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第16話 竹千代・シャルマ・三・グラン・ノアール・レジェンド

 磨嶋真一の意識はない。

再び、彼は暗闇の中に落ちてしまった。


 真一は、祝いの席を設けてくれた元家族の藤宮家にて毒を服用させられてしまった。

絶体絶命の真一、あらん限りの力を振り絞り逃亡中、異世界に召喚されてしまう。勇者とした召喚された異世界の国、レジェンド王国と現世日本では六時間の時差があった。その時差のお陰か『勇者の強運』か、レジェンド王国にて手当てを受けた真一は一命を取り留めたと思われていたのだが……。



 竹千代王に抱きかかえられた真一。

苦も無く真一を抱えた竹千代王は、


「聞けタルマ、我はルベルト王子に王城の裏庭にて会い、ここに参った。其方そなたには雷伝らいでんを付ける、ナーシャには風花ふうかを。良いな」

「はい、父王……」

「なにを子供のようにしょぼくれておるか、我が動けば国が動くのであろう?」

「そ、それは!」

「フフッ、だがな今回は国を動かそうではないか。勇者の召喚を国中に、否! 世界に知らしめようぞ。一週間後、国を挙げての祭り事をもようす。勇者真一の披露目ひろめじゃ!」

「え?!」


真一の命の危機かもしれないというのに、飛んでもないことを三の字の父王は言い出した! と六の字を持つタルマ王は思いながら呆然とする。


「ナーシャ、これへ」


竹千代王がナーシャ姫を呼ぶが、ナーシャ姫はれい丸の側で立ち尽くしてポロポロと泣いていた。今度はれい丸が泣くナーシャ姫を見てオロオロとしている。そこへ、ナーシャ姫を後ろから支えて歩みを助ける女の姿があり、


「ナーシャよ、聞きなさい。フランツが申したであろう? 真一の症状は一時的なものだと」

「……」


静かに涙を流すばかりで返事が出来ないナーシャ姫に、


「では、ナーシャ。真一の手を取ってみなさい。左腕がぶらりと垂れ下がっておるだろう? 我は真一を運ぶ途中にその手をぶつけてしまわないかと心配じゃ、手を取って真一の腹の上に乗せてはくれまいか」

「あ、あ、はい! 父王」


ナーシャ姫は、竹千代王の言葉に目を覚ましたように両目をパチパチとさせてから動いた。


「父王、真一様のお手はお腹に乗せましたの」

「フフッ、感謝するぞ。ナーシャ」

「はいですの」


竹千代王の言葉に、ナーシャ姫は涙の残る顔で微笑んで見せた。


「時にナーシャ? 真一の手は温かかったかな?」

「え、えぇ!!!」

「どうだ?」

「温かかったですの……」


頬が染まるナーシャ姫。


「フフッ、では、真一は大丈夫だな」

「父王……」


ナーシャ姫の唇が固く結ばれて目にまた涙が溜まったころ、


「雷伝、風花、そして、白雪。これへ」


竹千代王が言うと、


「殿、我ら控えて折りまする」


低い男の声が言う。


「ふむ。雷伝、これより祭りまでタルマに付いてくれ。風花は、祭りまでナーシャに付いてくれ。それから、すまぬが雷伝、息子を竹千代に貸してはくれまいか? 西の京と東の京に使いを出したい」

