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第15話 勇者真一、異世界召喚成立?

 扉の塔(施設の名称)にある王の扉(建物の名称)の中の五階部分の廊下に真一たちは居た。


レジェンド王国の景観。夜明け間近のまだ暗い夜の闇が支配する幻想的な景色。朝日が昇りゆく、そして朝日が照らす王都の街並み。それらは美しく、現世、2020年10月の日本から召喚された真一には、ここは異世界だということを認めざるをえなかった。



 廊下では、獣人のれい丸が真一に耳(猫族)を引っ張られ大泣きをしている。それをタルマ王とナーシャ姫は必死にれい丸を慰め、とどろく泣き声を治めようとしていた。訳が解らない真一はというと、廊下に胡座を掻き座り尻を擦っていた。そこへ、


「お初にお目に掛かる、真一殿。我が預かり子の獣人のれい丸は、体は大きいが、時間年齢にして一年と半年しか経っておらず、それでも大きな体に見合うだけの精神年齢は取ってはいるのだが……、どうも、耳を触られると未だに泣いてしまうのだよ」

「それは、申し訳ないことをした。……」


乗りで謝罪の言葉が出た真一だが、その先の言葉が続かない。『お前は誰だ?』と、目の前に立つ男は誰なのだ。と、問いたかったが、獣人れい丸の泣き声にはばまれるように頭が回らない。

その目の前に立つ男は、年の頃は二十四、五歳だろうか。背丈は真一と同じくらいではないかと思われるほど大きいがやや細身で。長い黒髪を後ろで一つに束ねている。顔立ちは東洋人だが、目の色は琥珀色こはくいろをしていた。


取り繕う(とりつくろう)ように真一は言葉を口にするが、


「あ、いや、その、全てを理解した訳ではないのだが……、俺はれい丸の耳を引っ張ってしまった、いや、その、まさか。まさかな、猫耳? が本体に、頭に付いているとは、というか、獣人?」

「ああ、獣人だ」

「あの……」


焦りやら何やらで上手く的を得ない。

そんな様子を見て男は、真一の目の前に座り込み言葉を続けた。


「ふむ。真一殿、れい丸、彼は獣人族のネコ科なのだ。真一殿の世界にも猫はいるだろう?」

「ああ、ああ」

「こちらの世界では、猫が進化を遂げていると説明しても良いのか迷うところではあるが、獣人という種の者だ。れい丸は顔立ちは人と同じで耳と尻尾がある種類の獣人なのだが、獣の顔立ちの者も居る。体毛についても様々な者が居てだな……。まあ、ざっくりと説明するとこんなところなのだが……。伝わるだろうか?」

「ああ、ああ、それとなくわな伝わる」


真一の返事に満足をしたのか、男は、『ああ』と思い出したように言葉を続ける。


「ああ、申し遅れた、私は竹千代だ。竹千代・シャルマ・三・グラン・ノアール・レジェンド。この国の三代目の王だ。竹千代と呼んでくれ。真一」

「た、竹千代殿」

「ああ、よろしく頼む」

「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」


竹千代は満面の笑みで名乗りを上げると、真一に微笑む。真一はというと、つい、『よろしくお願いします』と、社会人の癖のように深々と頭を下げる。が、何かが引っ掛かる。引っ掛かったそれが言葉に出て、


