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『英雄』を狩る者  作者: オーエン
83/91

③五話(4)




     ◇◇◇





「……ったく、先に行って偵察してろって……。確かにオレの戦闘スタイル的に隠密とか密偵とかはのぞむところなんだけどさぁ。ガラティナさんもヴォイドさんも、オレの扱い雑過ぎじゃねえか? いくら団員内で一番の若手だからって……オレもう入団して二年以上経つっての。なのに、いまだ下っ端の雑用扱いとか……泣いちゃうぜホント……」


 敵陣偵察および、単独行動をとる敵の各個撃退。

 そんな卑怯と罵られかねない『闇討ち』や『不意討ち』などが、今回ヴェリカがこなすべきミッションとなっている。

 作戦の発案者は他でもない、騎士団内で一番頭のきれる参謀役の老獪エルフ、ガラティナである。といっても、言葉を選べば「賢い」やら「博識」やらと言えはするが、ヴェリカの印象としては『ズル賢いお爺ちゃん』でしかない。

 そもそも、今回は学園生メインのイベントなのだから、脇役である騎士団(自分たち)はバラバラに別れて『反乱軍』勢力の生徒(主役)達の加勢に行くべきなのだ。

 なのに、ヴェリカへ伝えられた作戦通りなら……生徒を無視して団長以外の全騎士団員で本陣へじかに突撃するらしい……。


(おっとなげねぇ……)


 一番勝率の高い作戦とはいえ、ヴェリカはドン引きである。


 作戦通り一番足の速いヴェリカが先行突撃で、雷光を纏い突っ走って敵本拠地(学園)を目指す。

 到着後は敵配置の確認および、突け入る隙があれば突いておく。だが、もしも複数人で纏まっていた場合は手を出さないで援軍の到着を待つ。

 臆病で正義感のあまりないヴェリカにはもってこいの任務である。ヴェリカは戦いでの勝利よりも戦場の情報収集を優先すればいいだけなのだから、危ない橋は無理して渡らず、遠くから気配を消しつつよく観察する。……その一点のみ。

 あまりにガチ過ぎる空気読めてない大人達に、観客もドン引きしていなければいいのだが……。こればっかりは、ヴェリカも上の命令で動いているだけなので責められる謂れはない。


 ……と


 学園付近へと差し掛かった道中、距離にして二十メートル程度の森林内の枝の上でヴェリカは足を止めた。もちろん、足音もほとんどなく自然と気配を同化させるプロの技を無意識に発動。

 理由としては……その無駄にいい目が、視界の中に獲物をとらえたからに他ならない。


「……あれは……」


 ヴェリカは元々孤児院出身なのだが、院長曰く……母が猛禽類の獣人と人間のハーフだったらしく父は純粋な人間であったとかで、ヴェリカは四分の一だけ獣人のクウォーターということになる。

 見た目はほとんど人間と変わらず獣化すら出来ないが、昔から目だけは良かった。


 その目が捉えたのは、学園の校門前であっちこっちと入ったり来たりしている……ウサギ系の獣人の少年。

 今回の敵はたったの十名だけということもあり、その顔と名前くらいならばヴェリカでも暗記することが出来た。

 そして、そのリストにあの少年はたしかに存在した。


 ……序列10位、ラグニス・ルー・ビットリオ。

 『王国軍』陣営の学内戦績序列では一番弱い第10位の席に座してこそいるが……ヴェリカは、というより団長を除いた騎士団全員の総意として『要警戒対象』の一人であると認識していた。