「殿、有り難き幸せ。愚息は直ぐに殿の御側に。三人ばかり来させまする」

「すまぬな」

「はっ、有り難き幸せ」


雷伝は控えると、


「タルマ、もうじき爺(一の字の王)も嗅ぎつけて、ここに来るだろうから、話しは通しておく。祭りの件は頼んだぞ」

「父王! その」


タルマ王が焦ったように竹千代王を呼ぶと、


「なんだ、タルマ、出来ぬのか?」

「いえ、そのようなことは……」

「ここ数年、王都の内政はタルマが仕切っておろうが」

「ですが、勇者の召喚の披露目ともなると、約百五十年振りとなりますし……」

「では、ルベルト王子にでも頼むか?」

「父王、それは! こ、これ以上俺は、ルベルトに心配はかけたくない! 兄として!」

「フフッ、では励め」

「御意」


まんまと乗せられたというようなタルマ王。竹千代王はほくそ笑む。


 レジェンド王国は、数年前より体制が少し変わった。約百五十年前のドラゴン討伐後、五の字を持つ者が国内の内政を一手に取り仕切っていたが、今は六の字を持つ者に王都の内政を任せ、五の字を持つ者は地方の内政を引き受けた。これにより王都に届きにくかった地方の声が王制に届くようになり、広大な土地を持つレジェンド王国は、益々発展している。

そして、六の字を持つ者といえば、タルマ・六・グラン・レジェンド、ターニャ・六・ダリア・グラン・レジェンドなのだが。五の字を持つタルマの弟、ルベルト・五・グラン・レジェンドも王都の内政の補佐をしている。加えて彼は五の字を持つ者とのパイプ役も引き受けていた。

そんな弟にこれ以上負担はかけられない! と、普段から常に弟のルベルト王子を気にかけるタルマ王は、イエスの返事しか出来なかったのである。


「さて、ナーシャ。風花と行き、まずは身支度を整えて来なさい」


真一に付き添って来るだろうと見抜いていた竹千代王がいうと、


「ですが、私は真一様に付き添いたいのです! 心配なのですの」

「では問う、ナーシャよ。その涙でカピカピの顔を目覚めた真一に見せたいか?」

「い、嫌ですの」


ナーシャは俯き加減で目を泳がせていう。


「では、風花と行くのだ、良いな」

「はい、ですの、父王」


渋々といった具合に返事をするナーシャ姫。それを確認した竹千代王は、


「皆の者、頼んだぞ」

「御意」


タルマ王始め、命を受けた者はその場を去る。


「ふむ。ではな、ここにまだ、問題児がおるのだが……。なあ、フランツ」

「グッ」


竹千代王がフランツ医師に話しを振る。


「今日は、非番だったのだな? フランツよ。酒をあおりよって」

「そうだ、竹千代」

「ふむ。昔のようだ、主に呼び捨てられるとな」

「フフ~ン」


急に態度がでかくなるフランツ医師。

彼は長らく三の字の王、竹千代・シャルマ・三・グラン・ノアール・レジェンドに仕えていた。

だが、六の字の者が王都の内政を任されることが決まり、フランツ医師、ルーブル魔術師、ルートベルト呪術師、薬師レイシ、薬師シャルレタ、シャルル秘書長、以上を三の字の者抱えから、六の字の者抱えと人員移動をした。


「フランツ、主に白雪を預ける」

「なにぃ~~~!!!」


突然、大きな声を出すフランツ医師(これで酔いも冷めただろうなと、思われるような反応をする)。その声を聞いて、竹千代王の後ろに張り付くように隠れる者あり。


「待て待て、白雪を主の嫁にやるわけではない」

「何だよ……」


不服そうに言うフランツ医師。白雪は、竹千代王の側近の三姉妹(風花、雪花、白雪)で、姉妹の中では三女にあたる。フランツ医師の片思いの女性である(たぶん、両思いだと思われるのだが)。


「勇者真一の披露目の祭りが済むまで主に預ける」

「察するに、竹千代王の古株のお抱えとのパイプ役か」

「ふむ、話しが早いな」

「まあな」


フランツ医師の返事に竹千代王は白雪を呼ぶ。


「白雪、これへ」

「あの、殿」


口籠もる白雪。彼女は文武両道で技能も高く、隠密を得意とするのだが。なにせ、臆病なのである。臆病ゆえに隠密行動も務まるのかもしれないが……。


「白雪、フランツ医師についてはくれぬか? もし、こやつが悪さをしようもんなら、竹千代が成敗してくれる! それでどうだ?」

「殿……」

「ちょ、成敗てぇ」

「ふむ、当然のことであろう?」

「グッ」

「クス」


『クス』と俯いて笑う白雪はまるで雪兎のように可愛らしく。


「殿、フランツ医師にお仕えします」


と、承諾をした。


「では、竹千代、白雪は責任を持って預かる」

「頼む」

「早速だが、白雪、頼みたい。私の助手、ライルに、今の状況を伝えることと、真一様に使われた毒の成分解析の書類と治癒薬を今すぐ召喚の部屋の診療所に届けて欲しい。と伝えてくれ」

