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『英雄』を狩る者  作者: オーエン
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③三話(2)




     ◇◇◇




「少々、質問をよろしいだろうか……フィオナ姫殿」

「……? はい。何も話さず待機しているのも退屈でしょうし、答えられる事でしたらかまいませんよ♪」

「かたじけない」


 空に浮かぶ巨大なディスプレイの先では、『王国軍』屈指の実力者……アリシアと、『革命軍』の王役であるリンドの戦いが、今まさに始まろうとしていた。

 それを微笑ましげに眺めていたフィオナに対し、側で控えていた槇谷 恭介は……その場に(ひざまず)き質問を投げ掛ける。


「今現在、アリシア殿と対峙しておられる敵軍の将……『王室騎士団』の長、リンド・アークレイヴ殿について。……先程の一連のみのこなし、只者ではないと常々思ってはいましたが……」

「無理に言葉を選ばずともかまいません。そう固くならないでください♪」

「……かたじけない。率直に……。あの者はどれ程の力を隠し持っているのか。同時に、アリシア一人で相手がつとまる御仁(ごじん)なのか……」

「……そうですね。まず、一つ目の問い……『実力』については、アレだけです」

「アレだけ……といいますと?」

「あのモニターに映るまま、一振りの剣とその身だけ。彼は『何も隠していません』」

「…………では、《魔法》などは……」

「使えませんね♪ 彼にはその素質すらありませんよ。……ですが、二つ目の質問……『あの少女一人で相手がつとまるか』というのは、少し……難しいかもしれません」

「……っ! アリシア殿は我々の中でも一、二を争う程の強者です。……それでも、ですか?」

「ふふふ♪ 彼女がお強いのは存じておりますよ。ですが、相手はリンドですしね……。小手先だけの技ではリンドには通用しません。『勝負に勝つ』つもりで挑むのであれば、夕凪家のご息女……結歌さんと二人がかりで挑むくらいで丁度いいかと」


 フィオナの口振りからして、おそらく贔屓目はない。

 もしもそれが本当ならば……、学園の誇る頂点が二人同時に挑んでやっと勝てる相手となる。

 《魔法》の才能があるわけでもなく、学園生達と大差ないあの若さで……である。

 (おのの)きを悟らせまいとするも、自然と……恭介自身、震えてしまう。


「なるほど……。それほどの御仁か」

「……。ショックですか? 自分達の代表が《魔法》も使えない凡才(リンド)に負けてしまう事が……」

「……はは、どうやら姫殿は勘違いをされておられる」

「……?」

「我々は戦士だ」


 その震えは、恐怖や絶望からくるものではない。


戦場(いくさば)にて、『生きて帰る為』に戦う()()ではなく、『死してでも勝つ為』に戦う……()()です」

「……」

「圧倒的強者を前にして、臆し逃げる者など……我らの中にはいまい。……かくゆう、私も……むしろ挑むことのできぬ現状を嘆くばかり」


 武者震い。

 自身よりも強き者を前にしても、恭介達は『戦いたい』と願うのだ。

 自分の全力がどれほど通用するのか……。自分と相手に、どれほどの差があるのか……。そして……結歌風に言うならば――


 ――その者に辿り着けるのならば、自身も『その域』に辿り着けぬ道理はないのだ。その強者が、《魔法》の才さえなき者であれば、尚更。

 自身は……まだ『強くなれる』、と。


「ふふ、杞憂でしたか」


 一層、戦意の増した恭介に……フィオナはクスリと笑う。

 それは見下したものではなく、若き芽の芽吹きを……楽しげに観察するような……。


「アナタも、彼と同意見ですか?」


 その目は、恭介から……フィオナの隣で静かに佇むメイドさんへと。


「いいえ」

「あらあら……?」

「先程も申しましたように、わたくしはメイドでございます。この命は『ご主人様』の為にあるもの。主の盾となり殉職するならばともかく、(おの)がワガママで……勝手に散らして良いものではありません。ですので槇谷様……、「我々」と一括(ひとくくり)にされてしまっても困ります」

「……むぅ。今回もそうだが……クユハ殿。貴殿ほどの強者が何故戦場に立とうとせぬのだ? 戦場で武勲をあげれば、主も鼻高々であろう。仕える家にも箔がつくというものだ」