「三代目の王?」

「そうだ」

「え? タルマ殿が六代目の王で……」

「そうだな」

「どうなっているんだ?」

「それはだな」


竹千代王が真一に事の説明をしようと言葉を口にしたとき、


「竹千代ぉ~、れい丸を泣かせてしまったぁ」


タルマ王が子供のように、または気の抜けたように竹千代王に話しかける。


「タルマ殿?」


それを見て真一は目をぱちぱちとさせる。


「これ、タルマ、我が子。情けない声を出すでないわ」

「竹千代ぉ~、我ではどうも、れい丸は直ぐには泣き止んでくれぬ。今、ナーシャが背中を摩っているのだが……」

「ふむ、タルマ、れい丸は一度泣き出すと泣き止むのには時間が掛かる。承知しておろうが」

「そうなのだ、そうなのだが……」

「察するに、勇者真一か?」

「そうだ」


タルマ王は、竹千代王の『勇者真一』という言葉に、三の字の父王はもしかすると全てを察して下さっているのか? と、心中で推し量る。


「ああ、ああ、そうだ。れい丸! 俺は彼を泣かせてしまったんだった、背中を摩ればいいのか?」

「ああ、だが、れい丸は大丈夫だ。ナーシャが付いて大分落ち着いたようだ」


不意に真一が言う言葉にタルマ王が言葉を返すが。

真一は立ち上がろうとする。立ち上がろうとしたところ、


「……」


足に力が入らない。


「くっ……」


タルマ王の返答は真一の耳に届いているのか?

真一はそれでも無理に立ち上がろうとする。

その様子に慌てて竹千代王とタルマ王が立ち上がり……。どうにか立ち上がった真一は、


「俺、擦ってやるよ」


と言い、一歩を踏み出すが倒れ込む。


慌てて受け止めたのは竹千代王だった。


「真一、無理はするな」

「竹、千代殿?」

「タルマ! 急ぎ、真一に選択させろ!」


竹千代王が声を荒げる。


「ああ、ああ。その、竹千代、三の字の父王よ。フランツ、フランツ!」


タルマ王が混乱をして、


「我が子よ、しっかりせぬか!」

「わかっている、だが、しかし、毒は真一の体内から全て取り除いたはず! 何故、何故なんだ」

「落ち着け、タルマ」


予期せぬ事態にタルマ王は人手の多い廊下にて喋り出す。

そして、真一の体内からはルーブル魔術師が毒を全て取り除いたはずだ! そのことばかりがタルマ王の脳裏をよぎり……。

フランツ医師は直ぐさまタルマ王の側に駆けつけ、タルマ王の問いに答えるように、


「タルマ王よ、フランツにございます。真一様の体内には毒は残っていないと思われます。考えられることは、毒を取り出す前に体が吸収してしまった分があるかもしれないということです。その毒が悪さをしているのかもしれません」

「何?」


フランツ医師の言葉にタルマ王は、


「フランツ、真一は!」


声を荒げるも言葉に詰まり……、


「控え、タルマ。少し落ち着くのだ、良いな」

「御意に……」


竹千代王の言葉にタルマ王は左手を胸に当て敬意を払い、少し下がる。下がりながら、唇を結び、落ち付きを取り戻さんとした。


「フランツ、どうなのだ? 真一は」

「はっ、竹千代王。診察をしなければ確かなことはいえませんが、一時的なものではないのかと思われます」

「ふむ」


フランツ医師の言葉に竹千代王は少し考えて。


源雷げんらい、これへ」

「お呼びですが、殿」


音も無く現れた男、源雷は竹千代王の右後ろにひざまづき控えていた。


「源雷、ゲートを潜り動け」

「御意」


竹千代王はひと言告げると、


「さて、真一、私の声は聞こえているな」

「き、こ、える」


竹千代王は、真一を抱えながら名前を呼ぶ。

真一は返事をするのだが、自力で立つことが出来ない様子だ。


そして、源雷と呼ばれた男は既にその場には居なかった。


自力で立つことが出来ないでいる真一は、心乱れるかのように手足に力を入れるがへにゃへにゃで力が入らない。手足の感覚はあるのに……。焦る真一は頭をフル回転させて、


(……待ってくれ、待ってくれ、これはなんだ? 何が起きている?

そうだ、振り返るんだ! 『異世界、だ、と?』俺の思考を一時止めた。それは、広い廊下出てこの世界の景色を見たからだ。

それから、目眩を起こした、獣人に助けられた? 泣かせた?

王が二人……、三代目と六代目。どうなっているんだ? 王は……、普通、三代目と六代目が目の前に揃うなんてありえないだろ?

そうだ、獣人のれい丸は、泣き止んだ、のか?)


