第27話 真一と竹千代王、血の縁2
「勇瑠と花琉は、我の子供たちじゃ」
診察室で目覚めた真一は、竹千代王と話しをしていた。
ポカァ~ンと口を開ける真一に、
「ぬっ、ぽかりと口を開けておるが、聞いているのかの? 真一」
「……」
「真一!」
「ああ、ああ、聞いてる」
「ふむ」
真一の頭の中では、まさか勇瑠と花琉が竹千代の子供だなんて! そんな馬鹿な!!! と、グルグルと頭の中を回っている。
「竹千代? 聞いてはいたが……、どういうことだ?」
「ぬっ、どういうこととな? そう言われてもなぁ~、我の子供たちとしか言えぬしのう……。そうじゃ! 我、竹千代・シャルマ・三・グラン・ノアール・レジェンドと、我が妃、舞桜・ローレライ・三・グラン・レジェンドの間の子らじゃ!」
「ムゥ~、いや、そのな? 長いフルネームを言われてもな? そこじゃないと言うかだなあぁ」
「ぬっ、長いフルネームじゃと? これでも短く言っておるわ。贈られた名を全て言いおると、日が暮れるからのお」
「へ?」
これがほんとのずっ転ける図というやつだろう。見事なまでに真一はベッドの上で転げて見せた。胡座を掻き座る体勢から両手を後ろに付き、肘がカクッと曲がり、そのまま体勢が崩れるという具合だ。
その様子を見ていた竹千代王は、
「ふむ。我もこの世界に来て、其方のように目をかっぴらき、パチクリとさせて。はたまた、ずり転けるというのかの……。例えば、この異世界のハイヒューマン種族の年齢の数え方じゃ……、二百年ほどかかり理解しおったし。召喚やら魔法やらのお、訳の分からぬ事ばかりじゃて頭を抱えよったわ」
「それは……、難儀だったな、竹千代」
竹千代王の話に言葉を返しながら、真一は体勢を立て直そうと、手の平をウネウネと動かしていた。
「ふむ。話しが逸れよったが、ぼやっとで良いのじゃ、理解しおったか真一」
竹千代王が少し身を乗り出すようにして真一に相づちを求めると、
「う~ん。だがな、竹千代。百歩譲って、勇瑠おじさんと花琉おばさんが、竹千代の子供だとするじゃないか、そうしたら、この異世界の住人? だろう。どうして俺が居た世界の戸籍があるんだ? 俺は勇瑠おじさんに養子にしてもらったぞ?」
「ああ、戸籍か。それは我もよう分からぬ」
「わからんのかい!!!」
間髪入れずに突っ込む真一だが、
「ぬっ。聞け、真一。よう分からぬというのは本当なのじゃがな。まあ、其方もいずれは会おうことになるだろうが、仙川隆之介というな医師がこの世界におるのじゃが……」
「仙川隆之介? 日本人みてぇな名前だなぁ」
「ふむ、日本人だ。約百五十年ほど前にこの異世界に来た者よ」
「また、召喚か?」
「否、ゲートを通りよってな」
「ゲートの方か」
「そうなのだが、まあ、そこらは今は置いておいてだな……。其奴の知り合いにの、磨嶋という武士がおるという話しでな。当時は明治維新後の世だったそうじゃ。その磨嶋という人物は嫡男にして、三人姉弟での。磨嶋は武家として代々続いておったのじゃが、武士ではもう飯が食えぬと言うことでな、長女は呉服屋、嫡男は護身術の道場を開き、次男は工業用の宝石を中心に輸入業者を始めよったそうじゃ。
そうしての、隆之介はゲートが開く度に真一の世界の日本に行きおって、磨嶋との交流を細く長く続けておったのじゃがな」
「待ってくれ、明治? だろ。そこから現在まで、磨嶋という人物と、その仙川隆之介という人物が交流しているて、可笑しくはないか? 普通にもう死んでるだろう?」
真一が口を挟むと、竹千代王は、
「まあ、聞け。なんというかだな、磨嶋の家では明治から後、仙川隆之介と名乗る者が尋ねて来たら、何も聞かずに協力してやれることは協力してやれと。明治の世に道場を開きおった当時の磨嶋源太の遺言が、今でも守られているそうじゃ」
「本当か、それて、もう滅茶苦茶義理堅いじゃねぇえか!」
「ふむ。もう滅茶苦茶義理堅いのじゃ」
「竹千代」
「なんじゃ、真一」
素知らぬ顔して、話しを続ける竹千代王。
「それでじゃ、タルマ、ターニャ、ルベルト、ナーシャと、家族として日本に住む時もな、戸籍を用意して貰い、勇瑠、花琉が住む時も世話になった。というわけじゃ」
