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第17話 召喚の大部屋の診察室にて

 召喚の部屋(南の塔)にもるターニャ王妃と魔女コーニャは、両開きの扉の隙間から大部屋の様子を覗き込み……。


「なんですの? あの大名行列のような井出立いでだちは」

「ターニャ、先頭に居るのは……。う~ん、誰? ここからじゃよく分からないわ」

「コーニャ、召喚付よ! 飛ばしましょう」

「ええ」


魔女コーニャは、ベールの下から召喚符を一枚取り出すと宙に投げた。すると、30cmほどの妖精が現れた。両手で鏡を抱えている。


「あら、可愛らしい」


ターニャ王妃がいうと、


「そうでしょう? 工房の魔女のデザインよ」


と、自慢げにいう魔女コーニャ。


「それで、ここに魔法陣を起動して……」


魔女コーニャが空中に魔法陣を描くと、召喚した妖精とお揃いの鏡が出て来た。召喚された鏡は縦70cmほどあり大きくて見やすいもので。『まあ』と、ターニャ王妃が声を上げた。


「大部屋の騒ぎを映して来て」


召喚した妖精に魔女コーニャが頼むと、うんうんと頷いた妖精は扉の隙間から飛んで行った。


「ねえ、どんな様子?」


ターニャ王妃は、扉の隙間から自らは大部屋の様子を見ながら話し掛ける。


「朝もまだ早いのに、どこからこれだけの人が出て来たのやら……、という感じが映っているけれど……、あ、待って待って。先頭は、あら、竹千代王よ」


その言葉を聞いて、ターニャ王妃も、空中に出された鏡を見に扉のところから魔女コーニャの側に行く。


「あら、ほんとうね。竹千代王よ。え? 真一様が竹千代王に抱えられている?」

「そうね、どうしたのかしら? 盛られた毒は完全に真一様の体から取り出されたはずよね?」

「ええ」

「まずくない?」

「そうね、コーニャ。でも、ルーブルもルートベルトも居るし……。それにフランツは付き切りよ」

「ええ、そうね。でも、それでも心配だわ」

「ええ」


ターニャ王妃と魔女コーニャは、妖精が映し出す鏡を見ながら話す。

暫く鏡を見ながら様子を見ていた二人だが……。


「ターニャ! ここを出るわよ」

「え? コーニャ」

「今すぐ、行くわ。この騒ぎに紛れるのよ。騒ぎというか、人手にね」

「え、でも、コーニャ。この部屋はそのままにはしておけないわ」

「そうね」


魔女コーニャは、返事をすると召喚符で召喚をした妖精を呼び寄せた。


「う~ん、そうね、あなたの名前はミラー。ここの部屋の様子をこっそり見通しの良い上の方から映し出してくれるかしら?」


呼び寄せた妖精に話し掛けると、


「私は、ミラーね。良い名前をありがとう。わかったわ。それであなたのお名前は?」

「コーニャよ。私とターニャが迎えに来るまでお願い出来るかしら?」

「あなたがコーニャで、そちらの燃えるような赤い髪の女の子がターニャね。わかったわ、あなた達のお迎えを待っているわね」

「ええ、ミラー。よろしくね」


魔女コーニャが、『よろしく』と頼むと、ニッコリと笑った妖精は、部屋の吹き抜けの部分から上の方へと飛んで行く。


「驚いたわ」


ターニャ王妃がいうと、


「ターニャ、妖精のことで沢山聞きたいことがあるだろうけれど、行くわよ」

「あ、ええ、コーニャ」


思っていたことを先に言われてしまったターニャ王妃は、魔女コーニャの言葉に頷きながら、召喚の部屋を後にした。


「コーニャ、扉は閉めずにそのままで良いわよね?」