 他は結歌、アリシア、ロイド、ユイの上位四名……それと、第7位のミューレ・ニル・コフィナ。

 上位四名は実力故に……各騎士が一対一サシで戦って苦戦を強いられる可能性がある実力者だ、と。

 だが、7位のミューレは《魔法》とは違った『別次元の能力』を保持している可能性がある。

 そしてラグニスは……実力が読めない。

 ラグニスの学年は一年生。単純に入学してからの戦闘記録が極端に少ないのだ。そして、忘れてはならないこと……


 入学してから()()()()()()数千という生徒の中から第10位にまで上り詰めた、超速出世の異例生徒なのである。

 上位三名でさえ、現在の地位にたどり着くまでに入学後一月ひとつきくらいは大人しくしていた筈だ。

 それに、ヴェリカの見たところ……好戦的な少年とは到底思えない。……今も何故かビクビクブルブルと震えては周りをキョロキョロと落ち着き無く見渡しているし……。


「……本当にアイツが最速第10位の異例生徒って奴なのか……? 正直言っちゃなんだが、あきらかに弱そうな……」


 そうは言うが、臆病さだけならばヴェリカの右に出る者はいないと自負している。

 緊張は常に張り詰めたままに、油断も隙も絶対に作らない。視線の先のラグニスだけでなく、三百六十度全方位へと常に警戒と観察を続ける。

 ラグニスはいまだに「あぅ……どうしよ……。い、行かなきゃなんだよね。わかってる! わかってる……けどぉ」なんてブツブツと独り言を呟いては落ち着き無くあたふたしていた。

 まだヴェリカの存在には気が付いていないようだ。

 装備は、制服、腕と脚に軽装の防具、以上。暗器使いでもない限り、パッと見武器の携帯は見受けられない。

 常に疑り深いヴェリカが唯一気になったことといえば……


「右目のアレは……眼帯……か……?」


 前髪の右側だけ妙に長かったので実際に見てみるまではわからなかったが、そのウザったい前髪の下には無難な白の……いや、医療用の眼帯がチラチラと見え隠れしていたのだ。

 要するに……視野の広さが自慢のウサギ系獣人とはいえ、その強みすら現在は半減してしまっている。

 負傷か? それとも生まれつきか? もしくは、自信過剰からのハンデ気分? わけあり? 自身への戒め? または、ソコに『何か』を隠している……?

 色々な仮定がヴェリカの思考を流れる中、だが『もしも』を警戒し……危機的状況でもないのに、緊張からゴクリと喉を鳴らす。

 もしも……何かあると仮定するなら、ソレを発動される前に潰しておく方がいいのでは……?


 幸いにも、ヴェリカとラグニスとの距離はそう遠くはない。

 フィオナ陛下からお借りいただいた武器――電光を纏う短剣【落雷ケラヴノス】をもちいれば、一秒すらも必要とせず肉薄し、反撃の暇さえ与えず無力化出来るだろう。

 前後左右どこを確認しても敵援軍の可能性は薄い、モニターに映る程派手に動く敵達は場所的にも遠い上、第3位のロイド以外はモニタリングされている。5位と8位の二人がフィオナ陛下の護衛で学園に待機しているが……コチラの援軍に来るまでに時間を必要とするはず。


 ……罠の可能性は? 大丈夫、罠の発動前に離脱できる。

 ……ロイドが潜伏している可能性は? ロイドが察知する前にラグニスを無力化し速効で逃げればいい。


 援軍の到着前にあの地味に邪魔な位置でウロチョロしているウサギくらいは、ヴェリカ一人で排除しておくべきだろう。


「……つーか一人くらいやっとかないと、後々、ガラティナさんとか小言いってきそうだしなぁ~……」


 モニターで戦況を見た感じ『革命軍』側の生徒には……あまり戦果は期待できなそう。ようは、主戦力は騎士団がつとめるカタチになる。

 一人頭、最低でも敵一人は潰しとく位しなければ……祭りの盛り上げ役にもなれない。


 そもそも、一番の大問題としては……――


「あの姫様が……素直に負けを認めてくれるか……なんだよなぁ~……」


 ソコである。

 そこのウサギや、護衛の侍とメイドを無力化したとしても……肝心のフィオナ陛下に対しチェックをかけたとしても

 自分達が聖騎士であるかぎり、チェックメイトはかけられないのだ。

 たとえ遊戯の場であろうと、騎士団員の誰一人としてフィオナ姫に手を掛けられる者はいない。立場上とか、実力的にとか、そういうの全て抜きにしても……無理なのだ。というか、神に頼まれても絶対に傷付けたくない、が本音である。

