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『英雄』を狩る者  作者: オーエン
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③二話(3)


     ◇◇◇




 学園の戦績ランキング制度とは、生徒一人一人の戦闘成績を元に作り上げられた個人の戦力を表す一つのステータスのようなものだ。

 強いものが上位に立ち、弱いものは下位へ。

 『戦闘力』というもののみを見た生徒のカースト制度である。


 結歌達、最高位の十人を抜いたところで、十一位以降の生徒が弱いということはない。ただ『個人』で比較した時、あの十人よりは劣る……というだけで、彼らは『弱者』ではないのだ。

 そして今回の戦闘は、数の上では九倍……圧倒的な戦力差と言っても過言ではない。

 一人で挑めば、確かに勝つことは難しいかもしれないが……複数人で連携を組めばどうだろうか?

 一+一が二となるように、数は多い方が当然ながら有利である。その上、連携の練度が増せば……その戦力は飛躍的に高まる、というものである。


 そう、彼らもまた……数千という生徒達の上位百位圏内に君臨する、実力者揃いの『革命軍』なのだ。


 …………『負けるはずがない』

 この戦況を観客視点で側から見たなら、きっとそんな感想を抱くであろう。

 強さに多少は優劣があるかもしれないが、それでも子供の背比べ程度の差だ。手段を工夫すればいくらでも覆しようはある。

 では、実際の戦場はどうなっているか……



 数人で連携を組む『革命軍』生徒がいる。

 彼らは『革命軍』内でも上位の戦績を誇る上、集団戦にも慣れ……この小隊での連携も手馴れたものである。

 前衛に体格のいい男子が数名、彼らは接近戦を得意とし、《魔法》は使えないが《マナ》による自身の強化は出来る。数センチ程度の鉄板程度なら、素手で難なく破壊できるレベルである。

 さらに、中衛には身軽な者が数名。

 こちらは《魔法》の使用も簡易なものであれば可能であり、さらには前衛でも動くことが出来る。拳銃や弓などを得意とし、援護が主な立ち回りである。

 そして、後衛にはただでさえ貴重な《魔法使い》が数名。

 瞬間的な火力でいえば、こちらが主力である。

 前衛に対する《強化魔法》もさることながら、一番のメインは詠唱を必要とする《大火力魔法》であろう。


 前衛が時間を稼ぎ、中衛はそのサポート。そして、後衛による《攻撃魔法》。

 それぞれの役割を正確に理解し、それを理想的なレベルにまで昇華させたエリート部隊である。


 彼らがまず標的に選んだのは……たった一人で、無謀にも本陣へと突っ込んで来ようとしていた、序列第九位……大我藤 剛毅。

 何故か、上の制服を着ておらず……上半身裸にズボンと……防御力のカケラもない姿の大男。その隆起した筋骨隆々な肉体には警戒を抱く余地はあるが、逆を言えば隠し持った武器などは皆無ということである。

 前以て調べておいた情報から、この男が《魔法》を使用した経歴はない。見た目通りの『前衛特化』タイプである。

 市民の多い街からはそれなりに距離もあり、《魔法》により一般被害も気にする必要はない。


 奇襲をかけるならば、今がベストである。


「…………むぅ?」

「よう、大我藤 剛毅。お前には悪いが、ココでリタイアしてもらうぜ!」

「おーー! やっと敵兵に会えた! えーっと、ひぃ、ふぅ、みぃ……なんだ。たった八人程度か。もっと集まらなかったのか?」

「……っ! 生憎、オレ達はこの面子が理想なんでね。テメェ一人を倒すくらいなら、むしろ過剰戦力だと思うが、なっ!!」


 前衛の一人が大我藤へと襲い掛かる。

 《マナ》による身体強化に加え、前以て《強化魔法》を何重にも重ねがけした初手から本気の一撃。

 大木すら易々と抉り取る程の拳が、剛毅の腹部へと直撃する。

 力む暇さえ与えない完全な不意打ちだが、ここは既に戦場である。文句を言われる筋合いはない。


「んー……。口調から見て、同学年か? いやぁ、スマンスマン。お前誰だっけ? どうも、人の名前を覚えるってのは苦手なんだよなぁ」


 剛毅は無傷でピンピンしていた。


「ちっ、入りが甘かったか!」

「やっぱり、打撃は効果が薄いですね。武器を装備してください!」

「後衛組は《魔法》の準備しとけ! 一気に畳み掛けるぞ!!」

「中衛組も援護頼む!」


 それぞれが武器に手をかけた。


「おいおい、名前くらい教えてくれたっていいだろうよ? お前達だけオレの名前を知ってるってのはずるいぞ!」

「……っ! 三年のケヴィン・ルーシュ……お前をぶっ飛ばす男の名前だ!! 覚えとけ!」

「うむ、やっぱり聞いてもわからん!」

「ふざけやがって!!」


 彼らは容赦なく剛毅へと襲い掛かる。

 剣を手にした者の斬撃、槍を手にした者からの刺突、それだけでなく……中衛からは矢や銃弾が、後衛からは火炎や電撃など。

 様々な攻撃が、続けざまに剛毅へ命中していく。


 むしろ、剛毅は避けようともしていなかった。

 いや……避けようとする必要がなかったのだ。


「なぁ、ケリーくん?」

「ケヴィンだ! ふん、攻撃をやめて欲しかったらさっさと降参して——」

「あーいや、別に攻撃は続けててもいいんだけどよ。ケニーくん」

「……っ!? くそ、もっとだ! 全力を叩き込め!!」


 声に呼応するように、各個人が奥義としている技までくりだす。衝撃は更に増し、近隣への被害も計り知れない。


 だが……——


「いやいや、頑張ってくれてるとこ……水差すようで悪いんだが」

「「「……っ!!!!?」」」

「あと何秒待てば、ぶっ飛ばしてくれるんだ?」


 剛毅は、それでも無傷だった。


「ば、バケモノかコイツっ!!」

「時間があればもっと相手してやっても良かったんだがよ。残念ながら、オレ急いでんだわ。ケイリンくん」

「…………っ!! はぁぁあああああ! オレは、ケヴィンだぁあああ!!!」


 岩壁すら両断する程の渾身の一撃。

 全力を持って振り下ろされた刃は、袈裟懸けに猛威を振るう一斬。剛毅の首元を捉えた一振りは……


 ——カンッ!!