「というわけじゃ、じゃ、ねえよ。タルマとか見た目は金髪に碧眼の外国人じゃねえか、なんで日本の戸籍が用意出来るんだ? 勇瑠おじさんや花琉おばさんなら、碧眼や翡翠色の目をしていてもだ、髪は黒髪だ。それに、それに……。勇瑠おじさんたちのお陰で俺の目の色は、高校に入った頃は何も言われなくなった、よ……」
「ふむ、そこなのじゃ。勇瑠、花琉は、遠回しに日本人と言っても差ほど怪しまれぬのだが……。タルマ一家はのお、諸に外国人じゃ。だから言っておろうが、分からぬと。何故、戸籍が用意出来るのか……」
「あ、そうか。そういうことなのか……」
「ふむ」
遠回しに日本人と言っても……という竹千代王の突っ込みどころ満載の言葉には目もくれず、真一は先を続ける。
「それでその仙川さんの口利きで、勇瑠おじさんと花琉おばさんが戸籍を得て、俺が養子にしてもらえたのか。あれ、だが、待てよ……、その仙川隆之介という人物は……、その竹千代、仙川さんも代々の遺言かなんかで動いてくれたのか?」
「ふむ、仙川、仙川隆之介は、ハイヒューマン種族じゃ」
「さっきから、ちょいちょい、なあ? 竹千代。そのハイヒューマン種族て何だ?」
「我や其方のような人種じゃ」
「へ?」
「真一~、また其方はずり転けよってからに」
フンと鼻を鳴らす竹千代王は話しを続けて、
「ハイヒューマン種族とは、ほぼ不老不死の人種じゃ。我も真一も隆之介もそうじゃ」
「ほぼ不老不死てぇ~、俺は年を取っているぞ! 自分で言うのも何だが、おっさんになった。三十路だがなぁ……、それの何処が不老なんだか……」
後半はボソボソと言う真一。
「ふむ、真一は実感がないやもしれぬが、これから、百年、二百年、千年と生きれば分かりよるわ」
「俺の寿命は、そんなに長くねえ~よ」
「否、真一は、我らと同じハイヒューマン種じゃ。この先の寿命など、分からぬわ」
「いいや、分かるね、俺は精々、後、五十年も生きれば大往生だ」
「ぬっ! いいや、主はちゃんと神の設計図が示しておるわ。ハイヒューマンじゃとな!」
「神の設計図て何だよ」
「神の設計図は神の設計図じゃ! あ、ああ、今の言い方じゃと、遺伝子じゃ」
「遺伝子ぃ~」
「そうじゃよ、遺伝子じゃよ」
竹千代王が勝ち誇ったかのように?! 言うと、
「俺、そんな遺伝子の話しなんて聞いたことねぇ~もん」
「ムムッ、我のこの世界では当たり前の話じゃ」
「俺、この世界に来たばっかりだもん」
「ムゥ~、其方が来たばっかりだとて、事実は事実じゃ」
最早、子供の喧嘩である。ツーンとする真一に、
「ムゥ~! では、医師を呼び遺伝子を検査をするか? それとも、魔術師を呼び神の設計図を見てみるか? うん? どうだ! 真一!!!」
向きになる竹千代。だが、真一はツーンとしていて、
「此奴め、我の言うことを信用せんと申すのか」
掴みかからんとする勢いの竹千代王、そこに、
「竹千代」
恍けたような甘えたような風に名前を呼ばれ、
「何かの、真一」
まるで親が拗ねた子が機嫌を直し、親を呼んだ時のような嬉しさで、あっさりと返事をしてしまう竹千代王。
「もしかして俺、そのハイヒューマン種族の遺伝子があるから、この世界に召喚されたのか? あ、いや、それだと、竹千代の子供の勇瑠おじさんたちが俺を養子にしてるんだ、ゲートを通ってもいいわけで……」
「ふむ、その辺はの、また、ややこしくての」
肩をすぼめ少し小さくなる竹千代王。
「ややこしいのかぁ~」
同じく肩を落とす真一。
二人の様子を見ていると、まるで兄弟のようで。
「まあ、何にせよ、召喚のお陰で俺は命拾いをしたんだ。感謝しないとな」
にっこりと笑う真一を見て、
「真一ぃいいい」
抱き付いて来る竹千代王に防戦を張る真一!
「けどよぉ~、けど、竹千代! どうして俺がその遺伝子の持ち主だってぇ~、分かったんだよぉおお」
竹千代王に防戦を張る真一は、口から出任せとばかりに適当なことを言うと、
「ふむ」
竹千代王は、真一を抱擁し損なった手を止めて、
「それがな、この異世界は、予言を受けたのだ」
「はい?!」
また、飛んでもないところに話しが行ってしまったと、少し後悔をする真一であった。
だが、竹千代王は、神妙な顔をして話しを続けたのだった。




