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『英雄』を狩る者  作者: オーエン
35/91

②第二話【チカラの使い方】




 頭痛が痛い。

 言葉として矛盾しているが、今の志音はまさにそんな状態だった。

 それは朝のホームルーム。

 昨日までの『後輩脅迫疑惑』に加えて『後輩を病室送りにした疑惑』と……、学園内における志音の評判が日に日に下落し、周りから注がれる視線に殺意が増していく中……。

 それをなんとも思わず、全力で無視していた志音。

 勿論、何もなかったわけではない。

 正論を並べ諭してくる者、昨日の集団よろしく敵意を隠そうともせず言い迫ってくる者、そして……


「……消えろ……ねぇ」


 志音の教卓に深々と彫り刻まれた三文字。口に出す勇気がなかった者が、それでも志音に突き付けたかった言葉なのだろう。

 ソレを知りつつ、何も言わぬ者達も、同じ意見らしい。


 集団によるイジメ?


 違う。

 コレは明確な『悪』を淘汰する為の行為である。この学園に相応しくない、騎士を名乗る資格のない志音を、倒すための善行なのだ。

 だから、誰の良心も痛まない。後ろめたさなど有りはしない。


 志音が悪いのだから。


「……まぁ、別にいいけど……」


 志音はそのすべてを無視。

 弁明などする気は微塵もなく、取り繕うことも、虚実を否定することもない。むしろ、口にはださないが、「オレがやった」という雰囲気を保つ事に、無駄に力を注いでいたりする。


 要するに、志音は『嫌われ者』というレッテルを、デメリットと感じていなかったのだ。

 いつだってそう……。


 好かれるくらいなら、嫌われた方がマシだから。

 求められるくらいなら、後ろ指をさされるくらいが、志音にはちょうどいい。


 そして、険悪な雰囲気のままホームルームが始まる。

 担任教師が空気を変えようと、あたふたしていたが、きっと何をしたところでこの空気が崩れる事はないだろう。


「志音、どうすんだよこの空気……。マジで最悪だぞ?」


 隣の席から健吾が気まずげに呟く。

 健吾はバカだ。

 こんな状況下でさえ、志音を見限らない。

 賢く生きる者ならば、早々に志音など見捨て、大衆側に付くべきなのだ。


 何故そうしないのか……。以前一度だけ聞いたことがある。返ってきた答えは……


「まぁ、マブダチだからな!」


 そんな言葉。

 普通ならば友人とはいえ、ここまで考えなしに全幅の信頼を寄せたりはしない。

 だが、健吾は――


「なんつっても、志音だからな〜」


 バカである。



「ホント、お前ってバカだよな……」

「んだと! 確かに……お前よりは座学の成績はワリィけど、志音なんかよりは有能な自信があるぞっ!」

「そういうとこがバカだって言ってるんだ……」


 そんな話をしていると、担任教師が手を大きく叩き、教室内の注目を集めた。


「静粛に! 今から二人の編入生を紹介する」


 その言葉に真っ先に反応したのは志音だった。

 面だったリアクションを起こしたわけではないが、「編入生」という言葉に……思い当たる人物が存在したのだ。……主に、同居人に……。


(まさか……アリスか? だとしたら、あと一人は誰だ……?)


 教師の口から出た人数は二人。

 一人をアリスと仮定したとしても、もう一人の人物に志音は心当たりがない。

 聖エインリーゼ学園は入学試験ですら合格率がかなり低い。編入試験ともなれば、その難易度は何倍も上がる、と一時期噂になったこともある。


 まさか、全く関係のない二人が、寸分違わず同日に編入してくることなどありえるだろうか?

