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第19話 勇者真一の寝顔

 召喚の大部屋の中にある診療所の診察室にて、真一は解毒の治療を受け眠っている。


真一は、降り立ちの間にて、毒の治療を終えて目覚めたのだが……。そして、タルマ王、ナーシャ姫らと共に、この扉の塔といわれる施設内の建物、王の扉(建物の名称)の五階の廊下にて、レジェンド王国の景色を見ていたところ、真一は倒れ意識を失ってしまう。

その場にてフランツ医師の判断では、毒の処置前に体内で既に吸収してしまった分の毒が、作用しているのかもしれない。ということだった。

急ぎ、召喚の大部屋内にある診療所に運び、毒の血清を投与された真一。診察室に詰めかけた者たちの騒がしさに目覚めるのだが、寝ぼけていただけだったのか、また、眠りに付いてしまった。


診察室に詰めかけて居た大勢の者たちは、寝ぼけて目覚めた真一の様子に、真一の体から毒の危機は去ったのだろうと感じ、ターニャ王妃の提案で皆は隣の個室に移動することとした。


診察室に残ったのは、フランツ医師、グレン、ライル共にフランツ医師の助手。そして、竹千代王だった。


「フランツ」

「なんだ」

「真一の具合はどうだ?」

「あれから十分ほど経ったか?」

「ふむ」

「そうだな、脈はしっかりしているし安定している」


自然と動くフランツ医師。


「それにだ、寝息を立て出した。もう、大丈夫だろう」

「ふむ。そうか、大丈夫か」

「ああ」

「しかし、真一め、寝ぼけ起きてこようとはな」

「ハハッ、あれは起きない方が無理があるぞ、竹千代。あれだけ皆で騒いだのだからな」

「フフッ、そうだな」

「ああ」


竹千代王とフランツ医師は、真一のベッド脇で静かに会話をしていた。

グレンとライル、両助手は診察室の出入り口に近い場所にある作業机で書類を広げていた。その作業机も四人ほどが座れるスペースがあり、この診察室の広さを表す。そして、


「よう、竹千代。この椅子に座ってみないか?」

「ぬっ、なんだ? 椅子だと、平らな形状をしているではないか」


『フフ~ン』と、鼻を鳴らしフランツ医師がパイプ椅子を広げて見せる。と、


「なんと!」


竹千代王が目を丸くする。

味を占めたフランツ医師は、広げたパイプ椅子にドカッと座って見せる。


「なんと!」


更に驚く竹千代王。ニヤニヤとしてフランツ医師は、


「待ってろ、竹千代。今、取って来てやる。出入り口の作業机の向かい側にパイプ椅子を立てかけて収納出来る棚をだな、設置して貰ったんだ」


嬉しそうに話すと、パイプ椅子から立ち上がり出入り口に向かう。そして、ひとつパイプ椅子を取ると竹千代王に渡して、


「竹千代、椅子の背板を持ってだな、座面を押す。どうだ? 椅子の形になっただろ?」

「おお、これは! 椅子の形になりおったぞ!」

「ああ、竹千代、これも真一の世界では立派な椅子だそうだ」

「ぬっ! 侮れんな! 真一の世界は」


二人は楽しそうにパイプ椅子を眺める。座ってみた竹千代王は、


「ふむ、座面は適度に柔らかいの、背板も柔らかいのがなかなかによい」

「なっ! 少しの時間であれば、座っていられるだろう?」

「ふむ。主の言う通りやもしれぬな、これは勇瑠か花琉の仕業じゃな?」

「そうなんだ。花琉姫に頼んだんだよ。今、俺の病院は、病室に見舞客が来た時に廊下に並べられた椅子を病室に持ち運んで座って見舞うだろう? まあ、立ったまま見舞えば、済むようなものだが……、そうもいかない。

そして、問題なのは廊下の椅子と病室に持ち込んだ椅子だ。こいつがいつも整然と並んでいるわけではない。患者の急変などの場合はその椅子が非常に邪魔になる。これをなんとかしたくてな、勇瑠王子と花琉姫に相談したのだ。そして、つい最近、このパイプ椅子なる物を手に入れた。使い勝手が良ければ、家具職人に依頼して量産しようと思うのだが……」


途中で言葉を止めるフランツ医師。


「ふむ。その量産には問題があるな」

「そうなんだ、竹千代」


項垂れるフランツ医師。竹千代王が続けて話す。


「ゲート問題だな……。ゲートは何故か我が国の王都に集中しておる。繋がったゲートは真一の世界で七つ目だ。他のゲートの対応はようやく収まり。残すところは近年、安定してきた真一の世界と繋がるゲートのみ……。まあ、世界各地を捜索すれば、他にもゲートが開いた場所はあるだろうが……。しかし、そのせいでなんやかやと、我が国は年中、チクチクと各国に突かれておるしなあ」

