
「え?」
「驚くべきは、ここからでの。それを聞いたリュカが、私も同じ言葉を受け取った。と、言いおって。二人で話しをしおる時にな、乗り込んで来たのじゃ」
「乗り込んで来た?」
「ふむ。レオンがランディス・レーンという男をの、連れて我がレジェンド王国に乗り込んで来よった、そして早々に三の字の宮の半月のところへ一目散よ」
「三人目が、来たってことか……」
「ふむ。ああ、レオンというのは、現ロクシャール第一王国の王じゃ。ハイエルフの国のな。まあ、この男もなぁ~色々とあるのじゃが……。ああ、話しが逸れてしまうのお。
そう、三人目が来おっての、また、同じ事を言うたのじゃ。『真実の勇者が我らの世界に現れる。……』とな」
「そんな事があるのか……。あ、否、俺は占いや予言には全く詳しくはないから、それが普通の事なのか、驚くことなのかは、いまいち、分からないんだがな」
「ふむ、我も詳しくはないが、これは驚くべき事だと思うぞ。なにせ、我がこの世界に来て初めてのことじゃったからな」
「そうなのか」
「ふむ」
二人、腕組みをして考え出すが、真一が口を出し、
「驚くことだというのは、まあ、わかったんだが。俺にはピンと来ないんだ」
「ふむ、では、続きを話そう。まあな、ピンと来ないのは、三人の占い師、予言者が集まって話しをしている分には、そうよの、答え合わせのようでもあるな」
「うんうん」
コクコクと首を縦に振り、頷く真一。
「だが、ハイエルフの国の者はの、余り外の世界と接触をしたがらないのだ。まあ、引き籠もるというのかの、そのような種族での。そこのお国抱えの占い師が答え合わせとばかりに我が国に乗り込んで来よったとなれば、騒ぎになり噂は広がりよっての」
「そうなのか?」
「ふむ。そうして……」
「うんうん」
言葉を途中で止める竹千代王。
「あの、馬鹿者がの」
「え?」
「馬鹿者のレオン目が、国事として、『我らの星読みが予言を授かった。この予言は、彼のレジェンド王国の星読みと予言者にも授けられた』と、己の国のみならず、世界に向け公表しおったのじゃ」
「ええ! その予言をか?」
「そうじゃ。それによって世界は大騒ぎじゃ。それが、今より三十年前。其方が生まれた年じゃの」
「うんうん、え?」
「其方の生まれた年じゃ。其方のことじゃよ’真実の勇者’真一殿」
「へ~……、ええぇえええ!!!」
「否、そのように驚かんでもよいじゃろうて、話しの流れからして其方のことじゃろ?」
「ま、ま、待っ」
「待ってくれ。とな、ふむ、待とうかの」
涼しい顔をし出した竹千代王。一方の真一は、餌を喰らう金魚のように口をパクパクとさせている。
「こ、こ、こく」
「国事かの?」
「ああ、そうだ。国事てなんだよ」
「国事は国事じゃな」
「この世界では、予言を国が挙げて行うのか?」
「まあ、この異世界は、長生きするものが多いでの、祭り事の一つみたいなもんじゃ」
「祭り事のひとつぅ~、じゃ、そのレオンという王様は祭りが好きなのか!」
「ふむ。どうじゃろうか……」
「どうじゃろうか……てぇ」
「フフフッ、聞きたい話しはそこか? 真一」
「え? その、竹千代。どうして、そのな、俺が’真実の勇者’なんだよ。どうして、そんなことが言える? 分かるんだ……」
「ふむ、そこじゃの」
待ってましたとばかりに竹千代王は話す。
「話しには続きがあっての、それから九年後。其方の名前を呼ぶ者がおったのじゃ」
「俺の名前を呼ぶ?」
「ああ、その者は’血の縁’というな、ハイヒューマン独特の特殊な能力を持っておっての。その能力とは、同じ種族、つまりハイヒューマン種族の誕生、死、危機などを感知するものでな。その者が’磨嶋真一’と口にしたのじゃ。