 可能性は零ではないにしても、限りなく低いだろう。


 考えられる可能性は……


 アリスの護衛として、もう一人。

 もしくは、二人ともアリスと全く関係のない者か。


 この二つだろう。

 アリスは創正も気を使うほどのビップだとも聞く。アリス自身から話を聞いたわけではないので、正確な身分は志音も知らないが、確実に一般貴族なんかでは話にならないほどのお嬢様なのは確定である。

 護衛の一人がついたところで何もおかしな事はない。


 あんな性格なので、志音も時々忘れてしまいがちになるが……。

 他の生徒達も、どうやら志音なんかよりも、新たな学友の加入に興味があるらしく、戦意を霧散させ期待のこもった目で教師を見つめる。


「では入ってきなさい」


 その言葉を待ちわびたかのように……、引き戸式の扉が『前に倒れた』。……それはもう、盛大な音をたてて……。


「……あっ」

「「「……っ!!!」」」


 ソコに立っていたのは、女子生徒が一人と……男子……の制服を着た生徒がもう一人。

 女子生徒の方は、何事もなかったかのように動揺の一つも見せず、スタスタと教師の隣へと歩いていく。

 肩を擽る程度に伸びた髪を覆い隠すフード。その奥にチラリと覗く黒のヘッドホン。

 綺麗に整った容姿は、だが、他者を寄せ付けない刃のような鋭さを兼ね備えているようで……。その瞳は確かな戦意を孕んで、志音の姿を捉えた。

 それは、獲物を捉えた猛禽類の瞳によく似ていた。


 そしてもう一人……

 外れた扉を何とか直そうと一人格闘している、男子……の制服をきた生徒。

 志音の視線は、コチラを見つめる女子生徒ではなく、むしろソッチの生徒に奪われていた。


 志音の知る人物。


 男子の制服を着た生徒……と、あえて遠回しに表現したのは、他でもない。……どこをどう見ても、男子ではないのだから……。


「……あのバカ……何やってんだ……」


 長い黒髪を頭の後ろでポニーテールにし、サラシでも巻いているのか……ただでさえ控えめな胸も全く目立っていない。

 もしかして、男装しているつもりなのだろうか……。


「アクトくん。扉は後でいいから、君もコッチに来なさい」


 アクト……?

 そう呼ばれた彼(?)は苦笑しながら教壇へと上がった。

 だが、どうみてもソレはアリスだ。

 確かにアリスと面識のない者ならば、ちょっと可愛めの男の子、と誤魔化すことは出来るかも知れないが、志音にはどうみてもアリスにしか見えない。

 健吾だって、昨日会って面識がある。

 美少女に対する記憶力だけは、無駄に高性能な健吾を相手に、付け焼き刃の男装程度で騙せるはずが――。


「志音……」

「……なんだ」

「……性別の壁って……大した問題じゃないと思わないか?」

「……。……はぁ?」

「ドジッ子美少年、アクトきゅん……萌え!」

「…………」


 ダメだコイツ……。


 頭を抱える志音を他所に、事態は進んでいく。


「それじゃあ、自己紹介を頼めるか?」

「……。……キティ・ルクスリア。齢は十六。右利き。……よろしく」


 女子の方――キティは、まるでそれ以上に公開する情報はない……とでも言うように、淡々と自己紹介を終える。

 リアーナも大概無愛想だったが、キティのそれはリアーナ以上だった。むしろ無感情と揶揄した方がしっくりくる程だ。

 社交性は皆無。

 ある意味では、志音と同じように不必要な繋がりを作らない為の予防策なのだろうか?

 見た目は綺麗なのだが、纏う空気が「近付くな」と告げていた。


 志音が気になったことといえば、終始……キティの視線が志音を捉えて離さなかった……という事だろうか。


「はいはーい!! 次はボクの番だよね♪ ボクの名前はアリ――じゃなかった、アクトって言います! えとえと、好きな食べ物は〜、肉じゃがとハンバーグとシーザーサラダ、あと昨日カレーも好きになったんだよね♪ 嫌いな食べ物は特にないかな♪ えっと、戦闘スタイルは《魔法使い》らしい《元素魔法》でドッカーン!ってやるのが得意です! これからちょっとの間だけど、ヨロシクね♪」


 ない胸を張ってドヤ顔のアリス。……いや、アクト。

 先に紹介したキティとの雰囲気の差からか、明らかにアクトの方が周りから好印象を受けている。

 そして右手でVサインを作るアクトの視線の先にも、キティと同様に志音の姿があるのだった。




     ◇◇◇




「……どういう事だ……」


 ホームルーム後、質問攻めに笑顔で答えていたアクト……もとい、アリスを無理矢理連れ出し、志音達は人気の少ない特殊校舎へと来ていた。

 音楽室や理科実験室、家庭調理室など、実習系の教室が纏められた校舎である。早朝はどの学年も座学か戦闘実習系のカリキュラムが組まれているケースが多いため、早朝のこの時間はほとんど人がいない穴場なのだ。

