第22話 ハイヒューマンの年齢
「俺たちハイヒューマンは、暇だなぁ~」
診察室に居るのは、ベッドで寝ている真一。ベッド脇でパイプ椅子に座り踏ん反り返る竹千代王(竹千代王は、よほどパイプ椅子が気に入ったらしい)。そして、同じくパイプ椅子に座るフランツ医師。
先ほどの話しの流れから、室内の雰囲気は気恥ずかしい妙なものになっている。それを打破すべく、フランツ医師は口を開いたのかどうか知らないが喋り出した。
「行き成り何だ、フランツ」
「何だと言われれば、なんだろう。としか答えられないのだがな」
「可笑しなやつめ」
竹千代王は、鼻で笑う。
そんなことは気にも止めずに何食わぬ顔で話しを続けるフランツ医師。
「俺は竹千代より少し長生きをしているが、竹千代ももう千二百年以上、生きているよな」
「ふむ、我も永き時を生き存えておるな」
「だろう? 暇だよな」
「ぬっ、先程から暇じゃ暇じゃと……、何のだ、フランツ」
「時々、思わねぇか? 暇だなぁ~と。俺たちは何なのだろう。どうして生きているのか。何故死なないのか。ハイヒューマンとは何なのかと……」
「フランツよ、これまた、壮大な問い掛けを我に投げて寄越したものよのお」
「フフ~ン」
「どうだ! というような顔をしよって、ニヤけるでないわ」
フランツ医師もパイプ椅子に踏ん反り返る。
竹千代王はというと、更に踏ん反り返り腕組みをする。
フランツ医師の話は更に続き、
「学園では習ったものの……、ハイヒューマンの年齢の取り方も不思議だよな」
「ふむ、それは我も理解するのに二百年はかかったぞ」
「二百年? それは竹千代ぉー掛かり過ぎだろう」
「むっ、抜かせフランツ。我の生まれた世界では人の寿命など、瞬く間に過ぎるぞ。我がこの異世界の地に降り立ったのが御年十四の時じゃった。人の人生半ばというところでな。我の世界では当時の人の平均寿命は、三十年ほどじゃった」
「三十年!!!」
「ああ」
「この世界の獣人族にも平均寿命が三十年という種族が居るが……。獣人族と同じような寿命だったのか!」
「ふむ。そんな我がこの異世界に来て、ハイヒューマンという人種に属しており、神の設計図にその印があると言われおった」
「神の設計図か~、懐かしい呼び名だな」
「そうじゃの、今は遺伝子というらしいがの。隆之介が言い出した言葉じゃったか……」
「ああそうだ。隆之介がゲートを通りあちらの世界、日本に行く度に新しい言葉を持ち帰る。そして、こちらの世界でその言葉が当て嵌まるようなら使われる。まあ、多くは医術に関することだがな」
「そうじゃった、そうじゃった」
談笑に花を咲かせ始めた二人。
「しかしの、フランツ。こちらの世界の年齢の取り方はややこしいのぉ~。しかも種族によって年齢の取り方も違う、考え方の違いもあると申すのがのう。我の居た世界では、時の経過が全てじゃった。時が全てに等しく変化をもたらしておった」
「おう、竹千代、それで間違いは無いんだよ。時が進まなければ、全てのものに変化がもたらされない」
「ふむ」
「まあ、その変化の部分だな。竹千代がややこしい~というところは」
「ふむ、時の経過が全てのものに変化をもたらしていることは間違いはない。だが、変化の仕方が違うと……。同じ環境で、左のりんごは五日で腐ったが右のりんごはもっと早く三日で腐った。というようなものかの」
「話しがずれてきている気もするが、頷くところもあるな……。更にややこしくなるからよ、環境の部分は置いておいてだな。個体によって変化がまちまちだという部分は合っているだろう」
「ふむ」
「竹千代が、二百年かかった。というのは、ハイヒューマンの年の数え方が三種類あるというところだろ?」
「そうなのだ。年は時の経過だろう! とだな」
「そう、それで合っているんだよ」
「ぬっ! それで良いのか?」
「そうだ、だが……」
「きおった……、良いが違うのであろう? ハイヒューマンの年は、時間の経過による時間年齢。肉体年齢、精神年齢……」
「そうだな。だが、全て時の経過が変化をもたらしているは、間違いじゃない」
「ふむ」
「そもそも俺たちが、三種類の年の数え方を始めたのは、ヒューマンと関わってからなんだ。ヒューマン種族は、竹千代の世界と同じで、時の経過が年齢だろう?」
「そうじゃな。只、この世界のヒューマンは、細かく分ければ、平均寿命が違う何種族かに分かれておる」