「勿論、ご主人様の命令とあらば……喜んで戦場に立ちましょう。わたくしも戦うすべを持った戦士です。……ですが、そうでないのならば主の身の安全が第一。メイドとは、側にいてこそ意味のある存在ですので……。『死して獲られるもの』などに興味はありません」

「ならば、何故強くなろうとする……?」

「ブランドです」

「ぶ、ぶらんど?」

「物に例えるならば、商品価値を高めているだけ……。売名行為と言っても差し支えありません。未だに、仕えるべき主すら見つけられていない、愚鈍なメイドでございますので……。せめて、使い物になる有能なメイドを演じなければ、と。全ては未来のご主人様の為です。他意はありません」

「……う、うむ……なるほど」


 クユハの語るメイドっぷりに、ただたじろぐ恭介。

 一介の武士(もののふ)でしかない恭介には理解の及ばぬ領域ではあるが、その生き様には理解を示す。

 メイドに拘る理由は知らないが、他者に尽くすその熱意は恭介も感心するところがあった。


「ふふふ♪」


 そんな二人のやり取りを、フィオナは楽しげに眺めていた。


 『』を持って生きていられる内、ひとはとても輝いている。

 ソレを『捨てる』か『持ち続ける』か。

 他人(ひと)の成長を、幾度となく見てきたフィオナだからこそ、今あるこの輝きを楽しんで見ていられるのだ。


 『我』を、つき通す者。

 『我』を、捨てさる者。

 『我』を、隠してしまう者。


 そして、『我』を殺す者。


()がままに、生きなさい」

「「……っ!」」

「アナタ達が信じる自分を、大切にしてあげて」

「「……はい」」

「いいお返事ですね♪」


 フィオナは知っているから……。

 生まれ落ちたその日から決められた『運命』などという下らないモノの為に……、『苦しむ事を自ら選ぶしかなかった者』の事を。

 愛したモノの為に……『自身を殺し続ける』ヒトを。


 そんなヒトを救いたいと……また自身を殺すヒトがいる。



 今は思い出せない『あの人』が、そうだった気がするのだ。




     ◇◇◇




 戦える力を持つものは、まずその限界を知りたがる。


 何をやれるのか

 どこまでやれるのか


 すぐに限界を決めつけ勝手に諦める者は、その力をどう使うか、その力でどうなりたいか、という選択に入る。

 『出来ないこと』を諦め、『出来ること』だけで自身を証明する。『使い方』や『工夫』という段階に進んでしまう。

 それを『技』と呼んだ。


 リンドがソレである。

 自身の持てる力を正しく理解し、多くを望まず……そのちっぽけな力を用いて、『技』を磨き貫いた。

 才無き者が努力した結果。


 そんな彼に、フィオナが貸し与えた剣は……、超常の力を秘めた武器などではない。

 《魔法》に対し物理的干渉の出来る、けして『折れぬ』剣。……ただそれだけ。

 他の騎士に与えられた『力』に比べれば、ちっぽけなモノである。

 だが、ソレで良かったのだ。


「……はぁ……はぁっ……」

「どうした? 息があがっているぞ……」


 絶え間なく降る、銀槍の雨も……

 隙一つない戦士(アリシア)の技も……

 リンドには通用しない。


「あは……、コレは困りましたねぇ~……」


 自身の実力を傲っていたわけではない。

 だが、少しくらいは通じるだろうと(たか)を括っていた『工夫』のすべてが、リンドにキズ一つ付けられず叩き伏せられていく。

 やはりアリシアでは、リンドに『技』で勝つことは出来ない。



 瞬間的に距離を詰め、手にした銀槍をまっすぐに突き出す。

 猪突ではない。

 相手の出方……反応、対応を瞬時に正確に見分け、ソレに対し最良な『技』で戦っている。

 だが、リンドはそんな最良解すらも、平然と砕く。

 確実に不意を突いていた筈の突きを、リンドはその剣で受け止める。ソレに追随し放たれる、死角からの銀槍すら……「予測済みだ」と嘲笑うかのように、空いた片手で易々と掴み取ってしまう。

