第10話 ノープランで行こうじゃないか
再び、ターニャ王妃が作戦会議の音頭取りとばかりに声を上げるが、
「さて、皆様、夜更け過ぎですが、頑張って作戦会議と参りましょう」
皆に言葉を投げかけて、皆の顔を見回すと、項垂れている。変わらないのは爺……否、偉大なる魔術師ルーブルだけではないだろうか?
フランツ医師が召喚したフラウたちはというと、にこにこと傍らに座っている子、首を傾げる子、不安そうに見る子、様々だ。フランツ医師が彼女たちを召喚してから一時間は経っただろうか? それぞれに個性が出てきていることに驚く。魔女コーニャが自らの気付きに、フランツ医師にフラウの普段の仕事振りをせっついてまで聞いた理由がわかるようだ。
「フゥ、止めておきましょう」
ターニャ王妃が自分の言葉を撤回した。
「まあ、その、なんだ。ハイヒューマンの英雄王。竹千代王と対等に話しが出来るのは、偉大なる魔術師ルーブルだけでないだろうか」
ボソリとタルマ王が言うと、
「フォホホホ、だが竹千代王は皆を可愛がっておるから、何を申しても怒らんよ。ドォ~ンと思いの丈を申せば良いのじゃがなぁ」
「それはそうなんですが、ルーブル。なんと申しますか、かの王に掛かれば我らは皆、ひよっこで。箸にも棒にもかからない存在と申しますか……」
「フォホ、これこれ、滅多なことを言うでないぞ? そんなことを耳にすれば、また、あやつが嘆く。皆、我の子供たちとうっとおしくらいに愛情を注いでおろうが」
「そうなんです、だから! その、時折、我が身が情けなくなるのですよ。ルーブル」
ボソボソとタルマ王が、若輩者が弱音を吐くようにルーブル魔術師に訴えると、
「ふむふむ、まあ、その気持ちも大事にせいよ。それだけ英雄王。竹千代王が皆にとって偉大な王だということじゃからな」
「それは、わかっていますよ! あ、いや、その通りです。ありがとうございます、ルーブル」
「フォホホホ、ではな、作戦会議じゃ。儂が提案しよう。どうじゃ?」
ルーブル魔術師の言葉に、皆がキョトンした。側に居るフラウたちは、その様子に皆、首を傾げる。なんとも可愛らしいフラウたちである。
「作戦の提案ですか?」
ルベルト王子が口を開く。
「そうじゃよ。今、皆の頭の中で起こっていることといえば、ハイヒューマンの英雄王。竹千代王の伝説ともいえる偉業じゃろ?」
ギクリとする一同。背中がピッと伸びる。
「竹千代がこの世界に勇者として召喚されたのが、およそ千二百年ほど前じゃろ? あやつは確か、若干十四歳じゃった。小柄な少年竹千代を見た召喚に立ち合った者たちは絶望したといわれておる。まあ、この時、儂は一の字の王の元に控えておったのじゃがな。だが、この少年は目覚めた古のドラゴンを倒し、そのドラゴンを操ってハイヒューマンの国。我がレジェンド王国を蹂躙しようとした大魔王軍を屈服させた。どれほどの歓喜が我が国に巻き起こり、竹千代を迎えたかは想像をなしえない。そして、つい、この間の約百五十年前のドラゴン退治じゃ。竹千代は自軍を率いて二匹を退治。残り、一匹を多種族軍、一匹を魔王軍が退治した。大きな業とすればこの二つじゃが……、まだまだ、竹千代を語ればその業は数え切れないほどあるぞ?」
竹千代王の当時を知るルーブル魔術師の話に、皆、言葉が出るわけもなく……。
「そこでじゃ。儂は、ノープランを推す」
「え?」
タルマ王がひと言声を零すと、
エェエエエエエ!