「まあ、平均寿命……そこの話しは置いておいてだな。彼らヒューマン種族から見る我らは不思議な存在なんだよ、古くは神と間違われたほどだ」
「神か……、この世界には神も存在するそうだが。我も未だ、北の地も南の地も足を踏み入れたことがないのお、一の字の爺くらいか……」
竹千代王が遠い目をしながらいうと、
「一の字を持つ王のお伽話な!」
フランツ医師が相づちを打つ。
「ヒューマンからしてみれば、子供のなりをして大人のような口を聞く者が、不気味で仕方がなかったらしい。また、反対もしかりで、体は大人の体格をしているのに中身は子供のような感情を持ち、行動をする。精神面だな。それもまた、精神の発育不足と映るらしい。
そこでだ! 我らハイヒューマン種族は、ヒューマン種族の平均寿命が百年の者たちをお手本にだな、時の経過がもたらす、肉体の変化と精神の変化を学んだ。それを元にして、肉体年齢、精神年齢を数えることにした。
だから、年齢の数え方が三種類になったんだな」
「ふむ、ややこしいがのう」
「まあ、そうなんだが。そのお陰でヒューマン種族との交流はスムーズに行くようになったぞ?」
「そうなのか?」
「ああ、ヒューマンにとっては、不思議ちゃんだったハイヒューマンが、ひと言、肉体は若いが中身はおっさんだとか、肉体は成長しているが精神年齢は少し発育が遅れている。などとひと言添えるだけで、例えばだが商談も上手く行く」
「そういうものなのか?」
「そういうものらしい。竹千代~」
「ふむ、なんじゃ」
「お前もハイヒューマンらしくなってきたじゃねぇかぁ~。三種類もの年齢の数え方があることがわからんというなら、普通はこの話しのヒューマンの考え方、気持ちに同調するところだろう? それを『そういうものなのか?』と、きたもんだ」
「ぬっ、言われてみればそうじゃのぉ~。だが、主に言われると……」
「言われると、なんだよ……」
「釈然としないというか、癪に障るというかの?」
「竹千代王?」
「ぬっ!」
「それは、ないんじゃねぇかと俺は思います」
「何が、思います。じゃ」
「ええ、思いますわ」
「気色の悪いやつめ」
「ウフ~ン」
調子に乗るフランツ医師。そして、話しは続く。
「それでだ。ヒューマン種族の間では、ハイヒューマン種族は見た目と中身が違うらしい。と、そのひと言で我ら種族の説明がなされているらしい」
「なんと、そのひと言で片付けられておるのか」
「そうらしいのだ」
「だが、我らもヒューマン種族から学んだ、一年ごとの肉体と精神の成長の記録は、貴重な資料となったぞ。それを元に肉体を自由に成長させたり、まあ、若返ったりと……後戻りは出来ないがな。精神に付加をかけ成長させたりと、大いに役に立っている。今ではここレジェンド王国に、この世界のありとあらゆる種族の肉体と精神と年齢に関する機関があるくらいだ」
「ふむ、中々に奥が深い話しじゃの」
「そうだろう?」
フランツ医師は乗ってきたようで目を輝かせながら話し出す。
「ここからだ! 竹千代!」
「ぐぬぬっ、我はハイヒューマン種族の年齢の数え方が三種類あることは理解出来たぞ」
「ああ、しかしな」
被せるように竹千代王は、言葉を続ける。
「我は、時間年齢という時の経過を数える年齢以外の、肉体年齢と精神年齢は、ヒューマン種族の資料を基に算出していることも理解しおったぞ」
「うんうん、そこでだ!」
「そこでもクソも無いわ、我が二百年を費やして理解し、我も肉体年齢、精神年齢とも己で鍛錬出来るようになったものを! まだ、ややこしい話しを追加しおって我を混乱に貶めるつもりかぁあ」
「うんうん」
「こやつ……」
にこにこと調子に乗るフランツ医師、もう良いだろうと頭を抱える竹千代王。
「ふむ、わかり申した」
「竹千代! わかってくれるのか! 次の話をだな、勿論、ハイヒューマン種族の年齢の話しだが、更に資料による統計をだな……」
「其処に直れ! フランツ、成敗してくれるわ!」
「へ?」
腑抜けた声を出す、フランツ医師。
竹千代王は、パイプ椅子を立ち上がり仁王立ちしている。その姿を見て、フランツ医師は、パイプ椅子から体がずり下がる。
「待て!」
「否! 待たぬ」
「竹千代ぉおおお」
エア刀とでも言おうか、竹千代王は刀を構え振りかざす! その時、
「殿!」
と、診察室の扉の向こう側から声がした。
パイプ椅子から完全にずり落ちてしまったフランツ医師は、命拾いしたのかもしれない?