 志音もたまに、授業をサボって利用したりしている。あまり褒められた事ではないが……。


 そんな事よりも、今は事情と事態を把握する必要がある。

 主に、アリスの男装について……。


「どうって、何が?」

「とぼけんな……。お前、アリスだろ。お忍びで来てるって言っても、そんなバレバレな変装じゃ……何の意味もないだろ」

「バレバレ?」

「あぁ」

「うそぉー! 《認識阻害魔法》使ってるからバレない自信あったのに〜!? ちょっと自信無くすよ〜」

「……《認識阻害魔法》?」


 言われて、志音は気付いた。よく見ると、アリスの全身がうっすらと淡い光を纏っている。

 日向では目立つことがない程度の発光だったため、今の今まで気付く事が出来なかった。

 しかもただ光っている訳ではない。その光の正体は、幾十、幾百と重なりあった《高等術式》……いや、志音も知らぬ《失われた術式》だった。


 ――《失われた術式》、別名《ロスト・フィーニス》。

 それは、時代の進歩によって『忘れ去られた《術式》』である。起動術式の簡略化や、消費魔力の効率化を図ったかつての技術者達が、『切り捨てた《魔法》』。

 その中には、先日の戦いで暗殺者達が使った《崩壊魔術》に匹敵する程の威力を秘めたものも存在する。


 志音の知るこの知識でさえ、古文書に記されていたものに過ぎず、実際に目にしたのはコレが初めてだ。


「……お前、その《術式》……」

「……?」

「……いや、何でもない」


 志音も聞いたことがある。

 今は主流から外れた《ロスト・フィーニス》だが、ソレを代々受け継いでいく家系もあるらしい。ソレが《禁忌》と呼ばれるか《家宝》と呼ばれるかは、その力や歴史にもよるが……。

 アリスも例に漏れなかったということだろう。


 だから、志音が今問題視しているのは、ソコではない。


「むー、変な志音ー」


 この少女は、事の異常性に気付いていないのだろうか?

 アリスが事もなさげにアッサリとこなしているその《魔法》の数々は、人間がたった一人で賄える《マナ》総量では、数瞬で底をついてしまう程の《大魔法》なのである。

 効率化された《魔方陣》を数個同時発動させたアリシアも、十分異常の域に達しているが……、アリスのソレは文字通り比ではない。

 この時代に生きるどの大魔術師ですらけっして成し得ない事を、平然とやって見せているのだ。


 そしてその《ロスト・フィーニス》に対し、「気付かなかった」で済ませてしまった、志音の肉体も……。

 もしかせずとも《黒》【マヴロ】の影響なのだろう。

 幾度となく、生と死を繰り返し……黒く犯され続けたその肉体は、人間でも……魔族でもない『ナニか』になろうとしている。


 アリスはもしかせずとも、この学園でもトップクラス……いや、そんな言葉では言い表せないレベルの《魔法使い》である。

 そして、志音の身体は、そんな少女の使う《魔法》を見破るほど、人間離れしてしまっている。


 ドチラも無視していい問題ではない。


「……アリス。その《魔法》……、お前の使えるものの中では、どのくらいスゴい《魔法》なんだ? かなり無理しなければ発動出来ない、とか……」

「うんにゃ? 昨日の夜、暇潰しに作った《魔法》だよ♪ 《マナ》はぜーんぜん使ってないし、今この状態で他の《魔法》を使えー!って言われても、チョー! ヨユーだよ♪ なんなら、何かやって見せよっか?」