 甲高い音を響かせ、その刃を失った。


「気迫は悪くねぇんだけどよ。……お前らじゃ、実力不足だ」


 斬られた筈の剛毅は、血の一つも流さず……つまらなそうにその光景を見ていた。


「じゃあ待つのも飽きたし、今度はコッチから行くぜ?」


 軽い深呼吸を一つ。

 ニヤリと笑う剛毅は、右手を力強く握り締めた。


「よぉく覚えとけ、『突き』ってのはこうやるんだ。痛えから、ちゃんと歯ぁ食いしばっとけよ?」


 軽い言葉とは裏腹に、その拳に込められた力は半端なものではない。

 受けてすらいない今でさえ、目視するだけでわかる程のプレッシャー。《強化魔法》を付加されたわけですらない……ただの拳だが、脅威度は抜き身の刃以上。


 後衛の判断は正しかった。

 ケヴィンの剣が折れた瞬間から……今使用できる《マナ》全てを、全員の防御強化に全振りしたのである。

 防御障壁ではなく、身体強化を選んだのは……一重に——


「そらぁあああああっ!!」


 その拳を前に、《防御障壁ソレ》が何の意味もなさないと……本能的に理解してしまったから……。


 剛毅から放たれた拳は、ケヴィンの腹部を深々と抉り……その勢いのまま、ケヴィンの体ごと岩壁へと叩き付けられる。

 肺の空気を一瞬で吐き出し、それでもまだ足りず……血反吐を撒き散らす少年。

 叩き付けられた壁はその衝撃に耐えきれず、地割れにも似たヒビを残すほど。


「おぅ、今の反応は悪くねぇ。後ろの奴らだな? 十分加減してやったつもりだったんだが……やっぱ難しいなぁ。『死なねぇ程度の力加減』ってやつはよ。ほら、人って脆いじゃん? つーか、お前らもっと筋肉つけろよ。肉食え! 肉!」


 岩壁を易々と砕く拳で、まだ『加減している』などと言っている。

 その言葉は強がりなどではない。

 事実、剛毅は《マナ》による身体強化も、《魔法》による強化すらしていない。


 単純な筋力だけで……コレなのである。


 彼らの攻撃は全く通じず、剛毅の攻撃は……一撃でも受ければ即アウト。こんな状況で、まだ戦意を保っていられる者など……この場には存在しなかった。

 だが、誰も彼らを臆病者と罵ることはしない。

 こんな圧倒的な『格の差』を前にしてなお、誰一人として無様に逃げ出すという選択を選ばなかったのだから……。

 それでも……もう剣を構えることは出来なかった。



 ……敵の選択を間違えた? 違う。

 相手は序列第九位である。……つまり、敵の中で『二番目に弱い』相手なのだ。


 ……他の相手なら勝てた? 不可能だ。

 この戦力差は『戦闘スタイルの相性』なんてレベルの話ではない。そもそも、次元が違い過ぎる。


「……んぁ? そー言えば、ルアンが「例え弱くとも接戦を演じてやれ」とか言ってたな……。今度は効いてるフリくらいはしてやるが、まだ続けるか?」


 剛毅としては挑発するつもりはないが、はたからはどう見ても、彼らを馬鹿にしているようにしか見えない。

 だが彼らにはもう、その挑発に乗れるだけの戦意など残っていなかった。唇を噛み締め……、奥歯を食いしばり……、それでもだ足りない。

 負けたことへの悔しさよりも、己が弱さに対する悔しさが……何よりも彼らを苦しめる。


「……降参だ。……棄権する」


 全員の言葉を代弁するように、後衛の一人……この中で二番目に序列の高い少年が、手を挙げた。

 一番強いケヴィンでも、傷一つ負わせることすら叶わないのである。残った者達でどうにか出来るとは思わない。


 ここが本物の『命をかけた戦場』なのだとしたら、彼らも諦めず、戦場で死ぬ覚悟を見せただろうが……、これは単なる催し程度である。

 今はむしろ、大怪我を負ったケヴィンの治療が最優先だ。


「…………そうか。頭でわかっていても、プライドの高い上位ランカーとしては……勇気のいる選択だっただろうよ。次に挑んでくる時は、もっと強くなって来い!! オレ様はいつでも、お前達の挑戦を受けてやるぞ! がははっ」


 例え相手が弱者であろうと傲慢に接したりはしない。それが大我藤 剛毅という人間である。

 戦意なき者に対し「不甲斐ない」と罵ることもない。

 自身の実力を過信することなく、引く時に引くことの出来る者こそが……戦場では生き残る。

 引き時を知らぬ剛毅としては、むしろ称賛するべき行動であった。




 ……戦場とは、机上の空論で語れるものではない。

 いくら数で徒党を組み、一人を狙おうにも……それが必ずしも勝利に繋がる保証などどこにもないのだ。


 そして、学内ランクなど……ただ優劣を分けるだけの数字に過ぎない。

 隣合う順位の間にどれほどの実力差があるのかまでは、わからないのである。




     ◇◇◇




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