③五話(2)
「……その前に、コチラからも質問をよろしいでしょうか?」
そんな中で手を挙げたのは……戦士達ではなく、王役の――いや正真正銘の『国王』であるフィオナ・オーヴェインその人。
つい一日前、最悪の出会いと最悪の別れを経て……だが、彼女の中にその記憶はない。
ソレを望んだのは志音で、フィオナはソレを叶えた。
なので、志音としては面識があるものの、フィオナとしては初対面……という形になる。
わかってはいるのだが、どうしても苦手意識が先に出てきてしまう志音。
「夕凪家の長男……であると記憶していますが、面識はありませんでしたね。はじめまして、フィオナ・オーヴェインと申します。お見知りおきを」
「…………」
「挨拶はこのくらいでよろしいでしょう。……さて、貴方に質問ですが、ソチラの方とは……どういったご関係で?」
「……は? べつに……第三者のお前には関係ないことだろう」
「では質問を変えましょう。その方が『誰』であるのか、貴方はご存じなのでしょうか? どういった……存在であるのかを」
昨日とは違う、王然とした空気。
覇気とまではいかずとも、フィオナの纏う雰囲気は一国の……いや、全人類の『王』としての格がある。
ギャーギャーと「嫌い」やらなんやらと喚き散らしていた翌日とは思えぬ程の変貌っぷりだ。……この姿を見て『じゃじゃ馬』などとは到底言えない。
志音は彼女の言葉をよく噛み締める。
どういった『存在』?
確かに、創正から押し付けられたというだけで、志音はアリスの事を何一つ知らない。
『超』が付くほどのビップ客とも聞いていたが、詳細については微塵も聞かされていないのだ。ただ、「面倒をみてやれ」とだけ……。
隣に座るアリスを見る。
「……? えへへ♪」
どう見ても、ただのガキだ。
無邪気な笑みで、能天気に笑って、バカでワガママで……志音の思い通りになどなってくれない、ただの少女だ。
それだけで十分だろう……?
「……ただのバカ、としか認知してないが……。それがどうした?」
「……『ただのバカ』……ですか」
「それ以上知る気はねぇし、それだけ知ってりゃ十分だ。そういうアンタは、コイツが誰なのか知ってると?」
「当然です!」
「……お、おう」
急に食いぎみな態度で噛みついてきた非戦闘者に、驚きで若干引いてしまう敵役。
そんな光景に助け船を出してくれたのは、意外な人物で……。
「その方は、わたくしの――」
「あーストップ! 待った待ったぁ!! 今、その話は関係ないし、こんな場面でカミングアウトすることじゃないでしょー!! フィオナ、しゃらっぷ!」
「……でもっ!」
「フィーオーナ~?」
「…………だまり、ます」
「うん♪ いいこいいこ~」
何故かアリスの前では、一国の王が完全に子供扱いである。
その光景には流石に、志音を含むその場にいた全員がキョトンとしてしまった。
はたから見たら、歳上のお姉さんを嗜める年下の女の子である。というか、王様相手にタメ口だし……。
確かにビップ客だとは聞いていたが、アリスのこの態度を見るに……あのフィオナと同格かそれ以上の大物である事が伺える。
人類代表と同格か……それ以上……?
「…………」
今になって、ちょっと接し方を考えるべきだったかなぁ~とか、ひきつった笑みを浮かべる志音。そんな事など露知らず、アリスはいつも通りの態度で、子供みたいに落ち着きなく椅子に座っている。
志音も言い訳をするわけではないが、アリスもアリスで問題なのだ。
今現在もそうだが……いくら身分を隠すためとはいえ、志音の前でのアリスは、大物特有の風格のような……貴族然とした態度というか……そういう『偉そうな感じ』を微塵も見せたりしなかったのだから。
自身にかけた《魔法》の事はすぐに忘れるくらい抜けてる癖に、こういった事に関しては抜け目ないって事なのだろうか?