「…………いや、いい……」


 余裕らしい。

 しかも、魔術協会が数十年以上かけても編み出せるかどうかもわからぬ《ロスト・フィーニス》を、昨日……暇潰しで完成させたらしい。

 もうすでに、志音の理解が及ぶ領域の話を遥かに超えているのだろう。


 こうみえて、魔術知識だけは少々自信のあった志音だったのだが……上には上がいて、ソレは志音の理解も及ばぬ次元にまで続いている。

 もしかすれば、この世界のどこかには……このアリスをも優に越える《魔法使い》が存在するかもしれない。

 そう考えれば、自身の自負など簡単に切り捨てられる。元々、魔術知識が豊富なだけで、生まれ持った《マナ》には恵まれなかった志音だ。

 《魔法使い》の頂点など、はなから夢見ていない。


 それに、どうやら今の志音には、《認識阻害系》は効かなくなっているようだし……。


「お前が、スゴい《魔法使い》だってことは、十分理解した。たぶん、この学園にはお前を凌ぐ奴はいない……って、言えるほどには、な」

「ホント!? あっ、でも志音には効いてないじゃん! ぜんぜんダメじゃんかーっ!!」

「……。……き、効いてるぞ……。あぁ、オレにはお前が男にしか見えない。……うん、男だ」

「嘘だぁーっ! 一目で気付いてたじゃん!!」

「ぐ、偶然だ。次にやられたら気付かないはずだ……たぶん」

「むぅ……、よっし! それじゃあこれよりも、ずーっとすんごい術式を使っちゃうんだからなぁ!」

「お、おう……」


 アリスの目の色が変わる。

 無邪気な少女から、熟練の《魔法使い》へと……。

 そして《詠唱》を始める。


 《詠唱》とは、確かな言葉の一つ一つに《マナ》と意味を集束させる行為である。

 この行動により、《マナ》を無駄なく効率的に《魔法》へと昇華させることが出来るのだ。《無詠唱》との違いは、発動する《魔法》の正確さや威力、《マナ》の消費効率など色々あるが、最たるものは……その《魔法》に宿る術者の意思。


 《無詠唱》は、発動の速さや連発などのメリットがあるが、発動する《魔法》によっては、威力が本来よりも激的に落ちたり、効果範囲が狭くなる、効果自体が薄くなる、などのデメリットがある。

