第25話 竹千代一時の時の彼方へ
「竹千代……」
大分高くなった日の光が真一の顔に当たる。
真一の傍らでうたた寝をする竹千代王は夢を見ていた。
「父上!!! なぜじゃ! なぜ、我の元服を一年も延ばすのじゃ! 我はもう十三、元服を迎え成人となってもおかしくはない年じゃ、父上!」
「竹千代、父の決めたことに不服があると申すのか?」
「不服ではございません!!!」
「では、何が言いたい」
「父上は……、我が十二の時も元服は十三で良いと言いました。十三間近になれば十四で良いと……。じゃがな、父上! 十二のおりに十三で必ずや元服終え成人となれ。と申してくれたではありませんか!」
「ふむ。そのように申したかの、竹千代よ」
「はい! 申されました!!! 父上……、父上。竹千代の何がいけないのじゃ? 我は嫡男じゃ、弟も妹も後に続く。妹は十であるのに輿入れの先がチラホラ舞い込みよる。
なあ、父上。我の体が、小さい……、小柄なのがいけないのか? じゃが、占いの婆が言いよったぞ! 琥珀の目を持つ獅子と!!! この目の色の者が一族に出ると繁栄するのであろう? 皆が恐れよるが一族は栄華を極めよったと聞くぞ?」
「確かにのう、琥珀の目を持つ者が出た我が一族は繁栄しよった。そうじゃの、二代前の当主も琥珀の目の持ち主じゃった。そのおりに我が領土も広がりよったと聞く」
「ならば、父上! 我の目は良い兆しではないのか? それとも何か? 我が初陣でしくじりよるとでも思うのか!」
「竹千代、元服と初陣とは別の話じゃ。元服を終え成人となり、すぐに初陣と……、そのようなものではないわ」
「父上は……、竹千代を愚弄するのか! 我が戦場を恐れておると言いよるか!」
「竹千代、そんなことは父は申さぬ、其方が戦場を恐れるなぞと考えてもおらぬ。だがな、今の世はお家同士がぶつかる戦場が戦いの全てではない。海賊、山賊に手を焼いておる。あやつらの酷たらしい鬼畜な所業……。主が見るには酷たらし過ぎる」
竹千代の父、磨嶋真源が、言葉を言い終わるとすぐに口を結ぶ。
その様子を見て、竹千代は食ってかかり立ち上がろうとした膝を治めてプルプルと震え出す。
一時が父と子の間を駆け抜ける。
「父、上……。我はな、我は。一年で体も大きく武芸百般、秀でて見せるぞ」
「竹千代」
父は、竹千代の元に歩み寄り、目に一杯の涙を溜めたその顔を見ながら、
「よく堪えたの、よく言いおったな。竹千代」
と、涙を拭ってやる。
「しかし、大きく出よったの、武芸百般とはの」
「父上、我は泣いてなぞおらぬぞ。その、涙を拭う素振りはやめよ、それに……、これくらいの大風呂敷を広げねば、我も格好がつかんのじゃ」
父の手を押しのけるように払いながら言う竹千代は、笑って見せた。
「フッフフ、アハハハハ」
父が大声で笑うと、竹千代も大笑いをして見せた。
レース越しに当たる日の光は、陽が高くなるほどに強いものになっていて。
真一が意識を失い、解毒のための治癒薬を投与され、眠りに付いてから、三、四時間は経っただろうか……。
「うっ……ウ~ン」
顔に当たる日の光に、声を漏らす真一。
一度寝返りを打つように横を向き、そしてゴソゴソと半身を起こす。
「ふわぁ~~~~~、よく寝た」
ベッドの上で伸びをして、足を降ろそうとマットに付いた尻から足を回しベッドの……
「てぇ!!!」
ベッドの柵にすねをぶつける。
すねをぶつけたものだから、慌てて脚を引っ込めようとすると、今度は足の甲を柵にぶつけて……、
「おわっ!!! ぐぐぐっ……くぅううううう」
と、でかい体をベッドの上で縮こまらせて呻く真一。
その音にうたた寝をしていた竹千代王が目を覚ます。
パイプ椅子からスッと立ち上がり、
「真一、起きたのか……」
ひと言いう竹千代王。
その声を聞いて上を向く真一は、
「竹千代?」