「ほらほら! ボーっとつっ立ってる暇はないでしょ、志音! ほらっ! 戦いの真っ最中なんでしょ! ファイトだよー♪」
「え……あぁ、おう」
といっても、アリスの正体とかフィオナとの関係とか、志音とは全く関係のない――もとい、どうでもいい話なので「まぁ、いいか」となってしまう志音にも問題はあるのだろうが……。
それよりも両腕両脚の激痛が尋常じゃないので、さっさと戦闘を始めてしまいたい、というのが本音だ。
それを口に出してしまうと、せっかく作り上げた『極悪人っぽい雰囲気』が台無しになってしまいかねないので、志音は頑張って平気なフリをしている。
どれくらい痛いかって?
肩から先と脚の付け根から下を丸呑みにされて、万力のような力で咀嚼され続けているような感覚。おそらくは、【黒】の急激な侵食による副作用のようなものなのだろう。
叶うことなら、指一本すら動かしたくない程の痛みである。
アリスの言うとおり、早く本題を片付けてしまう方がよさそうだ。
「それじゃあ、さっそく――」
「「「さーいしょーはグー!! じゃーんけーん、ポン!!」」」
「…………おい」
声こそ三人分だったが……『王国軍』勢力十人全員が手を各々の形で出している。
志音も人の事を言えた義理ではないのだが……、最終決戦の順番を相談ではなく運試しで決めるとういのは正直どうなのだろう……。
むしろ、全員で一斉に共闘すれば良いものを、何故一対一に拘る……? 志音も「まとめて相手してやる」的な煽りの言葉を言った筈なのだが? コイツらはもしかしてアレなのかな? バカなのかな?
「おや、残念です。わたくしは脱落ですか」
「おりょ……ワシも敗けじゃの~。ま、さっき弟子の相手してちょっと疲れておったし、良い休息の機会じゃとプラスにとるべきか」
最初に抜けたのは8位のメイドと4位のショタっ子。
多少手傷の見てとれる少年の方はともかく、とくに好戦的そうには見えない落ち着いた雰囲気のメイドさんも、対志音戦の選考から外れ残念そうにしている様子。
志音とは因縁どころか面識すらない筈なのだが、無意識に何か恨まれるような事でもしてしまったのだろうか?
メイドさんだけではない。
9位の筋肉ダルマ、6位のエルフ、5位の侍、この三人も昨日の選抜試験が初対面だ。話したこともないのに、なぜか戦う気満々である。
唯一、10位の兎獣人の少年だけは「負けますように! 次のジャンケンで負けますように……」とブツブツ言っているが……ならば何故、そのジャンケンに参加したのだろう……。
7位のガミガミ女こと、ミューレのように誰彼かまわず敵視するような狂犬っぽい奴なら、まぁ……戦闘を望むのもわからなくはない。……のだが
「あぁーーもうっ!! なんで負けちゃうのよ!? あの最底辺にはアタシが引導を渡してやる予定だったのに!!」
狂犬がジャンケンに負けたらしい。
というか、ミューレともあまり接点はなかった筈なのだが……どうして、そんなにも志音に対し私怨を剥き出しに出来るのだろうか……。不思議である。
「……ちっ」
「やったっ……――じゃなかった。えっと……いやー、ざ、残念だなぁ~、あはは……」
「無念。結歌の身内と聞き、是非とも手合せ願いたいものであったのだが……」
エルフ、兎、侍……脱落。
その後、何度かあいこが続いた後、結局最後まで残ったのは……――
「がはは! 俺様の勝利だっ!! さすがオレ! ジャンケンでも勝っちまえるたぁ、今日はツいてんなぁ」
筋肉ダルマ……もとい、大我藤 剛毅。
戦場を映していた浮遊モニター上でも、数々の実力者達を相手にたった一人で派手に暴れていた印象が強い。
「……まぁ、つっても、手負いの弱っちいヤツをいたぶるってのは趣味じゃねえんだよなぁ~」