 こんな攻防が、先程からずっと続いている。


 派手な《魔法》や圧倒的な力のぶつけ合いなどではない。

 だが、互いを知るがゆえに噛み合い……一進一退を繰り返す『技』の駆け引きは、多くのギャラリーを身震いさせるものがあった。

 ピンと限界まで張りつめた(げん)の様に……


 その場の緊張感は、圧倒的で。

 呼吸すら忘れてしまう程


「…………」

「…………」

「……それで?」


 距離をとり、対峙するアリシアに対し……リンドは不機嫌そうに睨み返す。

 その瞳に『(いか)り』にも似た感情を孕ませ……


「いつまで、遊んでいるつもりだ……?」


 冷酷に告げる事実。

 この一連の攻防を、リンドは「遊び」と言い放った。

 素人目には、どこをどう見ても手を抜いている様には見えなかったはずだ。いや……アリシアは手など抜いていない。

 本気で……リンド・アークレイヴに挑んでいた。


「失敬ですね、お義兄様。私はちゃんと戦っているではありませんかぁ~。さっきだって、けっこう本気で致命傷を狙っていたんですよ~?」

「……この程度の『児戯』で、か……?」

「『技』って言ってくださいよぉ! これでも、対お義兄様用に様々な『小細工』を考えていたんですよ~。……まぁ、全部無駄に終わりましたが……」

「……今一度言う。勝とうという意思があるのなら『本気』で戦え。小娘の戯れに付き合ってる暇はない」

「えー、これで『本気』のつもりだったんですけどねぇ~♪」


 アリシアは、あのリンドを前に……笑った。

 余裕の笑みとか、見下した嘲笑とか、そういう感情ではない。やはり、ついつい『彼』のことを思い浮かべて……自然と笑みがこぼれてしまったのだ。


「……だってお義兄様……」


 手にもった銀槍すら下げ……

 アリシアは告げる。


「こんな『おままごと』で、全力を出すなんて……『バカバカしい』じゃないですかぁ♪」

「……聖戦を……愚弄するか」

「いえ、《ラグナロク》を言っているのではありませんよ~? この一戦……お義兄様とのお遊びのことを言ってます♪」

「…………何が言いたい」

「ですから、『コレ』はただの前菜なんですよ~。メインディッシュ前のオードブルです」


 この島で一番の実力者を前にして、その戦いを『前菜』と豪語する少女。

 自ら進んで強者の逆鱗に触れるような発言である。


 だが、事実なのだ。


 アリシアには……『どうでもいい戦い』なのだ。

 リンドがアリシアに興味を示さぬように、()()アリシアもリンドには『興味がない』。

 だから……どうでもいい。


「先程も申しました通り、私はただ……両親からの伝言をお義兄様に伝えに来ただけです。本来の目的は『ソレだけ』であり、コレはただ家族間のスキンシップ程度のじゃれ合いじゃないですか~♪」

「……っ」

「勝ちに来たわけじゃないんです。……あっ、もしかしてお義兄様! 私達全員が、お義兄様の首を狙って行動していると思われておられたのですか!? だとするのなら……とんだ、自惚れですわね~♪」

「アリシア……」

「少なくとも、私にとってコレは『勝つ必要のない戦い』ですので……。全力とか勘弁してください♪」

「ふざけるのも大概にしろ……」


 完全に怒った。


 でも、アリシアは平静である。

 かつて……はじめて『彼』と戦った時に言われた言葉。

 今は何故か、その真意が理解できた気がするのだ。

 もちろん、『気がするだけ』。それが正解とは限らない。……でも、そんな自分が少し嬉しかったりする。


「本番前に手の内をすべて晒すなんて、おバカさんのする事でしょう? もうそろそろ、お義兄様と遊ぶのも飽きちゃいましたし……、逃げちゃってもいいですかね~?」

「敵将を前に、尻尾を巻いて逃げると……」

「はい♪」

「……どうやら、お前の事を見誤っていたようだ」


 鈍く光るその瞳に、もはや情はない。

 怒りすら消え失せ……今はただ、『処理する対象』というだけ。戦士という認識すら間違っていたのだと……。

 所詮は……年端もいかぬ小娘か、と。


 一瞬と呼ぶのも生温い、瞬く間すら与えぬ神速をもって――リンドはアリシアとの距離を殺した。

 撃ち放たれた銃弾にも劣らぬ速さで迫り、未だ反応すら出来ていないアリシアへむけ……銀色の切っ先を――


 ――キィィーー……ンッ!!


 放たれた剣撃が……少女の体に触れることはなかった。


 外した?

 違う。

 阻まれたのだ。

 アリシアではなく……一人の少年が持つ、漆黒の剣によって


「……っ!? ゆう、なぎくん……っ」

「邪魔をするな……小僧」

「悪いね……。一応は、『友達』なんで」


 少年は、静かにわらった。




     ◇◇◇


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