「ああ」
竹千代王の顔をまじまじと見る真一、キョロキョロと辺りを見回し、
「しゃーねぇか」
と、ひと言を言うと、
「こっちこい竹千代、ちょっと屈め」
ベッドの上で片膝を立てて座る真一は、竹千代王の腕を引っ張ると、
「たくっ、しゃーねぇ~な、何泣いてるんだよ。拭くもんねえ~から、俺の服の袖で我慢しろ、な!」
などと言いながら、右袖に通した腕を少し引っ込め指で袖口を掴むと、竹千代王の顔に容赦なく当てて涙を拭う。
「何をするのじゃ」
竹千代王が言うと、
「お前こそ、何泣いてんだよ。誰かにいじめられたのか?」
ニヤニヤと言う真一。
「我は泣いておったのか?」
「ああ、べそかいてたみてぇだな」
真一が当てて来るシャツの袖口、それを阻止しようと腕を掴む竹千代王。
「なんだ、大丈夫。誰にも言わねぇよ」
捕まれた腕をどうしようかと、迷いながら言葉を口にする真一。
「否、そうではないのだ」
言いながら瞬きをすれば、竹千代王の目から、また、一筋の涙が零れた。
「竹千代?」
「我は、夢を見ていたのじゃ」
「夢? 泣くほどのか?」
「ふむ。そうなるのかの」
「大人が泣くほどの夢なのか! そうなのか! どんな怖い夢なんだ! 話して見ろ竹千代! 怖い夢は人に話せばいいとか言うじゃねえか、楽になるかもしれないぞ!」
「ハハハッ」
真一は、今度は両手で竹千代王の肩を掴み言う。
「真一、真一、大丈夫じゃ」
言いながら竹千代は、真一の両肩に手を置くと、座るようにと両肩を下に向かって押す。押された真一は、自然と竹千代王に置いていた両肩の腕を降ろし、ベッドの上に胡座を掻く。
それを確認した竹千代王は、
「我はの、父上に生意気を申す夢を見ておったのじゃ。その時は齢十三じゃったかの」
「そうなのか、十三歳といえば、反抗期真っ盛りだな」
「ふむ」
頷くと、竹千代王は、日の入る窓の方を見た。
その視線に気が付いた真一も窓の外を見る。
「真一」
「うん」
「真一の声は、我の父上と……、少し似ておるの」
「そうなのか」
「ああ」
窓越しに日の光を感じて言葉を交わす竹千代王と真一。
「ここさ、異世界なんだよな……」
ボソリと言う真一の言葉に、突然、
「すまぬ!」
と言った竹千代王は、数歩下がると、腰を折り頭を垂れる。
「どうしたんだ? 急に竹千代、止めてくれ」
慌てる真一。
「我はな、反省しなければならぬ事が沢山あるのじゃ……、そしてな、主には、真一には、何度、許しを請うても足りぬ。許してくれ、許してくれ……」
「なんだ竹千代、俺、俺、分からねえよ」
「すまぬ、すまぬ」
「竹千代、まじで分からねえよ、な、なあ。兎に角、頭を上げてくれ、話しはそれからだ。頼む!」
真一はベッドから降り、裸足でその場に立ち、オロオロとしている。
数歩下がった所で頭を下げている竹千代王の視界に、真一のスラックスに裸足の足下が見えたのか、頭を上げる竹千代王は、
「真一、ベッドに戻れ」
思わず、言ってしまう。それを聞いた真一は、
「じゃあ、竹千代は……、そうだな、パイプ椅子があるじゃないか、これに座れよ。うん? パイプ椅子?」
パイプ椅子に疑問を感じながらも、真一も竹千代に座ることを促す。
「ふむ」
返事をすると、竹千代王はパイプ椅子に手をかけて、
「座れよ、竹千代。頑固だな」
「ぬっ」
真一の口から突いて出てしまった言葉に、反応する竹千代王。
「ああ、すまない、竹千代。よく知りもしないで頑固だなんて」
「ふむ、よいのだ。我は、頑固で通っておるからな、気にするでない」
冷静な口調で言う竹千代王を見て、つい……、
「あっははは」
笑い出す真一。
「ムムッ」
難しい顔をして真一を見る竹千代王。
笑いながら、真一は、
「なあ、ちょっと話さないか?」
と提案をする。
「そうじゃな」
竹千代王は言葉を返して。
「真一、聞いてくれ」




