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第11話 思うよりも事は大きい?

 タルマ王の『散開!』の命令とともに皆は散り、降り立ちの間に残されたのは、タルマ王とナーシャ姫。そして、真一だ。


「ふむ」


胡座あぐらき腕組みをして何やら考え込むタルマ王。

にこにこと真一の寝顔を眺めていたナーシャ姫が、ふと顔を上げて、


「お父様? どうされたのですの」


と、聞く。


「ふむ」


再び、タルマ王は考え込むが……、


「いやな、皆、ノリノリで散っては行ったが。なんというかだな?」

「はい?」


ナーシャ姫はなんとなく小首を傾げながらタルマ王の話を聞く。


「そのな、ぶっちぇけぇ~、これからどうしようか? ナーシャ」

「へ? ぶっちゃけぇ~なのですの?」

「そう、なのですよ、ナーシャ姫」

「はいですの」


時が止まったように固まる二人。ナーシャ姫が首を傾げると、釣られてタルマ王も首を傾げる。そこは親子だなっ! と、そのような状態で。


「そうですわね、お父様。お母様も皆も、騒げと仰いましたし……、私には、泣けとおっしゃいましたしぃ~、ああ、でも、わ、わたくしは演技は恥ずかしいですの」

「ふむ。まあ……」


『まあ……』と、言いかけて言葉を切ったタルマ王。実はナーシャを泣かせるのはちょろいと内心、思っていたことは伏せておこう。


「まあまあ、泣くのは怖かったことを思い出せば、よいのではないか?」

「怖かったことですの?」

「そうだ」

「待って下さいまし、お父様」

「う~ん、うっ、ウウッ!!!」


みる見る間にナーシャ姫の顔が赤くなり、目には涙が溜まってきた。


「ナーシャ? これ、ナーシャ!!!」

「まさか、息を止めているのか? え? なんでどうして?」

「ウウウッ」

「ナーシャ!!!」


タルマ王がおたおたとする。怖かったことを思い出せ。と、言ったはずが息を止める我が娘。


「フゥ~~~」


暫くすると、深く息を吐き出し、


「ハァーーー」


と、大口を開けながら息を深く吸い込み深呼吸をする。


「お父様、怖いことを思い出そうとしたのですが……、途中から段々、緊張してきまして呼吸を忘れましたの」

「え゛」


自分でもどこから出たのだろうと思うような声が出てしまうタルマ王。


「うん? どうしたのです、お父様」


『クッ』と歯を食い縛り、プルプルするタルマ王! 『ターニャ王妃の子、この子は間違いなくターニャ王妃の後を継ぐ子ぉおおおお』と、訳の分からない思考が一瞬、タルマ王の脳裏を通過したのは、まあ、いうまでもないことだった。


「ウォホォン」


大きく咳払いをすると、


「ナーシャ、まあ、作戦をもう少し考えよう」

「はいですの」


元気に返事をしたものの、自分の声に驚き、『しぃ~』と唇に人差し指を当てるナーシャ姫は再び視線を落として、真一の寝顔を見ていた。真一はというと、さっきまで掻いていた大きないびきも収まってすやすやと眠っていた。

その二人の様子を見たタルマ王は、口元が緩み微笑ましく二人を眺めるのだった。



 召喚の部屋。南の塔では、ターニャ王妃と魔女コーニャが、ゆっくりと室内を音も立てずに歩き回っていた。


「ターニャ、収穫は?」

「そうね、部屋の壁に護符やら訳の分からない符が数枚貼ってあるわ。それに、呪術師の糸があるのよ。それに、問題は、この13本の柱ね。これは、爆発物が仕掛けてあるみたい。床も問題なのだけれどね、所々に傷が付けられている。これは何なのかしら? 魔法陣も発動したままだし……。気付いたのはこれくらいかしら」

