③一話(4)
◇◇◇
集合地点である森林内の一角に到着した志音一行。
志音達よりも先に到着していた他のメンバーは……
「……あぁ、やはり君達もココに集められたみたいだね」
半袖長ズボンの独特な戦闘衣に身を包んだ、細マッチョな拳闘士……フォン・クーリャン。
「……クソがっ」
先ほど、志音自らお灸を据えたヴァージェス。
「……っていうか、他のメンバーが街中や学園内なのに対して、なんでアタシらだけこんな危険区に放り込まれてるんスかね……。マジふざけんなよ運営コンニャロウ!!」
……何故か開始前から不満全開な一年生女子、クセっ毛の印象的な頑丈少女……ユノ・バーン・ログリット。
それと、その他数人。
その全員には、ある共通点があった。
それは、敗者復活枠……もとい、先日行われた試験にて《ラグナロク》参加枠を自力で手に入れた、言うなれば人数合わせの追加メンバーである。
《ラグナロク》内では、オマケ程度にしか見られていないような面子だ。
そのメンバーが全員一ヶ所に、しかも戦線から離れた位置に集められた……ということは……。
対戦相手である生徒達はもちろん、運営や観衆すら、この面子に何の期待もしていない……ということなのだろう。
もし森を抜け、戦線に現れる事があったなら……まぁ、せいぜい少しは足掻いてみせろ、と。
メイン前の前菜にも劣る扱い。
ソレをどう受け取るか……、反応は十人十色、皆それぞれである。……だが、少なくとも——
「…………あぁ、おもしれぇじゃねえか。ソッチがそういう態度ってんなら……コッチも勝手に動かせてもらうぞ。……クソ眼鏡」
『死神』の燻る火の粉に、油を注ぐ結果となった事には変わりなかった。
《ラグナロク》開始直前のピリピリと張り詰めた空気の中、……志音は笑った。
初めてだ。
初めて……『殺す』ためではなく『勝つ』ために戦う。
大元の目的は『強さのアピール』であり、別に絶対勝たなければならない訳でもないのだが…………志音はほんの少しオコであった。
理由は単純、「あのクソ眼鏡にコケにされた」それだけである。だが、それだけで志音には十分なのだ。
盤上をグチャグチャにかき乱して、あの男の悔しがる顔を見る。
また一つ、志音に戦う目的が増えた瞬間であった。
「……試合開始前から随分と殺気だっているようですが、そんなにこの扱いが不満でしたか? ……夕凪 志音くん」
志音の変貌ぶりを見てか、緊張を表に出さず涼しげな顔で志音に声をかけてきたフォン。
試験の場でわずかながら志音の実力の一端を間近で垣間見た、数少ない中の一人である。
その目には、警戒と期待が混じり合ったような……複雑な色を灯していた。
「……これまで幾度となく負けに徹してきた君が、何故今回……こんな舞台に立とうと思ったのか、理由を追及するような野暮な真似はしない。……だけど、私も一人の武術家として、君の強さにはとても興味がある。もし、よい機会があれば是非とも手合わせ願いたいものだね」
戦意を孕んだ瞳。
他の者達とは違い、フォンのその目はまっすぐに志音を捉えて離さない。
志音の隠された実力に怯えるでも、見せかけだけの紛い物と笑うでもなく、正しく志音を認めた上での値踏みする瞳。
真に武を生きる者のソレに、志音も……わずかながら感じるものがあった。
「……まぁ、そんな機会があったら、な」
普段ならば否応無く拒絶するだろう申し出を断らなかったのも、きっとそのせいだ。
強さを求めるリアーナに感化された訳ではないが……
「…………」
やはり、志音はどこかで変わってしまったのかもしれない。
ソレを自覚してなお、後戻りしないのは……それを悪くないと思っているからなのか……、あるいは……——
「きっと、そう遠くない内に、君と拳を交えられることを祈るとするよ」
「…………あぁ」
「ちょっとちょっとぉ!! なに男二人で盛り上がっちゃってるのさーっ!! ボクらを無視して勝手に話を進めないでよね!」
「……同意です」
「…………」
志音の横に並ぶアリスが声を上げ、追随するようにリアーナが前に出た。
ちなみにキティは、拳銃片手に志音をジーッと見ているだけだったのだが……プレッシャーは、獲物を狙う猛禽類のような獰猛さを孕んでいるようだった。
「……ふむ。上の三人といい、そちらの方々といい……どうやら君と一戦交えるにはなかなか競争率が高そうですね」
冗談めかして目を細めるフォンだが、志音としては笑い事ではない。
「そんな人気なら願い下げなんだが……」
敵対意識を持たれるのは嫌われ者の宿命なのだろう、そう思うことで無理矢理納得することにした。
ピリリリ、ピリリリ……
そして不意、この場にいる全員の携帯端末に、同時に無機質な着信が入った。
タイミングからして、偶然別々の人間から連絡が入るとは考えられない。
それぞれ、動揺を隠しつつ周りを警戒する中……
——ピッ
「はーい、もしもーし」
「もしもしー、どちらさんッスかぁ?」