「御意」


フランツ医師の言葉を聞き終わると、消えるように白雪はその場から居なくなった。


「では、我らも移動しようか、フランツ」

「ああ」


竹千代王とフランツ医師が、ようやく歩き出した。真一が気を失ってから、七、八分というところだろうか。

そして、歩き出す前に竹千代王がフランツ医師に、『うまくやれよ』と耳打ちをしたことは内緒にしておこう。耳まで赤く染めたフランツ医師のために。


「竹千代王、タルマ王より、竹千代王につくように仰せつかりました、タリルとロダでございます」


タリル侍従が竹千代王に駆け寄りいうと、歩みを止めた竹千代王が、


「わかった、タリル、ロダよ、よろしく頼む。そして、早速で悪いがタリルよ。二、三、頼まれてくれ。まずは、タルマ王に『一番の側近を寄越すやつがあるか! 馬鹿たれ!』と、伝えてくれ」

「はい!」


思わず返事をするタリル侍従!


「それから、女官と一緒にれい丸を連れて行って欲しいのだが……。そのな、れい丸にも仕事を与えてやりたいのだ。れい丸とともにローレライを呼んで来てはくれぬか? ローレライには現況を伝えくれ。その後、女官にれい丸を預ける時に、れい丸が仕事をしたことを伝え、褒めてやって欲しい。と伝えてくれ。それから、タリルはローレライに付き添い召喚の部屋に戻ってきて欲しいのだ。頼めるか?」

「御意」

「では、れい丸を呼ぶぞ」


優秀な人材の無駄遣いだな。というような顔をしながら、竹千代王はれい丸を呼ぶ。


「れい丸、れい丸!」


慌ただしい周りの様子にオロオロとするれい丸だが、竹千代王の呼びかけに明るく返事をした。


「竹千代ぉ~、なあぁに?」


れい丸は幼子のような返事をしながら竹千代王に駆け寄る。


「よし!れい丸は返事が出来たな」

「はい!」


竹千代王の言葉が嬉しかったのか、今度は元気に返事をするれい丸。


「れい丸、頼みがある。タリルと一緒にローレライを呼んで来てくれ」

「ロウを?」

「そうだ」

「わかったよ! えっと、扉の塔に来てて言えばいいの?」

「そうだな、扉の塔の召喚の部屋で待っていると、ロウに伝えてくれ」

「わっ、かった!」


弾む声で返事をするれい丸に、


「よし! れい丸、頼んだぞ」


と、竹千代王も力強く言った。

タリル侍従と女官は、竹千代王とれい丸の会話が終わると、左手を胸に当て敬意を払い、動き出した。


「フランツ、ロダ、参ろうか」


再び、竹千代王とフランツ医師、ロダが歩き出す。



「竹千代王様!」

「竹千代様!」

「シャルマ王!」


真一を抱きかかえる竹千代王の周りに人が押し寄せる。その人々は、王の行く手をはばむのではなく、むしろ人垣が割れ、進む道を示すかのように左右に分かれて行く。


「竹千代王様!」

「竹千代様!」

「シャルマ王!」


その場の人々は真一を心配し、たくすることが出来るのは竹千代王だけだ! と言わんばかりに王の名を呼び。終いには、


「真一様!」

「真一様!」

「真一殿!」


「ご無事で」

「助かって」

「頑張って」


真一の名を呼ぶとともに意識のない真一に励ましの言葉を送る。



早足で真一を抱きかかえて召喚の大部屋を進む竹千代王、フランツ医師、ロダ。

進む途中で合流した、ルーブル魔術師、ルートベルト呪術師。


真一の意識消失は一時的なもののようだが……。


そして、レジェンド王国は竹千代王の登場で本当に国が動き出した。

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