「そうね、今、私たちがざっと歩いて部屋の中を回っただけでこれだけの事が仕掛けてある……。ねえ、ターニャ、これは異常事態じゃない?」

「ええ」


二人は並んで丁度、’十三番目の柱’と呼ばれる半透明な素材で出来た柱の前に立っていた。


「ねえ、ターニャ」


ふいに話し掛ける魔女コーニャ。


「これ、何だと思う?」


腰に付けていたバッグから何やら取り出して、ターニャ王妃に見せたのは、


「あら、これは。勇者真一の世界の、サングラスという物かしら?」

「そうそう、花琉姫に頂いたのよ」

「あら、まあまあ」


ターニャ王妃は、魔女コーニャから渡されたサングラスを手に取ると、ぱぁ~と表情を明るくして瞳を輝かせた。


「そういえば、ぼちぼち、勇者真一の世界の品をこの世界に持ち込むようになって、もう、五年目くらいかしら」

「ええ、そうなのよね」

「互いの世界の交流はしてはいなのだけれど。というか、ゲートが安定してきたのがここ、七、八年というところだし……」


ターニャ王妃の話につい乗って話し込もうとしたことに気が付いた魔女コーニャが話しを切って、


「違うのよ、今は、そうじゃなくてね!」

「あら、ごめんなさいですの!」

「フフッ、またぁ~ですのぉ」

「あっ」

「慌てるとたまに出ちゃうわね、ターニャ」

「あら、フフ。そうね」

「フフフッ」


二人で笑顔を交わして。


「ターニャ、そのサングラスをかけてみて」

「これを?」

「ええ、左側のレンズにね、魔女の目の術式が書いてあるのよ。術式を発動させるには、目を三秒閉じれば発動するわ。ああ、片目でも両目でも大丈夫よ。または、サングラスのフレームを左から一度、コツンとノックする。それでも発動するわ」

「わかったわ」


ターニャ王妃は、フレームを軽くノックする。すると、


「コーニャ、一瞬、魔法陣が現れて消えたのだけれど」

「ええ、それでオーケーよ。レンズの内側からは魔法陣は見えないけれど、外側からは発動している魔法陣が見えるように今回は術式を構築したの」

「そうなのね、それでコーニャ、この次はどうすればいいの?」


わくわくした子供のようにターニャ王妃が先を促す。


「それでね、ターニャ。床を見て欲しいのよ」

「床を?」

「ええ、魔法陣が発動している床をね」

「わかったわ」


魔女コーニャに言われれ、床を見る、ターニャ王妃。


「どう?」

「コーニャ、魔法陣が二重に見えるの。これは魔女の目のせい?」

「いいえ、違うのよ」

「ということは」

「魔法陣が、二重に発動しているということね」

「え!」


驚くターニャ王妃。


「それって……」

「そうね、ナーシャが二重に魔法陣を発動するわけはないわよね? あの子は、勇者真一様を召喚しようとしたのだから。それに……」

「それに?」


言葉を切る魔女コーニャの様子に、ターニャ王妃は小首を傾げる。


「ええ、それにね。ナーシャには血の縁の特殊能力があるでしょう?」

「ええ」

「だからあの子、子供の頃から召喚には参加して……」

「ええ、ええ。子供には酷だと思いながら、ナーシャも希望しますし、つい……、私たちも頼ってしまって……。召喚の依頼の仕事は受けていましたね」

「そんなあの子がね、まして、その……。ターニャ!」

「な、なんですの」


行き成りの魔女コーニャの呼びかけに、驚くターニャ王妃。口癖も出てしまう。


「あの子、勇者真一様に、恋しているでしょう?」

「ああ、ええ、ええ。周囲にバレバレなくらいに」

「そうよね、そんなあの子が、緊張はしていたかもしれないけれど、召喚には慎重になると思うのよね。特に恋するお相手、勇者真一様のためだったら余計に……。だから、術式の構築を間違えるわけがないというか、私のアドバイスを間違えたりはしないと思うのよね。最近もそのことでアドバイスをしたばかりだったのよ」

「そうでしたの」

「ええ。兎に角、召喚の仕事が入ったら、複数人の形態で行きなさい。という事が一つ、それから、単独の場合は’縁’の指輪を使いなさい。そして、詠唱の言葉を少なくする事と……」