「「「…………」」」
空気を読まないバカが二人。
呆れついでに、志音達も続いて端末を通話モードに切り替え耳にあてた。
『ただいまより、今回の《ラグナロク》のルール説明を始めます』
男とも女ともとれる加工された無機質な声。
『今回の《ラグナロク》は、『レギオン・レイド』……籠城戦です。武力を盾に悪政を続ける王国軍と、国民の自由を手にするために反旗を振りかざす革命軍の戦いとなります。チームは大きく分けて三つ、王国軍、革命軍、そしてドチラにも着かぬ他国兵。コチラは友軍としてドチラかに着いても、ドチラにも着かなくとも構いません。そして、各勢力の振り分けは——』
三チームに分かれるならば、普通はランク奇数組と偶数組の五十対五十。そして、他国兵に志音達追加組を置くのが定石だ。
他国兵だけならともかく、王国軍と革命軍に大きな戦力差があっては、《ラグナロク》の観戦客もシラけてしまうだろうし、何より《ラグナロク》を開催する意味がなくなってしまう。
頂点二人……結歌とアリシアの対決など、滅多に見れるものではない。
それだけでも十分価値があると考えてもいい。
だが、やはり……合理性などこの戦には不要だと言わんばかりに、無機質な声は志音の予測を簡単に裏切ってしまう。
『王国軍、聖エインリーゼ学園学内序列一位から十位の生徒、計十名。
革命軍、聖エインリーゼ学園学内序列十一位から百位の生徒、計九十名。
他国兵、他序列百位未満の参加生徒』
「……なるほど、トップランカー様方は随分と実力に自信がおありなようで」
「ふざけやがって!」
「どっちにつくのも自由ってことは、優勢な方に着いた方が得ッスよね! アタシってば頭いいー♪」
『なお、「他国兵」に関しましては「裏切り」を前提とした捨て駒が主な役回りとなっております。ドチラかに着いたからといって味方扱いされるわけではありません。あくまで第三勢力であり、ドチラかの軍に属することはありません』
「え? うそっ!? 結局は敵だらけってことじゃないッスか! なんなんだよこのクソゲーっ!!」
『勝利条件は、敵軍の全滅、または『敵王の敗北宣言』による降伏行為となります。制限時間は無制限。勝利または敗北以外に結末はありません。また、今回は聖城よりオーヴェイン陛下自らが王国軍の王役をかって出てくださいました。対する革命軍側の王は——』
……オーヴェイン陛下。という言葉に、一瞬にしてその場の緊張感が一気に増した。
意外な配役と呼ぶには、畏れ多すぎる人物である。
大きな式典でもない限り、お目にかかる事すら出来ない人類の頂点が、ワザワザこんな子供のお遊びに参加すると言いだしたのだ。
しかも、革命軍からすれば……敵の将という立場である。
殺し合いではないとはいえ、やりにくいことこの上ない事だろう。
志音の周りでも……
「おぉ〜、めっずらし〜♪」
能天気なアリスや
「へいか? なんすかソレ? 偉い人なんですかね? まぁ、敵なら容赦する事はないッスよね♪ 敵の親玉だってんならぶん殴ってやりましょう!」
やはりバカなユノ。
その二人を除けば……
事の重大さを理解し、汗を垂らし頰を引きつらせる者がほとんどだ。
ただでさえ、頂点の十人だけでも化け物じみた戦力である。ソレにプラスして、全人類の代表とも言われるオーヴェイン陛下まで現れたともなれば……ドチラ側の勢力に着くかなど、考えるまでもないことだろう。
「……あの、じゃじゃ馬……」
志音もまた、他とは違う反応をしていた。
それは、この中でおそらく唯一オーヴェイン陛下……ではなく、フィオナ・オーヴェインという少女を知っているからこその反応なのか……。
志音に関する記憶はないはずだが、どうも不安が拭えないでいた。
他のメンバーとはまた違った理由で、志音も動揺はしていたのだ。
『革命軍側の王は、コチラもオーヴェイン陛下からの指名で聖城近衛『王室騎士団』より、団長リンド・アークレイヴを。その護衛として団員七名の騎士が着きます』
「「「……うわぁ……」」」
誰からともなくこぼれたドン引きの声。
そりゃ当然だ。
生徒達子供の晴れ舞台に、大人の頂点どもがズカズカと入り込んで来たのである。
志音もかなりドン引きしている。
台無しもいいところだ。
『そして、他国兵は参加人数が少数ということもあり、「王」の指定はありません。他国兵生徒全員がリタイア及び降参した時点で他国兵の敗退が決定します。それに伴い、他国兵生徒は端末の発信機機能を常時起動させた状態での参加となります』
「アタシらの扱い酷くないっ!?」
『以上をもちまして、《ラグナロク》のルール説明を終了します。なお、死者を出さない程度であれば銃火器や武器の使用に制限はありません。それでは戦場に立つ皆様、ご武運を』
そんな言葉を残し、プツリと切れた携帯端末を見つめ……
「ふざけんなボケェエエエエエッ!!!」
ユノ一人だけが、携帯端末を力いっぱい地面に叩きつけた。
◇◇◇