「ええ、ナーシャがこの召喚の部屋を出たときと同じにしておきましょう」


二人はそっと召喚の部屋を出ると、溢れる人に紛れた。



 「フランツ!」


竹千代王の一声に、診療所の診察室の両開きの扉が侍従たちによって大きく開かれた。


フランツ医師は、


「竹千代、このベッドに真一を寝かせてくれ」

「わかった、普通に寝かせればよいのだな」

「そうだ」

「よし」


竹千代王は、そっと診察室の診察用のベッドに真一を寝かせる。


「竹千代、真一の意識が無くなって十分ほど経ったか?」

「ああ、そうだな」

「う~ん、あとは治癒薬待ちというところだが、脈を取るか、聴診器を当ててみるか」

「むっ、フランツ。主、酒が抜け切れておらんのか? 一大事ぞ。真面目に診察をせぬか」

「失敬な、俺は大真面目だ。それに酔うほどの酒は呑んでねぇよ。俺の酒を一番呑んでいたのは、後ろのルートベルトだ」

「なに?」


『フン』と鼻を鳴らしていうフランツ医師。竹千代王が後ろを振り返ると、そこにはルーブル魔術師の横に申し訳なさそうにルートベルト呪術師が立っていた。


「ムムッ」


振り返った竹千代王がひと睨みすると、更にルートベルト呪術師は縮こまる。

そして、診察室に溢れて居た人も蜘蛛の子を散らしたように居なくなった。


「フフン、流石だな、竹千代ぉ~、お前のひと睨みで人が蜘蛛の子を散らしたように居なくなった。まあ、残るのはいつ面子めんつかぁ」


ニヤニヤというフランツ医師。


「ふむ。困ったものだ、我にとっては皆、我が子なのだがな」


腕組みをしながら本気でいう竹千代王は、更に近寄りがたいというような雰囲気をかもし出す。


「ハハハッ。さて、グレン。真一から採血をした。これを検査に回してくれないか? それから真一の治療……、いや、看護で問題ないか。一チーム作ってくれ、そうだな、まずは、名簿をここに持って来てくれないか」

「はい、フランツ医師。では、急ぎチーム編成をして参ります」


グレンはそういうと、診察室を出て行く。


グレンはフランツ医師の助手で、ライルとともにフランツ医師の元に長らく付いている。グレンの得意とするところは人事で、フランツ医師が抱える病院や医療施設、研究施設などの人事は勿論のこと、フランツ医師の側に常に控え、彼が時に要求するチーム編成をいかにパーフェクトにするか。というのが、面白いらしく……。本来、彼の得意とする分野、医療と魔法の総合治療の研究。は、放置されていた。


もう一人の助手、ライルは資料作りにひいでている。日々膨大に増える資料。ついには最近出来た医療図書館を任される羽目に……。この医療図書館は、タルマ王から予算を分捕ることに成功したフランツ医師が最近建築したもので、来年の春には一般公開が出来るようにと猫の手も借りたいほど忙しく、魔女コーニャから貰った召喚符コーニャ……、そうだ、名前が付けられたのだった。彼女らの名前はフラウ。そのフラウたちも大活躍している施設だ。そして、ライルの本来の専門とする分野は、医療の道具(機器を含む)の研究開発。自らも道具を作り出すのだが、道具のコーディネートも得意としており……。普段は、フランツ医師が求める医療に関する道具をパーフェクトに揃えるのが快感だという。



 暫くすると、息急き切ってライルが現れた。


「フ、フランツ医師、治癒薬、です」


開けっぱなしの診察室、そこに入って来たライルは、足を開いてハアハアと荒い息で、片手には書類ケースを持ち、右手に持ったケースをズバッと前に押し出して仁王立ちをして固まる。