 騎士団の誰も、姫様に危害を加えたくないのだ。


 もしも万が一……億が一にも……戦闘になる事があれば、それはもう凄絶なまでの、対戦相手の押し付け合いが勃発する事であろう。そうなったら、いの一番に逃げ出してやろうとヴェリカは決めているわけだが……


 さて、脱線したが……今は目の前の敵である。

 ヴェリカの予想ではあと三十秒もすれば騎士団の援軍が来る筈だ。その前に一人くらいはやっておくべきなのだろう。

 たとえ弱そうな相手だとしても、全くこれっぽっちも気乗りしないが……しかたない。

 気付かれる前に、文字通り一瞬で仕留めて――


「――っ!? 誰ですかっ!?」

「……なっ」


 突然叫びをあげたラグニスの反応に、ヴェリカ踏み出し掛けた脚を止め瞬時に全方位へ意識を集中させる。

 まだ、物音一つ立てていないヴェリカの存在がバレた可能性は限りなく低い。故に、ラグニスの言葉がブラフでなければ他に敵か……もしくは味方兵が存在する事になる。

 誰だ?

 注意深いヴェリカですら察知できない程の人間がいたというのか?


 ……だが、ヴェリカの目にそんな陰はうつらない。

 やはりブラフ?

 そう思ったのも束の間、もう一度ラグニスへと視線を戻したヴェリカは……その目を見開いた。


 少年ラグニスはまっすぐに……ヴェリカのいる方角を見ていたのだ。いや、その真っ赤な瞳は確実にヴェリカの存在を認めている。


 いつだ?

 いつ、どのタイミングで見つかるようなヘマをした?


 いや、反省は後だ。

 逃げるか? それとも、潰すか?

 ヴェリカの最高速度ならば、たとえ五感の鋭い獣人であっても初見の相手ならば確実にやれる。見たところ、ラグニスは防御特化ではない。

 これならば、確実に……


「ケラヴノス……最高出力……」


 左手に逆手で握られた短刀。

 ヴェリカの全身から蒼白い雷光が発せられる。そして……時間にして、まさに一瞬。

 ヴェリカの体が……消えた。


 ――パンッ!!!


 破裂音にも似た甲高い衝撃が辺りへと木霊する。

 その音よりも遥かに速く、ヴェリカの放った拳はラグニスへと届いていた。……が


「……い、っつぁ!!」

「おまっ、何で()()()()てんだよっ!?」


 ラグニスの顎を狙って確実に穿たれた筈のヴェリカの一撃は、何故か両手をクロスさせたラグニスの手甲に阻まれていたのである。

 しかも、まっすぐではないのである。

 一度、ヴェリカはラグニスの右横へと移動し、真横から顎を狙った……正に意識外からの一撃だったはずなのだ。

 いや、ラグニスの視線の動きから……ヴェリカの動きを追えていなかったのは明白だ。しかも、ラグニスは右目を眼帯に隠されている。完全な死角なのだ。……ありえない。


 まるで、はじめからヴェリカが『そこを狙っている』と知っていたかのようなタイミングでの防御だったのだ。

 単なる、勘だよりだったとしても十分に異常である。


「あぅ……、いつまでもボンヤリしてたら敵が攻めてきたって事なんですよね……。ど、ど、ど、どうしよう!? 見るからに騎士団の人だよぉ……」

「……っ、お前! 今の一撃、何で止めれたんだ!? 確かにお前の隙を突いた筈なのに……っ」

「ぅえっ!? あ、えっと……その、ごめんなさい!!」

「謝るくらいなら答えろ!」

「ごめんなさい! ごめんなさぁい!! コレはその……企業秘密なんですー!! 本当にごめんなさい! 申し訳ありませーんっ!!」

「……ちっ、意地でも口を割らねえってわけかよ……。だったら、その前のやつ! どうやって、オレを見付け出した!? 数秒前まで確実にお前はオレの存在に気付いてなかった筈だっ!」

