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『英雄』を狩る者  作者: オーエン
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②四話(5)



「……それで?」

「お、大通りで人も多く……騒ぎになると、ボスにも迷惑かと思い……仕方なく連れてきました。他に追っ手とか発信器がない事は確認済みです」

「『首輪』は?」

「俺達が見つけた時には、ソレも……」

「そうか。つまり、この件を知ってんのはその女だけだ、って事だな?」


 ベネッドの声音から察したか……、フィオナを案内した男達が懐に手を触れる。

 同時に、隠しきれてない……だだもれの殺気も、素人同然の所作。……どう見ても素人のそれだ。


「一応聞いとこうか……、何が望みだ? 金か?」

「……いいえ、その前にいくつか質問をよろしいでしょうか?」

「内容によるな。……今、ドチラが立場が上なのか、当然理解した上での発言を期待させてもらうぜ?」

「えぇ、理解ならば……していますとも♪」


 フィオナのただならぬ雰囲気を察したか、ベネッドが片手を上げる。

 それに呼応するように、フィオナの背に向けられる……10を超える銃口。

 スライドは引かれている。セーフティも外され、引き金を引くだけで……音速の鉛玉がフィオナの体を貫くのだろう。

 複数の殺意に晒され、震えが止まらない少女。それとは対照的に……フィオナは微塵も動じない。

 慣れている。というには、異常なほどに静かに落ち着いている。


「では、おのが分を弁えてひとつだけ……」

「……」

「この子のように、『首輪をつけた奴隷』を飼っているのは……アナタだけですか?」

「……。ほう……それを聞いてどうする? テメェ一人でどうにかしようってか?」

「……答えられませんか? まぁ、知らない……というのであれば、答えられるはずもありませんか」

「……あぁん?」

「無知で無能な次男坊では話になりませんか。……では、今度有能なお兄さんか、お父上にでも聞いてみると――」

「黙れよ……」

「……あら、答えられるので?」

「当然だ! テメェ……オレが誰だかわかって言ってんのか? ヴェンヘレス家のベネッド様だぞ!! 誰にもの言ってやがる!!」

「……ひっ……」

「……。あまり大声で騒ぐと、外に漏れてしまいますよ?」

「……ふん」


 もちろん、高級ホテルの一室に防音加工がされていないはずがない。どれだけ怒鳴ろうと、拡声器を使ったとしても外に会話が漏れることはないはずだ。

 だがベネッドが無駄に大声で吠えれば吠えるだけ、フィオナの背後で震える少女が怯えてしまう。

 フィオナとしては、ただソレを避けたかっただけ。


「んで奴隷の話だったか? はんっ、オレ等の国じゃ当然の事だ。ガキに与える玩具みたいなもんだよ。壊れたら買い換える。ただの道具だっての! 貧民を金で飼って養ってやってんだ。どう扱おうが文句を言われる筋合いはねぇだろ!」

「……そうですか。アナタの国では、ソレが常識なのですね?」

「あぁ、何だ? 文句でもあんの?」

「…………いいえ。アナタの国のことですもの♪ 私には何の関係もありませんわ♪」


 作り物の笑顔で微笑む。

 それは軽蔑と決心の入り交じった笑みと、哀れな者を見る嘲笑のない交ぜになったひどい笑みだったことだろう。

 外見では平静を装っていても、中身はどす黒い感情でどうにかなってしまいそうだ。


「言うまでもねぇ事だとは思うが、この事は他言無用で頼むぜ? テメェも五体満足でおうちに帰りたいだろう?」


 挑発のつもりなのだろうか? それとも脅迫してる気にでもなっているのだろうか?

 いまだに自分に優位性があると、この男は本当に思っているのだろうか?

 奥の手があり、後ろ楯があり、頼れる援軍もいる。

 もしくは、聖エインリーゼ学園の全生徒を味方につけていたり、学園理事長の創正やその他の猛者を味方に抱えている?

 さらには殺傷能力の高い魔術兵器か化学兵器を所持しているとか?


 ベネッドの笑みにどれ程の力が隠れているのか、フィオナには知り得ない。


 だが、だから何だと言うのか?

 どれだけ強い力を持っていようと、どれだけ強い権力を持っていようと、どれだけ優れた人脈を持っていようと……。


 この地は

 この街は

 この国は――


 すべて、『私達』だけのモノなのだ。

 こんな男に……

 こんな、数十年程度しか生きていないような『若造』の薄汚れた悪意程度に……汚されていい道理はない。


「アナタの国では……どうぞ、ご勝手になさってください♪ ですが……――」


 フィオナは


 その身に纏う……《魔法》を解いた。

 それは、力を失う代わりに『自由』を手に入れる《魔法》。

 幾百、幾千と重ね編み込まれた《術式》……《ロスト・フィーニス》を紐解いていくように、丁寧に解く。

 もう《認識阻害》など必要ない。


 そして……


 フードに手をかけ


 本当の意味で、その――素顔を晒す。


「私の国で勝手なことをされるのは、歓迎いたしかねますわ」

「――っ、っ!!?」

「ごきげんよう。ヴェンヘレス家第二王子、ベネッド・ヴェンヘレスさん。……私が誰だか……わからないほど無能ではないのでしょう?」

「……あ……あ、あぁ……あああ、『アナタ様』はっ!?」


 フィオナはただ微笑む。

 ベネッドは……フィオナの正体を目にし、その素顔を網膜に焼き付け、その声を耳にし……絶句してしまった。

 先程の余裕などみる影もなく、緊張させた全身からは脂汗がビッシリと浮かび上がり……、瞬きも忘れ、フィオナのその姿に……見とれてしまっていた。

 それは、美的感動と絶望的心情のない交ぜになった、矛盾した反応。


 ボスの普通ではない反応に段々と頭の覚めてきた男達も……数秒の沈黙を経て、ようやく事の重大さにいたる。

 そう、まるで思い出したかのように……


 そこに立つ、一人の少女を……フィオナを――誰も知らないはずがないのだ。




 聖都市 《オーヴェイン》


 第一王女殿下


 ……フィオナ・オーヴェイン



 唯一無二の……この国の王であり姫にして……――『人類の最高責任者』。

 ようするに、全世界……すべての人間の『頂点』である。


 物心のついた人間ならば、……いや魔族でさえも、知らないはずがないのだ。

 なにせ、彼女は人類の頂点であると同時に……『英雄』と共に語り継がれる、『英雄の妹』でもあるのだから。



「あぁ、頭を垂れる必要はありませんよ。アナタ方はこの国のルールを破った……いわば『罪人』です。……敬意の有無に関わらず、アナタ方を罰する事に変わりはありませんので……」

「……あ……あぁ、……へ、陛下っ」

「入国時、国則に目を通していないはずはないですよね? 第5条一節『奴隷売買及び、奴隷所持、他者の暴力的従属、《従属的魔術》の使用、以上のすべてを禁ずる』。罰則は……死刑か半永久的入国の禁止。ようするに国外追放ですね」

「……ち、が……これはっ」

「いつまで私の視界にいるつもりですか?」

「……っ!」

「目障りだと、言っているんです。……早急に、消えなさい」


 その顔に、もはや笑顔などという生易しい情はない。


 凍てつくような声音と、感情を殺した瞳が……ベネッドを形なき刃で刺し貫くように向けられる。




 もはや、状況は揺るがない。


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