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第12話 真一の目覚め

 扉の塔と呼ばれる施設が集合する場所には、転送を行うための建物、召喚を行うための建物などがある。その建物の一つ、施設の中でも割と大きめで外観は白を基調とした建物。名称を『王の扉』や『グランドア』と呼ぶ。そして今回この建物内にある召喚の部屋、名称を『南の塔』という。この場所に、磨嶋真一ましましんいちがこの世界を救う勇者として召喚された。

 召喚された真一は、体内に毒を宿したまま召喚される。そして、この異世界のレジェンド王国の地に降り立った真一には意識が無かった。加えて、召喚された部屋では魔法陣の異常が発生。慌てて召喚の部屋(南の塔)から、扉を開けて広がる大部屋にある降り立ちの間に真一は移された。

真一が移された降り立ちの間。夜更けに騒ぎを聞き付けた者たちが、王城より集まり、大部屋に雪崩れ込んだ(参照、第6話)。今回は、ここより話しが始まる。




 皆が固唾を呑み見守る。

降り立ちの間では飴色の床に横たわる真一を数名の者が取り囲み。真一の治療というよりは、横たわる真一を取り囲んでの話し合い、と、見て取れるような中の様子。だが、小部屋(降り立ちの間)の特性か、天井から垂れ下がる薄絹により推測がはばかられる。


この降り立ちの間は、先程、皆が雪崩れ込んだ来た両開きの扉がある大部屋からは、扉を開けて左手中央に見え。大部屋の中に小部屋(降り立ちの間)、召喚の部屋(南の塔)などがあり、部屋も中で繋がっており複雑な造りになっている。

そして、この降り立ちの間。一、二……、五段と段があり、部屋全体の中央に位置する。四方から降り立ちの間をうかがい見ることが出来ることを含め、天井は独自に飾り付けられたドーム型で美しい透かし彫りのあるものになっており、更に天井からは薄絹が幾重にも重なり垂れ下がる。その薄絹も上から垂れ下がる長さが様々で、床に届く丈のものもあれば、人の頭上ほど、腰の部分の高さなど、薄絹は所々にたるみを持たせて複雑に絡み合っている。



 暫くすると、降り立ちの間の段差をトントンと降りて来た、医者か学者か、そのような風貌に見えるひとりの男がタルマ王の傍に歩み控えた。

タルマ王とナーシャ姫は降り立ちの間より移動をして、大部屋の扉を入って直ぐの左手横にある壁や囲いの無いオープンな応接室のような作りの場所にあるソファに座って居た。


「タルマ王よ、ご報告いたします」

「ふむ」

「タルマ王、ナーシャ姫。先ずは勇者真一様はご無事です。命に別状は無いと思われます。

王の命、急ぎ意思の疎通そつうを。とのことでしたので、降り立ちの間に集まりし者で話し合い、出来るだけ自然な形にて質疑応答が出来るように、自然であれば真一様ご自身もご納得の行く選択が可能かと思い。魔術師により、魔方陣による真一様の今の状態を透視、詠唱を唱える形にて、真一様の体内にある毒を小瓶に取り出し、気付けに香を炊き、真一様の目覚めにより、香払い。後、質疑応答。という形ではどうかということになりました」


報告を受けたタルマ王は、


「ふむ。フランツ医師よ、して、今の状態は?」

「魔術師よる透視後の手当てとなっているかと……」

「ふむ。では、気付けの香を運んでもよいのだな? フランツ、皆、考えることは同じなのか、先程から、香道師が控えていてだな」

「フランツ様!女官はじめ、皆、心配していて、その……、毛布や枕、飲み物などもお運びしてもよろしいでしょうか?」

「ナーシャ姫、飲み物以外はよろしいかと思いますよ」

「分かりました、フランツ様、ありがとう!」

「御意」


フランツ医師は返事と共に一歩下がり。その様子を見ていた周りの者たちも、音も無く速やかにというような具合で動き出した。


「ナーシャ」

「なんでしょう、王」

「この国では、召喚されし者は、召喚した者の導きにより、この世界における身の振り方を決めるものなのだが……」


フランツ医師が下がり、皆が真一の手当てにかかった。

その間、タルマ王はナーシャ姫に問いかける。


「はい」

「ナーシャ。この度の真一の我が国召喚は、姫の独断であろう?」

「いえ、違います」

「なに?!」


タルマ王の問いかけにはっきりと答えるナーシャ姫。その答えが予想外だったため、タルマ王は驚くが。それをよそにナーシャ姫は話しを続けて、


「真一・レジェンド様の我が国召喚につきましては、必要な手続きをしたく、必要な文章を……、この度は、その……、急ぎでしたので、えっと、王の秘書長のプ、プライベートルームの扉の隙間から部屋の中に差し入れて置きました……、ごにょごにょ」