「あぅ……それも、その……秘密で……」

「あぁ゛っ!? なんでもかんでも秘密秘密って、テメェの個人情報は国家機密かなんかかゴラっ!!」

「ひぃぃいいっ!! ごごご、ごめんなさい! ごめんなさぁああいっ!!!」

「……あーくそ! 予定が狂った」


 ラグニスと対峙してなお雷光を纏い続けるヴェリカ。

 このまま戦闘を続行してもいいのだが、もしかしたら敵側の援軍が来る可能性もある。先程の衝撃音も存外に響いてしまった。校舎内の敵二人にはバレたと考えるべきだろう。

 ここは普段通り、撤退するか?

 いや、コチラの戦力が一人だけならばともかく、数秒後には口煩くちうるさいながらも頼れる援軍が到着する。その数秒間は一人で戦うべきだろう。


 とりあえず、このウサギだけは潰す。


 臆病者ながらもやはりヴェリカも聖騎士の一人。逃げたい欲求よりも、こんな弱そうな相手に敗けられないというプライドがまさってしまった。


「一応、騎士としてこれから戦うお前に名乗っとく! オレは王室騎士団が一人、ヴェリカ・エーレッドだ」

「や、やっぱり戦いは避けられないんですね……」

「テメェ……フィオナ陛下を守る兵士でありながら、このタイミングで逃げ出すつもりか? ぶっ殺すぞ? あの陛下に恥をかかせる気かっ!? あぁ゛っ」

「はいぃ! た、戦います! 戦わせていただきます!!」

「じゃあ、名乗れ! 戦う前の礼儀だ」

「……あの、ついさっき名乗る前に不意討ちしようとしてましてよね……? な、なーんて……」

「さっきのアレは一方的な暗殺が主目的であって、正々堂々の戦いじゃなかったからいいんだよ」

「…………えぇ……どういう理屈……」

「うっせぇ、ぶっ殺すぞ!?」

「はいごめんなさい!!」

「で? 知ってるけど名前は?」

「え? 知ってるんですか!? それなのに、名乗るんですか!?」

「…………」(ギロっ)

「あぁはいごめんなさい名乗ります名乗らせていただきます! 自分の名前はラグニス・ルー・ビットリオと申しますー!! えっと、えーっと……い、一年生です!」

「知ってる」

「だったら、聞かないでくださいよぉ……。それに、無理に戦おうとせずとも話し合いで解決出来ることもあると思うんですけど……」

「実際の戦争ならともかく、観衆の目もあるこんな催し事でオレら騎士が敵の賄賂に屈するなんて論外に決まってんだろうが! 観客をシラケさせる気か? そういう、裏切りゴッコはガキ同士で勝手にやってろ! オレら大人は与えられた役割を完璧にこなすだけだ」

「そう言う事でしたら、生徒達のサポートに回るべきなんじゃ……」

「ぶっ殺すぞ?」

「ごめんなさい」


 涙目のラグニスなど無視し、ヴェリカの注意は学園側と森林側へ。……ドチラの援軍が先に到着するか、である。

 たとえ複数人を相手取ろうと、ヴェリカの雷速ならば苦戦せず蹂躙じゅうりんできる程のポテンシャルを兼ね備えている。命を賭けた殺し合いではないので威力こそかなり抑えてはいるが、その超高速のみを見ても脅威そのもの。一般人には反応すら出来ない。

 それほどの力を持ちながら何故天狗てんぐにならずにいられるのか……。ヴェリカの元々の臆病者な性格ゆえに、というのもある。

 お仕えする姫様の格をおとしめないため、というのも確かにあるのだろう。

 だが最たる理由はもっと単純だった。


 団長――リンド・アークレイヴには微塵も通用しなかった。かすり傷はおろか、まともなダメージすら与えられていない。

 生物としての格の違いを実感させられたような気分だった。

 自身よりも遥かに強い人間がいる。

 それだけに、ヴェリカは自身を戒める事ができたのである。

 どんな時でも生き残れるように……。






     ◇◇◇


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