連日連夜、名を呼ぶものだから困った両親がの、必死になって謎解きに挑戦した」
「両親て?」
「ああ、その特殊能力者は幼くてな、名を、ナーシャ・七・グラン・レジェンド、という。当時、二歳じゃ」
「二歳!!! なんだそれ! 否、待て、ナーシャ……、何処かで聞いた名前だが……、あ、姫の名前か? そうだ、俺が意識を失う前に側に居た、姫の名前だ! それから?」
「フフッ、その姫で間違いないの。ふむ、そしてこれまた偶然なのじゃがな。ゲートを通りこの異世界に帰って来ておった仙川隆之介と、我、タルマ、フランツらと、酒を酌み交わしておったのじゃ……。ああ、フランツは、其方を治療した医師じゃ。腕の良い医師が側に居てくれた、感謝してくれよ、真一」
「あ、ああ。フランツ医師にお会いしたら礼を言うよ」
「ふむ、良い子じゃの」
「良い子は止めろ!」
話しのどさくさに紛れ、真一を子供扱いする竹千代王、照れて反撃をする真一。
「それから?」
「酒を酌み交わす中、酒の肴にな、隆之介が磨嶋の話を始めたのじゃよ。ほれ、先ほど話したじゃろ? 磨嶋源太殿と隆之介の話を……」
「ああ」
「磨嶋本家の末娘が、不倫をして産んだ子供の養育費を毎月百万円、今でも振り込んでいると、その子供は不倫相手の男が家に養子として引き取とり、大病院の跡取りとして育てていると、これからも大変じゃ。……そのような話しをしておって、その子供の名前が、’磨嶋真一’という」
「え? 俺?!」
「そうじゃ」
「なんで金の話しが出て来る? 俺、磨嶋の……、生みの親になんか、会ったことがねぇよ! 三歳までは……、三歳の途中までは育てて……、貰ったと父に……」
「ふむ」
泣きそうな顔になる真一。それを振り切るように話しを続ける竹千代王。
「まあ、聞け、真一」
「ああ聞くよ、聞かせてくれ、竹千代」
「ふむ、それからはトントン拍子でな、磨嶋真一の居所を突き止め。磨嶋真一の名しか口にせぬ二歳の娘を心配しての。両親は、字を持つ者たちと相談の上、兎に角、手当たり次第、動いてみようということになった。そして、ゲートを通り……。
真一。其方の世界へ、タルマ、ターニャ、ルベルト、ナーシャらは、引っ越しをしたのじゃよ」
「はい?」
「覚えておらぬか? 藤宮家の隣にな、大きな洋館が在ったじゃろ」
「洋館?」
「そうじゃ、白百合邸と名前が付けられておったかの」
「ああ! 白百合邸か、思い出した。今は空き家だが、まだ、美しいままあるぞ」
「そこじゃ。そこにな、其方が子供のおり、そうじゃの九つか十か、外国人の家族が越して来たであろうが」
「俺が、九つ……、小三か? 外国人……」
「小さな女の子がおったじゃろ?」
「女の子、女の子……」
「その女の子はの、真一に、庭にあるブランコに乗せて貰うと、大層喜んだそうじゃ」
「ブランコ、か……。あ、ナーシャ!」
「その子も名前をナーシャと言った!」
「そうだ、真一。その女の子が、ほれ、あの……」
「あの……もしかして、さっきの巨乳のナーシャか!」
「ぬっ!」
つい、口が滑ってしまった真一に。
「巨乳じゃと?」
「あ、いや、すまん、竹千代」
「何を謝ることがあるか、それにしても、見るところを見ておるのじゃなぁ、真一よ」
「なんだよ、ニヤニヤと。気色悪いぞ、竹千代ぉー」
照れ隠しに真一が言うと、フフ~ンと上から目線を寄越す竹千代王。
「い、イヤらしい視線で見てないからな! 安心しろ、竹千代」
「何を抜かすか、安心しろ? などという、独り身の男ほど信用も安心も出来ぬは」
「な、何を! 童貞を舐めるなよ! 竹千代」
「なに?」
一瞬、固まる竹千代王。
「真一は、童貞だったのか」
「わ、悪いかよ」
「プッ」
吹き出し、大笑いをする竹千代王。耳まで真っ赤にする真一。
この二人の話はまだ続く。




