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第26話 真一と竹千代王、血の縁1

 「真一、聞いてくれ」


パイプ椅子に座った竹千代王は、脚を開き気味に、指を組んでその手を膝と膝の間に落として座っている。ひと言を終えると、大きく息を吸い込み吐く。そして、話し始めた。


「我はな、悔いておる。悔やんでも悔やんでも悔やみきれぬ。

永き時を永らえているのに、このような、このような、愚かしい己がの、口惜しい……」


そう言うと竹千代王は、組んだ手の指に力を込める。


「その、な? どんな悔しいことがあったんだ? 竹千代」

「其方のことじゃ……」


竹千代王は間髪入れずに、というような感覚で口を出す。


「俺のこと?」

「そうじゃ、そうじゃ。我はの、このような、毒を盛られてあろう事か殺害を企てるなど……、よもやそのようなことは想定しておらなんだ」

「毒……、俺のことだな」


真一は、一瞬、眉間に皺を寄せ面倒臭さいような困り果てたような複雑な表情をしてから、呪縛が解けたように穏やかな顔をして息を吐き、目を泳がせる。そして、


「な、何を言うんだ! 竹千代! 俺は大いに感謝をしているよ!!!」


大袈裟な素振りで最後には困った顔をしながら言う真一。

その複雑な心境は、端から見ると推し量れるものではなかった。


「真一?」


竹千代王は、思わず疑問を投げかけるかのように、真一の名を呼ぶ。


「なんだ、竹千代」

「否、主のな……、その心情をな、我は分かってやれぬのか……、とな、自答自問を、な」

「俺の気持ち? 自答自問?」

「ああ」

「はあ?」


行き成り大きな声を出す真一。

驚いた竹千代王は、目を見開き、真一を見る。


「真一。どうしたのじゃ、行き成り声を張りおって」

「声を張る? 俺の声はどうせ大きい。地声だ」

「ふむ、声が大きいのは良いことではないか、元気な証拠だ」

「元気な証拠てぇ……、子供か年寄りのような言い方は、その、好かない。止めろよ……」

「ああ、すまぬな真一……」


二人の会話が、言葉が途切れてしまい、前に進まない。


「悪かったよ」


突然、真一が言い出す。


「俺が悪かった。毒の心配をさせてしまって……。何も竹千代が頭を下げることじゃないんだ、俺の不注意なんだ。俺が俺が俺が……、奴らを信用したばっかりに……俺が」

「真一……」


感情が前へ前へと行き、言葉が追いつかない……、否、言葉にならない。思うように言葉を駆使することが出来ない。

そんな真一……、否、竹千代王も同じかもしれない。


「なあ、真一」

「うん?」

「我らは親子じゃのお、何とはなしに似ておるわ」

「はあ? 何を?!」

「フフッ」


竹千代王は上品に笑い、真一は目をパチクリとさせている。


「ふむ、真一、説明するぞ」

「お、おう」


半信半疑の真一だが、何故か素直に竹千代王の話を聞く姿勢になっていた。


「驚いたのだがな、真一。主の目の色も琥珀色なのだな。我の目も見てくれ、主と同じく琥珀色じゃ」

「あ、あ、俺の目……」


真一は、咄嗟に両手で自分の目を覆う。


「俺は、きっと、純粋な日本人じゃないんだ。だから、こんな目の色をして……。だから、余計に、皆に嫌われて……」


言葉を止める真一。


「真一? 純粋な日本人かどうかと聞かれれば、主は純粋な日本人だ」

「何故、そんなことが、竹千代に分かるんだよ……」

「主の親だからな。フフッ」

「さっきから、親、親て……。俺の親は、親父は浅丘尚武あさおかなおたけ、実母は磨嶋啓ましまけい、だ」