と、皆で揃って声を上げた。
「フォホホホ、皆は、竹千代に太刀打ち出来ぬと踏んだのじゃろ? ならば、無理にせずともよい、小細工など、すぐにあやつなら見破るだろうて。なぁ?」
皆は顔を見合わせる。
「でも、ノープランというのは……」
ルベルト王子がいうと、
「フォホ、そうじゃのぉ、注意点はあるじゃろ。例えば、これまでの流れを振り返るとじゃな」
うんうんと皆の目が相づちを打ち、先を促すようにルーブル魔術師を見る。
「フォホホホ、これ、年寄りばかりに喋らすでない。皆で話し合わんかい」
バトンを渡すようにルーブル魔術師がいうと、
「注意点ですか、真一様に毒を盛った犯人はおおよそ特定されましたが、詳細は、勇瑠王子、花琉姫がお帰りなってからということ。ですから、現段階では王城内の者、外部の者含め、警戒しなければいけません。そして、我らが突き止めたいのは、真一様に毒を盛った犯人と意図です。それは、召喚の部屋、南の塔での不可解な魔法陣の発動を含めて突き止め無ければなりません」
真面目なフランツ医師が発言すると、
「そうね、南の塔は、私とターニャで調べるとして……。あと、例えばだけど、共犯者が居たとしたら……、燻り出したいわよね? そのためには、真一様の体内から既に毒が取り除かれたことは知られたくないわね。それと私たちが集っていたことも」
続いて魔女コーニャが発言をする。
「そうですわね、私たちが集っていたことは犯人たちに警戒心を与えますもの」
「ふむ」
ターニャ王妃の言葉にタルマ王が頷く。
「そうなると、やはりノープランというのが良いかもしれませんね。でも、そうですね、少し時間を巻き戻して……、それから設定も少し変えましょう。まず、ここに集う私たちは居なかった。そして、勇者真一様をこの降り立ちの間に運んだのはナーシャ、一人での行い」
ルベルト王子がそこまで話すと、皆は『え?』というような顔をする。ルーブル魔術師は『ふむふむ』というなうな表情で淡々と聞いている。
「なぁに、問題はありませんよ。ナーシャのMP(魔力)は字を持つ者の中でも高い方です。そして、彼女は’血の縁’という特殊な能力を持っているじゃありませんか?」
『ああ~』というような皆の仕草、ルベルト王子が意図するところが段々と見えてきたのかも知れない。
’血の縁’とは、’ちのゆかり’や’ちのえん’とも呼ばれる特殊能力で、ハイヒューマンの中で百万人に一人の能力者といわれている。その特殊能力はというと、『生死に関わる状態のハイヒューマンを感知すること』が、代表的な能力になるのだが、中には病気を発見したり、体の状態から嘘や真実を探り出す者も居る。昔からあるハイヒューマンの能力の一つではあるのだが、なにせ例が少ないために、まだまだ全ての能力が解っていないのが現状だ。
「血の縁を使って勇者真一様の生死の危険を感知したナーシャが、独断で勇者真一様を召喚した。その後、パワー系の魔術を使い、降り立ちの間まで運んだものの、パニックを起こしてしまい子供のように泣いていたところへ、今日の扉の塔の王族のみが使える召喚の部屋の夜中の見回り当番の兄上、タルマ王がナーシャを見付ける。王族のみが使える召喚の間はこの建物には六つあります。見回りも午前零時から午前四時の間ならば良いと、字を持つ者で決めていますよね? それに丁度、今日の見回りは兄上では?」
「あ……」
「兄上?」
「ハハハッ」
皆が真剣にルベルト王子の話しを聞いている中、突然、話しを振られたタルマ王は、なにやら困った様子で、
「兄上、また、夜中の見回り当番をお忘れで?」
「ハッハハハ」
乾いた笑いで答えるタルマ王に、
「まったく兄上は、私たち王族しか見回りが出来ない部屋なのですよ! 皆の負担が大きいからと週に二回の見回りに変更したばかりじゃないですか!」
「す、すまない!」
ルベルト王子の剣幕に謝罪の言葉が飛び出すタルマ王だが、懲りていないのか、チラリとターニャ王妃の方を見る。