「おう、早かったな。そこらに座って休んで行け」


フランツ医師は、ライルの姿を見ていうと、


「竹千代、受け取ってくれ」

「ぬっ、人使いの荒いやつめ」


フランツ医師にいわれ、竹千代王は口では気分を害したようなことを言い、顔はにこにことしていた。

そして、ライルから受け取ったケースを渡す。


「フランツ、その治癒薬とやらは使うのか?」

「使う。取り敢えず一本、いや、真一も体がでかいからなぁ……二本打っておくか」

「そんないい加減で良いのか?」


フランツ医師は竹千代王と話しながらテキパキと動く。


「問題無い」

「ふむ」


納得のいかない様子の竹千代王に、


「竹千代王、フランツ医師はヤブ医者に見えますが、腕は超一流ですので大丈夫ですよ」


ライルがにっこりとしていうと、


「そうか、真面目なライルが言うのだ。真一の治療をフランツに任せても良いな」


ニヤニヤと竹千代王がいうと、


「何を今更、真一の処置は終わったところだ。あとは様子を見てだな」

「流石はフランツ医師」

「抜かせ竹千代」


二人の会話に、周りの皆もホッとした様子で安堵の表情を浮かべる。


「というかだな! ライル!」


突然、名指しをされるライルは、


「なんですか?」


動じることもなく返事をする。


「白雪はどうした、白雪は! 何処に隠した!!!」


まるで誘拐犯のような言われようである。


「隠したも何も、私たちの執務室で留守番をして貰っていますよ。今は非常事態でしょう?」


淡々と告げるライルは、いつの間にか、紅茶をすすっていた。


「グッ」


愚の根も出ないフランツ医師である。


プッ。


と、小さく吹き出した竹千代王は、


「確認をするが、真一は助かるのだな?」

「ああ、命に別状はない。脈もしっかりしている」

「……」

「まあ、詳しい話しは、ライルが持って来てくれた書類を見てだな……」


フランツ医師は、言葉を止めて、行き成り竹千代王と肩を組む。


「心配するな! 三の字を持つ王。なあ、竹千代」

「こやつ……」

「不安が顔に出ているんだよ」

「やめんか、うっとおしい」


はいはいと言いながら、フランツ医師は両手を軽く挙げて降参した。というようなポーズを取って竹千代王から離れる。


竹千代王は、フランツ医師に、肩を組まれるまで震えていた。その様子は周りに居る者には伝わっていたが……、皆、動けずに、どうすることも出来ずにいた。そんな中、一歩を踏み出したのがフランツ医師だった。


英雄王、三の字を持つ王も人の子であった。



「フランツ」


竹千代王が話しかける。


「人手は足りているのか?」

「何のだ」

「あ、いや、真一のだ。その、フランツが我の元から六の字に仕えることとなり、代わりの者として主が推してくれた医師らが王城に控えておるだろう……」

「竹千代、心配性だなぁ。それじゃ、グレンが戻って来たら相談するか」

「ああ、ああ、そうしてくれ」


見た目にも胸をなで下ろす竹千代王。

その様子を見て、周りの皆も一緒に胸をなで下ろしたのは言うまでもない。


「フランツ」

「今度はなんだ」


竹千代王が話しかける。


「フランツ」

「なんだ」

「真一は、何時いつ目覚めるのだ?」

「わからん」

「なんと!!!」


突然の竹千代王の大きな声に、皆はビクッと肩を上げる!


「フランツ」

「なんだ」

「真一は……」


竹千代王が話しかけて、


「フランツ」

「なんだ」


この押し問答のような会話が続くのかと、


「フランツ」

「なんだ」


皆が思い始めたころ、


「フランツ医師」

「なんだ」

「診療所の入り口でウロウロされておりましたので、ターニャ王妃と魔女コーニャ、それから、三の字の騎士殿も来られていましたので、お連れしましたが、よろしかったでしょうか?」

「あ、ああ」


戻って来たグレンの突然の言葉に、面食らったように返事をするフランツ医師。グレンがこの診察室を出てから十五分と経ってはいない。


行き成り診察室の人口密度は高くなり、騎士の鎧をまとった三の字の者は窮屈そうにしている始末だった。

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