「コーニャ、それは何か考えがあってのことなのでしょう?」


ターニャ王妃がサングラスを外し、魔女コーニャを見て問うと、


「ええ。今回、帰国を早めたのは、西のヒューマンの国の動きが、各国で話題になることが多かったのよ。その諸々を確かめに早めに帰って来たの」

「コーニャ、それは良い話しではない?」

「ええ」


二人の間に沈黙が流れる。


「コーニャ、出ましょう、ここを」

「え?」

「私、コーニャの話しを聞いて、二人では手に負えないと思うの。これは皆に相談した方が良いと思うのです」

「二人では手に負えない?」

「ええ、この召喚の部屋に仕掛けられた数々の物。これを撤去するにしても、呪術師の糸が付いています。これは……、蜘蛛の糸ようになっているのかもしれません」

「蜘蛛の糸というと、どこかの符を剥がせば仕掛けが発動するような?」

「そうです。一番怖いのは13本の柱の内、12本の柱には爆発物が仕掛けられています、これが爆発すれば……」

「ええ。それに、もし、ターニャが言うように本当に蜘蛛の糸の術式だったら、魔物も呼び出せるわね。あと複数の可能性ある」

「ええ、そうなのです」

「一先ず、撤退……。そうね、それがよさそうね」

「では、出ましょうか。コーニャ」


そういうとターニャ王妃が入り口の扉に向かおうとした。


「待って」

「え?」


コーニャが呼び止める。


「聞こえない? ナーシャの泣き声」

「え、え? あら、まあまあ」


二人が耳を澄ますと、大泣きするナーシャ姫の泣き声が聞こえる。


ウワァアアア~ンッ!


「やだ、始まったんじゃない? その、ルベルト王子の監修? のシナリオ、 あ、演技かしら」

「あら、どうしましょう。ここを出られませんわね」


ターニャ王妃と魔女コーニャは、召喚の部屋の扉に張り付いて、大部屋の降り立ちの間の様子を伺う。


降り立ちの間では、ナーシャ姫が大泣きをして、タルマ王は胡座を掻く膝の上で小さくガッツポーズを取った。シナリオが上手く進行しているのか? そして真一はというと、すやすやと眠りを貪っていた。



 一方、召喚の大部屋の両開きの扉の外側。ルベルト王子、フランツ医師、ルーブル魔術師、ルートベルト呪術師、薬師シャルレタの面々は、扉に張り付き、中の様子を伺いながら……。


「よう、爺、なんか魔術で、パパッと隠れるとかないのか」

「口が悪いですよ、フランツ」


ルートベルト呪術師に指摘されるフランツ医師。


「フォホホホ、よいよい。こやつは、疲れると段々と口が悪くなる。それは兄のシャルルとも似ておるのぉ~、二人とも無駄にがたいも良いしのぉ」

「ブッ」


吹き出すシャルレタ。


「そうですね、フランツもシャルルも騎士ではありませんしね、医師と秘書長ですものね」


シャルレタの言葉に、


「筋トレはだな、いつでも字を持つ者を守れるようにだな!」

「フォホホホ」


フランツ医師は反応して言葉をつづるが、ルーブル魔術師も笑い出す。


「では、私は失礼して執務室に戻って仕事でもしますよ」

「待て、自分だけこの場から去ろうとするのか」

「いえいえ、フランツ。薬師のレイシも迎えなければなりませんしね」

「ああ、そういえば、そんなことを話していたなぁ」


ルベルト王子に言い寄るフランツ医師は、何やら思い出し戦意消失? する。


「あ、では僕も参ります、ルベルト王子」


シャルレタが言うと、


「では、参ろうか」

「はい」


と、去って行った。


「爺、どうするよ」


また、ガラの悪い口調に戻るフランツ医師。


「フォホホホ、ではこのまま中の様子を伺いながら待つとしようかの」

「しゃーねぇ、爺、ほら、酒。一杯やろうぜ?」

「何を持ってきているんですか!」


白衣のポケットからスキットルを出すフランツ医師。


「俺は、今日非番だ! だから大丈夫だ」

「そういうことなら……」


と、ルートベルト呪術師もスキットルを受け取る。


「フォホホホ、美味い酒じゃ。ぬしは趣味が良いのぉ~、フランツ」


『フフ~ン』と、満足そうにするフランツ医師。


「フォホ、竹千代王もじきに来るじゃろうて、それまでくつろごうではないか」


ルーブル魔術師の言葉に、フランツ医師とルートベルト呪術師の背筋が伸びた。


「フォホホホ」

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