少し哀しそうに、否、寂しそうに言う真一。


「ふむ。そうだな、主の実父と実母は、浅丘尚武と磨嶋啓だ」

「なら、なんで親とか言うんだ? 竹千代……、俺を、俺をからっかって面白いのかよ……」

「否、そうではない」

「その口振りだと、俺の、俺の身辺調査でもしたんだろ? なあ、竹千代」


片方の口の端を上げ、口元を歪めながら言う真一。


「ぬっ、真一。このままでは拉致があかぬ、少し口を閉じておけ。そして聞け」


ムッとする真一だが、竹千代王が言う通りに口を一文字に結び、俯いた顔で下から睨み上げるように瞳を動かし竹千代王を見据える。


「今、名乗っておる、磨嶋は母の姓じゃな」

「ああ」

「我も約千二百年前、この異世界に召喚される前は、幼名ではあるが……。姓は磨嶋、名は竹千代と申す。そのな、真一。我は其方から見れば、ご先祖様じゃ」

「は、い?! ご先祖様ぁあ」

「フフフ、何を素っ頓狂な顔をしておる。三代目の王と六代目の王が、主の目の前に居ると知った時よりも、可笑しな顔をしておるぞ?」

「あ、いや、な?! 竹千代。急に言われてもな? その……」

「急に言われても。とな? 何じゃ、その続きを申してみよ」

「続きか! 続き、続きな……。えっと、その、聞かせてくれよ、竹千代。俺のご先祖様だってぇ~話」

「ふむ。我はの、元服迎えずに此処に来おったから、幼名のままではあるが、続けて申せばな、磨嶋竹千代となる。主は、磨嶋真一じゃろ?」

「ああ」

「そして主の実母は磨嶋啓じゃ。その磨嶋啓はの、磨嶋本家の人間で我の直系に当たるのじゃ。その子供が真一じゃよ」

「え? ええぇ!! 平たく言えば、俺と竹千代は血が繋がっているのか?」

「そうじゃの」

「いや、だが。そんな馬鹿な……」


呆気に取られた真一が言い放つように言葉を口から出すと、


「馬鹿とはなんじゃ、馬鹿とは! 真一、我は父上にも言われたことはござらぬぞ!」

「あ、すまない、竹千代。馬鹿は言い過ぎたな」

「いやいやよい、我も父上に、『馬鹿を申すな』とはよく言われたものよ。何せ、交渉事と思いきや大風呂敷を広げおったからな、ハッハハハ」

「どっちなんだよぉ~」


真一は、しんなりといったように、萎えながらも笑った。


「機会があらば、資料はあるから、自分の先祖について見てみるとよい。ああ、真一、実父の浅丘尚武の家系図も調べられるだけは調べておいた。それも見てみるとよい。ああ、これが真一の言う身辺調査であるか……、すまぬな」

「ハッハハ、いいよ、もういいよ、竹千代。よく分からないがすっきりした」

「それはよかった。であるからしてだ、主は我の子、我は主の親じゃ。親と言うても良かろう?」

「それも何だかよくわからん理屈だが、分かったよ。けどよ、竹千代。どちらかといえば、俺の方が竹千代の親父、いや、兄じゃないか? 見た目的によ」

「見た目的にか、フフッ、年を取ったの、真一。おっさんじゃな。加齢臭がするのか?」

「何を言うんだ竹千代! 加齢臭は無いだろう、加齢臭はぁ~。まだ、そんな年じゃねぇよ」


そう言いながらも、自分をクンクンする真一。それを見て大笑いをする竹千代。


「すまぬ、すまぬ、加齢臭は冗談というやつでな?」

「たっくよぉ~」


ブツブツと言い出す真一。


「あ、竹千代、教えてくれ。ということは、勇瑠おじさんと花琉おばさんは、磨嶋家の分家なのか? 俺を引き取ってくれた人なんだが……、その、養子にしてもらっている、父と母なんだ。父と母というか、勇瑠おじさんと花琉おばさんは兄妹で、だから俺は勇瑠おじさんの養子にしてもらったんだよ」

