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第21話 毒

 「よう、竹千代。これで人払いは出来た」


まるで悪党のような面構えでフランツ医師が言う。


「ふむ、この悪党め」

「はぁあ?」


竹千代王の言葉に気の抜けた返事をするフランツ医師。その顔はふやけて悪党というよりは、酒がちょいと入った兄さんというような感じだ。


「ふむ、主の面構えを見ていると、突いて出た言葉だ。許せ」


パイプ椅子に踏ん反り返る竹千代王がいうと、


プッ。


グレンとライル両助手のクスクス笑い声が聞こえる。


「たっくよぉ~」


ふて腐れるフランツ医師。


ハッハハハ。


大笑いする竹千代王。


「ひでぇ~よな、悪人面なら竹千代んとこの医者の隆之介りゅうのすけにはかなわねぇ~と思うが?」

「ふむ、隆之介も大概悪人面をしておるなぁ」

「だろ?」

「まあ、だが、それを本人の前では言えぬフランツは小物よの」

「言ってろ!」


 隆之介が、この異世界に来たのは、たまたまという他ない。


約百五十年前の古のドラゴン討伐のおり、勇者が日本の地よりたまたま召喚された。その時にゲートがほぼ今の形に開いた。


この世界には、四体の古のドラゴンが眠っているのだが、同時に四体とも目覚めたという話しは、レジェンド王国の五千年の歴史を振り返っても記載がない。

世界が終わるのではないかと思われたこの時のドラゴン討伐は、歴代の勇者が竹千代王を含め存命であったため、手分けしてドラゴン討伐にあたった。だが、一体でも一国を滅ぼすような破壊力を持つため、四体同時出現では、世界中の戦力を投じても互角かそれ以下の戦績しか上げられそうになかった。そのため、再び勇者召喚の運びとなった。その時に召喚されたのが、黒川雪之丞くろかわゆきのじょうという男、当時二十歳であった。


この時、勇者の召喚を担当したレジェンド王国は、多くの魔術師、呪術師が戦闘に駆り出された中、三の字を持つ者、竹千代王とローレライ王妃の子、四女の和花わか・リアナローサ・三・グラン・レジェンドを中心に若輩者数人の編成で召喚が行われた。

無事に勇者召喚が成功したものの……、召喚の規約により召喚されし勇者に尋ねると、この世界を選んではくれず、元いた世界、日本に帰ることを選択され。困り果てるレジェンド王国の者たち。そこに軍の立て直しのために一時帰国をしていた竹千代王が、この度召喚された勇者黒川雪之丞の説得を試みた。


黒川雪之丞がいた時代は、時は明治時代、明治維新後の混乱の世だった。

竹千代王は話しを聞く中で黒川が帰ることを選択する理由が、武士や浪人とった者たちにあると突き止める。そして、開くゲートに目を付けた竹千代王は黒川と共に、約二千人余りの武士や浪人をこの異世界に引き入れる。それにより、黒川はこの異世界の勇者としてレジェンド王国に残ることを選択する。竹千代王は、新たに得た兵力と勇者雪之丞と共に軍を再編成、二体のドラゴン討伐に成功するのである。


この時、ゲートを潜りレジェンド王国に訪れた者の中に、黒川の親友であった医術を志す仙川隆之介せんかわりゅうのすけも居た。

隆之介はすっかりこの異世界が気に入り定住することを決める。そして、ゲートが開く度に向こうの世界(現世、日本)に行き、医術の情報を得てはレジェンド王国に帰って来る。そんな生活をする隆之介は、偶然にも黒川雪之丞と共にハイヒューマンの遺伝子を持つ者だった。


ちなみに、二千人余りの武士や浪人は、レジェンド王国に作られた新たな街、東の京、西の京という街に殆どの者が住んでいる。今はハイヒューマンの遺伝子を有した者たちだけとなったが……。



 「ところで竹千代、最近、隆之介を見かけないが?」


フランツ医師が竹千代王に話しを振ると、


「ああ、最近は勇瑠や花琉の所に居ることが多いのう。ゲートが安定してから特にあちらの世界へ行くことが多くなった」

「言われてみればそうだな。隆之介のやつ、土産と称して向こうの世界の医術書やら薬やら道具やら……、あれやこれやと持ち帰り渡してくる」

「ふむ」

「そういや、酒も渡されたな」

「ぬっ! 酒なら我にもよこさんか、隆之介め」

「ハッハハ、今度、竹千代王がお怒りだと隆之介に伝えるか」

「ふむ、頼んだぞ」

「ハッハハハ」


真顔でいう竹千代王に、笑いで答えるフランツ医師。


「まあ、いいんじゃねぇか? 隆之介はあのままで」

「ぬっ、何が良いのじゃ」

「色々とだ」

「ふむ」


隆之介はこちらの世界に定住を決めたものの……。本当の意味での定住はしておらず、レジェンド王国の王都に家を持ってはいるが……、東の京にも西の京にも家がある。そして、気が向けば、諸外国を旅して回る。この世界に来てから、ふらふらと……、ふらふらふらとしている。勿論、独り身である。一環していることといえば、医術に携わっていること。というよりも医術しか頭には無いというような感じなのだ……。