「なんだって?!」


タルマ王がソファを立ち気味に大きな声を出す。

だが、ひるまないナーシャ姫は、


「王よ! 書類は完璧です!」

「待て待て……、ナーシャ」

「ですから、問題ありません!」


キリリとするナーシャ姫。


「ナーシャ……、待て!」

「はい」


タルマ王の『待て』の言葉に、キリリと姿勢を正して目を輝かせ、次の言葉を待つナーシャ姫であったが……。


「控えておるな? シャルル」

「御意に」

「あーうー、な? うちのぉ~姫がぁあ、そーらー来た。ああ、やらかした。そのなんだ? 姫の言う、召喚のだな? 文章なんだが……」


半ばヤケクソ気味のタルマ王。今にもヤケクソの踊りでも踊り出しそうな具合だ。


大部屋の扉が開き、その後、雪崩れ込んだ者とともに事態を見守っていた六の字を持つタルマ王の秘書長シャルルは、事の成り行きとともにタルマ王の傍らに控えていた。


「タルマ王、大変申し上げにくいのですが」

「ふむ。大体は、なぁんか、予想はつく」


もう、投げやり気味なタルマ王。


「申してみよ」

「今朝、私のプライベートルームの入り口に、封筒と、メッセージカードがございまして……、その、カードはナーシャ姫のものとすぐに分かり……」

「ふむ、こうぉ~遠慮せずにズッばっと、こい!」

「はっ! ナーシャ姫の仰る文章一式は間違いなくございます! 今朝、慌てて出来る限るの関係者各位に回しましたが、手続きに至ってはまだ、正式なものになるまで進んではいないかと……」

「ふむ」

「シャルル、まあ、召喚に必要な書類はあったと」

「はい……」

「召喚に関しては、審議もまだだし、正式なものには届かないと」

「は、い……」

「ふむ」


タルマ王と秘書長シャルルの話を、『待て』を実行しながら? にこにこと聞いているナーシャ姫。


「ナーシャ、真一を召喚するための文章一式はあったそうだ」

「はい、王!」


満面の笑みで答えるナーシャ姫。


「だが、正式なものではない」

「よって……、この度の磨嶋真一の召喚。今後の彼の導き人は我が務める」

「え? お父様?!」

「ナーシャ、真一が目覚めたら、導き人としてこのタルマが、真一に問いかけ、話しをし、導く。その間、ナーシャ姫よ。我の許可無く口を開くことを禁ずる」

「そんな!」

「ナーシャ姫、それくらいのペナルティーは背負いなさい。それに事は急を要する」

「……」

「ナーシャ」

「はい」

「その代わりに、我と共に席に着くことを許す。よいな?」

「御意、に。タルマ王」

「よし」


タルマ王の判断に、ナーシャ姫は心中複雑な思いがした。次第に自分の心が陰ることを感じた。それが子供ぽい我が儘なのかもしれないと気付きはしたが……。


暫くして、


「タルマ王、ナーシャ姫。真一様がお目覚めになりました」

「オオ!」

「真一様!」


二人の元にフランツ医師が報告に来る。


「今、香道師が気付けに使った香払いを終えました。香が払われましたので、真一様の意識は、ほぼはっきりとしたものになったと思われます。真一様のお身体の回復は診察をしてみませんとなんともいえませんが。それから、毒も体内から全て取り出しましたが、身体が吸収してしまった分もあると思われます。ですので、少々お辛いかもしれませんが、お話しすることは可能となりました」

「ふむ。感謝する、フランツ医師」


フランツ医師は、左手を胸に敬意を払いながら下がる。


「フランツ様、ありがとうございます」


満面の笑みでナーシャ姫は礼を言う。


「御意」


ナーシャ姫の感謝の言葉に返事をして、その満面の愛らしい笑顔に釣られたのか、フランツ医師は、口の両端を上げて笑顔を零した。


タルマ王はソファを立ち上がり、


「皆、聞いてくれ。この度、我が国に召喚された勇者、磨嶋真一殿の召喚導き人は、タルマが勤める」


オオッ!


遠慮がちだがその場に居た者から歓声が上がる。


「そして、ナーシャ姫には我の許可無く発言する権限はないが、これから行う真一殿への質疑応答の立ち会いを許した」


タルマ王の話しの後にナーシャ姫はコクリと頷いた。


「では、ナーシャ姫、真一の元に参ろう」

「はい!」


嬉しさを滲ませて返事をするナーシャ姫。

フランツ医師を先頭に、タルマ王、ナーシャ姫は、目覚めた真一の元へと向かう。

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