「そう言うなら、最初から選出に参加しなけれよかっただろう。……何故、毎度毎度、貴様は後先考えずに行動するのだ! やる気がないなら下がれ! 私が相手をする!」
「そういうなルアン。オレとて何も考えてない訳じゃないんだぞ。ただ、急にジャンケンを始められれば参加せんわけにもいかんだろう! 結果、俺様の一人勝ちになっちまったがな♪ ……ん~、そうだっ! この挑戦権を賭けて誰かオレと勝負するってのは――」
「言ったな? 愚物が……」
「それがアリならやってやろうじゃないのよ!」
目の前に敵がいるというのに、仲間内で戦闘が勃発されそうな雰囲気である。
モニターで言っていたように強者にしか興味のない戦闘バカなのだろう剛毅のバカな提案に、無駄に乗り気なエルフと狂犬。……協調性の欠片もない。
「やめておきなさい」
それに口を出したのは、他でもない第1位の結歌。実質的な『王国軍』のエースである。
おそらくは、この中の誰よりも……義弟との一騎討ちを望んでいるであろう。
ジャンケンで勝ち残った剛毅に戦う気が無いのであれば、それこそ結歌が名乗りを挙げるのも無理はない。それは、第2位のアリシアや第3位のロイドも例外ではなく、各々がその目に獰猛な獣のような戦意を宿して――。
「あの志音を相手に、貴方達は愚かにもコチラの戦力を減らすと言うの……? 戦いに勝つ気があるのなら、バカな真似は控えなさい」
「私も~、結歌の意見に同意ですねぇ。自分達の戦いに夢中で知らない方もいらっしゃるようですが、あの人、聖騎士団長であるお兄様と剣での勝負で互角の勝負を見せたのですよ? 手負いとはいえ、油断のできる相手ではないと思いますが~?」
「当然よ。あの志音だもの」
「わ~、相変わらずの姉バカですねぇ。と言っても、その評価には私も同意なんですけどね~。夕凪くんですからねぇ」
「ボクも異議なし、かな」
相変わらず、上の三人は志音に対する過大評価が酷いようだ。今のところ、この三人だけが思い込んでいるだけで、他の生徒達は信じていないようだが……。
今回の《ラグナロク》で、おそらくはそれらの虚言も真実味を帯びてしまうのだろう。
自らそうなるよう動き出したとはいえ、もしも今回の計画が失敗してしまった場合……、志音の望まぬ形で志音のこれまでの努力が台無しになってしまうことになる。
確実性に欠ける計画ゆえに、成功するかどうかは……志音の行動と、どこかで見ている……はずのアイツ次第。
いまだ決まらぬ志音の対戦相手選択に、イライラと待つのもなんだかアホらしく感じてしまったので、志音は思考を巡らせる。
どうするか、どうすべきか。
「……アリス」
「なぁに?」
「アイツは……『英雄』は、この戦いを見てくれていると思うか……?」
「……どうだろう」
「……あぁ……悪い。今のは忘れてくれ……。馬鹿馬鹿しいと思うだろ? おとぎ話の伝説の『英雄』さまが、まだどこかに生きていて……オレなんかを見てくれているとか。自惚れにも程があるわ……はは。だから、笑い飛ばして……忘れてくれ」
「……っ、ボクは……笑わないよ。きっと、君の事を見てるはずだから……。だから、君が君の願いを笑っちゃダメ……なんだと思う」
「何を知ったような口でペラペラ語ってやがんだよ、ばーか。……だが、そっか。……そうだな」
普段の無邪気さとは違い……その笑顔には、哀しみにも似た色が見てとれる。
だが、他者の感情の機微に疎い志音には……アリスの笑顔のその真の意味を理解することは叶わない。
そして、全てを知る一人は……数歩下がった場所より、その二つの背を……その真の意を見届ける。
ライラが思い馳せるは、かつて師と仰いだ一人。その願いを継いだ……一人の少年へと……。
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