第18話 勇者真一の無事は確認された
診察室には解毒の治療を受けた真一が診察用のベッドに寝ているが……。
ガチャガチャ。
と音がする方向を見ると、三人の鎧を着た者たちが、ソワソワとして立っている。
チラリと目をやる竹千代王。その視線に気付いた三人は益々目を輝かせて……。ついには、
「父王、父王! そこにおわす横たわっておいでなのが勇者真一様でいらっしゃるか!」
大きな声でハキハキと喋る者あり。
そして、頭を抱える竹千代王は、間を置いて、
「これこれ、昴、いや、アレクシス……」
「なんでござるか」
ワクワクと返事をする者。彼の名は、昴・アレクシス・三・グラン・レジェンド。三の字を持つ者で竹千代王の息子、三男である。そして彼は、レジェンド王国第一騎士団の騎士団長を務める。
「アレクシス……、父王はな、情けないのだ。其方は、言葉使いが滅茶苦茶ではないか」
「父王、何を抜かすか。騎士たちにサムライの言葉を教えてくれと、言われおる拙者に向かって」
「ふむ、サムライの言葉の前に、敬語もなにもなっとらんではないか。横たわっておいで……とはなんだ! 全く……」
ブツブツと言い出す竹千代王に、
プッ。
と、周りの皆が吹き出す。
「父親やってんな、竹千代」
「ふむ、抜かせフランツ。主も子を持てばわかることゆえ……」
「なにっ! 子供かっ! それは願ってもない! 白雪が嫁に来てくれたらなぁ~。なあ、竹千代?」
「ぬっ」
しまった! これは口が滑った、と思ったのか、竹千代王が続ける。
「否、子を持つのは大変じゃぞ? 騎士団長を務めておる三男のアレクシスは、ご覧の通り、敬語もまともに使えぬ。サムライと乗せられて最近は、ござるござると言いおる。同じく魔法騎士団長を務める四男のレイは、蛇眼の持ち主だ! などと言いおって、真一の世界の病気で中二病を煩い……、五男に至っては、引き籠もりをやっておるし。そして六女のフィオナは、五男の影響を受けておってか、花琉が申していたのだが……、乙女ゲームとやらの『ジュエル・I LOVE・アンジェリール』というものに夢中になり、その物語に出て来るアーサーという王太子と結婚するんだと言って聞かぬ……、それから」
「竹千代!」
「なんだ」
とりとめもなく続く竹千代王の話に、思わずフランツ医師は王の名を呼び制すると、
「竹千代は苦労が多いな……、その、苦労しているんだな。俺、白雪を嫁にするのは、もう少し待つよ」
「わかってくれるか! フランツ!」
「ああ」
二人は、真剣な眼差しでしみじみと語った。
周りの皆を置き去りにして……。
そんな隙を突いてか、
「父王、こやつが勇者真一か?」
いつのまにやら、アレクシス、レイ、そしてもう一人の騎士団長、三の字を持つ王の三女ロイスらが、真一が寝ているベッドの周りに集まり、まじまじと真一の顔を覗き込んでいた。
「ムムッ! でかいな、格好いいなぁ~、勇者真一は。まるで、父王がもう少し年を取ったみたいだ。年を重ねた顔だからか? 父王と違って威厳があるな」
「我もそう思うぞ、兄上」
「フッ、俺の蛇眼が言っている。彼は勇者真一だと!」
コラーーーーー!!!
子供らの予期せぬ行動に、思わず叫ぶ竹千代王……。
シィーーーーー!!!
そしてその子供らは、父王、竹千代王に静かにしろとばかりに、人差し指を立て唇に当てて応戦する。
プッ。
ブッハハハハ。
もう我慢出来ないとばかりに皆が大声で笑い出す!
しかし、ここは診察室である。
フランツ医師がここはひとつ注意をしなければ! と、口を出すかと思いきや。
「アハハハハッ」
大笑いをしていた。
クスクス。
と、たまらんというように、グレン、ライスも笑いを堪えて笑っている。
「これ、真一が目を覚ますではないか!」
「父王、何を言っているんですか? 勇者真一が毒より生還するのは、喜ばしいことではありませんか!」
「これ、ロイス。この脳筋めが、毒の血清をだな、打ったばかりで休んでおるのだ。勇者真一はな。静かに寝かせてやりなさい、とだな、父王は言いたいのだ」
「父王、このロイスは、騒いでなどおりません、勇者真一殿のお顔をひと目見とうございました」
「ぬっ!」
目を潤ませて言う第三騎士団長、否、ロイス姫。
「あ~もぉ~、姫にはかなわぬ」
アッハハハハ!!!
