③二話(6)
◇◇◇
「そういえば……」
先に用事を済ませてくると言っていたアリシアと別れ、まだ犬耳を装着したままのアリスと共に市街を歩いていた志音。
ふと、先程の会話を思い出していた。
(イチャイチャデート……ねぇ)
アリシアが言っていたように、男女で楽しげに祭りをまわっていれば、周囲の人間からはそう見えてもおかしくはない。
アリスの無駄に高いテンションを見ていれば、むしろそう見えて当然なのだろう。
そこで、今更ながら……一つの疑惑が生まれた。
「アクトくんや……」
『アクト』。それは、《認識阻害魔法》という便利機能で変装したアリスの偽名である。
【黒】《マヴロ》の侵食による影響で、志音には微塵も通用しない《魔法》ということもあって……どうも『変装している』という事実を忘れてしまいそうになるが、一応変装しているのだ。
そして、本人が言うには……ちゃんと周りからは『男である』と認識されているらしい。男子用の制服だって着用している。
では何故、……『デートしている』という発想にいたるのか?
「……。あっ、ボクの事か! なになに~、志音?」
「お前、忘れてたな」
「ついつい。えへへ~……」
「《魔法》はちゃんと発動してるんだろうな? ……俺の目からだと、確認のしようがないんだ」
「…………ん~っと、あっ、ちょっと解けかけてる!」
「おいコラ」
「大丈夫大丈夫! 完全に解けてたわけじゃないから、正体まではバレてないって♪ たぶん」
「お前、『お忍び』の意味ちゃんと理解してんだろうな……?」
「大丈夫だって~。ほらほら、ちゃんとかけ直したから問題ない! 何事もなかったからセーフ♪」
「……ったく」
何を根拠に「大丈夫」などと言っているのか、志音としては不安でならないが……。
今の今まで何も起きなかったというのも事実。
ならば、無駄に警戒する必要もないのだろう。むしろ、滅多なことが起きない限りアリスほどの実力者ならば、問題なく対処できるはずだ。
「そんな事よりだよ!」
「……なんだよ」
「さっきの……えーっと、アリシアちゃんだっけ? 敵さんなんでしょ?」
「何故、戦わなかったのか……か?」
「なんで味方のボクより高い物プレゼントしちゃうのさ!?」
「…………はぁ」
「ちょっと! なんでため息!?」
「もう、お前の言動に一々ツッコむのも疲れた……」
「ボク、ボケてないよ?」
「素で言ってることが問題なんだよ……っ」
「いだぁああ!! アイアンクロー、やめれぇ~!? もげちゃう! なんか出ちゃうからぁ~!」
呆れ果てる。
志音も志音であるが、アリスも相当ズレている。
なぜ、敵と遭遇したという流れで……「戦う」云々ではなく、買ったプレゼントの話題になるというのか……。
「んなもん、賄賂に決まってんだろうが。口止め料だよ! 口止め料!」
「れも、れもぉ! それだけなの!? なのに『アレ』なの!?」
「……悪いかよ」
アリスの言葉に、少しだけ考える。
本当にそれだけか?
本当に、そんなその場しのぎな理由だけだろうか?
志音にとってアリシアとは、結歌と似たような立ち位置である。数多の生徒から『高嶺の花』と揶揄されながら、ほぼ無関係な志音に対し無駄にちょっかいをかけてくる。ただ面倒な相手。
結歌の場合は『家族』という肩書きがある分、まだ寛容に接せるが……アリシアに関しては完全に他人である。健吾やエイラのように、友として過ごした時間が長いわけでもない。
では、何故……無視しないのか。
他の者に対しては、平然と無視を決め込む志音が、アリシアを無視しない理由……。
無視できない理由……。
綺麗な見た目?
纏う雰囲気?
おそらく、違う。
綺麗な異性に惹かれてしまうほど、志音は正常な思考をしていない。
では、何故だろうか?
「なんでかわかんねぇけど、……『他人』って感じがしないんだよ」
「うぅ~、同類ってこと?」
「それこそねぇよ。……そんな奴がいれば――」
――殺してる。
言いかけた言葉をのみこむ。
この少女に、こんな事を言っても意味がない。
「とにかく、ただなんとなくだ。なんとなく……目をはなせないってだけ。他意はない」
「ふぅーん……。じゃあさじゃあさ! ボクは!? ボクは志音にとって、どんな存在なのかな? かな!?」
「創正に押し付けられた面倒な荷物」
「考える素振りもなく即答だったね……。ちょっとはないの!? 可愛いとか、抱き締めたいとか、結婚したいとか!」
「……ふん、そういうのはもっと女らしい体に成長してから言え。今のガキ体型じゃ十年早いっての」
「むっかぁーー!!! 今、志音は言ってはいけない事を言った! ボクに対して絶対に言っちゃダメな禁句第一位を言ったぁああ!!」
「うるさい」
「ぐるるー!!」
「また犬語か……」
「はむっ!」
カプッ
「噛み付くな!」
「う゛ぅ~! はむはむっ」
志音の右腕に犬のように噛み付くアリスだが、実際はまったく痛みはない。
身体強化云々ではなく、アリス自身が本気で噛みついていないからだろう。軽い甘噛程度だが……。
周囲の視線は痛い。
そして、いい気もしない。
「…………はぁ……。イカ焼き、食べるか?」
「わんわん♪」
やはり、アリスは犬だ。