まあ、そんな独り身のふらふら男を竹千代王が心配をしないわけがない。と、いう話しだ。


「なあ、竹千代。隆之介は、今回の真一の毒の件。大いに活躍してくれそうじゃねぇか」

「ふむ、そうじゃの。一度、帰って来い、と伝えるか」

「そうだな」


隆之介の話で盛り上がった竹千代王とフランツ医師。

フランツ医師は、グレンとライル両助手に座ることを指示すると、自身もパイプ椅子を手に竹千代王の近くに座りなおし、


「そろそろ本題を話そうじゃないか」

「ふむ」

「竹千代、真一に盛られた毒の件だが……」

「ふむ」

「えぐい」


フランツ医師はひと言いうと、言葉を止める。


「聞かせてくれ、フランツ」

「ああ。まだ、推測の段階だが……。その、毒を調合した者や依頼者に悪意を感じずにはいられない。

その、毒は三段階に効果を分けることが出来る。一の段階では、目眩に似た症状が出て、即効で手足の感覚を奪い、視界を狭める。二の段階では、心筋梗塞や心臓の発作などを偽装、服用者を死に至らしめる。三の段階では、毒は一定の温度を感じると徐々に消滅して行く。一の段階の症状が、四、五時間前後、二の段階の症状が、15分から30分前後、三の段階の毒の消滅には、40分から1時間掛かる。

とまあ、そんなような代物だと、俺は推測する。グレンやライルも同意見だ」

「……」

「竹千代?」


推測される真一に使われた毒の効果を説明したフランツ医師は、竹千代王に視線をやると、竹千代王はそのオーラに当てられるかと思うほどに殺気に満ちて怒りに震えていた。


「フランツよ、我は許せん。毒だ、毒だと? 真一に毒を盛りよって……。毒を盛り殺害を謀るという行為が……、我には腸が煮えくり返るほどに……、許せぬのだよ」

「……」


フランツ医師始め、グレンとライル両助手ともに押し黙る。


古のドラゴン討伐の後、世界中が復興のために日々努力し、働き続ける毎日だった。

百年を過ぎた頃、漸く笑顔が出るまでに皆は復興を遂げ、ここ五十年で少しの潤いと活気が世界を満たし始めた昨今。


年月を引き合いに出すのは大袈裟かもしれないが。あの日、ドラゴン討伐から帰還し、漸く落ち着いた頃から見たことがない。


普段は、凜々しく、そして温情溢れる竹千代王からは想像も出来ないような、どす黒いオーラをまとい怒りをたぎらせている。


「フランツ、頼みがある」

「なんだ」

「真一に盛られた毒と同じ物を作ることは可能か?」

「可能だ」

「そうか」


竹千代王は、それだけ聞くと黙り、俯く。


「竹千代、怖いぞ」

「ぬっ!」


思わずフランツ医師が突っ込む。と、


「怖いとはなんじゃ」

「言葉のままだ」

「ぬっ!」

「今にも千人ほど人の首を瞬時にねそうじゃねえか」

「我とて、瞬時に千人の首を刎ねるのは無理じゃ」

「時間があれば出来るのか?」

「ふむ」

「おぉ~怖っ!!!」


フランツ医師が、大袈裟に自分の体を抱きしめて言うと、


「ぬっ! 茶化すでないわ! フランツ」

「俺は茶化してなどいない。同じ毒を作ることは可能だ。だがな、そんな怖い顔して俺に命令するなよ? 俺は作らんぞ」

「フランツ……」


気の抜けたように竹千代王は、フランツ医師の名を呼び。


「今、真一が起きてきたら、ちびっちまうわ! 竹千代、今のお前を見たらな!」


フランツ医師は、悪態をつくような言い回しで竹千代王に続けざまに言う。


「フランツッゥ~」


今度は、情けない声になる竹千代王。


「どうした? 竹千代」

「勘弁してくれ」

「じゃぁ、殺気を仕舞え」

「ぬっ」


両手を軽く挙げて、参った。というようなポーズを取る竹千代王。

それを見て、ニヤリと笑うフランツ医師。


「なあ、竹千代。何を考えているかわからんが、毒の件は皆で話し合わないか? 今、都合良く隣の部屋には、魔術師、呪術師、薬師も居る。それに何より、字を持つ者も昔からの仲間も居るじゃないか」

「ふむ」

「どうだ?」

「相分かった」


竹千代王を落ち着かせた? フランツ医師は話しを続けて、


「じゃぁ、先に。勇者真一のだな、今後の看護体制と人事、投薬も含む。なんかをだな、グレンとライルがまとめてくれた。これに目を通してくれ、良ければ二人に動いて貰う」

「承知」


竹千代王は書類に目を通すと、


「これに我の署名をすれば良いのだな」

「ああ」

「グレン、ライル、よろしく頼むぞ」

「御意」


グレンとライル両助手は、椅子から立ち上がると、左手を胸に当て竹千代王に敬意を払った。


「竹千代王から了解が出た。二人とも、任せたぞ。手配が終わったら俺らの執務室に集合な」

「御意」


フランツ医師が両助手に言うと、二人は診察室を後にした。


「さて、付き添いの者が来るまでここで待つか? それとも真一を隣の病室に運んじまうか? どうするよ、竹千代」


フランツ医師がそういうと、


「フランツ、感謝する」


ぼそりと言う竹千代王。


「よせやい」


フランツ医師が照れる。



診察室は、三人の男を残して気恥ずかしい妙な雰囲気を漂わせた。

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