と、周りは益々、盛り上がる!!!
「わかった、わかった、姫よ。ロイス姫、一週間後、勇者真一の披露目の祭りがある。その折りに主ら騎士団でパレードを催せ。ならば、勇者真一との打ち合わせで関わりが出来ようぞ」
「本当で御座いまするか! 父上殿!!」
「ああ、アレクシス」
「俺の蛇眼は、勇者真一を認めたぞ……、さあ、パレードに行こうではないか!」
「ああ、パレードを盛り上げてくれ、レイ」
「父王よ! 勇者真一の隣に座っても良いか?」
「ああ、よいよい。ロイス姫」
竹千代王は、目をキラキラと輝かす我が子たちに辟易として返事をした。だが、彼らを見る目は優しく。優しい目で包む様は良い父親なのだろう。と、思わせた。
「三の字の父王、勇者真一のパレードの隣の席は、ナーシャも希望しますわよ」
「おお、そうであったな」
皆と笑っていたターニャ王妃が口を挟むと、
「ぬっ! 七の字の者……、ナーシャ姫がライバルか!」
ロイス姫がいうと、
「ええ、姉上。我が娘をよろしくお願いします」
「承知した」
「ありがとうございます」
ターニャ王妃が、三の字を持つ者、ロイス姫に礼をいうと、
「良いのだ。だが、我には強敵かも知れぬ。我にはナーシャのような乳が無いからな。あのような大きな乳の姫と席を競うのだ。心して掛からねばならぬ」
ロイス姫は、飛んでもないことを言いだした!
ブッ。
その場に居た者たちが吹き出す。
「アハハハハッ」
益々、大声で笑い出すフランツ医師。
竹千代王はプルプルと震えている。
その様子にも、たまらんと皆が吹き出す。
ブッハハハハ。
「ムムムッ」
と、真剣に悩んでいる様子のロイス姫。
呆れたように困ったように竹千代王が口を開く。
「ロイス姫よ。勇者真一を真ん中に、ナーシャ姫と両側に座れば良いではないか」
と言い出す。すると、
「おお! そうだな父王! 何も策を練らずともよいな、我に乳が無くても大丈夫だな」
というロイス姫。
「ああ、ああ、ロイス姫よ。勇者真一の披露目のパレードは、皆で盛り上げてくれれば良い」
「そうだな! 父王よ!」
満面の笑みでそういうと、ロイス姫は、視線をアレクシスとレイに移して、
「三の字の兄上、弟よ! 我らの騎士団に戻るぞ! 団の皆で一週間後の勇者真一のパレードの打ち合わせだ!!!」
「おう!」
「フッ」
一致団結した騎士団長らは、颯爽と診察室の出入り口をガチャガチャと音を立てて目指し、出入り口では、見事な騎士としての敬礼を見せて診察室を出て行った。
「ウ~ン、うるせいなぁ~、寝かせろよ……」
え? 今頃? というようなタイミングで、真一が起き出して来る。と、
「いいぞ、寝てろ、真一」
「あ、わりい、綾藤」
フランツ医師の言葉に返事をする真一。
現世の夢を見ていたのか……。
その様子に皆は顔を見合わせた。
そして、にこにことした笑顔を静かに浮かべて安堵するのだった。
「フランツ、フランツ」
小声でターニャ王妃がフランツ医師を呼ぶ。
「どうした? ターニャ」
「隣の個室は使ってもよろしいの?」
「ああ、そうだな」
フランツ医師はそういうと、続けて、
「あ~、俺のひと言で真一は寝ちまった。あの様子だと大丈夫だ。俺と、グレン、ライルはここに残る。皆は隣の病室に移ってはどうだ? この診察室は扉で、隣の病室とも繋がっているしな」
皆は顔を見合わせる。
「ではー皆様、隣へ移動しますの」
ターニャ王妃が小声でいうと、その言葉に皆は頷き移動を始める。そんな中、足が動かぬというような竹千代王は、
「我は、もう暫く、ここに居ても良いか?」
と、フランツ医師に尋ねる。
「ああ」
その返答に、懐かしむような笑顔を竹千代王は見せた。
まあ、そんなこんなで、真一の解毒は順調なのだろう。