真一の脳裏に廊下に出てからの出来事が駆け巡る。


「真一、真一」


竹千代王が呼びかける。


「ああ、竹千代、殿」


竹千代王の腕の中で真一の頭は上がらず、ぐったりと体は垂れ下がる。


「真一、竹千代でいい」

「ああ、すまない。声は、聞こえて、いるし、意識も、はっきり、している。だ、が、目の、前が、暗く、なるんだ。その、自分の、足で、立てない、その、申し訳、ない」

「ああ、気にするな」

「ああ、俺は、その、大丈夫、だ。それよりも、れい丸、が、泣いている。申し訳ない、なんとか、して、やらないと……」

「真一、混乱をしているのか?」

「混乱? いや……」


真一の言葉を聞き、竹千代王は、真一が場の把握が出来ていないのではないか? と疑う。


先ほどまで、広い廊下に響き渡るような声で泣いていたれい丸は、ナーシャ姫に背中を擦られて、皆に慰められて、落ち付きを取り戻したようで、今は泣き声も穏やかなものになっており、べそをかくというような状態に収まっていた。


「真一。安心してくれ、れい丸は皆に慰められて泣き止んでいる」

「そうか、泣き声が、そうか、泣き声は、聞こえて、ない、のか……」


そこまで聞くと、竹千代王は、


「タルマ!」


強い口調でタルマ王を呼ぶ。


「真一、大丈夫だ」

「竹千代、目の、前が、暗いんだ」

「ああ、分かっているよ」

「タルマ!」


再びタルマ王を呼び、


「真一に選ばせろ! タルマ!」


その言葉を聞いたタルマ王は悟り、


「真一!」

「ああ、タルマ、殿、すまない。自力で、立て、ない」

「いいんだ、いいんだ、真一!」


タルマ王は焦りながらも竹千代王の意図するところ。真一の選択。『この世界に召喚された者は選ぶ権利がある。異世界に残るか。元いた世界に帰るか』それを、最短で問うことに神経を注いだ。