 アリシアの《銀槍召喚》も、《無詠唱》だと、召喚位置の指定、召喚元の指定、召喚物の指定、召喚後の行動指定、何よりも《魔方陣》生成などにかなりの制約を受ける。

 それであの練度なのだから、かなりの術者なのは明白である。

 最強と肩を並べる存在なのは伊達ではない。


 要するに《詠唱》とは、《魔法》を強めるのに必要な文言なのだ。

 だが――


「――――…………」


 アリスのソレは言葉ではなかった。

 志音の耳にも確かに響くソレは、音のようで、歌のようで、言葉のようで、……だが、言語として理解することが出来ない。

 アリスの口から紡がれる音は、確かな力を秘めて奏でられる。

 その心地よい音色は、志音の肌を、耳を、世界を震わせ……《魔法》へと紡がれていく。


 アリスの体内からだけでなく、大気中の《マナ》さえも、集束し眩い光と温かな熱を伴ってアリスへと……アリスの《魔法》へと集まっていく。

 吸い寄せられた《マナ》達も……まるで、アリスに使われる事を歓喜するように。


 志音もこんな《魔法》は見たことがない。


「よし、出来た! それじゃあ発動するからねー!! 志音なんて、コレ見て鼻血ブーしちゃえばいいんだ!!」


 光が線となり、文字となる。

 そしてその一つ一つが芸術的な紋様を描き、アリスの身体へと吸い込まれ消えていく。

 アリスの使った《認識阻害魔法》は《付加魔法》【エンチャント】と原理自体は似ている。

 だがアリスの使う《認識阻害魔法》は、自身の武器や体に《魔法》を纏わせ戦闘力や殺傷力を上げる《付加魔法》とは違い、自信を見た者の感覚を弄る《魔法》。

 志音のように、《魔法》に耐性をつくる《マナ》少ない者には、まず百パーセント効力を発揮するはず……だった。


「じゃじゃじゃーん♪」


 腰に手をあて、ありもしない胸をサラシで更に小さくしている胸を張り、得意気なドヤ顔のアリス。


「……」


 志音も気付いている。今度こそは気付いているのだ。

 アリスの《魔法》がちゃんと発動したことに……。


 だが……


「…………」

「どうどう、志音♪ 色っぽい? エロい? 鼻血ブーしちゃいそう?」

「…………」

「あぁーっ!! 何で目をそらすのさぁ! ……はっはぁ〜ん、さては……鼻血を出さないように、ボクのせくしぃな姿を直視しないようにしてるなぁ〜♪ むっつり志音め〜」

「……あ、あぁ……」


 無邪気にイタズラっぽい笑顔で、志音の顔を覗き込んでくるアリス。

 志音は、脂汗を流しながら全力で視線を明後日の方向へと向けていた。

 何故か?

 アリスの言うように、鼻血を我慢するため……ではない。


 結果から説明すると……



 志音の目にうつったアリスは……何の変化もしていなかったのだ。


 ここでもし、アリスを直視して鼻血を出さなかったなら……とても気まずくなる。


「……ちなみに、今使った《魔法》は、どう見える《魔法》なんだ?」

「えっとね〜、見た人のドストライクな異性が、いっちばんして欲しい格好をしてるように見えてるんだ〜♪ 志音は裸カッターシャツなんでしょ〜。えっち〜♪」

「……だから、アレは誤解だって言ってるだろ……」

「違うのかな〜。ボクを見てくれればわかるはずなんだけどな〜」

「……」

「見ないの〜? 志音の理想の女性が目の前にいるのになぁ〜♪ 勿体無いな〜。ほらほら〜」


 アリスは志音の右腕を両手で抱き締め、その身体全部でぴったりとくっついてくる。

 今は男装をしているとはいえ、相も変わらずアリスは可愛らしい女の子だ。


 残念ながら志音は腐っても男である。

 異性との過度のスキンシップに免疫があるはずもない志音からすれば、たとえ理想の女性が理想の格好をしている……というシチュエーションではない状況でも、十分にドギマギする。

 心拍数は馬鹿正直にはね上がり、顔が熱くなるのを感じる。


「たこさんみたいで可愛い〜♪」

「……うるさい」

「えへへ〜♪ 志音ってば、ボクなんかでドキドキしてる〜♪」

「だまれ」

「かーわいー♪」

「…………ちっ」


 事実、ドキドキしてしまっているので、志音からは強く反論することができない。


「……お前のスゴさを証明したいのはわかった。……なら、オレ以外の奴でも試した方が信憑性も増すとは思わないか?」

「ん〜? ん〜……別に、志音以外の人に自慢したい訳じゃないから、他の人とかどうでもいいんだけど……。志音がそうしないと納得しないって言うなら、ボクはいいよ♪」

「わかった。ちょっと呼ぶから待ってろ……」


 ポケットから取り出した携帯端末を起動させ、とある男にメッセージを送る。


『お前好みの可愛い女の子が、お前に話があるって言ってる。特殊校舎で待ってるからさっさと来い』


 本文はこれでいい。

 送ってから数秒後――


 ――変態が現れた。


「しおぉおおんっ!! オレ好みの可愛い子って、だ……れ――」


 ブシャァアアアアアッ!!!


 到着早々、アリスを視野にいれた瞬間……言葉の途中で盛大に鼻血を吹き出しぶっ倒れてしまった。

 一連の動作に隙がなかった。


 隙なく……終始、気持ち悪かった。


 変態よ……。お前は一体……どんな女性の、どんな姿を見たというのだ……。


「えっへん♪ スゴいでしょ〜! 志音もこんな風に、鼻血ブーするところだったんだよ!」

「……そうか」


 そこで気付く。

 倒れた健吾がうなされるようにブツブツと何か言っていたのだ。

 志音は健吾に近付き、耳をすませた。


「…………あり、しあ……さん……、……極小……ビキニ……いい……」


 その顔は天にも昇るような、極上の笑顔。


「……きめぇ……」

「気持ち悪いね〜」


 珍しく、志音とアリスの意見が百パーセントシンクロした瞬間だった。


 そんな事よりも、今回は健吾だったからよかったものの、《認識阻害魔法》。流石は《ロスト・フィーニス》……凶悪な《魔法》である。

 最強の色仕掛けだ。





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