②エピローグ【真実とわがままの果てに】
少女は、『死神』を知った。
それは暴力的なまでに強く、理不尽なまでに強く、そして無情なまでに……強かった。
もはや、『強さ』という秤にかけることすら生温い。
だがそれと同時に――
『ソレ』には、大切なものが……足りなすぎた。
地位や権利、称号や金銭といった、『あとからいくらでも手に入るようなモノ』ではなく、……もっと核心に至る『人として大切なモノ』が……彼の中には無いのだ。
アレもソレも、やること成すこと……すべてが単なる『手段』の延長線でしかない。
……少女は知ってしまった。
彼は『悪人』ですらない。
『善』も『悪』も……そんな概念すら、彼の中には無いのだから……。
すべてが、来るべき『最期』のための伏線でしかない。
彼に触れた、その手を握り締め……やはり、無知なる少女は……雫を溢した。
◇◇◇
「……契約は成し遂げた。次はソッチの番だ……じゃじゃ馬」
「…………」
「約束した通り……、オレに関するすべての記憶を忘れて貰う」
「……えぇ」
「……。……はぁ。別に責める気はないんだが……」
「……」
「……どうせ、オレの過去……オレの記憶、感情……全部見たんだろ? 知って、感じて……同情して……感傷に浸って自暴自棄か?」
「…………」
「忘れろ。……コレは、オレからの願いだ。『ソレ』を背負うのはオレだけの特権で、お前に「わかる」なんて言う権利はない」
「……はい」
「その憎しみも、その苦しみも、その悲しみも……。オレだけのモノだ」
「…………はい」
「なら、頼む。…………さっさと忘れてくれ」
「……はい。……ですが、その前に…………1つだけ」
「……なんだ?」
「…………」
「…………」
「……アナタは……」
「……」
「……アナタは……『英雄』を、殺せますか?」
「…………あぁ」
「……無理です」
「無理でも、殺す」
「……不可能です」
「不可能でも、殺す」
「…………どうして……ですか?」
「どうして……って聞かれても、口で言わないでも『知ってる』だろ?」
「……そうではなく……」
「……?」
「……どうして……そんなにも……、『自身を殺す』のですか?」
「…………あぁ〜……んぅ〜……。……悪い。ノーコメントで……」
「…………アナタはっ――」
「話は終わりにしよう」
「……っ」
「忘れてくれ……」
「……」
「……頼む」
「…………わかりました」
◇◇◇
「……お姉ちゃん、……コレ、あげる♪」
木漏れ日の擽る城の庭園。
アーシャの両手には、革製の無骨な首輪ではなく……花で編まれた冠が握られていた。
背中にキズはない。
白いワンピースに包まれたその小さな体に、もはや忌々しい過去の記憶は刻まれてはいない。
目に見える体のキズは、すべてライラが癒した。
目に見えぬ……心のキズは、コレから時間をかけて、フィオナが癒していく。
ソレが……約束だから。
フィオナは、アーシャから花の冠を受け取り……優しく微笑む。
「ありがとう」
「……っ! ……うん♪」
フワリと、そよ風に揺れる。
アーシャの眩しく……無邪気な笑顔に、フィオナは姉の姿を重ねて優しく目を細める。
「お姉ちゃん……」
「……はい」
「ありがとう!」
「……」
「いっぱい……いっぱい、ありがとう♪」
「……はい」
屈託ない無垢な笑顔。
フィオナ一人に向けられたソレは……、きっと、フィオナにだけに向けられたものではない。
アーシャは知らない。
自身を助けてくれた人の事を……。
フィオナは知らない。
アーシャを助けてくれた者の事を……。
だが、フィオナは思うのだ。
誰も知らない彼を……
名前も顔も知らぬ彼を……
とても、悲しい運命を自ら選んだ彼を……
……いつか、今度はフィオナが救ってあげることが出来たなら……と。
桜の花びらが風に舞う鳥かごの中……
ただ静かに、想い……願う。