「だろうな」

「ふむ。そして、長年、安定していなかった真一の世界と繋がるゲートが、ここ七、八年で安定をしだした。そのことはつい三年ほど前に世界に向けて発表はしたものの……。なにせ新たな七つ目のゲートだ。我が国がゲートの向こう側の世界の資源や技術を独占するのではないかと、な?」

「いつもの各国の反応だな」

「ああ。……悠久の時が過ぎても何も変わらぬ。時代が過ぎようが、命が尽き新たな世代に交代しようが、この世に知恵を授かり生を受けている者たちは、なにも何も変わらぬのだ」

「……」


フランツ医師は黙して竹千代王の話を聞く。そして不意に竹千代王はフランツ医師を呼び、


「フランツ」

「なんだ」

「話しが過ぎたな。ゲートに関しては、まだまだ問題は山積みだが。一歩づつ……、進もうではないか。そのなんだ、パイプ椅子とやらは王城で使用し具合が良いようであれば、家具職人に量産させ、世界に発表しよう。そしてフランツ、主の病院が試作品を使って見せれば良い。問い合わせのあった国には無償で技術を提供すれば良い。その後の波紋でまた我が国は技術の独占などと中傷を受けるやもしれぬが……、誠意を持ち対応しよう。

のうフランツ、主の生業は生きる者の生死に関わる。その職に携わる主の姿を我はずっと見て来た、心から尊敬しておるし、我は主の役に少しでも立ちたいと思う」

「なっ! 気恥ずかしいことを真顔でいうんじゃねぇよ」


フランツ医師が大いに照れる。


「真実じゃ」


真顔でいう竹千代王。それに続き、


「私もフランツ医師の役に立つのは快感です」

「ったく、すぐに快感という、ライル! その口癖はキモいというんですよ」

「何を言うのですか、グレン。パーフェクトッ! と、執務室でフランツ医師の人事をこなしたあとに決めポーズをするグレンこそキモいというんです」

「ムッ」

「フン」


作業机で作業をしていたグレンとライル両助手も話しに加わるが、言い合いに終わる。


「お前らなぁ……」


というフランツ医師は、なにやら棚から出し、


「ほれ、酒だ」


スキットルを竹千代王に軽く投げて寄越す。


フランツ! と、大声を出しそうになった竹千代王だが、


「こやつは、何処にでも酒を隠しておるわ。フランツよ」

「なんだ」

「ちと早いが真一の快気祝いの一杯じゃ」

「おうよ」


受け取ったスキットルから豪快に酒を流し込む竹千代王。そして、フランツ医師にぬっとスキットルを突き出す。


「いいのか?」

「今日は非番じゃろ?」

「ああ、非番だ! グレン、ライル、お前らも作業が終わり俺に報告をしたら。目の前の棚の酒を呑んでもいいぞ、真一の快気祝いだ」

「なに?」


目を丸くする竹千代王。フフ~ンと自慢げなフランツ医師は、竹千代王から受け取ったスキットルを掲げていう。


「では、フランツ医師に酔いが回らない内に終わらせます」


ライル助手がいう。

ニヤリとするフランツ医師。


いつの間にか真一が眠るベッドの脇に、パイプ椅子を置いて座る竹千代王は、目を細めて愛おしそうな顔をして真一を見ながらいう、


「フランツ」

「なんだ」

「真一は、少し我に似ていると思わんか?」

「竹千代に?」

「そうだ、どうだフランツ」

「顔がか? 言われてみれば、目元、口元。確かに似ているな。騎士の王子たちが、年を取った竹千代みたいだというはずだ」

「そうであろう? ローレライと我の子供たちのように、どこかしら我に似た顔立ちをしておる。フフッ」

「竹千代?」

「フランツ、真一はゲートの向こう側の世界でな、我の子孫になるのだよ」

「え?」

「これの母、生みの親の磨嶋千華ましまちかは、磨嶋家直系、本家に当たる。我も召喚された身。よくぞ、血筋絶やさず守ってくれた」

「そうなのか」

「ああ」


竹千代王は、深くパイプ椅子に腰を掛けていた、腕組み、足も組み。真一の寝顔を見たと思ったら、宙に視線を漂わせ遠くを見るように見詰める。また、真一に視線を戻し寝顔を見る。そんなことをしながら静かな声で語った。


フランツ医師は、そんな竹千代王を見て……、真一の寝顔と竹千代王を見るのであった。



コンコン。


一時、静かに時が流れる中、診察室をノックする音が響いた。

ノックの向こう側では、ヒソヒソと声も聞こえる。が、さて。

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