「真一、選べ」

「何をだ? タ、タルマ、どの」

「タルマでいい」

「タ、ルマ」

「焦るな、我が子。タルマ」

「御意」


タルマ王の様子に竹千代王が声をかける。

竹千代王のひと言に、タルマ王は一呼吸置いて、再び、真一に話しかける。


「真一、貴殿の体には毒が回っている」

「その、よう、だ」

「わかるのか?」

「ああ、少し、思い、出したんだ」

「そうか」

「ああ」


真一との会話に、顔を歪め、タルマ王は会話を置くように沈黙に入ろうとするが、


「我が子タルマ。私の子供たちは強い。弱ったのなら、この竹千代が支える。分かるな?」

「竹千代……、父王!」

「タルマ、真一の選択を頼む」


大きく頷くタルマ王。

二人の会話が耳に入った真一は、


「なあぁ、選択て、何、だよぉー」


その表情は口元が歪み目には光無く。


「真一、私は、家族として真一を迎えたい。この世界への……、貴殿から見れば異世界か。異世界召喚を受け入れて欲しい。選んで欲しい、私たちを!」

「ハハッ、異世界、召喚、だ、と?」

「そうだ」


ややこしい条約の言葉ではなく、解りやすく端折はしょったタルマ王なりの精一杯の言葉だった。

それに竹千代王も続いて、


「そうだ、真一。私、竹千代の子になれば良い」

「ハッ! そう、だな、竹千代、も居、たん、だな。竹千代、誰だぁ? 日本人、か」

「日本人だ」

「家族だとぉ! 異世界召喚だとぉお! ハハハッ……」


竹千代王との会話の途中に行き成り、真一は声を荒げた。

それでも構わずにタルマ王は続ける。


「選んでくれ、真一。貴殿の体が心配だ。家族になるとだけ!」

「心配? 何だぁそれぇえ。それより~ぃ、目の前が、暗い、んだ、タルマ。けれどぉお、誰か、が、俺のぉ、体を、支えて、いるぅ~んだ、誰、だ……」


意識はあるようだが真一の呂律はおかしくなってきて、


「真一、支えているのは竹千代だ」

「そう、か」

「そうだ」

「真一! まだ意識を手放してくれるな!」


タルマ王が声を荒げる。


「俺ぇ、疲れたな……。意識を、手放す、だぁあ? 手放せねぇ~よ、タルマ。俺ぇ、また、男の、腕の、中、なんだぜぇえ?」

「そうだな」

「ああ」

「竹千代ぉお、すま、ない」

「なんだ、言って見ろ!」

「俺を座らせてくれ……」

「わかった!」


意識の混乱を予想出来る真一の言動。

そんな真一が言葉を静かに口にした。『……座られてくれ』と。


力強く返事を返した竹千代王は、右腕に抱えて立たせていた状態から、真一の体をそっとずり下げて尻を床に付け座らせる。腕はそのままに、竹千代王は窓の下の壁に向かい右手を付く形で真一を支え、片膝を突き屈む。


「タルマ、続けろ」

「御意」


タルマ王は平静を取り戻したのか、二人の側に機敏な動きで跪き微動だにしない。そして、言葉を続けた。


「家族として迎える、良いな真一」

「ああ」


真一の声には覇気がなくなりつつあった。


「タルマぁ。俺、眠く、なって、き、た」

「そうか、まだ寝るなよ。真一、俺とお前は家族だな? 返事をくれ」

「ああ、わ、か、った。まだ、眠、ら、ない」


強靱な意志でタルマ王との会話を必死に続ける真一。


「俺、は、タルマ、と、竹千代、の、家族、だ! そう、姫も、い、た? 家族、だ」

「よし!」


真一の言葉に被せるように返事をするタルマ王は、


「我、召喚人と召喚されし者の契約は成された!」


声高らかに言う。すると、廊下では歓声が上がる!


オォオオオオオ!!!


タルマ王は、左手を振り上げて空中で拳を握る。そしてその拳を素早く自分の胸に納め、少し上体を屈めて軽く頭を垂れる。すると、どよめく歓声がピタリと止んだ。


「まだ、寝るなよ! 真一」

「そうか」

「そうだ」

「毒の件だ」

「毒?」


タルマ王は真一に話しを続ける、


「毒か、俺ぇ~、元家族、に、殺されかけ、た、らしい。否、もう、死んで、いるの、かもな、ハハッ」

「真一は、死んでなどいない。私の家族になった」

「そうか」

「そうだ」


言葉を途切れ途切れで話す真一の意識は次第に朦朧もうろうとして、


「選べ!」

「タ、ルマ~、今度、は、何だぁ?」


タルマ王は強い口調で呼びかけ、真一が返事をする。


「毒の治療方法だ」

「治療、だぁ?」

「そうだ」

「俺、は、……」


言葉が止まる真一に、


「生きろ! 真一、我が子!」

「俺に、生きろ、だぁ? 我が、子、?」

「そうだ」


竹千代王が力強く言う。


「ハハッ」

「頼む、真一」


そして、竹千代王の温かく包み込むような声に、


「ハハッ」


真一は再び苦笑いをして。

その様子にタルマ王は、眉間みけんしわを寄せ辛そうに言葉を続けた。


「真一、体内にある毒の治療方法を選んで欲しい。魔法療法か、医学療法か」

「魔法ぉ~? ハハッ、毒、は、医学、だ、よ……」


真一が言い終わると、


「相分かった! 真一の体内に潜伏する毒の治療方法は医学とする」


タルマ王は、周りの者に伝わるように声を張り上げる! そして、


「なあ、タ、ルマ、竹、千代? おれ、寝て、も、いい、か?」


真一は、途切れ途切れの言葉を紡ぐと、笑顔を見せた。


「ああ、ああ」

「眠っても良いぞ」


タルマ王と竹千代王は返事をした。

その返事を聞いた真一の意識は闇の中に静かに落ちた。


「タルマ、私は真一を召喚の部屋の奥にある医務室に運ぶ」

「三の字の父王、お願いします」

「任せろ」


竹千代王が抱き上げる真一には既に意識は無く。



朝の陽の光が溢れる廊下を人々が慌ただしく動き出す。

皆、真一を助けるために。

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