「自業自得ですわ、タルマ」
「ですの! お父様」
タルマ王は、ターニャ王妃とナーシャ姫にダブルで怒られるのであった。
ブッハハハハ。
皆が吹き出すのも無理はない。
場が緊張から笑いに包まれて、ボソリと、
「あの、でもですの」
ナーシャ姫がルベルト王子に話しかける。
「どうしたのかな? ナーシャ」
「私、血の縁は使っておりませんの……、どうしようもなく胸騒ぎがして。それにそれに、私、真一様の件はもう少し『エンジェル現象』を確認してから動こう。という字を持つ者の話し合いを無視した形になりますの……、慌てて、異世界よりの召喚時に作らなければいけない書類の作成はしましたのですが……、悪いことをしているのです、の……」
そこまでいうと、ナーシャ姫は口を噤んだ。その話を聞いて、
「でもナーシャ、結果的には勇者真一様を救ったのですよ?」
「ですが……」
ナーシャ姫が言い淀むと、
「フォホホホ、これ姫よ」
「はい、ですの」
縮こまるナーシャ姫に、
「ルベルトの言葉は、姫には届いたかの? 主は、結果的には我々の世界を救う勇者真一の命を救ったのじゃぞ? 命を救うということはどれだけ重く大切なことか。誇りなさい七の字を持つ者ナーシャ姫よ。なぁに、臨機応変という言葉があるじゃろ? まあ、多少の決まりを守れなかったことは仕方のないことだ、のう?」
「ルーブル、偉大なる魔術師ルーブル。わたくし、私」
ルーブル魔術師は『うんうん』と頷く。そして、
「では、話しを続けようか? ナーシャ」
「はいですの、ルベルト王子。その、あの、ごめんなさい」
ナーシャ姫が左手を胸に当てて敬意を皆に払うと、皆もナーシャ姫に敬意を返した。
「では、続けましょう。先ほどは、ナーシャが単独で召喚をした勇者真一様を降り立ちの間に運んだ。その後、パニックを起こしたところを見回りのタルマ王が見付けた。ここまでよろしいですね?」
皆が頷く。
「これからです、ノープラン作戦は。先ず、ナーシャ、兄上(タルマ王)意外は、一端この場から、皆、散りましょう。そして、二人は降り立ちの間にて大騒ぎをするのです」
「続きは言わせて、ルベルト王子」
「ええ、ええ、乗ってきましたね、姉上」
「そのようね、そして、召喚の大部屋の両開きの扉の施錠はせず、人を王城内に居る者を出来るだけここに集めるのでしょう?」
「はい、その通りです」
ルベルト王子が答えると、
「では、魔女コーニャが夜中に帰って来て『扉の塔に灯りが点いている!!!』と、大騒ぎをするのはどうかしら? 幸い、沢山フラウが居ることだしね」
「ええ、ええ、それは良いアイディアですね、コーニャ」
「フフッ」
魔女コーニャがにんまりと笑うと、
「では、続きは僕が。大部屋の両開きの扉の前に人が集まりだしたら、中の様子に聞き耳を立てながら、残りの僕らは大騒ぎをしましょう。そして、タルマ王の言葉で、ドッっとその場に居る者を部屋に押し入れるのです。本当は、大部屋の中の声など、ましてや降り立ちの間にて話す声など、聞こえるはずが無いのですが、そこは……」
「そこは、ねえ? シャルレタ。魔術師、呪術師がおります。聞き耳を立てる魔法など、幾らでもありますよ」
「ハハ、そうですね、ルートベルト呪術師」
シャルレタとルートベルト呪術師の会話を、いたずらっ子の表情をした皆がニヤニヤとしながら聞いている。
「そして私たち、ターニャとコーニャは、召喚の部屋、南の塔を調査するために部屋に籠もるのですの!」
ターニャ王妃がいうと、
「フォホホホ、では、最後は儂がしめようかの。今の流れで扉から人が入ったところへここにおる儂らも紛れて大部屋に入ろうじゃないか、そしてここまで行けば、後は流れに任すんじゃ、それぞれが役目を果たしてな。どうじゃ?」
「ええ、そうですね」
ルベルト王子が力強く返事をすると、皆も頷く。
「では、六の字を持つ者、タルマ王よ。皆に命令を」
ルーブル魔術師の言葉に頷くタルマ王。
「散開!」