「ふむ。その二人は……、本家のまあ直系じゃの。我の息子と娘じゃ」

「なにぃぃいいい」

「ハッハハハ」

「勇瑠おじさんと花琉おばさんがぁあ、そんな馬鹿な……、そんな事て……」


固まる真一、暫しの時が流れる。


「え、あ、ええぇ!! 待ってくれ、待ってくれ、そんな事てぇあるのかよ?!」

「ふむ。主の気のすむまで待とうぞ」


竹千代王はニコニコとしている。

一方の真一は、パニックを起こしているようで、手を頭に当てたり顔に当てたり……、はたまた膝を叩いたりと忙しい。


「竹千代……」

「なんじゃ」

「わからねえぇ」

「まあ、そうじゃの。ここは異世界じゃ」

「ああ、そうだよな? 俺は異世界に召喚されたと聞いた。もしかして……、おっさんを担いでいるのか? こおぉおお、大掛かりによ、皆で……。何のためかはわからねえが……」

「これこれ、真一。担ぐためだけに、毒を盛る訳がなかろうが」

「それはそうだな……」

「ふむ。これは、あれやこれやと、話しが広がり過ぎておるの。これでは話しが前に進まぬわ」

「そうだなぁ~」


二人で悩むその姿は、本当に親子か兄弟のようで似ている。

というかだな、同じような話し方、話しの進行の仕方では、拉致が明かぬのではないだろうか……。と、そのような状態に陥る二人である。


「よし、いずれは話さねばならぬ。本腰を入れて話すぞ、真一よ」

「お、おう」

「司会進行は我が務める」

「お、おう」

「良いな真一!」

「おう!」


真一は、訳がわからないというような顔をしながら、拳を作り遠慮気味に振り上げる。竹千代王は、よし! と言わんばかりに両手で両膝を叩く。


「よし! では先ず始めにゲートじゃ!」

「ゲート?」

「ふむ。真一が混乱しているところへ混乱をするようなことを言うが、この異世界に来る方法は、現在、二通りある。一つが召喚の儀式。もう一つがゲートを通り世界に入ること」

「俺は、その召喚の儀式とやらで此処に来たのか? それともゲートを通って?」

「真一は、召喚されたのじゃ、召喚の儀式を経てこの異世界に来た。覚えてはおらぬか? 主が意識を失う前に、タルマが色々と申しておったろう……」

「ああ、待ってくれ……。そう、ああ! 何となくは覚えているよ。タルマが召喚人、導く、とか何とか。承諾しろみたいことも言われたような……、ああ、家族とも言っていたな」

「ふむ。それだけ覚えておれば上等じゃ」


ほっとしたような顔をした竹千代王は話しを続けて、


「そして、ゲートとは、現在日本とこの異世界を繋ぐトンネルじゃ。近年、安定したまま二つの世界を繋いでおる」

「なに……」


真一は、これでもかと目を見開いて聞いている。


「まあ、驚くのも無理はなかろうが……。真一の居た世界、日本とこの異世界を繋ぐゲートは、古くから繋がっておったのだがな。このように安定をしてトンネルの両の口を開けておるのは、我がこの異世界に来てから、初めての現象じゃ……」

「そうなのか?」

「ああ」


そこまで言うと、話しを止める竹千代王。


「まあ、ゲートの詳しい話しは置いておいてだな? それで良いか真一」

「ああ、ああ、なんとなくはその存在が分かったよ。ゲートについては詳しいことも知りたいが……。今、一度に聞いても頭から抜けて行きそうだ」

「ふむ」


竹千代王もゲートの話しはこれまでというように、次の話しへと進んだ。


「では、勇瑠と花琉の話をしよう。彼らの此処での名前は、勇瑠・シャルロト・三・グラン・レジェンド。我の息子、三の字を持つ者で次男の王子じゃ。そして、花琉・ローズ・三・グラン・レジェンド。我の娘、同じく三の字を持つ者、次女の姫じゃ」

「え?」


ポカァ~ンと口を開ける真一。


竹千代王の話は続く。

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